11-7 タコパでお疲れ様!

「外はカリカリ、中はホクホク。こんなに美味しいものがあるんですね。」

「ご主人様、こういった料理は他にもあるのでしょうか?」


お、メイドさんズが何やら期待して聞いてくる。

ネーナさんは相変わらずメモを片手に持っている。

おそらく、レパートリーに加えたいんだろう。


「小麦粉を溶いたものを、俺の世界では“粉モノ”って言ってね、ソウルフードなんだよ。」

「“そうるーど”とは?」

「“そうるふうど”ね。簡単に言うと、庶民が安くて腹いっぱい食える食べ物だって事だね。」

「パンとは少し違う用途なんですね。」

「あぁ。パンはパンだし、お好み焼きはお好み焼き。たこ焼きはたこ焼きって言った感じで、みんな材料は同じだけど、小麦粉は食べる時にはまったく違うものになるって事だね。」

「こういったモノを売るのも儲かるのではないですか?」

「そうかもしれないけど、食べ物で儲けるつもりはないから。

クローヌの名物料理みたいな感じで、みんなに伝えようかと思っているよ。」

「いえ、それですとお好み焼きが廃れてしまいます。なので、こういった料理はどなたかが管理されるのが良いかと…。」


そうかもしれないが、お好み焼きはユーリさんに任せているから…。

あ、ユーリさんにお願いするか!


「お館様、オクトーを探して来れず、すみませんでした…。」


 ナズナがしょげている。


「なぁに、問題ないよ。こうやって食えるって事で結果オーライだ。」

「でも、たった数匹で良かったんですか?お館様の事だから、少なくとも100は必要だと思っていたんですが。」

「先ずは少量でいいよ。でも、探してくれてありがとな。

取り敢えず、今はたこ焼きを堪能しような。」

「はい!ありがとうございます。」


多分、一生懸命探してくれていたんだろう。

それだけでもありがたい。


「メリアさん、ユーリさん達は今何をされているんでしょうかね?」

「カズさん、そう言われるんじゃないかと思い、迎えに行ってもらってますよ。

 そうですね…早ければ、もうそろそろ…、あ、いらっしゃいましたね。」


 鬼の形相したユーリさんとティエラさんが猛ダッシュで到着した。


「ニノマエ様…、ほ、本日は…。はぁはぁ…。」

「だれか、ユーリ様とティエラ様に冷たい水を持ってきて~!」



「ようやく落ち着きました…。

 で、“たこ焼き”なるものはどれでしょうか?」


眼がギラギラしている。

これは捕食者の眼だよな…。


「これです。ですが、中は熱いので、ハフハフしながら食べてください。」

「はい。では、はふはふ…。あちゅ!はふはふ…。

 この中に入ってるコリコリしたものは何ですか?」

「オクトーの身を細かく切ったものです。」

「きゃ、あのヌメヌメしたものですか?」

「塩もみした後に熱を通すとヌメリもなくなり、赤くなるんですよ。ほら。」

「本当ですね。

 で、この食べ物を私たちが管理してもよろしいのでしょうか?」

「はい。これはメリアドール様たってのお願いです。

 お好み焼きと同じように、庶民に安価で広めて欲しいと。

 それが、シェルフールでのスタンピード復興の第二弾?第三弾?だそうです。」


メリアさんに向かってウィンクをすると、メリアさんは承知したとばかり頷いた。


「コホン…。ユーリ、ティエラよ。

カズから伝授したこの鉄板、粉つぎ、目打ちの3点を、まだ再興が進んでおらぬ市民に融通し、作り方を伝授するのじゃ。

 ユーリが単価設定を行い、それ以上の単価にする場合は何か特別感を出すなどして、たこ焼きを世に浸透させてほしい。基本的なレシピと道具については儂から伯爵家に贈るので、存分に使って欲しい。」

「ありがとうございます。メリアドール様。

 そこまで当地の事を気にかけていただけること、大変うれしく思います。

 たこ焼きは、必ず管理し、当地のみならず王国中に浸透させます。」


仰々しくお辞儀している…。


「で、ユーリ。どうじゃ、売れるか?」

「これは売れますね。

 しかし、このような考えを如何にして思いつかれるのか…、ニノマエ様とは…。」

「そうじゃからこそ、儂がカズのお目付け役として居る訳じゃ。」

「逃さないという事ですね。流石、氷の魔導師です。」

「で、そちらは二人だけで来たのか?」

「おそらく、主人も馬車でこちらに来るはずですが…。」

「あやつよりも、エドモンド、アイネス、マティルダに食べてもらったほうが良い感想が聞けると思うぞ。あやつは食にも鈍感で、ただ食えれば良いと思っているだけじゃからな。」

「それが、メリアドール様、最近主人も食というモノに目覚め始め、何やら甘いお好み焼きを作ろうとしているのです。」


 あ、パンケーキかクレープの事か。

仕方がないな…。

ユーリさんとティエラさんにパンケーキのヒントを教えておいた。



「で、こちらがニノマエ様の一号店なのですね。お洒落なお店ですね。」


お腹も膨れたユーリさんとティエラさんは店の内覧をしている。

伯爵とお子ちゃまズはたこ焼きにご執心…。


 内装を初めて見たが、落ち着いた雰囲気の明るい壁紙が貼ってある。

って、いつ貼ったんだ?

