4-12 予期せぬ依頼者
翌朝、いやに寝ざめが悪い…。
昨晩の悪夢がまだ引きずっている。
完全に不敬罪だよな…、国王の妹さんに失礼な事言っちゃったからな…。
一人反省する…。
ディートリヒは、昨日の余韻が抜け切れていないのか、笑顔で寝ている。
なんか、腹立つ…。マジックでもあれば顔に落書きしたい気分だ。
俺はベッドを出て普段着に着替えると、ドアをノックする音が聞こえる。
静かにドアを開けると、そこにはバスチャンさんが立っていた。
「ニノマエ様、朝早くに申し訳ございません。」
「大丈夫ですよ。自分も今起きたところですから。」
「大変申し訳ございませんが、伯爵様がお呼びなのですが…。」
あれ?普通に言えば問題ないのに、なんで恐縮している?
「問題ありませんよ。では、しばらく待っててもらえますか?ディートリヒも起こしますので。」
「いえ、今回は…、その…、ニノマエ様おひとりで、という事なのですが…。」
ん?何かあるな。でも俺たちは一心同体少〇隊だぞ。
「では、要向きの件は自分だけで。ディートリヒはティエラ様の御容態をうかがうということにしましょうか。」
「それであれば問題は無いかと思います。」
俺は部屋に戻りディートリヒをたたき起こす。
ティエラ様が呼んでいると言ったら、30㎝ほど飛んだ。
それから伯爵邸まで徒歩で向かう。
道中、バスチャンさんは仕切りに恐縮しているが何故だろう?何かバツが悪い事でもあったか?
伯爵邸に到着し応接室で待っていると、これまたバツの悪そうに伯爵とユーリ様、ティエラ様が入ってこられた。あーぁ、伯爵さん…ドナドナ状態だわ。
「ニノマエ氏よ、すまんな。こんな朝早く。」
「いえ、問題ありません。それと昨日はお招きいただきありがとうございました。おかげで良い経験をさせていただきました。」
「そうか…。でな、今日来てもらったのはな…、何というか…、」
「えーい、バリーよ。くどい!早よう紹介せんか!」
ドアを開けて入って来たのは、メリアドール様だった。
「あれ、メリアドール様…」
「おう、カズよ。昨晩ぶりじゃな。」
「昨晩のパーティーではいろいろとありがとうございました。」
「構わん。さて、本題に入る前に、バリーよ。主は部屋から出ておれ。」
「は、はい。」
さしもの伯爵も、王様の妹君には勝てない様子。早々に部屋を出ていく。
「さて、カズよ。主を呼んだのは妾じゃ。申し訳ない。」
「いえ。それで要件というのは。」
「バリーとティエラから話を聞いての。」
え?!ティエラ様、言っちゃったの?
俺はティエラ様の方を見ると顔を横にフルフルと振っている。ということは、全部は話していないのか?
少し鎌をかけてみるか?
