3-22 我らの為に鐘は鳴る

 伯爵家を後にした。

伯爵からは大変感謝されたが、ティエラ様とディートリヒがどんな会話をしたのかが気になる。


「ディートリヒ、ティエラ様がお話ししたいって言ってたけど、何の話をするんだ?」

「それは女性だけの秘密です。」


あ、そうですよね。

世の奥様たちは、井戸端会議というものが大好きですものね。


「私も未体験の域に入るためにも、先ずはあんな事をし、こんな事もし、その感触を確かめながら…ブツブツ…。」


 あ、完全にディーさんズワールドに入っている…。

俺はトリップしているディーさんを連れシュクラットに向かう。

伯爵家での情報を共有した後、宿屋に戻り休むことにした。



夜が明け少し経った頃、遠くからけたたましい笛の音が複数聞こえる。

俺は飛び起き、横で寝ているディートリヒを起こす。

すぐさま着替え、北西の門に向け走る。


 そこには冒険者ギルド長のベーカー、アシュリー他多くのギルド職員が門番と何やら喧嘩をしている。

聞けば、冒険者ギルドは今回の笛の音については何も知らされておらず、門番も話して良いものかどうか思案しているとの事だ。

 その場にクーパーさんも居るが、彼はこちら側なので無言を通している。


「これは、冒険者ギルドの方々ではありませんか?こんなところに何用ですか?」


 俺は敢えてシレっと聞く。


「お前、ニノマエか。何故お前がこんなところにいる?

 そんなことはどうでもいい!この笛の音は何だ?

何故北門と北東門が閉められ、出入りができんのだ?」


 まぁ、聞きたいことはたくさんあるだろう。

でも、引導を渡すのは俺ではない。然るべきヒトに引導を渡してもらわないとね。


「もうそろそろ伯爵様がお見えになられる頃だと思いますので、伯爵さまに聞かれてみれば良いのでは? ほら、あそこに伯爵様がこちらに向かって来られてますよ。」


 俺はとりあえず、ここを伯爵様に任すこととする。


「待たせた。」


頭上から声が聞こえる。

伯爵は鎧を着こみ馬上のヒトとなっている。様になっているね。


「これは伯爵様、伯爵様が何故このような場所に?」


ベーカーが手を揉みながら聞いてる。

このヒトって、場を読むことってできないのかね。これだけの事態となっているのにピンと来ないのか?


「知れたこと、スタンピードの発生だ。」

「へ?スタンピード? それは無くなった話では?」


 あ、ベーカー墓穴掘った。


「無くなったとは何か?それに何だ?スタンピード自体が無くなったとは何のことだ。

そう言えば冒険者ギルドからは何の報告もなかったな。これは一体どういうことなのだ。

ベーカー、返答せい。」


 神妙に縛につけ!と同じだろうか。

ベーカー他ギルド職員が青ざめている。


「まぁ良いわ。

今回冒険者ギルドは今回のスタンピードについて手出し無用。

追って沙汰するまで、ギルド職員は自宅待機を命ずる。」


 それだけ言い残し、伯爵は門番に扉を開けさせ門を出る。

さて、俺も外に出て布陣しようとするところをベーカーとアシュリーに止められる。


「まだ、自分に何かあるのか?」 

「お前が何かしたんだろう!」


 ベーカーは食って掛かる。


「何かしたのは、そちらでは無いですかね?

 自分は、スタンピードのの可能性を説いた。

しかしながら、その結果として、冒険者ギルドはその考えを打ち消し、俺の資格を剥奪した。

 ただそれだけの事ではないですか?」


「私たちに出来る事なら何でもするわ!何か言ってよ。」


 アシュリーがまくしたてるが、俺は首を横に振る。


「伯爵様からの命令を無視して動くことは危険ではないですか?

