4-16 治療…Again
まだ夜明け前で鐘は鳴っていない…。
俺は少し早く目覚めた。
何となく正気に戻った気がする。
オークションといった乱痴気騒ぎは、今後出展はしたとしても現場には行かないでおこう…、それが身のためだ。そう決める事とした。
俺の胸で寝ているディートリヒを見る。愛おしい…。
彼女もこの破天荒な毎日にだんだんと慣れては来ているとは思うが、少しでも楽にしてあげないといけないな。
俺が動いたことを感じたのか、ディートリヒが目を覚ます。
少し上目遣いで何かを訴える。うん。おはようのキスだね。
ゆっくりとやさしくキスをした後、今日の予定を決める。
そう言えばカルムさんがお店に来てくれ、と言ってたな。
あとは何かあったかな? ディートリヒに聞く。
「では午前中にカルム様のお店に行き奴隷を見に行きましょう。そこで良い者がおれば検討するという事で。午後はトーレス様のお店に行き、店舗購入についてお話ししましょう。」
「両方とも、何かトントン拍子で進んでいませんかね?」
「はい。昨日の落札金額によって、店舗を購入する目星がつきました。
それと早めに物件を押さえておかないと、あのような物件は早々出てきませんから。
あの場所なら商売するには最適な場所だと思われます。」
ディートリヒさん、昨日奥方様ズに何か言われたのだろうか…。俄然やる気になっている。
まぁ、そのあたりを任せられるようになると凄くありがたい。
「んじゃ、起きて行動を開始しますか。」
「いえカズ様、まだ夜明け前ですので、誰も行動していません。
それに…昨晩はカズ様が放心しておられたので、愛し合っておりません。
ですので…、えい!」
しばらくして鐘が鳴るが、俺たちは一つになっている。
愛し合う事は体力に正比例するとは思わないよ。だって、体力なくてもできる方法はいっぱいあるからね…。
お互い満足しクリーンをかけた後、部屋を出て朝食をとる。
最近、イヴァンさんはソースに目覚めたのか、いろいろな料理にソースをかける…。
うん。良いとは思うけど、やたらめったらソースをかけるのは味が同じになってしまうと思うのだが。
それにソースに合う王道料理には、こちらではまだ見た事がない。
油はあるのに焼くだけなんて…。
そう、揚げ物ですよ。まぁ、朝から揚げ物は避けたいので、今度提案してみよう。
あ、奥方様ズにも試食というのも良いかも。
は!また世界に入り込んでしまった。
ディートリヒが寂しい目をしていた。
「ディートリヒごめん。今、料理の事を考えていた。」
「え、どんな料理でしょうか。」
「うん。少し手の込んだ料理になるから、引っ越しした時に食べてもらおうかな、って思ってる。」
「え、そんな美味しい料理を!是非、すぐに引っ越ししましょう!」
あ、変なスイッチ入った…。
引っ越しよりも、まだ家も決まっていないのに…。
ディートリヒのスイッチを戻し、カルムさんの店まで歩く。
道すがらダンジョンでの罠や索敵ができる奴隷が必要かを再度聞くも、ディートリヒは今後の素材採取には是非必要であること。もし素材の鑑定までできる者がいれば、俺の商売も早めに動く事を熱弁する。
うん…、そりゃ仲間は多いに越したことはないが…。
まぁ、ディートリヒに考えがあるようだからお任せしよう。
カルムさんの店に到着する。
ディーさんが面通しを依頼するとボディーガードさんが中に入り、カルムさんを呼んで来る。
「おぉ、早速来ていただけましたか。」
カルムさん、ニコニコしてる。
「えぇ、何かお困りの様子でしたので。」
少しかまをかけてみると、ここでは何なので、という事でいつものごとく奥の部屋に通された。
カルムさんが座り、チラッと旨ポケットから懐中時計を見やる。
あ、そういう事か。
トーレスさんが信頼する残り2名のうち1名がカルムさんだったんだ。
俺はニヤッと笑う。
「カルムさん、そういう事ですね。」
「はい。」
「では、今回のご用件とは?」
「はい。今一度治療していただきたい奴隷がおります。おそらくニノマエ様のお眼鏡にかなう奴隷ではないかと思います。」
ん?俺、奴隷が欲しいなんて一切話していないけど、何で知ってるんだ?
