1-9 真夜中の死闘②
バーンは大声で叫ぶ…。が、時既に遅かった。
ベアトリーチェとエミネは硬直し始める。
「ベア! エミネ!」
バーンとブライオンは叫ぶ。
ベアトリーチェとエミネは石化し始めた。
若い世代が失意の中、贖うことなく死を迎えるのか…。
彼らは、これからいろんな事を経験するだろう。
結婚もすれば子供も生まれる。子孫を残し、血を残す。
彼らをここで終わらせることで良いのか。
否! とにかく生きろ! 生きていれば何とかなる。
「二人を連れて、逃げろ!」
俺はデカい奴に向かって走り始めた。
デカい奴はこちらを向く。ヘビだから表情があるようには思えないが、その眼は弱者に対し嘲るよう、薄ら笑っているかのように見えた。
こいつら、遊んでやがる。
そんな風に思った瞬間、俺の頭の中で何かがブチっと音を立てた。
「てめえら、ええ加減にさらせ!」
俺は、一匹のデカい奴の顔めがけ、直径1mほどの波〇拳を繰り出す。
「グギャ…」
一匹の顔が吹き飛んだ。
即座に鎌首を掲げてるもう一匹に向かって走り出す。
デカい奴は、首を左右に揺らし威嚇しながら、俺を食おうとしている。
なら、俺を食ってみろや!
俺はそいつの口に向かって走った。
そいつが俺を食おうとデカい口を開け、まさに食おうとしている瞬間、おれは魔法を発動した。
「ターボジェット!」
それは火炎放射のような赤い火ではなく、より高温である青い炎。
その炎を大口開けたデカい奴の喉に向け放射した。
「ギシャーーー」
デカい奴に痛覚があるのかは分からないが、口と喉に直接高温の炎を当てられれば、誰だって苦しくなる。
デカい奴は、自身の身をグネグネとさせ、のたうち回っている。
俺は再度のたうち回っているデカい奴の頭に、波〇拳をブチ当てた。
どれくらい時間が経過したのだろう。少しずつ冷静になってきた。
周りを見渡せば、デカい蛇が二匹横たわっている。
向こうの方には、ベアトリーチェとエミネが立っている足元で泣きじゃくるバーンとブライオンが居る。
あいつら結局逃げなかったんだ。
そりゃそうかもしれん。何せメンバーのうち2人が動けないんだから…。
一蓮托生というか、一心同体というか…。まぁ、それも有りだ。
若いって良いなぁ…。
俺は、一つ呼吸をして、彼らに近づいた。
「大丈夫…、じゃないな。」
「ニノマエさん、ベアが…、エミネが…。」
バーンが泣きじゃくる。
石化と言ったか…、既に体全体に石化が進んでいるんだろう…。時折痙攣を起こしている。
このままにしておけば彼女たちは助からないのだろう。
「エミネさんの治癒魔法は石化を解くことができるのか?」
俺はバーンに尋ねる。
「エミネには石化を解く魔法はありません。石化を治す薬はありますが、俺たちは持っていないんです。ニノマエさん、あんたの魔法で彼女たちを何とかしてください。」
そう頼まれても俺の得体の知れない“スーパーヒール”でも彼女たちを治せないかもしれない。でも、このまま何もしないでいる事なんてできない。
できないことを理由にして何もしないより、足掻いて失敗した方がマシだ。
これまでの世界でも同じようなことが何度もあった。
口ばかり達者で“やれない理由”をあれこれしゃべる奴もいる。それよりも厄介な奴は、“やらない理由”、“できない理由”を探し出すことだけに頭を使い、まったく自分から動こうとしなかった奴ら…。規定路線・前例踏襲に固執し、チャレンジや改善することに対し目を背けてきた奴ら…。
俺はそんな奴らが出世し、デカい顔をして部下に指図している姿に辟易としていた。
そうだ。やらなきゃいけない時にこそやるんだ。失敗する後悔より、その場でやらなかった後悔の方が辛いんだ。
