3-23 スタンピード

 3番目の壁に上ると、前方4番目の壁に弓隊が上っているのが見える。

3番目の壁の上には魔術師、内側には冒険者と守備兵、ここからは見えないが2番目の壁の内側にも守備兵が待機している。

ヤハネの光のメンバーも3番目のどこかの壁の内側にいるんだろう。

そして、街の外壁には伯爵が陣取っており、遠眼鏡で森を見ている。


 ここまでは順調に行っている。

魔物の行動パターンを推測する。

おそらく、二本足の魔物は足場が良い街道沿いに来るだろう。四つ足以上はどこからでも来る。

低ランクの魔物が最初だから街道を中心に、その後戦場が分散となるか…。


 「のう、イチよ。」


ん?下の方から声がする。

下を見ると、レルネさんとルカさんだ。


「レルネさん、ルカさん。」

「ほほほ、しみったれた挨拶は抜きじゃ。我らも魔術師として応戦するでの。」

「これは心強いです。さぞ伯爵様も喜んでおられると思いますよ。」

「あやつの事は良い。少し耳を貸せ。」


レルネさんは俺に耳打ちする。

この魔術師の中でまともに砲台として機能するのは俺とレルヌさんだけのようだ。

二人以外の魔術師は一発撃ちこんだら、早々に街の壁に上がるようにしておくと良い事。

魔法も単体魔法ではなく、範囲魔法での攻撃となるので射程距離が短くなり、撃った後の事を考えると、他の魔術師が放った後に我々が範囲魔法を撃って時間を稼ぐのが良いという事であった。


 レルネさん、そこまで考えているとは…。凄いヒトです。

弓と魔法の射程距離の違いもあり、結界を張る事を提案したのがだが、他の魔術師は結界張っただけでぶっ倒れるので、誰も出来ないと指摘された。

因みにレルヌさんなら出来るか?と尋ねると、ふふふと笑っている。

 であれば、結界魔法の射程50mくらいに先、俺とレルネさんとで魔術師が逃げる時間を稼ぐだけの結界を張ることにした。


 「魔物発見! その数およそ3,000。先鋒はゴブリン、次に四つ足、オークと続く模様。」


 外壁の上から皆に聞こえるような声が聞こえる。


「風魔法を利用した拡声じゃよ。」


 レルネさん、いやに落ち着いていらっしゃいます。

俺はと言うと、武者震いなのか背筋あたりがゾクゾクしている。


「会敵までわずか、各自準備はじめ。」


 皆緊張している。かくいう俺もトイレに行きたい…。

逃げたい…。そんな思いがある。


遠くに土煙が見える。それと同時にドーともゴーという音と共に地響きを感じる。


「弓隊構え。 撃てぇーーーー。」





ついに火ぶたが切られた。


 一撃目の矢が放物線を描き先の魔物に当たる。当たった魔物がもんどりうって倒れる。倒れた魔物に足を捕られた魔物が転ぶ、その魔物を踏みつけながら魔物が前に進む。


「放った者からここを退去、街壁に上がり随時放て!

二撃、構え、撃てーーー。

 続いて三撃、構え、撃てーーー。」


 前方の魔物がつぎつぎと倒れている。

次は魔術師の攻撃だ。


「砲台準備!」


 その声を聞くと同時に俺とレルネさんは魔術師が魔法を発出するタイミングで50m手前、5番目の壁の前方約10mに結界を張る。


 魔物が見えない壁にぶつかる。


「放てーーー。 」


 各々の魔術師の射程範囲に入った魔物がばたばたと倒れている。

ある魔物は焼かれ、ある魔物は切り刻まれ、またある魔物は地面から出た杭に突き刺さる…。


「イチよ。そろそろじゃの。」

「分かりました。」


 俺とレルネさんは、まだ結界が張られている箇所で比較的魔物が多い場所に魔銃を撃つ。

『バシュッ』という音とともに、50m前方の緑の奴が吹っ飛んだ。


残り2発。魔物が比較的多い箇所に魔銃を撃ちこむ。

『バシュッ』

右前方の白い奴が吹っ飛んだ。

左前方の白い奴に向かって最後の一発を撃ちこんだ。


「レルネさん、我々も戻りましょうか。」

「うむ。そうするか。」


 そろそろ結界も壊れそうではあるが、遠距離、中距離の攻撃により多くの魔物が消えている。

弓隊は既に2番目の壁での射出を終え、街壁の上に移動し随時射出している。もうじき魔術師も到着するだろう。

あとは、後から来る中レベル、高レベルの魔物。おそらく数としては脅威ではないだろうが…。

俺とディートリヒ、レルネさん、ルカさんの4人は壁を下りて、近接のヒトに依頼する。


街に戻ろうとした瞬間、街の方から爆発音が聞こえ、衝撃が襲った。


「何事じゃ!」

 

