1-8 真夜中の死闘①
少し寝ただろうか。
地面にごろ寝していたからか、身体のあちこちが痛い。
おっさんになると、身体が固くなり節々も痛くなるんだよ。
目を開けてみると、まだ焚火がこうこうとついている。
火を常時つけておかないと、また何かが襲ってくるから、火は絶やせない。
襲ってくる奴か…。緑の奴や白い奴はDやCランクと言われるくらいの魔獣だそうだ。
ということは、BもAも居るって事だ。
また、考え事をしていた。
考え過ぎると碌な事はない。これはこれまでの世界でも同じことが言えた。
考えすぎたため、スタート時期を逸したり、石橋を叩いて壊す羽目になる。
まぁ、“熟考する”という言葉もあるんだが、熟考した結果、良い成果になった事を聞いたことがない。
いかん、いかん、こんな事を考えていると、フラグが立つっていうもんだ。
俺はもう一度目を閉じる。
「何かが近くにいます。」
見張り番をしていたベアトリーチェが小声で全員を起こす。
俺は周囲に気を向けた。ねっとりとしたイヤな感覚がまとわりつく。
この感覚はゴブリンの時と同じ感覚だ。でも、その感覚はゴブリンの時よりもどことなく違う。
その感覚の出どころを探る。
団らんの時、ベアトリーチェに感覚を研ぎ澄ませると魔獣や魔物の存在が分かるようになる魔法があるって教えてもらったところだ。確か“検索”、否、“索敵”魔法って言ってたような…。
とにかく、その索敵魔法というものなのかは分からないが、イヤな感覚を見つけるというイメージだけで魔法を発動してみる。
さっき、緑の奴と白い奴を焼いた所に2つ。
吐きたくなるような感覚だ。
「ゴブリンとオークを消し炭にしたところに2匹いるようですね。」
「そうか…。どんな奴か分かるか?」
「いえ、そこまでは分かりません。」
まだ見ぬモノに対し、冷静に回答できている。
なんか、俺ってここまで沈着冷静だったか?と思いながらも、イヤな奴の動きを探る。
「なぁ、逃げた方が良いか?」
バーンは弱気になっている。
「いえ、この周囲にはニノマエさんが結界魔法をかけてくださっているので大丈夫だと思います。」
エネミさんがフォローしてくれるが、俺の中であるものが引っかかってる。
バリアーは一定時間しか持たないんだ…。それに強力な攻撃を受けると壊れてしまう…。
結界が永久的に無敵になることなんてない。それは、どんなアニメであっても単なる気休め程度のものであった。
ヒーローロボットや勇者が出現するまでの単なる時間稼ぎだった。
あ、ヤバい。そんなイメージをしてしまうと、バリアーが弱くなる…。
完全にフラグだった…。
「自分の結界というものは、完全ではありません。ただ、皆さんが準備するまでの時間稼ぎにはなると思います。」
そう言うと、皆は少し安堵したのか戦闘準備に入る。
数分経った頃か…2つのイヤな奴は、こちらの気配を感じたのか、ゆっくりと近づいてくる。
「会敵します。準備は良いですか?」
「おう!大丈夫だ。」
俺は、5つの光輪を準備し待つ。
何かが地を這う音がする…。
それも大きい。ズル、ズルっとイヤな音だ。
夜目が効けば良いんだが、と思い、暗視カメラのようなイメージで魔法を作る。
「ナイトスコープ」
そう唱えると、真っ暗な闇が明るくなった。
おぉ、こんなイメージでも魔法ができるんだ。
と感心するも、そんな悠長なことを言ってられない。
80mぐらい先か…何やら大きな長い物体がこちらにやってくる。
「大きな蛇のようです。」
俺はそう告げると、“ヤハネの光”全員が青ざめる。
「大蛇…?」
「なぁ、それってでかいのか?」
「ヤバいんじゃ…」
「無理…」
青い顔をし、完全に戦意喪失し始めた。これでは勝てるものも勝てない。完全に負け戦だ。
「いえ、そんな事はありません。みなさんが一つになれば絶対大丈夫です。踏ん張りましょう!」