「分かった。例え自分の魔法が彼女たちに効かなくとも、自分の全力を使って魔法をかける。」
「ニノマエさん、頼みます。」
俺は、先ず周囲に誰も入って来れないくらいのバリアーを張った後、ベアトリーチェとエミネにスーパーヒールをかける。
「ベアトリーチェさん、エミネさん、これから俺の治癒魔法をかけるけど、どうなるかは分からない。でも、自分ができることは全力でやるつもりだ。だから自分を信じてほしい。」
独り言ちし、彼女たちの石化と硬直が治り、これまでどおり自由に身体が動くようイメージし、2人の笑顔を浮かべながら叫んだ。
「スーパーヒール!」
「スーパーヒール!」
二人に魔法をかけた瞬間、目の前が真っ暗になり、完全に意識が無くなった…。
・
・
・
「・・・マエさん」
「・・ノマエさん、あぁ、良かった。目が覚めたようですね。」
あ、完全に寝てた?まだ、頭がボーとしている。
夜空を見上げると星もあり、月も出ている。ん?月が2つもあるぞ…。
あぁ、ここは異世界だったな…。そして、さっきまでデカい奴と戦ってたんだ。
ようやく頭が動き出す。
どれくらい寝てた? あのデカい奴は? 女性2人は?
「ベアトリーチェさんとエミネさんは、どうなった?」
俺は起き上がるも、頭がフラフラする。これがエミネさんが言ってたマナ枯渇か…。
「ベアもエミネも大丈夫です。」
「ニノマエさん、彼女たちは無事です。グズッ、ありがとう…ありがと…。」
命は取り留めたようだ。
安堵した。俺の治癒魔法がどれくらい効くのかは分からないが、結構マナが吸い取られた。
「良かった…。彼女たちの命は助かったんだ…。」
「はい。石化も解けています。彼女たちも今は寝ていますので、起きたらお礼を言わせてください。」
「いや、そんな大げさなことしなくて良いよ。」
俺は掌をひらひらと振ってみせる。
命の恩人だとか言われても、正直、かけた後ぶっ倒れたから良く分からないし…。
「それはそうと、あのデカい奴はどうなりました?」
「あぁ、あのバジリスクですね。完全に死んでいましたので、俺たちで剥ぎ取り処理しておきました。まぁ、ベアが居ないので、流石に燃やすことはできませんでしたが。」
え?! あのデカい奴を処理した?
俺は、バーンが指さす方向を見る。
そこには、肉、肉、肉…。肉のオンパレード…。これ、食えるのか?
「肉がいっぱいありますね。」
「ええ、流石にこの大きさですからね。肉以外には牙に皮、骨、魔石、それと毒袋も採取しときました。」
「すごいな…。」
「はい。こんなAクラスの魔獣を、単独で倒すニノマエさんは、ほんとすごいっす。」
「え? いや、そのすごいじゃなくて、この素材の山の事です…。」
「いえ、バジリスクですから、それくらいは出て当然っすよ。」
話がみ嚙み合っていない。
バーンが俺を見る目も何故かキラキラしている…。
とにかく、彼女たちが目を覚ますまで、少し休ませてもらおう…。
「まぁ、結果的オーライだったのかは分からないけど、みんなが無事でよかったよ。」
「ほんと、そうです。これもニノマエさんのおかげっす。」
あの時は頭に血が上り、倒したことすら覚えてないんだが…。
いい年したおっさんが頭に血が上ってついやっちゃいました…なんてのは洒落にならないから。
「まだ本調子じゃないから、もう少しだけ休ませてもらって構わないかな?」
「はい、どうぞ。朝まではまだ少しありますので、その時間まで、俺たちが見張ってますから。」
バーンさんや、何やら鼻息が荒くフンスカしているけど…。まぁ、休ませてもらえるだけで十分だ。
俺は横になると、すぐに意識が飛び、深い眠りに入っていった。
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