 レルネさんが衝撃によって転んでいる。

俺はもう一度壁に上ろうとするが、一足早くディートリヒが壁に上がり、街の壁を見る。


「カズ様、扉が燃えています!」


 俺は頭が真っ白になった。

何故?目の前に居る敵は射程距離内で掃討し始めた。数百、いや既に千は越えているだろう。

さらに、前方真正面に陣取っていた俺たちは、左右も見ることができていたはず。

左右からの敵は居ないし、結界も張っていた…。


 俺は壁に上り、茫然と北西の門を見る。

確かに燃えている…。が、守備隊や冒険者が消火に回っている。

皆が門に移動している中、反対側に動く物体を見つけた。


・・・


 それは、一台の馬車だった…。


 一台の馬車が町の外壁沿いにある道を移動している。

おかしい。伯爵さんは討伐が完了するまで、だれも外に出さないと言っていた。

外に出すということは市民を危険にさらすということになる。

しかし、現に一台の馬車が移動している…。


その馬車を狙い、中央に居た魔物の進行方向がずれた。


「皆さん、魔物が左翼から来ます。備えてください。」


俺は大声で叫ぶが、既に壁の内側はパニックになり収拾がつかない。

これまで統率がとれていたように見えた我々であったが、所詮は烏合の衆だったか…。

たった一発…、たった一発の後方の爆発によって防衛線は崩壊した。


 左翼に移動した魔物は一点集中を狙い、近接部隊と闘っている。

壁の上からは何とか持ちこたえた弓兵と魔術師が到着し、再度陣形を構築しなおしている。

俺は身体をかがめながら、魔銃にマナを充填し、3分の1入ったところで、左翼後方に向け撃つ。

しかし、集中的に狙われた左翼は脆く、既に2番目の壁まで到達している。


 ところどころで戦闘が行われている。

くそ、あの馬車のおかげですべてが台無しになってしまった。

俺は、もう一度マナを充填し、左翼後方に魔銃を放つ。レルネさんも同じ個所に範囲魔法を撃つ。


「門が破られた!」


 誰かが声を上げる。壁も突破されたようだ…。

終わったか…。俺は膝をつく。

伯爵さん、冒険者の人たちと策略を練った…

誰もが笑って過ごしてもらえることを願って踏ん張った…。


しかし、たった一つの綻びが無情にも多くの幸せを奪っていく…。

こんな無情なことがあって良いのか?

神様は俺に何をすれば良いと言っているんだ?

あいつらを止める手立てがあるのか…。


感じろ…、今できること、俺にしかできない事を…。

現状を見ろ。

まだ踏ん張っている冒険者、外壁から檄を飛ばしている領主を!

俺一人では無理だ。なら、ここに居るレルネさん、冒険者のみんな、何をすべきか感じろ!


頭の中でパズルのピースがはまるように、何かの回路が繋がった感じがした…。


「レルネさん、お願いがあります。」

「ん、何じゃ?」

「街壁に上がり、領主様に伝言をお願いします。それと被害がこれ拡大しないためにも街の中に結界を張ってください。」

「結界は分かった。で、領主に何を言えば良いのかの。」

「すべての関係者は、即刻街に入り、街に入った魔物の討伐を優先すべし。その後、冒険者は、外側の魔物残党を討伐する事。これを領主命令で行ってください。一刻を争いますので、すぐ向かってください。」

「イチはどうするのじゃ。」

「私には私がやれる事をやるだけです。さぁ、時間がありません。」

「分かった。イチよ、そなたと出会えたこと、心に刻んでおく。」

「ははは。まだ死ねませんよ。ルカ!レルネ様を頼む!」


 俺はいつしか、レルネさんの事を様付けにしていた…。

何故かそうすべきだと心が言っていた。

門へ向かう2人を見つめながら、俺はディートリヒに向かう。


「さぁ、ディートリヒ、俺たちの仕事だ。」

「はい、カズ様!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る