7-26 ドワさんズ
「ザックさん、このお二人を俺が雇いたいんですが、よろしいでしょうか。」
「兄貴、問題ないです。彼らの力は土木関係よりも、もっと活かした方が良いっすからね。」
「あ、でも、ジョスさんに部屋増やしてもらわないといけないな…。」
「え、部屋って?」
「あぁ、俺の店の裏にね、倉庫を改修してそこで住み込みで働いてもらおうと思ってね。」
「え、兄貴…、そんな事までしてるんすか?」
「ん?そうだけど。何で。」
「労働者ですから、どこで寝ようと休もうと店には関係ないんじゃないですかね。」
「いや、それをすると痛い目に会うよ。」
「労働者は一日いくら渡せば文句を言わないってだけはダメなんすか。」
「ザックさん、労働者だって生きてますよ。彼らが健康で安全な仕事ができるようになれば、必ず売り上げも上がるんですよ。因みに労働者には一日いくら渡しているんですか?」
「日払いで銀貨6枚です。これでもこの街では破格値ですよ。」
「俺のところで雇用したアイナだけど、日払いじゃなく、月、大銀貨30枚だぞ。」
「え、兄貴、こいつに大銀貨30枚、そりゃ出し過ぎだ。」
「あぁ、俺もそう思ってきた。」
「社長、そんな事言わないでくださいよ~。ちゃんと働きますから、クビにしないでくださいよ~。
御者でも何でも、あ、それと宵のご奉仕も。」
残念娘、この状況をやっと理解できてきたようだ。
しかし、いつも余計な一言が多いんだよ…。
「ヤットさん、ラットさん、月、大銀貨30枚で働くことでよいですか?
それに部屋もありますし、あ、風呂もありますので。」
「え、風呂?風呂もあるのか?」
「えぇ、ありますよ。」
「よし、乗った。それじゃ、これからすぐにでも行って、社長の店で待機しておきます。
何か先に作っておくものはありますかね?」
「そうですね。そろそろ工房もできる頃だと思いますので、それじゃぁジョスさんにお願いして、倉庫の2階にもう一部屋追加してもらえるように言ってもらえますか?多分2部屋しか作ってないと思いますので。それと鋼を、そうですね500㎏くらい鋳造してもらっていても良いですか。」
「分かりました。ところでその工房とは?」
「倉庫に専用の工房がありますので、そこで作っててください。」
「おい、ラット聞いたか。俺たち専用の工房があるんだってよ。」
「念願の工房持ちですよ…。俺何でもうやります!」
「それじゃ、お願いします。
あ、もしかすると鋳造だけだとすぐに終わるかもしれませんので、このミシンも渡しておきましょうか。そうすれば部品を作ってもらう事もできますしね。」
「しかし、旦那…、俺たちこれをもって店まではいけませんぜ。」
「そこは、これを使ってください。」
俺は、2t限定のアイテムボックス付きの鞄を渡した。
「えと…、旦那…。
アイテムボックスってのは分かるんですが、雇ったその日に、それも見ず知らずの俺たちにこんな高価なものを渡してもよろしいんですかい?」
「それは、信頼関係だよ。それに君たちはザックさんが最も信頼しているヒトなんだろ。
そんなヒトが間違いを犯すことなんて無いんじゃないかい。」
「そこまで、旦那は俺たちの事を…。
わかりやした!俺たち一生旦那についていきやす。」
「ありがとうございやす。では、早速出立します。
ザックさん、長い間お世話になりやした。それと、これからもよろしくお願いします。」
「おう、達者でな。って言っても、ちょくちょく顔を合わせると思うから、これからもよろしくな。」
「へい(へい)。」
ドワさんって気持ちがいいヒトたちだ。
昔でいう“江戸っ子堅気”とでも言うんだろうか。
「気持ちの良いヒト達ですね。」
「兄貴にそう言われると、俺っちも嬉しいっす。」
「それにひきかえ、うちの残念ドワっ子は…。」
「へ?何かありましたか?」
ノー天気だった。
工場の建設予定地も確認できた。
ここに製糸、布、加工の3つの工場を建てる。そしてその従業員の宿舎も。
あ、土地が空いていれば石鹸の工場も必要か…。
工場建設を後にしようとするが、少し時間がかかるとのことだった。
その理由は、整地に時間がかかるということだったので、俺とナズナが土魔法を使えると言うと、ザックさん、それにも驚いていた。
試しに少しの区画を“ディグ”と“バックフィル”を使い、土をならしてみると、効率化を目の当たりにしたザックさん、しきりに建設現場に土魔法師が居ないことを残念がっていた。
これからは土魔法師を雇う事、彼らのための居住地も準備すると決めたらしい。
労働者が気持ちよく仕事ができるような環境を作ることが一番だ。
