4-14 奥方会議~パラレル:視点変更ディートリヒ~

 私はメリアドール様、スティナ様、伯爵のユーリ夫人そしてティエラ夫人と一緒の部屋に居る。


 カズ様が子を成すための夜の営みについて教えて差し上げろと言われても、実際産んだこともないので分かりません。

 なので、奥方様にこれまでの営みについてお聞きすることにしました。


「いえ、普通に事を成すだけです…。」


 やはり恥ずかしいです。

でも、カズ様が本当に仰りたいことは何だろう…。

さきほどは、血を繋げること、そして夫と一緒に育児をすることが大切だと仰っていた。

そして、女性は育児をして子育てが終われば、とも仰っていた。

私たち女性をどのように見ておられるのだろう…。


 カズ様はいつも私を助けてくださいます。私も微力ながらカズ様を支えていく。

おそらく夫婦というものは、これと同じだと思う。

しかし、私は結婚して妻という立場ではなく、一人の女性としてカズ様を支えていきたいと思っている。

その違いは何だろう…。


 では、夫婦というものは?支え合っていく私たちの立場は?

そう言えば、カズ様は伴侶という言葉を使っていらっしゃいました。

伴侶とは?


 なんだか頭が混乱してきました…。


「ディートリヒとやら、カズはお主に聞けば分かると言っておったが、その本意とは何じゃろう。」

「それは、私が聞きたいくらいです…。正直、何をお話ししなければいけないのか分からないのです。」

「そうか、では主はカズと『事を成す』ことは無いのかえ?」

「いえ、何度もございます。ただ、カズ様と一緒に生活を始めてまだ一か月も経っておりませんので、詳しいことは何も…。」

「なんと、主らはまだ一か月も経っておらんのに、もう何度もしておるのか。」

「はい。私はカズ様に命を助けられました。しかし、そのお礼に『夜伽』をと言っても拒まれました。

カズ様はそのような恩を盾に取るような方ではなく、私と一緒に助け合って生きていきたいと仰ってくださいます。そして、お互いを信頼し合うことも大切だとも仰っていただいております。」

「そうか、カズは主を信頼しておるのだな。」

「そうだと嬉しいです。」

「おそらく、カズが言いたかったこととは、『夜の営み』というよりも信頼を構築するという事なのかもしれぬな。」

「はい。そうかもしれません。でも、カズ様と私は『夜の営み』や『事を成す』という言葉を一度も使ったことはございません。」

「なんと?では何と言っておるのだ。」

「はい。恥ずかしながら『愛し合っている』と言っております。」

「『愛し合う』だと…。」


 おぼろげながらカズ様の言いたかったことが分かったような気がします。

『事を成すこと』と『愛し合うこと』は違うんです。

そうか、私はカズ様を欲しているんだ。


「メリアドール様、カズ様の言いたかったことが大体理解できてきました。」

「ほう、では聞かせてくれ。」

「はい。では皆さまは『夜の営み』については、『子を成す』ための行為であると思われていらっしゃいますか?」

「まぁ、そのようなものだったな。『子を成して家を継がせる。』ことを目的としておったからの。」

「しかし、カズ様は違うんです。

 『愛し合うこと』の延長に『子を成す』と思われているのではないかと考えます。」

「ふむ。それはどういった事なんじゃ。」

「では『子を成す行為』の時、奥方様は何をお考えになっておられますか?そして、ご主人は何を思っていらっしゃるのでしょうか。」

「妾は早く終わらないか、と思っておったぞ。男は頑張って腰を振っておった。」

「おそらく、それが間違いなのです。」

「なんと!?」

「カズ様は私を愛してくださいます。私もカズ様も愛しております。

 その行為において、お互いがお互いを求めている、そんな感じを確かめながら愛し合っております。」


 皆、無言で考えていらっしゃる…。


「確かに主人が終えるまで我慢することもありましたね。」

「はい。とても痛い時もございました。でも、そんな事は言えませんもの…。」

「妾なぞ、早よ終わらんか!と叩きたくなる事まであったわ。」


「のうディートリヒ、ぬしらの“それ”はどうなのじゃ。」

「はい。私は痛いと感じたことは一度もございませんし、愛し合うことがずっと続けば良いのに、とも思います。

 カズ様は『事を成す』と言いますか、一つになる前、時間をかけて愛してくださいます。」

 

