7-25 ノーオの街にて…

 朝だ!


久しぶりにスッキリ眠れた。清々しい!

昨晩の相談は有意義だった。そして信頼できる仲間もできた。

そんな中、今日は工場の下見とドワさん、裁縫できる職員さんの人選だ。


 ザックさんはもう起きて窓辺に腰かけて黄昏ている。

昨晩、奥様ズに悦んでいただいだんだろう…、完全に灰になっている。


「ザックさん、おはよう。」

「あ、兄貴…、おはようございます。」

「俺が朝食を作るから、メイドさんたちに言っておいて。」

「あ、兄貴、その件なんだが…。」


 メイドさんだが4人を除く16名が、昨晩俺がかけたバリアーから入れなくなったみたいだった。

ザックさん…、そりゃ可哀そうに、とは思うが、もう一度雇えばいいんだから…。


「結構、俺っち好みの女の子を選んだんだがなぁ…。」

「ザックさん…、もしかして顔だけで判断していた?」

「あ、うん…。」

「まぁ、今日色街での面接もあるから、そうしょげるなって。」


 ふと、そこで疑問が浮かんだ。


「そう言えば、昨晩のすき焼きは2鍋あったんだよな。それをメイドさん4人とアイナの5人で食べたのか…?それにホールケーキ3つ渡したと思うんだが…。」


すると、メイドの一人が謝辞の後、アイナが一人ですき焼きの鍋1皿とホールケーキ2つを食べた事の報告があった。

あいつ、朝食は抜きだ。


 俺は、オムレツとサラダを準備した後、フライパンを温め、カットしたパンもどきに卵と砂糖、少しの蜂蜜を混ぜたものを入れる…。

そう!フレンチトーストを作ってみた。


 奥様ズが来たので、色街に行っている女性を待たずして食事を始める。

それにしても奥様ズのつやつや感、半端ない。

そう言えば、昨晩、解散間際にシャンプーとリンス、石鹸を渡しておいたんだ。

それをもう使用した?

まぁザックさんの灰状態を見れば、昨晩何があったのかは予想がつくが…。


「ニノマエ様、この料理は何というものでしょうか。」

「あぁ、これはフレンチトーストと言って、卵と砂糖などをといたものに昨日お出ししたパンを付けて焼いたものです。」

「これは美味しゅうございますね。

 疲れた身体に甘いものはとても良いですね。」


 はい、昨晩の事は確定ですね。


「まだまだ作りますんで、お代わりしてくださいね。」

「それではお代わりを(お願いします)。」


 お二人で参戦だったのですね。

うん、仲良きことは美しき事かな。


 俺はどんどんフレンチトーストを焼いていく。

すると、玄関から数名ダッシュしてくる気配を感じる。


 やはり、ディートリヒだった。もう一人は…アイナだ。想定外だった。


「カズ様、この香しき匂いのもとはパンですね。」

「あぁ、今、ザックさん、ルーシアさん、アリウムさんにお出ししたところだ。

 みんなも食べてくれ。ただし、アイナは抜きだ。」

「えーーー。何でですか?明らかにパワハラですよぅ。」

「お前、昨晩“すき焼き”ひと鍋とホールケーキ2つ食ったそうじゃないか。」

「え?!何でそれを…。」

「皆は騙せても、俺の目は騙せねぇのさ!ふっ。」

「何言ってんですか。面白くもない。」


 こいつ…、完全に遊んでやがるな…。

まぁ、押さえるのはディートリヒだからな。


「アイナさん…、昨晩の事をお忘れではないですよね…。」

「は、はい!ディートリヒしゃま。」


 何故クネクネしているんだ?

