3-19 軍略を練る者
その後2日はこれと言った進展がなかった。
炎戟、龍燐のメンバーはダンジョン内に入り調査を継続中、ダンジョン内がさらに活発になっているものの、一気にあふれ出るということは無いし、新しい出入口も見つかっていない。
森はこの3日間で相当数の魔物を討伐できたようで、毎日Cランクの冒険者がホクホク顔で街まで戻ってくる。
Dランクの冒険者は街の外周をランニングしたり、農場に入ってくる魔物を倒している。
割の良い依頼のようで、Dランクのパーティーもホクホクしている。
いつもと変わらぬ風景のようだ。
俺はというと、資格停止を食らっているので、大々的な行動ができない。
それに、難題だと思っていた領主や他ギルドとの調整が一日で片付いてしまったので、手持ち無沙汰状態が続いている。
街を出歩くのも億劫なので、部屋でいろいろと思考を巡らす。
魔物の数も分からないし魔物の種類も分からないため、押し寄せてくる魔物をどうやって進撃を止めるのか、止めた魔物をどう仕留めるのか。
もう一つ厄介なのは、仕留めた魔物のドロップしたものは誰に所有権があるのか?
ダンジョンなら魔物を倒したパーティーがドロップ品を所持する権利があるって聞いたことがある。
しかし、スタンピードというものは多対多の戦闘となり、最悪乱戦になる。そんな中ドロップしている素材を集めながら次の魔物を倒すということはできない。
まぁ、アイテムを拾うヒトが隠密や斥候といったスキルを持っていれば別だが、ほとんどのパーティーはいれてはいないだろう…。それに一般人が収集するなんて事をすれば、たちまち死が訪れる…。
さらに、各ギルドが協力してはくれるものの、そのヒト達が倒した魔物のドロップ品をどう配分するのか…。冒険者ギルドは無理か?
うーん…。
俺は考えを巡らせるが、良い案が浮かばない。
「あの…、カズ様。」
ディートリヒが声をかけてきた。
「ん?どうした?ディートリヒ。」
「何度もお呼びしたのですが、お返事がありませんでしたけど…。」
「あ、ごめん。 少し考え事をしてたんだ。」
「領主様のお使いの方が下に来られていますが…。」
げ、しまった。いつもの癖で自分の世界に入り込んでいたのか…。
「分かった。では、下に行こうか。」
そう言えば、肉が欲しいって言ってた事を思い出し、ビジネスバッグを片手に、俺とディートリヒは宿屋の1階に移動すると、そこには伯爵邸で玄関に居た執事が立っていた。
「すみません。お待たせしました。」
「いえいえ、突然にお邪魔させていただいたのはこちらなので。
ニノマエ様、伯爵がお呼びです。」
「分かった。これから向かえば良いのか?」
「左様でございます。」
肉の事か? そんな些細な事で呼ばないような?
取り敢えず上の方が呼んでいるって事で、領主の館に向かうことにした。
流石執事さん門番もスルーって当たり前か。そのまま館の玄関に行き扉を開ける。
「おう!ニノマエ氏、久しいの!」
ん?何でこのヒト玄関で待っているんだ?
「伯爵様、2日ぶりでございます。」
とりあえずの挨拶を済ませる。
「で、今日呼んだ理由は、だな。」
「バジリスクの肉ですか?」
「ははは、儂はそんなにがっつくように見えるか?」
「いえ。そんな事は…。」
否、がっつくと思うが、とりあえず否定しておこう。
「主の力を借りようと思っての。」
ん?力? 何の力だ?