「おぉ…、そんな事を…。」


「破廉恥な事を申してしまい、申し訳ございません。」

「よい。続けてたも。もっと具体的にの。」

「はい…、先ずはキスから始まります。」


「キスとな!」


 皆が真っ赤になっていらっしゃいます。

しかし、そんな真っ赤になるような事でしょうか。


「そして、その後、耳、首、肩と優しくキスをしてくださいます。

 私はもうそこで我慢できなくなってしまいます。」

「我慢できなくなるとは?」

「はい。早く一緒になりたい、繋がっていたいと下腹が訴えてきます。そう考えますと、下が濡れてきます。」

「ふむふむ。それで」

「でもカズ様はまだ愛してくださいます。胸、お腹、背中、腰、お尻と優しく触ってもらえます。

 もうその段階で、私は腰が立ちません…。」

「そんなに良いものなのか?」

「はい。それはもう甘美な世界に入り込んだ心地です。

 でも私だけ満足してはいけませんので、今度はカズ様に同じことをいたします。」

「ほう、おなごでもそのような事をするのか。」

「はい。私だけ満足したとしてもカズ様は喜ばれますが、それだけでは愛し合うとは思えません。

 お互いに愛し合うという事は、お互いが甘美な世界に入ることだと思います。

なので、私はカズ様のモノを綺麗にしてさしあげます。勿論カズ様も同じように濡れている所を綺麗にしてくださいます。」

「何と!主とカズは性戯を会得しておるのか?」

「カズ様は“渡り人”でありますので存じ上げませんが、私は会得などしておりません。

ただ、お互いが気持ちの良い思いをするために自ら自然と動いているだけです。

それに…、いつも終わった後はカズ様の胸の中で寝ます。」


 カズ様が仰りたいことが分かりました。

女性は受け身ではなく、女性としても生きてほしいという意味なのでしょう。

愛し合うことも、ただ受け身として動くのではなく女性からも行動すべきだと。

そのことを奥方様にもお伝えし、奥方様が女性としての悦びを見つけていただきたいのでしょう。


「私は受け身という事ではなく自分からも欲しております。

 それは破廉恥だと思われる方もいらっしゃると思いますが、私はそうは思いません。

 女性も男性と同じです。何が違うかは子を産むという事だけです。

愛し合った結果が子を成す。女性も愛し合った相手の子を産める事の幸せを感じてほしかったのではないかと思います。

それが家のためでもなく親のためでもない。愛した相手の子を産める喜び、育てる幸せを感じていただき、その幸せを相手と一緒に『分かち合ってほしい』という意味ではないかと思います。」


 皆、静かに頷いている。

 

「ディートリヒの申す事、確かにその通りじゃ。

妾らも貴族という狭い世界の中で生きてきたから、おなごとしての生き方なぞ考えたことは無かったの。

どうじゃ?ユーリ、ティエラ、そしてスティナよ。

そちたちはどのように考える?」


「私はニノマエ様の考え方に賛同いたします。あの方の商才といい先見の明といい、私どもがもっと学ばなければならないことをいつも教えいただけます。」

 

「私はニノマエ様にスティナ様におかけになられた治癒魔法もかけていただいております。何を今更疑うことがございましょうか。」


「私も、本日、ニノマエ様に治癒魔法をかけていただきました。それに女性として子を成す意味をお教えくださった気がします。もし、わが身体に子を宿すことができれば、私は感謝しても感謝しきれません。」


「そういう事じゃ。ディートリヒ。

 主は本当に素晴らしい主君を持ったの。」


「いえ、メリアドール様、主君ではございません。私の最愛の伴侶でございます。」


その後、これまでカズ様と愛し合った内容や、お風呂での出来事などを事細かに奥方様にご説明させていただきました。

皆さま目を輝かせて興味深く聞き入っておられました。


「それにしてものう…、『事を成した』いや、『愛し合った』後も一緒に身体を寄せ付けて寝るというのか…。なかなか甘美なものよのう…。」


 メリアドール様、眼がキラキラとされておられますが、お相手は?

貴族の方ですから、何かあるのでしょうね…。

それから、定期的に奥方会を開催するので私を講師とし招き入れる事、それまでに多くの性戯を経験し、教えるようにと厳命されました…。


カズ様…、大丈夫でしょうか…。

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