4-13 許せない内容

「さて、皆さまお集まりになられましたので、契約を守っていただけることでよろしいでしょうか?」


 皆が頷く。


「では、皆さまに単刀直入にお尋ねします。何故お子をご所望になられるのでしょうか。」

「それは勿論、家を守るためじゃ。」

「メリアドール様、正解ですがそれだけでは足りません。」

「ほう、それ以外に何があるというのじゃ?」

「家を守るためであればお一人で十分です。でも、ティエラ様以外は複数お子がいらっしゃいますね。

 それは何故ですか?」

「向こうの家を守ることであろう?」

「では、貴族というお立場をお忘れになって、お考え下さい。何故お子を成すのですか?」


 皆、無言になった。


「商家、農家、鍛冶師、錬金術師、宿屋…、いろいろな職業についておられるヒトは何故お子を成すのでしょうか。確かに家を守るためであることは必要です。しかし、その前に皆さまに考えてほしいのです。お子を成すという事は、ご自身の血が半分お子に行くという事です。

 貴族の方であれば、血統という言葉に敏感だと思いますが血を残す。

つまりご自身が“この世界で生きた”という証を次の世代に引き継ぐためだと考えます。」


「それと、もう一つ、お子を成したいという思いは親の思いかもしれません。

しかし、当人にとって、今回はヴォルテスご夫妻が真にお子が欲しいと望んでおられるのかという事です。周りから言われても、今の自分たちが楽しければどうでしょうか?

 お子を成せば、奥方様は育児を今後十数年しなければいけません。

 そういった覚悟がおありでしょうか。」


これまでの世界でも同じだ。

今が楽しいから子供の面倒を見る時間を取りたくない…、だから若い間は楽しみたい。

それに若いと経済力も無いから育児の問題もある。結果、親を頼ったり、最悪の場合、刑事沙汰になったりもする。

でも、三十路を越えた頃から考え方が変わって来る。そんなジレンマの中生きていた。


 おそらく、この世界は女性が子供・世継ぎを産む。そして育児をする。成人すればお役御免。

出産、育児に携わっていた時間など考慮されない。そんなところではないか。


「自分のような子種もないようなおっさんに言われると癪に障るかもしれませんね。

 しかし、これが現実なのです。

 例えば、お子が欲しいと望まれたとします。

 でも、お子様を選ぶことはできませんし、お子さんも親を選ぶことはできないのです。

 お生まれになったお子をご自身の手でご自身の血で育ててあげるお覚悟が必要だと思います。

 そのお覚悟がおありですか?仕事にかまけて育児をしない父親で良いですか?」


 皆、黙りこくってしまった。

言い過ぎたかな?少し反省している。

しばらく経ち、スティナ様が話し始める。


「ニノマエ様、私は今まで家のために子どもを作らないといけないと考えていました。

 それが重圧に感じるようになり、もう家を出なければいけないとまで考えるようになっていました。

 しかし、今、ニノマエ様からお話しを聞かせていただき、考えが変わりました。

 私は私自身のため、そして生まれてくる子供のためにもお子が欲しいと思います。」

「スティナ様、苦しいお話しをさせてしまい、申し訳ありませんでした。

メリアドール様、若いお二人が家という縛りを捨て、あなたの血を、お二人の血を残したいと仰っております。このようなお二人のお考えがしっかりとされておられれば問題は無いのではないでしょうか?」


 メリアドール様はしばし考えた後、口を開く。


「カズよ。主の言う事、至極当然の事じゃの。確かに妾やここに居るユーリ、ティエラも子を成す意味を考えておらんかった。目から鱗であったろう。

家よりも血か…。ふふふ、そうじゃの。確かに我が血はヴォルテスに流れておる。自身の生きた証を残すという考えも面白いの。ティエラ、そう思わぬか。」

「はい。メリアドール様。確かに家という考えでは私のような妾の子は必要ないかもしれません。しかし、生きた証を残しておくというお考えは、私にとって生きがいとなりました。」


 え?!ティエラ様、妾の子だったの?!