俺は少し青くなった。
俺のスーパーヒールはカルムさんしか知らないはずだし、鑑定や付与はマルゴーさんだ。
俺の魔法をすべて知っているヒトなんていない。勿論、俺自身もだ…。
「何の力でしょうか?」
「主の先を見通す力だ。」
「はぇ?」
先を見通す力なんぞ、持ってはいないよ。
「恐れ入りますが、そのような力は持ってはいませんが…。」
「何を言っておるのだ。トーレスに話した信頼という名のバッグの件と言い、スタンピード発生を予測しての緊急体制の構築…、主には他の者に無いものがある。」
「はぁ、そんなものでしょうか。」
「謙遜も重ねれば嫌味に感じるぞ。
でな、話というのはスタンピードへの防衛についてだ。
ここでは何だ、部屋に行くぞ。」
領主様も考えていただいていたんだ。と思いながらも執務室に行き、席を勧められたので豪奢な応接ソファにディートリヒと一緒に座る。
伯爵は俺の対面に座り、メイドへお茶の手配を指示する。
「先ず、スタンピードへの防衛であるが、もちろん街の外で行うこととなる。
だが、ダンジョンのある北西から魔物が来ても、あそこは農地と平地であり阻害させるものが無い。
そこで、錬金ギルドの土魔法師に土塁の設置を指示しようとしたところ、錬金ギルドから、既に主が壁の設置を依頼しておったという事だ。
主は、戦闘は大規模な戦争は経験が無いという事であったが、何故、主の言う壁を作ろうと思ったのだ?」
あ、これ、やっちゃった系かな。
シミュレーションゲームをやりこんだ結果か、それとも息子に借りて読んだラノベが原因か…。
「確かに自分にはそういった経験はありません。ですが、子供の頃からそういった書物を読むことが好きでした。」
「おぉ、主は軍略書を読んでいたというのか…。」
いえ…、“信〇の野望”や“三國〇”です…。
“三國〇”は、初回版からソフトを買ってやり込んでいました。
“蒼き〇と白き〇鹿”は、オルドコマンドでテントの先が飛んでいくのを興奮して見ていました…。
「そのような崇高なものではありませんでしたが…。」
「では、今回の街の外での防衛陣についてだが、儂の意見を聞いてほしいのだ。」
「え?領主様自らが作戦を立てられるのですか?」
「当たり前だ。主の目の前におるのが領主である。領主が街を守るのは当たり前の事だぞ。」
俺、完全に勘違い、独りよがりしてました。
自分一人でずっと考えていたが、別に一人で抱え込む事は無かったんだ。
種を蒔いたのは自分とはいえ、最後まで刈り取らなくても、できるヒトがいればそれをやってもらうのが良い事だ。
「ありがとうございます。」
俺は何故か、お礼を言っていた。
気持ちを切り替えて、領主さんに彼の意見を言わせる。
「では、伯爵様がお考えになられた陣をお見せいただけますか?」
「分かった。 バスチャン、地図と例のモノを持て。」
バスチャン? え? 誰?
と思っていると、執事の人が地図と小箱に入った何かを持ってきた。
あ、執事さんがバスチャン…、セバスチャンからセを取っただけのアンニュイなネーミング…。
あ、ごめんなさい。そんなつもりはないのだろうけど、名は体を表すって言葉を実感したわ。
お茶も到着し、バスチャンさんもメイドさんも部屋から出た後、伯爵と俺は街の地図を見ながら、あぁでもない、こぉでもないとワイワイやりながら陣形を構築していく。
さながら、床几に座り盾を机に地形を見ながら戦略を巡らす軍議のようだ。
数刻が経ち、陣形も整い始めた時、“ぐーー”と可愛らしい音が鳴る。
音が鳴った方を見ると、ディートリヒが真っ赤な顔をして下を向き「すみません…」と謝っている。
どうやら、お昼時のようだ。
伯爵と俺は笑い、昼食を取ることとなった。
では、と部屋を退出しようとすると、後ろから首根っこを掴まれ、「主も一緒にとるのだ。」とダイニングルームまで連行された。
勿論、俺が持ってきたバジリスクの肉がメインとなる昼食であったのだが、昼から、ヘビー級の肉料理は流石に胃にもたれるんだが…。彼らの胃は何で出来ているんだろうか。
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