11-9 一号店開店します!

 朝チュンというより、通りの喧噪で目が覚める。


ミリーの部屋は通りに面しているから、音が良く聞こえる。


窓を開けてみてびっくりした。

既に店の前に長蛇の列ができている。

これはマズいと思い、皆を起こしながらダイニングに行く。


クラリッセさん達が食事の準備を終え、皆を待ち構えていた。


やはりできるメイドさんズは凄い。

メイドさんズはすでに店に出る服を着用し、臨戦態勢に入っている。


「皆、通りが長蛇の列だ。食事が済んだ者から開店準備に取り掛かってくれ。」

「はい(((((はい)))))」


朝食をかけこみ、店を出る。

知った顔が何人もいるよ…。


先ずやることは、割符を持ったヒトと一般のヒトを分けること。

そして割符のヒトを先行販売することとし、後を一般販売とするか…。


「ナズナとベリルは割符を持ったヒトをこちらに並べてくれ。

 ディートリヒはご近所さんに仁義を切っておいて。

 ニコルとミリーは昨日の約束事を並んでいるヒト達に伝えて。

 アデリンさんたちは、整列しているヒトが順序良く並んで買えるように誘導して。」

「イチ様、昨日の約束事とは?」

「石鹸は一人5個まで、しゃんぷりんは1個って事ね。」

「分かりました!」


時計を見ると、まだ8時にもなっていない…。


9時開店としようと思ったが、これだけのヒトを捌くのは至難の業だ。


「レイケシアさん、8時に開店しようと思うが、店は大丈夫か?」

「そうですね。10組ずつ入っていただければ問題はないかと。」

「よし、それじゃ、8時になったら割符を持った人から10組ずつ入ってもらう。」

「分かりました。」


入り口にナズナとベリルを立たせ、10組ずつ入れるよう指示する。


10組入れても中でジャムするといけない。

一本のロープを準備し、途中途中にロープを張って一筆書きのように通行を決める。


「レイケシアさん、この通行でカウンターまで行けるか?」

「こことあちらのロープの位置を変えていただければ、カウンターまで一方通行で行けます。」

「分かった。それじゃ、サーシャさんは石鹸担当、ネーナさんはしゃんぷりん担当で、お客さんが質問してきたら対応するという事で大丈夫か?」

「はい。いけます。」

「カウンターでの支払い関係はレイケシアさんとクラリッセさんでお願いします。」

「分かりました。」

「それじゃ、8時になったら開店するよ。」

「はい(((((はい)))))。」


ここまで準備をして、それでもスタックしたら、また変えればいい。

先ずは、店の前の通りのヒトを早く捌くことが第一だ。


「皆さま、大変お待たせいたしました。

 “繚乱一号店、ただいまより開店いたします!”」


おぉ!割れんばかりの拍手が起きたよ。

なんか嬉しいね。


先ずは割符を持ったヒトから。


「おう!おっさん、割符ありがとな。これでかかぁにいい顔できるよ。」

「ニノマエさん、開店おめでとう!すごい噂になってるよ。」


冒険者仲間も来てくれた。

皆が口々に石鹸を欲しがっていたことを伝えてくれる。

中にはしゃんぷりんの噂をどこからか聞きつけて、1個ではなく数個売ってくれと頼むヒトもいるが、ルールはルールだから、もう一度ナイショで並んでほしい事を伝えると、走って最後尾に並んでいく…。


 割符が終わり、一般のヒトの販売へと移った。

ぞろぞろとヒトがゆっくりと動いていく。

某ネ〇ミーランドの待ち時間のようだ。でも、誰一人として文句を言わない。

何故だ?この世界のヒトは並ぶことに慣れているんだろうか…。


・・・


 その答えが分かった。


ヤハネの光、風の砦、炎戟のメンバーやカルムさん、トーレスさんの社員が所々に並んでおり、列を乱す者に注意をしていた。


涙が出てきた…。


冒険者や社員にお礼を言うと、照れながらも『当たり前の事をしているだけだ』と謙遜してくれた。

これまでヒトとヒトとの繋がりを大切にしていたが、皆、その繋がりを大切に思ってくれてたんだ。

この借りはいつか返すよ、と誓いつつ、順番にお客さんを中に入れて行った。


 ふと思い立って、ヤットさん、ラットさんに庭で昨日のたこ焼きを作ってもらうよう依頼し、冒険者のメンバー、社員のヒト、協力してくれたヒトを庭へ誘導し、タコパを堪能してもらう事にした。