俺は頑張るという言葉は嫌いだった。頑張るってのは、今の力を存分に出し切れていない時に使う言葉だと解釈している。
常に100%の力で物事に当たっているのであれば、それは頑張るのではない。100%の力を120%出すのであれば“頑張る”でいいが、己の力以上に出し切ることなんてそうそうできない。だから“100%の力で踏ん張る”のが正解だと思う。
「来ます!」
焚火の明かりで肉眼でも見えるようになる…。
そこには、10m以上のデカい大蛇が鎌首を上げ、こちらに向かってきた。
「バ、バジリスク…。」
メンバー全員が茫然自失状態…。詰んだか…。
しかし、やってみなければ分からない。
“やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ”だ。
最悪、俺だけ踏ん張って相手を引き付けることができれば、4人を逃がすことだってできるはず。
俺はできるおっさんだ! そう言い聞かせる。
「みなさん、聞いてください。このデカい奴の攻撃を受ければ自分のバリアーももちません。なので、バリアーが壊れた瞬間、自分が魔法で威嚇し注意を自分に向けますので、その間に皆さんは反対側に全力で走って逃げてください。」
「それでは、ニノマエさんが…」
「それでもいいんですよ。自分はあなたがたよりも年を取っています。イヤな役回りは年寄りに任せればいいんです。」
サムズアップしてみる。
名もないおっさんが見も知らない地に来て、人との関係を持つ。
こんなおっさんが居たよ、というくらいは、彼らの中にも残るだろう…。
4人の方を見て、ニカっと笑う。
今の俺って格好いいかな? なんて、悠長なことを考えていると、デカい奴らはバリアーをかみ砕き始める。
バリバリと音がする。この音が消えれば彼らの殺戮の始まりだ。
それでも、少しでもこいつらに一泡ふかしてやりたい。
おっさんなりの強がりだ。
バリン! どうやらバリアーが破られたようだ。
射程距離は十分。俺は光輪5つを2匹に向ける。
「当たれー!」
そう叫ぶと、5つの光輪は2匹に向かって飛んで行った。
デカい奴らに当たった光輪はピキ!と音を立て壊れた。
「ありゃ、効かないか…。」
次に“かまいたち”を5つ作り、ぶつける。
当たりはするが、傷ひとつ付かない。
詰んだか…。俺は覚悟した。
あの若者たちは逃げる事ができたんだろうか…、彼らの方を向く。
だが、そこには、一歩も動けない彼らが立ちすくんでいた。
「あ…あ…」
その場に残れば蹂躙される結末は見えている訳だが、死の恐怖からか、立ち尽くす若者。
彼らを正気に戻し、逃走してくれる方法はあるのか…。
そう言えば、創造魔法の練習をした時、火を出そうとするも森林火災になるからとやめておいたことを思い出す。
では、火炎放射器のような火を出すことは可能か。否、“考えるより、感じろ!”だ。
俺は両手をデカい奴に向け、叫んでいた。
「火炎放射!」
出たよ。びっくりしたよ。だって、ブオーーーって出るんだから。
殺虫剤のスプレーの前にライターで火をつけたイメージだ。(絶対やってはいけません。)
その火が、デカい奴らの目の前で急に現れ、燃え始めるのだから。
デカい奴らは意表を突かれ怯む。
「今だ!早く走れ!」
俺は大声で叫び、彼らを正気に戻そうとする。
ハッと我に返った4人は、俺の顔を見て理解したのか、逃げることを開始する。
刹那、デカい奴が4人に向け「シャーーー」という鳴き声とともに怪しげなオーラを放つ。
ブレス攻撃のようなものか?それとも魔法のようなものか?
その鳴き声がする方に目を向けたベアトリーチェとエミネが硬直する。
「あ…、あ…。」
「見ちゃダメだ!石化が来るぞ!」
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