昨晩いったい何があったんだ…。

そんな事を考えていると、全員ザックさんのダイニングに集まった。

女性陣は皆ツルツルのスッキリ顔。

甘い食事は女性陣には好評のようだ。


「さて、ザックさん、今日の予定を確認しておこうか。」

「そうですね、兄貴。

これから工場予定地を視察し、その後店舗候補も見て、工場で働くヒトの面接ですね。

 それと、ゼフの奴らからは、姉さんの指導を受けたいと言われております。」

「ニノマエ様、それと私たちにも魔法をお教えいただけると嬉しいのですが。」

「やることいっぱいだね。

それじゃ、うちのグループは分かれて動こうか。

視察は俺とディートリヒ、面接はスピネルがブランさんに帯同してくれ。

ゼフさんの指導はベリルがいいな。

ルーシアさんとアリウムさんの魔法の指導はナズナで行こうか。

あ、ナズナはマナの集中と移動をお願い。それができるようになれば、いろいろと可能性がでてくるからね。」

「はい(((はい)))。」


 よし、それじゃ動こうかと思った時、俺の眼下でまるで尻尾を振っている子犬のように瞳を輝かせている残念娘がいる…。

アイナか…、あ、ドワさんにも会うから、相手させよう。


「アイナは俺とディートリヒと一緒に行動する。」

「はいな。社長!」


「あと、これは皆の昼食、ランチね。」


 俺はサンドウィッチを入れた籠を皆に渡した。

今日の昼食は昨日作ったローストビーフのパニーニ。

パンは敢えて固いパンを選んだ。そして温かいお茶も渡す。


それぞれ動き出した。


 俺とディートリヒとナズナは念話ができるので、どこまで話せるか試してみると工場候補地から色街までは話せる距離だ。

俺はナズナに依頼する。


『ナズナ、もしかすると昨日追い出されたメイドさんとその取り巻きが来るかもしれないけど、敵意のある奴は敷地内に入れないようになっている。

もし入ることができるメイドさんは敵意はもう無いから、もう一度雇ってほしいと奥様ズに伝えておいてほしい。』

『お館様、分かりました。それと、既に奥の庭の方で動く輩がいますので捕縛しておきましょうか。』

『うーん。まぁ放っておこうか?多分いやがらせだけだと思う。

 ほんとに殺ろうとするなら、闇討ちだろうから。』

『分かりました。では、いたずら程度に追い返しておきます。』

『お手柔らかにね。』



 候補地はナズナが下見に来ていた地と同じで、水もふんだんに使うことができる土地だった。

この土地は農業にも適さない荒れ地と認定されているので、3工場分の土地を購入しても金貨10枚程度だそうだ。それに水は井戸水と川の水の両方が使える。

ここに従業員が泊まる建物も立てて結界かけておけば安心だな。

それに工場や生活で使った水をいったん貯水槽に入れて不純物だけ流さないといけない…。


そこにドワさん2名がやってくる。


「社長、お呼びだそうで。」

「おう、ヤット、ラット来たか。」


 お!見た目パーフェクト・ドワさんだ。


「おめーら、確か鍛冶スキル持ってたよな。」

「へい。」

「そこに追加して鋳造スキルと錬成スキルはあるのか。」

「鋳造は俺が持ってますがラットは持っていやせん。錬成は…ないですね。」

「そうか。だそうです。兄貴。」

「そうですか。

ヤットさん、ラットさん初めまして。ニノマエと申します。」

「へぇ、こちらこそ初めまして。あなた様のお噂はドワーフ族の中でも流れていますぜ。

 スタンピードの立役者でもあり、ジョスの兄貴を顎で使えるヒトだとも。

 そして、マルゴー兄ぃの資金石であるとも。」

「アイナ、そうなのか?」

「社長、そんな事ドワーフ族の中で言われているんですか?」

「お前、知らないのか?」

「はい。私は半人前ですから。

それにヤットさん、ラットさん、お久しぶりですね。」

「お、おめぇはマルゴー兄ぃの娘さんじゃねえか。50年ぶりくらいか?この前会ったときは、まだ“おしめ”してたな。」

「何年前の事ですか!それに今はれっきとしたニノマエ様の奥さんです!」

「違います!(殺しますよ。)」


 ディートリヒが何か凄い事言ったような気がする。

アイナさんはガクブルだ。


「すみません、冗談です…。

ディートリヒ様、そんなに睨まないでください。もう…、感じちゃいます。」


 おいアイナさんよ…、何か変な方向に行ってないか?


「ディートリヒ、アイナは大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。ちゃんと躾はしておりますので。」

「お、おぅ。そうか…。頼むよ。

で、話を戻しますと、今自分が取り組んでいるものを作れるかどうかを聞きたかったんです。これなんですけど…」


 俺はその場所に足ふみミシンを出した。

二人のドワさんが目を光らせた。


「おいラット。これは凄いな。」

「あぁヤット。これ動くのか。」

「これ凄いですよね。私は分解することはできるんですが、組み立てることが…。」

「こりゃすげえな。何個の部品で出来てんだ?ひの、ふの、みぃ…。」


 既にドワさんズは、アイナの話も聞かず機械にのめり込んでいる。

それに数え方が俺と一緒じゃん…。


「動きますよ。これを分解して部品を作り、同じものを何台も作ってほしいのです。

 できますかね?」

「おうよ。こんなすげぇ機械見せられて『できません』って言えるドワーフなんていないぜ。」

「あぁ、ドワーフ冥利に尽きるくらいの逸品を作ってやるぜ。

それにな、こんなすげー機械を前に尻込みするドワーフなんて、ドワーフの風上にも置けねえ残念なやつだな。」


 その残念なヒトなら、ここにいますが…。


 残念な顔をしたアイナさんが一人佇んでいた…。

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