なので、遊郭で働いている女性たちも生活環境を変えることができるよう助言したいことを伝えると、是非ブランにも教えてやって欲しいと依頼された。
そんな事をザックさんと話していると、後ろからチョンチョンとつつかれる。
見れば残念ドワっ子がふんすかしている。
「アイナ、どうした?」
「社長、実は私も土魔法が使えるんですよ。」
「何!本当か!」
「はい。見ててくださいね。えいっ!」
あ、ホントだ。でも土をこねくり回しただけのようにしか見えない。
「社長、どうですか!」
「アイナ、魔法をかける時、どんな事を考えて魔法を放っているんだ?」
「え? そんな事考えていませんよ。ただ『土魔法だぞ』って感じだけです。」
「だから結果がぐちゃぐちゃなんだ。
ザックさん、アイナ。俺が使う魔法っていうのはマナをどう結果に繋げるのかが重要なんだ。
土にマナを流す、土がどうなれば整地となるのか、大きな岩があればそれは取り除かなければならないし、逆に柔らかい土地だと圧縮して固くしなきゃいけないだろ。
そう言った事をイメージして、『こうなれば楽になるよな』てな思いをもって魔法を放つんだ。
そうすればこうなる。“ディグ”、“バックフィル”。」
いったん掘り起こされた土が岩が取り除かれた状態で埋め戻され、そして整地されていく。
それを見たアイナも驚いていたが、練習したいということでその場に残すこととなった。
「アイナ、いいか!魔法はマナがなくなればぶっ倒れる。絶対まだ大丈夫だと思わず、80の力しか出さないようにしておけ。残りの20は家に帰る力だと思ってくれ。そうしないと誰も助けにきてやれないからな。」
「はいなー社長!」
俺はアイナを残し色街へと向かうが。一応念話でディートリヒに伝えておくことにした。
『ディートリヒ、すまないがあいつは絶対ぶっ倒れるから、後で引き取りに来てやってくれ。』
『カズ様、分かりました。色街での面接がひと段落した際にでも見に来ますね。ほんとに世話の焼ける子ですね。』
『そう言いながら、ディートリヒは嬉しいんじゃないか。』
『ふふ、そうですね。アイナさんを見ていると妹ができたような感じですね。』
『じゃぁ、ディートリヒの妹として暮らしてみるかい?』
「絶対イヤです!
あ、ごめんなさい。声に出てしまいました。」
「お、おぅ…。そこまでイヤなんだ…。」
ディートリヒと話していると、今度はザックさんが話してくる。
「兄貴、俺にはマナというモノがよく分からないんすよ…。」
「マナの感じ方はヒトそれぞれだからね。
では、ザックさんは俺を見た時、何でヒトとは違うって感じたんだい?」
「そりゃ、兄貴が背中から出しているモヤモヤとした空気みたいなものがデカかったからで…。」
「え、ザックさん、それを感じることができるのか?」
「ええ、まぁ、何となくですがね。」
「じゃあ、簡単だ。
そのモヤモヤしたモノは“気”といって、マナみたいなもんなんだ。
その“気”を感じることで、相手の考えを読み取ることもできるんだよ。」
「え、そりゃどうやって読み取るんですか?」
「例えば…」
俺は手のひらに火をイメージしたマナを出してみる。
「何か熱いっすね。」
次に水をイメージしたマナ。
「冷たいっす。」
次に憎悪を込めたマナ。つまり闇だ。
「これ、気持ち悪い感覚ですね。」
「この気持ち悪い感覚を覚えておくといい。これが憎悪なんて言われる闇だ。
この感覚を出している奴は、少なからずザックさんのことを良くは思っていない。
さらに、この気持ち悪い感覚よりも酷い状態の気を感じたなら、そいつは確実にザックさんに何かしてくる輩だ。
その感覚を周囲に張り巡らせておくことが、“索敵”って魔法なんだ。」
「うひゃ、そりゃ俺っちが欲しいと思ってた魔法じゃないっすか。」
「そうだ。その索敵ができれば、今度はその範囲内にそいつらを入れさせないというイメージを持ち、その気を放てば、それが“結界”となるんだ。」
「兄貴…、兄貴の魔法の講義って、分かりやすくて凄げぇっす。
魔法のマの字も知らないの俺っちが、そんな魔法ができるんですかい。
兄貴って、実のところ賢者か神様では…。」
「神様でも賢者でもないよ。まぁ夜の後は賢者タイムに入ることもあるけどね。」
そんな冗談話をしながら色街に入っていく。
「兄貴、俺っち…、ヤバいです…。
周囲全体に気持ち悪い感覚がたくさんあって、動けないくらいっす。」
あんたそんなに人から恨まれていたんかい…。
ザックさん、もう少し悔い改めた生活をしようね…。
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