11-8 服にピアス

「社長、着てまいりました。」


「わ!可愛い!」


ティエラさんの眼がキラキラしている。

そりゃ、可愛いはずだ。素が良いのもそうだが、薄化粧もさせているからね。


「ニノマエ様、彼女たちが付けている紅でしょうか…、何故輝いているように見えるんですか?」


あ、グロスか…。そこまで見抜くとは、やはり女性は美に敏感だな…。

と言ってる俺も、昨晩彼女たちが使っている姿を見るまで、使い方を知らなかったんだが…。


「あれは、まだ試作品なので世に出せないものです。

 人体に影響がないかを彼女たちで実験しているんですよ。」


取り合えず、その場しのぎの“でまかせ”を言う。

オーガニックグロスとか書いてあったから、人体に影響なんかは無いんだと思うけど、取り合えずレルネさんに分析してもらって試作品ができるまでは…と思っている。

石油系とか唇に付けるのはご法度だし、開発できるのはまだまだ先だから。


「では、試作品で影響が無いことが分かれば、是非私どもにも使わせてください。」

「その時はお知らせします。」

「ところで、あの衣装とピアスはどこで売られるのでしょうか?」

「あ、あれは隣の店で売ろうと思っていますよ。」

「え!やっぱり売ってくださるんですね!では、明日の開店も同時に行うんですか?」

「いえ、まだ品数がそろっていませんので、もう少し先になりますね。」

「では、また開店される前日に内覧をお願いいたしますね。私どものメイドにも着せてあげたいんです。」

「あ、それでしたら、特注で作られてはどうですか?」

「では、メイド長を明日そちらの店に行かせます。して、いかほどでしょうか?」


あ…、値段まだ決めてなかった…。

ヤバい…、変なことも言えないよな…。


「ティエラよ。カズをそうイジメるでないぞ。」


おぉメリアさん、救世主だ。


「メリアドール様、これはすみません。しかし、あの服は素晴らしいですよ。

メイドが着る服として最適なものになるでしょう。」

「そのために、儂の街からカズがわざわざ引き抜いて来たんだからの。」

「ビーイからですか…。やはり、有能なヒトの所には有能な方が集まるのですね…。

 あとは、“ぴあす”です!あれを是非私どもにもつけていただきたいのですが…。」

「ティエラよ…、そう急かすな。

 物事には順番というものがある。

 カズも申しておったように、あれは女性の冒険者でも美しくなりたいという気持ちがある事を察して開発したものじゃ。先に貴族が付けてしまえば、市民は手が出せなくなってしまうじゃろ。

 先ずは、我々が試し、その後、冒険者に着けてもらう。

 貴族はその後じゃ。それに、その頃には精錬されたモノをカズが作ってくれると思うぞ。」


え、俺っすか?

俺、不器用だし、デザイン力無いし…、よし!女性陣に丸投げしよう!