「ニノマエさん、良いのか?俺たちは石鹸を買いに来ただけだぞ。」


コックスさんがたこ焼きを頬張りながら、話しかけてくれる。


「そんな事分かりきってますよ。皆さんがどうして別々に並んでいるのか、並んでいるヒトが暴走しないように注意してくださってたことも…。本当にありがとうございます。」

「そりゃ、ニノマエさんがようやく店を開くんだ。そりゃ期待するってもんだよ。

 その商品が石鹸となりゃ買わない手はない!お貴族様しか使えなかったモノを、ニノマエさんが安く提供してくれるんだからな。」

「そうだ。おっさんがこれまでこの街のことを思ってくれた事を考えれば、こんな事造作ない事だね。

 それにしゃんぷりんを使えば、店に居たヒトみたいな髪になれるんだよな。

 そりゃ、使わない手はない。」


炎戟のミレアさんも、たこ焼きの熱さに悪戦苦闘しながらも笑顔で話してくれる。


「それと、おっさん。おっさんと店の女の子が耳に着けているモノってイアリングか?」

「お、目ざといですね。これは“ぴあす”と言って、女性の冒険者が着けても良いように試作しているものなんですよ。」

「イアリングは戦闘中落としてしまうからなぁ…。で、これは落ちないのか?」

「耳の後ろ側を留め具で止めてあるので、激しく動いても取れないと思います。」

「そりゃ良い。で、いつから売るんだ?」

「まだ、決まっていませんが近日中には…。あ、ミレアさん、それに冒険者の皆さん、と言っても女性限定ですが、試作品を着けてモニターになってみませんか?」

「なんだい?その“もにたぁ”ってのは?」

「“ぴあす”を着けて冒険者として活動していただき、その感想をお願いしたいのです。

 勿論、耳に穴を開ける事をご了承の上ですが。」

「で、あたいらの利点は?」

「着けた“ぴあす”を差し上げるというのでは?それに今ならピアスに1個だけ付与を付けますよ。」

「なに!付与まで付けてくれるのかい?よし!あたいはその“もにたぁ”ってやつになるよ。」


ヤハネの光のベアさん、エミネさん、風の砦のティーファさん、フロールさん、ファラさん、炎戟のミレアさん、マルセラさん、イフォンネさん、女性全員がモニターになってくれた。


まだ開店していない下着売り場のスペースに入り、皆の耳に穴を開け、付与したピアスを付けていく。


「ニノマエさん、なんか悪い事しちまったね。あんたのところ、この“ぴあす”とやらで赤字にならないかい?」

「それくらいじゃ、赤字になりませんよ。でもいいんですか?ミレアさんの付与が体力向上だなんて。」

「男に比べれば女なんてヤワだからね。それよりも、このスペースで何かまた売るつもりなのかい?」

「えぇ。このスペースで女性用の下着を売るんですよ。」

「へ?あんたが女性用の下着を売るのかい?」

「えぇ。まだ試作ですが、今も店の女性には着けてもらってます。」


全米中の女性、もとい…、店内に居る女性冒険者全員の眼が輝いた…。


「ニノマエさん…、その下着、見せて…。」


ベアさんがおずおずと頼んでくる。


「見せる事はやぶさかではありませんが、自分は男性ですよ…。採寸とかもありますので、女性が対応した方が良いかと思います。」

「そんなの関係ない…。採寸だけなら、今脱ぐ…。」


ベアさん、おもむろに上着を脱ぎ始める…。


「いあ、そういうのは少し待ってください。一応、おっさんとはいえ、自分も男ですから。

 ディートリヒとアイナを呼んできますね。」


裏の工房で馬車を作っているはずなのに、たこ焼きを食べていたアイナと、通りで近所のおばちゃんに拉致られているディートリヒを見つけ事情を説明した。


「冒険者であれば“すぽぉつぶら”でしょうね。でも、この下着も絶対欲しくなると思います。」

「社長、私“すぽぉつぶら”してますので、見せましょうか?」

「あぁ、頼んだよ。」

「カズ様、“すぽぉつぶら”の在庫はどれくらいありますか?」

「3つのサイズで黒とグレーの2色それぞれ10枚だから60枚ってところかな。でも、この世界で作ったものじゃないよ。」

「構いませんよ。冒険者ですから約束は守りますし、口は堅いですからね。」


ディートリヒに60枚渡し、庭でたこ焼きをたらふく食っている男性陣と話し始めた。



おっと、ディートリヒから念話だ…。


『カズ様、各色2枚で16枚渡しますが、よろしいですか。』

『あぁ、問題ない。それだけで良かったのかい?』

『いえ、やはり下着も欲しいということで、採寸はさせていただきました。』

『値段はまだ決めてなかったけど。』

『それも、大まかな金額として銀貨10枚ほどと伝えました。』

『まぁ、横暴な貴族をこらしめてからだからね。』

『それも理解していただきました。』

『ありがとね。』

『それでは、中に入って来てください。』


ノックして店の中に入る。


「ニノマエさん!ホントすまない!

あんたのところで売るモノなのに、“もにたぁ”ってやつをやらしてもらうだけで…。」

「いえいえ。みなさんがご活躍になっていただければ問題ない事ですからね。」

「この恩は絶対に返すから…。」

「そんな事言いっこ無しですよ。それに、皆さんが活躍されれば、うちは儲かりますからね。」

「ははは、ニノマエのおっさんが、冒険者から悪どい商人に変わったぞ。」


そう言いながら、皆で笑う。

本音で付き合えるヒトが居る事…、とても幸せに感じた。

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