そんな顔をしていると、横からディートリヒが小声で情報を伝えてくれる。
「僭越ながら、先のダンジョンでの経験をトーレス様にご相談させていただきました。
そうしましたら、カルム様の店に見合う奴隷が居る事を教えていただきましたもので…。」
あ、確信犯はディートリヒか。
内々に話を進めていくことは問題ないし、俺もこれまでの世界ではそのように動いていたからな。
「分かった。それじゃ見せていただけますか。」
「では、こちらへ。」
俺たちは、カルムさんの後を歩き、いつもの一番奥の建物に行く。
今日は臭くは無い。でも気配で数名は居る。
「ニノマエ様に診ていただきたいのは一番奥の奴隷です。」
俺は、以前ディートリヒが居た部屋に入る。
そこには火傷だろうか…、全身が焼け、黒ずんだ人らしきものが横たわっている。
うわ、これ“Ⅲ度熱傷”までいってるじゃん。これはヤバいな…、と感じる。
取り合えず呼吸はしているが、気管が損傷しているのか、呼吸するたびヒューヒューと音が聞こえる。
「カルムさん、流石にひどい状態です。」
「はい。昨日お話ししましたが、伝手からは帝国の村々で獣族狩りが行われたとの事。この女性もそうなのですが、狐族という種族は帝国に徹底抗戦をしたらしいのです。しかし村は陥落し、全てが焼き払われたようですが、運よく生き残ったのがこの女性だそうです。」
「しかし、何故帝国はそのような事をするんですか?」
「ヒト至上主義とでも言いましょうか…。他の種族はヒトよりも下であるとの選民思想のようです。」
はぁ…、どの世にもこういったバカな考えがあるもんだ。
ヒトが一番だと!? ヒトなぞ生き残る術を知らない種族ではないか。
例の黒くカサカサと動くGさんを見なさい!彼らはどんな逆境にも負けずに何万年、何千万年もいきているんだ。一時の栄華がどれほどのものか、痛い目に遇わないと分からないヒトばかりだ。
ディートリヒの件と言い、嫌悪感を感じる帝国というものには正直関わりたくない。
「しかし、カルネさんは、何故帝国からの奴隷を扱っているのですか。このような状態のヒトもいるのに…。」
「はい。そこは追々と話していくことにいたします。
今日は、この女性を金貨1枚でお願いしたいのです。
もちろん、本来であればもっと高いのですが…、その…、前に部屋に居た奴隷たちに治療をお願いしたいのです。」
「それは構いませんが…。」
「是非、よろしくお願いします。」
俺は、ディートリヒにお願いして、この館にいる複数の奴隷の症状を見てくるようお願いする。
俺はこの場所に留まり、ディートリヒと同じように彼女に声をかける。
しゃべるのも辛そうだ。こういったヒトを見ると何故か涙が出てくる。
彼女は首を2回縦に振り、俺の申し出を受け入れてくれた。
ディートリヒが戻って来る。
「カズ様、この女性を合わせて4名、うち2名が四肢欠損、1名が内臓の一部が外に出ています。」
「ありがとう。じゃ、症状の軽いヒトから治療を始めよう。」
俺はディートリヒに案内され、一名ずつ治療を始めた。
計3名のスーパーヒールをかけたが、まだアナウンスは無い。
まだいける。この女性を治療できると感じ、先ずは鑑定を行う。
ナズナ:=狐族、226歳、スキル:索敵、==、トラップ解除、土魔法と出た。
あ、俺ディートリヒに現時点で鑑定かけたこともなかったな…。
今更見ても残念な結果になるといけないから、やめておこうと思う。
「カルムさん、少し良いですか?」
「はい、なんでしょうか。」
「この女性、ナズナさんですが、先ほどは狐族と仰いましたが、間違いはありませんか?」
「はい。鑑定にもそう記載がありますので。」
「そうですか…、何か狐の前に二重線があったものですから、他の種族かと思いまして。」
「いえ、そんな事はないです。」
まぁ、この女性が治るなら問題ないと思い、火傷によって皮膚が元通りになり、気管など体内の機能も正常となるよう念じ、スーパーヒールをかけた。
『マナが残り10%を切りました。危険な状態です。すぐに休息をしてください。
マナが残り10%を切りました。…』
あ、アナウンス流れた…。
うん。アナウンスはできれば3回くらいで終わって欲しい…、何度も流れると頭がガンガンする…。
マナがごっそりと抜き取られる感じがしたのと同時に虚脱感が襲った。
俺はディートリヒに肩を貸してもらい、治療が終了した事、そして明日容態を診に来て購入することを告げ、カルムさんの店を後にした。
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