完全に地雷踏んでたって事…、ごめんなさい…。

しかし、ここまで進めてしまってごめんなさいはいかんよな。


「失礼な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした。

 しかし、女性しかお子を成せません。その女性が心を強く持つことは良い事だと思います。」

「カズよ。主は自身の経験から学んだ事なのか?」


 地雷埋めたら、自分で踏むんだ…。もう仕方ないな…。

ゲロることにしよう…。


「ディードリヒ、今から俺の話をして良いか?」

「カズ様、この方々であれば問題は無いと思います。」


 よし、ディートリヒからも言質を取ったから問題は無いな。


「実は、自分は“渡り人”なのです…。」


 皆無言だった。


「自分は、前の世界ではこの世界の男性のように、子どもの世話は妻に任せきりでした。

仕事にかこつけ、ほとんど育児に参加しませんでした。でも、この齢になり後悔しています。

 この後悔を皆さんにしてほしくはありません。

 子どもと接した思いは、当時は辛くてもこの齢になると楽しい思い出として残ります。

 子供には血を残す、我々は楽しい思いを持って次の世に行く…。

 後悔してからでは遅いのです。

 先人から学べ、という言葉もあります。

 50過ぎたおっさんからの遺言だと思って聞いていただければと思った次第です…。」


 皆、真剣に俺の言葉に耳を傾けてくれた。

では、最後にしましょうかね。

 

「自分は医学について若干の知識がございます。

 お二方には、これから私の治療を受けていただきます。

その後、お恥ずかしい話、子を成すための夜の営みについては、自分はヴォルテス様に、スティナ様はティエラ様かディートリヒにお聞きください。

 皆さま、それでよろしいでしょうか?」


「カズよ。すまんの。我らにとっても為になる話じゃった。

 主に会って、本当によかったと思うておる。」


 メリアドール様が頭を下げられた。


 その後、ヴォルテスご夫婦は別々の部屋に移動していただき、双方の下腹部を中心にスーパーヒールをかけた。

俺は、ヴォルテス様に夜の営みについて、特に自身が満足するだけではお子はなかなか生まれないこと、時間をかけてゆっくりと愛し合うことをお伝えした。


 応接室に戻るが、女性陣はまだ帰ってこない。

バスチャンさんに頼んでお茶をお願いし、ヴォルテス様に俺の育児経験を話していると、女性陣がやや上気づきながら戻ってこられた。


「カズよ。主はほんとに“規格外”じゃの。このような話が出回れば、世が変わるぞ。」


 おい!ディーさんや、一体何の話をしたんだ?気になるじゃないか!


「でな、カズよ。先ほど依頼したオーク・キングの睾丸であるが、融通はできるものかえ?」

「構いません。一つであれば融通は可能です。」

「では、いか程主に払えば良いかの?」

「その前に一つお願いがありますが良いですか?」

「何なりと申せ。」

「これからヴォルテスご夫妻はお変わりになられます。

そうですね。3か月は何もせずお待ちください。

3か月経過しても何も兆候がなければお使いいただくという事でどうでしょうか。」

「問題は無いぞ。ヴォルよ、それで良いか。」

「はい。母上。」

「あの、メリアドール様、その一言が重圧となるんですよ。」

「あ、そうじゃったの、ヴォルよ許せ。」


皆、笑顔だ。良かった。

多分、この夫妻は夜の営みは行事みたいなものだと思っていたのだろう。

マグロか天井のシミを数えるか…、でもそれじゃ、卵に到達できないんだよね。

もっと泳げるようにしてあげないと…。ゲフンゲフン。


「で、いか程なのじゃ?」


 あ、忘れてた。一体いくらするのか忘れたよ…。ディーさんヘルプ。

(ギルド価格で金貨50枚です。)

ありがとう。小声で教えてくれた…が、50枚!

キングのキャンタマが50枚! どれだけデカいんだ!


「いくらでも構いせんが。」

「それでは主が損をするではないか。

 そうじゃの。では金貨100枚ではどうだ?」


 は? キャンタマ一つに一億円って、どれだけインフレなんだ。

やっぱおかしいよ…。


「では、本日のオークションで落札された金額の10分の1でお願いします。」

「なんじゃ、それだけで良いのか?」

「いくらになるのか分かりませんので。」

「ではそうすることとしよう。ヴォルよ、儲かったな!」


 勝利の女神は最後の最後に女狐に微笑んだようだった。

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