「治療につきましては、昨晩お話しさせていただいたとおり、『良く食べ、良く寝、良く運動する。』これに尽きますが。」
「まぁ、主がそう言うのであれば良い。
では、単刀直入に言う。
妾の息子と嫁に“ややこ”を宿してはくれまいか。」
「あの…、お子をという事であれば、それなりの事をされておられればいずれできるものでは…。」
「5年もしておってもか?」
それから、メリアドール様に息子さんとお嫁さんの話しを聞いた。
現在彼女の息子であるヴォルテス様は21歳、お嫁さんのスティナ様は20歳、5年前に結婚という事は16歳と15歳で結婚したって事になるな。
昨年ヴォルテス様が20歳になられたことを機に家督を譲ったとの事で、領地の切り盛りはすべてヴォルテス様に任せている。
早くからお子様を所望されておられるようではあるが5年間恵まれていないため、今回のオークションでオーク・キングの睾丸を落札しに家族総出で来たとの事。
ん?そうすると領地の管理は大丈夫なのか?と思うが、部下が優秀であれば、領主が居ようと居まいと関係ないんだと納得する。
一通り話を伺った後、ユーリ様、ティエラ様も経産婦でいらっしゃることもあり、少し踏み込んだ話をすることとした。
「おっしゃる事は良く理解できました。
一つお伺いいたしますが、ヴォルテス様、スティナ様は子どもの頃熱病などに係ったことはありますか?」
「スティナは知らぬが、ヴォルテスは確か5歳にあったことを記憶している。それが何か?」
「一概には言えませんが、子どもの頃に大病を患った場合、子どもを作る生殖機能が弱くなることも稀にあると聞いたことがあります。
それが原因であるかもしれませんし、原因でないかもしれません。
仮に原因であった場合、オーク・キングの睾丸を使っても効果が薄くなるのではないかと考えます。
さらに、ご体調が悪い時にそのような者でご懐妊されたとしても、奥方の健康にも影響がでるのではないかと思いますが。」
メリアドール様は考え込んでいる。
「では、カズであれば、どのようにするのが一番良い策だと考えるか。」
「先ずはご夫妻の体調を万全とした上でお子をお作りになられるのが良いと考えます。
さらに、奥方様の月の関係もございますので、お子をお作りになられる時期も大切かと思います。」
これまでの世界で俺が学んだ知識だ。
基礎体温はまだ測れないから、簡単に言えば、月経の時期をチェックしながら授精しやすい時期を選ぶというものだ。まぁ、他にもいろいろとあるが、それはまた次回にしよう。
「それでもダメと言うことであれば、ご夫妻の治療をお勧めします。」
「治療とは?」
「身体の機能を治すヒーレスでしたか?これをかけていただくというものになります。」
「ふむ…。」
メリアドールさんが熟考している。
「それをすれば、治療師か教会に頼むことになるな…。しかし、素奴らに頼むという事は、我がアドフォード家に傷がつくような事になる…。」
あ、そうか。ヒトの口、噂を心配しているんだ。
そりゃそうだわな。アドフォード家と敵対しているお貴族様であれば、その噂は効果的な実弾となる。
そうすると、何をすべきか。
体調を管理したとしても健康でなければ産まれない…。
うーん…。どうすべきか…。
俺は、ティエラ様を見る。
ティエラ様は静かに首を縦に振られた。
真に信頼できる方という事だな。では、やる事は決まった。
「ディートリヒ、バスチャンさんにお願いし契約書を作りたいから紙が二枚欲しいと言ってきてもらえないか?」
「分かりました。早速。」
それじゃ、ディートリヒが戻って来る間にメリアドール様に念押しする。
「メリアドール様、ここからの話は決して口外なさらないでください。
それをお約束いただければ、今回メリアドール様からいただいた相談を解決できるかと思います。」
「おぉ、そうか。では約束しよう。」
ディートリヒが戻って来たので、契約書内容として、
①今回の治療について決して口外はしないこと
②この事はヴォルテス様、スティナ様にも当てはまること
③治療にあたっては、すべての知っている内容を包み隠さず話すこと
④また、こちらが知り得た内容についても決して口外はしないこと
⑤ここで話した内容は例え名誉を傷つけられたとしても恨まないこと
⑥これを守らなかった場合は、白金貨100枚を相手方に払うこと
を書いてもらい、俺、ディートリヒ、ユーリ様、ティエラ様、メリアドール様、そしてヴォルテスご夫妻の署名をいただくこととした。
「それにしても白金貨100枚とは大きく出たな。」
「あ、金額なんてどうでも良い事ですよ。
銅貨1枚でも良かったんですが、それだとメリアドール様のメンツにも関わると思いましたので。」
「ほう、やはり主は面白いのう。」
署名をしてもらうため、ヴォルテス夫妻にも部屋に来てもらい署名をもらう。
さて、進めましょうか。
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