あなた方も組織を動かしている身であれば、その責任がどれほどの重みがあるのかはご存じのはずです。それに、私は今回冒険者ギルド員としては動いておりません。

 その人物に対し、指示を仰いだり、口利きをするなんて野暮ったい事はしない方が良いと思います。」


 あくまでもドライに対応だよ。

それでもベーカーとアシュリーが何やら言っているが、早く引導を渡して外を確認しないといけない。


「今、あなた方が何をしようとしているのかは自分には分かりませんが、これから策を練って動くようでは遅すぎます。既に商業ギルド、錬金ギルド、鍛冶ギルドは伯爵様により掌握されております。

 伯爵様からの命令に従っていることをお勧めします。では、失礼します。」

「待ってよ。あんたがギルドを何とかしなさいよ。」

「この場に及んで、まだ言うのですか?

『この忙しいのに、良くそんな事が言えるね。』

 以前、あなたに言われた言葉です。これをそっくりお返ししますよ。」


 茫然と立ち尽くしている冒険者ギルド職員に踵を返し、門番の所まで行き名前を告げ外に出た。


まだ、門の外には全員が集合していない状況ではあるが、前日に伯爵と打ち合わせをした防衛ラインを構築するために土魔法師らと一緒に壁を作る。

壁は北西の門に近いところに1つ、門から離れる毎に2つ、3つ、4つと半円状に設置していく。

最終的には壁を5層作る予定だ。

 壁には相当のマナが必要となる。

土魔法師もマナポーションを飲みながら、フーフー言って壁を作っている。

俺はもっとも外側となる部分で長い壁を作成している。外周300m以上となる半円に5つの壁を作成するので、約60mくらいの壁の長さを作る。

一番外側の壁が高さ1m厚さ1mとし、次が高さを1.5m、真ん中を2mとだんだんと上げていき、門に近い壁を少し高い4mとした。

内側に行くほど壁が高くなっていく寸法だ。


 伯爵は壁の設置を自ら確認すると、炎戟、龍鱗のメンバーが戻って来るのを確認するため街の門に上がる。

しばらくすると、森の入り口から出てくる十数名の冒険者を伯爵の遠眼鏡で確認できたとの事。

次に弓隊と砲台となる魔術師の配置を行う。

長距離となる弓隊を街から4番目の壁の上に配置。射程距離で3撃後、2番目の壁に移動。3撃後街の外壁に上がり随時射出。

魔術師は街から3番目の壁に配置。射程距離で魔法を発出後、街の外壁に上がり砲台として随時発出。


 次は近接部隊だ。

守備兵を含むDランクは3番目の壁に待機し、打ち漏らした魔物が3つ目の壁を抜けようとした魔物のみを掃討。

B、Cランクは遊撃とするも壁内での掃討とする。打って出ることはしないよう厳命が下されている。

指揮は街の外壁


後は数と数の戦いとなる。

低ランクの魔物の掃討が比較的に楽になれば戦況の見通しも立てることができる。


20分後、息を切らしながら森の中で活動していたCランクの冒険者に交じり、炎戟と龍鱗のメンバーが無事に壁の中に入った。

森からはまだ魔物の姿が見えない。

 俺は、3番目の壁から下りて、炎戟さんと龍鱗さんの所に駆け寄る。

傍には風の砦のメンバーも居る。


「皆さん、ご無事で。龍鱗さんお久しぶりです。」

「おう!ニノマエさん、あんたか。あんたの言う通りスタンピードが起きたな。」

「最悪の事態ですね。」

「そうは言うものの、森からこの防衛陣を見ながら街に戻ってくるときには流石に驚いたがな。

 よくもまぁ、こんなに早く陣地を作ったもんだな。」

「これは伯爵様のお力ですよ。」

「ははは、流石にあんた一人じゃ無理だわな。」


炎戟のミレアさんがニコニコ笑いながら、ポーションを飲んでいる。


「で、数は?」

「そうさねぇ…、すべては見てはいないが、ざっと2,000、それ以上といったところかね…。」

「そうですか。まぁ、街に入れないようにさえすれば何とかなるでしょう。」

「だな。錬金と鍛冶も協力しているって聞いてる。それに、この陣形に弓、魔法だろ。すさまじいな。」

「いえ、そういった話は防いでから酒を飲みながら話しましょう。」

「おうよ。」


 俺は、炎戟、龍鱗のメンバーと今回の討伐の再確認をし、それぞれの無事を願い配置についた。

俺も3番目の壁に上る、ディートリヒも傍に控えている。


 さぁ、始まりだ!

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