できる女性たちは凄いね。

俺は不器用だから、綺麗に壁紙を貼る事なんてできないから、そのままの壁をむき出しにして売ろうとしてただろうな。


「やはり、石鹸としゃんぷりんは清楚な感じを出さないと売れませんからね。」


レイケシアさんがフンスカしている。

メイドさんズも満足気だ。


「ストックは大丈夫?」

「はい。レルネ様、スピネル様、ミリー様が踏ん張っていただいておりますので、ノーオの街に卸す2,000個を差し引いても5,000個はあります。」

「もしかすると、それも無くなってしまう可能性がありますわね。」


お、ユーリさん、いきなり爆弾発言ですが…。


「ユーリ様、それはどういった理由からでしょうか?」

「石鹸としゃんぷりんを1個おいくらで売るおつもりですか?」

「石鹸は銅貨5枚、しゃんぷりんは銀貨2枚で売ろうと思っています。」

「ニノマエ様、ニノマエ様が売ろうとされている商品は、これから先にも出てこないと思われます。

 そうすると、最初は試しに1個買ったとしても、翌日になれば、市民はこぞって買いに来るでしょう。

 私からの助言ですが、明日以降の販売は客が落ち着くまでの間、石鹸はお一人様5個まで、シャンプリンはお一人様1個とするのが良いでしょう。」

「そんなに買いにくるんでしょうか?」

「はい!それは絶対買いに来ます。私たちも買いに来ますからね。」

「ん?ちょと待ってください。ユーリ様が買いに来られるということは…。」

「ふふ、そうですよ。主人、ティエラ、エドモンド、アイネス、マティルダ、バスチャン、メイド10名と私で17人並びますので、85個は石鹸を買えますからね。それにしゃんぷりんも17個は買える訳ですから。」

「えと…、そんなに買われては市民の皆さんが買えなくなるのでは…。」


そんな話をしているとアデリンさんが店にやってきた。


「社長、明日からの衣装完成したよ。

一応レイケシアさん、クラリッセさん、サーシャさん、ネーナさんの4人分、一人2着で8着分置いとくよ。あ、それと昨日言ってた“ぴあす”というモノの試作品を作って来たから後で感想を教えてほしい。」

「あぁ、ありがとね。あとはメイドさんの服とアデリンさん達の服もお願いね。」

「ええよ~。ほいじゃ服こさえてきまーす。」


「レイケシアさん、服が届いたよ。」

「わぁ!社長、早速着替えてきてもよろしいですか?」

「それじゃ、みんな着替えてきて。」


カウンターに置かれた8着の服をそれぞれに渡す。

それを見てティエラさんが質問してきた。


「ニノマエ様、あの服はいったい何でしょうか?」

「あ、あれは明日からオープンするお店で着る服だよ。」

「売り子さんが綺麗な服を着るんですか?」

「え?だって、売り子さんも綺麗であれば、購入したヒトもこうなりたいって思うんじゃないかと思ってね。」

「そうですか…。やはりニノマエ様は目の付け所が違いますね。

 ただ石鹸を売るだけではなく、女性の美しさに対する願望を見せることで石鹸を売り込むとは…。

 それと、さきほど“ぴあす”なるものの試作品が出来たと仰っていましたが?」

「あ、“ピアス”は…、イアリングの一種だと思ってください。

 まぁ、冒険者の女性もお洒落したい!という意味で作ったものですから。」

「これは、どのように着けるんでしょうか。」

「こうやって耳に穴を開けて着けるんですよ。」


左耳に着いたピアスを見せる。


「うわ、穴を開けるんですね…。」

「はい。耳たぶに穴を開け、針を通して後ろで留めるんです。そうすると多少の動きであっても落ちることはありません。」


「これは…、イアリングに替わる斬新なモノになりますね…。」

「でも、耳に穴を開けるので戸惑う方もいらっしゃると思いますから。」

「一つや二つ穴が開いたところで何の問題もありませんわ。

 男性と交わった女性なら、既に穴の一つは開いているのですからね。」


ティエラさん…、それって爆弾発言ですよ…。

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