俺は付与するだけ。


「ティエラ様、俺たちの商品は逃げませんよ。それに付与もかける事もできますからね。」

「まぁ、付与魔法を使える方まで引き抜かれているんですね。流石はニノマエ様ですわ。」


いや…、付与は俺だが、まぁいっか…。



「今日は、なんか疲れたな…。」


タコパも終わり、伯爵家の内覧会も終わった。

粉モノを食べたせいか、お腹が膨れて夕食が食べられない…のは俺だけのようだった。


皆、クラリッセさんが作った夕食を食べている。

凄い食欲だね。いい事だ。

それに明日は戦場になるって聞いてたから、みんな早めに寝てもらう必要がある。

昼食は交代で食べることができるよう、サンドウィッチでも作っておこう。


「あの、社長。ひとつお願いがあるのですが?」

「ん?レイケシアさん、何かあった?」

「先ほどアデリンさんが社長に試作品としてお渡しいただいた“ぴあす”を私に着けていただくことはできませんか?」

「へ?耳に穴開けるんだけど?」

「ええ、構いません。イアリングよりも小さく可愛い“ぴあす”を着けることができるなんて、なんて素晴らしい職場なんでしょう!」


 なんか変な方向に走っているような気がする。

確かにピアスはイアリングよりも小さいから、ワンポイントでお洒落ができる訳だよな。


「アデリンさん、今試作はどれくらいある?」

「あれだけしか、まだ作って無いよ。」


対で2つか…。それもボール形のものだ。

仕方がない、ピアスも買って来ているから、バッグから取り出す。


「社長、ズルいですよ。こんなに作られたんですか?」

「いや、これは向こうから持ってきたモノだから、あんまり良いモノじゃないよ。

 それじゃ、取り合えず持ってきたものを見せるね。」


数個のピアスを出す。


「あ、これ可愛い。」

「私、これが良い!」

「あ、それ、私がつけてもらおうと思ってたモノだよ。」


あかん…。ガールズ・バトルが始まりそうだ。


「それじゃ、じゃんけんで決めて。」


4人が好みのピアスを持つ。

穴を開ける機械(ピアッサー)も持ってきたので、死滅の光で針を消毒し、耳たぶを氷で冷たくしてから開ける場所を狙ってパチン!と…。その後ピアスを入れ、もう一度ヒールをかけて出来上がり、と…。

血もそんなに出ず良かったよ…。


「このまま、朝まで動かさずにじっとしててね。そうすれば明日の朝にはしっくりくると思うから。」

「はい(((はい)))。」

「それじゃ、明日は早いからみんなお風呂に入って寝てください。」

「はーい(((((はい)))))。」


皆が部屋を出た後、明日の昼食を作る準備をし始めた。

メリアさんとレルネさんも手伝ってくれる。


「メリアさん、レルネさん、疲れているのに申し訳ないね。」

「カズさん、そんな事言っちゃダメですよ。

 私たちは夫婦なんですから、みんなが笑顔でいっぱい働いてもらうことができるように準備するのは当たり前のことだと思います。」

「そうじゃな。こういった時間を楽しむのも、夫婦になったから味わえるものじゃからの。

 それとじゃ、儂らもあの“ぴあす”とかいうものを着けたいんじゃが、イチの手作りの“ぴあす”を着けたいのぉ。のぅメリアよ。」

「ふふ。そうですねレルネ。例えば繚乱のマークをピアスにすることはできますか?」


げ!あんな細かいものを俺が作れるとお思いですか?


「それは無理です!」

「なんじゃ、つれないの。」

「そうではなく、あんな手の込んだモノを俺が作れると思っているんですか?」

「そりゃ、イチの魔法で作るんだからできるモノだと思うが?」


あ、そういう事か…。

わざわざ彫金や細工の技術が無くても、創造魔法で想像して錬成すれば良いのか。


「それじゃ、やってみますね。あ、イアリングとして渡したダイヤモンドも付けましょうか?」

「カズさん、それは豪勢なモノになりますね。」


彼女たちは部屋に戻りイアリングを持ってきた。


「ちょうど地金がミスリルだから、このイアリングを加工しましょう。」


イアリングにマナをつぎ込み、繚乱のマークになるように念じる。


「錬成!」


おぉ、ミスリルが水銀のように液化し、形を作っていく…。

うわ!凄いぞ。イメージしたとおりのものが出来る。

俺、これだけで食っていけるぞ…。


「やはり、イチの魔法は特異なモノじゃな。」

「だれにも真似できませんね。」


2対のピアスが出来上がった。

ただ、繚乱の紋章よりもシンプルなデザインにし、バラの花の部分にダイヤを入れた。

今の俺の力量だと、これが精いっぱいかな…。


それでも、メリアさんもレルネさんも喜んでくれたよ。


「さて、イチから嬉しい贈り物ももらったことだし、ヘタレよ、早うミリーの部屋へ行かんか!」

「そうですよ。早く伴侶として認めてあげてください。」


おおぅ…、おっさん、完全に忘れてました…。

でも、他の女性の所に早く行け!と追い払う妻とはどんなモノなんだろうか…と思うが、この世界の女性は強いから、逆らわない方が身のためだよな…。


妻への残念な気持ち半分、ミリーと愛し合うことへの期待半分で部屋のドアをノックした。


ミリーの部屋に入れてもらう…。

あ、ドレッサーはこういう風になっているんだ、と納得したよ。

まさに化粧もできる洗面台だ。こんなものが部屋の片隅にドンと置かれると困るんじゃないかと思ったが、女性にしてみれば使い勝手が良く、何よりも寝起きの顔を見られたくないから嬉しいとの事。


そんな気持ちにもなるんだね、とおしゃべりしながら、いつしかそれなりのムードとなり、ミリーと愛し合い、一つになった。

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