第三章 魔物
3-1 森へ~いき~ましょ~ぉ♪ ディートリッヒさん、HOHO♪
おはようございます。
昨晩は足が痺れてよく寝れませんでした。
…ごめんなさい。嘘です。
隣で寝ているディートリヒさんが気になって眠れませんでした。
おっさんウブですから、当然、朝チュンもありません。
俺が座っている横で可愛い寝息を立てているディートリヒを見る。
彼女にとって、これまでの“翌日”という存在は、悪夢の継続を意味していたのかもしれない…。
しかし、今日からは新たな生活が始まる。
自己満足と言われようが構やしない。俺は俺の生き方の中で彼女を笑顔にしていく。
考え事をしていると、ディートリヒは目を覚ます。
俺の顔を居るや否や毛布で顔を隠してしまった。
「ご主人様、恥ずかしいです。」
ごふ! 俺も恥ずかしいですよ。
はるか数十年前にもこんな事があったのかはもう覚えていないが、青春っていいなぁ~と思う。
「さて、ディートリヒ、今日から薬草採取に行くから付き合って。」
「はい。ご主人様の行くところはどこでもついていきます。」
いや…、流石にトイレはイヤですよ…。
お互い背中越しに服を着替え、1階の食堂に行き、マリベルさんに朝食を2名分頼む。
温かいハーブティーを飲みながら、これから行く場所の概要を伝え、俺を護衛するため魔物を倒してほしい事を説明する。
「お任せください。ご主人様が安心して薬草を採っていただけるよう、周りに気を付けます。
それと、倒した魔物は如何にすればよろしいでしょうか。」
「うん。一応剥ぎ取りができれば魔石や素材を採って欲しいんだけど、剥ぎ取りはできる?」
「ひととおり騎士学校で習いました。」
「良かった。自分、剥ぎ取りができなくて…、ごめんね。」
「いいえ、少しでもご主人様のお力になれれば嬉しいです。」
ディートリヒさん、フンスカしてる。
「ディートリヒ、あまり無理しちゃいかんよ。」
「何故ですか?ご主人様を守ることが私の使命ですが。」
「いや…。言い換えるね。あまり頑張りすぎちゃいけないよ。危なくなったら二人で逃げる。それで十分だからね。」
「はい…。」
「自分自身の能力を知っている事は、時として最高の武器になるんだよ。無理だと分かれば早めに撤収・退散する。それで十分なんだよ。」
「分かりました!全力で逃げましょう!」
「そうそう。それで十分だよ。」
朝食が運ばれ、ディートリヒと一緒に食べる。
独りで食べる食事よりも、ディートリヒと二人で食べる食事は格別だ。
「そう言えば、二人きりで食事をとるのは今日が初めてだな。」
独り言ちするが、その言葉を聞き、ディートリヒは赤面する。
「ご、ご主人様と、ふ、二人でっ…」
あ、しまった…地雷踏んじゃったか…。
「いやいや、これから毎回二人で食べるからね。」
「ふ、二人で…。」
あかん…、これ完全に残念娘になるパターンだ…。
ディートリヒ・ワールドのゲートが開きかけている。話題を変えないと…。
「そ、そう言えば、最近魔物の状況が変だから十分注意してね。」
「え、それはどういう事ですか?」
よし!ワールドからの強制送還を成功させた。
俺はコックスさんに話した内容を彼女に伝えた。
「そうですか…。私はダンジョンの事はよく分かりませんが、何事もなければ良いですね。」
「そうだね。まぁ、自分たちにはあまり関係の無い話だと思うから、ギルドからの情報を待とう。」
食事を終え、依頼を受けにギルドまで歩いていく。
「足とか身体の具合はどう?」
「問題ございません。しっかりと動けます。」
「まぁ、ぼちぼちとリハビリ兼ねてゆっくりやっていくからね。」
「はい。それと、ご主人様、一つご質問があるのですが?」
「ん?何?」
「魔獣や魔物を討伐した際の素材などは、その都度ご主人様に持ってこれば良いですか?」
あ、忘れてた。
「それじゃ、そこの雑貨屋でディートリヒ用のバッグを買おう。」
「はい。」
俺たちは、雑貨屋に入り、アーマードレスに合うウェストポーチのようなバッグを購入し、それを彼女に持たせた。
ギルドに到着し、いつもの依頼を受ける。
ギルドに居た冒険者からは、「新婚旅行か?」「婚前旅行だろ?」「いや、犯罪だわ。」とか揶揄われたが、皆笑いながら見送ってくれた。
うん。何度も言うが、キャラクターづくりと人脈づくりは必要だ。
道中、ディートリヒの戦闘スタイルについて聞く。
基本剣なので近接し相手を倒す。採取中はこれで問題ない。
彼女に索敵ができるか聞いてみたが、残念ながらスキルや魔法は持っていないようだ。
彼女自身もマナは少ないと言ってるが、測ったこともない上に魔法も覚えたことが無いとの事。
ただ、騎士なので防御系の何かがかかるようだ。今度、レルネさんのところで測ってもらおう。
できれば、何かの魔法が使えた方がいいんじゃないかとは思うが、魔法を覚えるにはどうしたら良いか分からないので、これもレルネさんに聞こう。
あとは、会敵した場合に備えても考えておく。
俺が遠距離から敵にダメージを与え、彼女がとどめを刺すというスタイルで確定だな。
ようやく森の入り口に到着した。
「んじゃ、さっき渡したバッグを少し貸してね。」
ディートリヒに買ってあげたバッグを手に取り、収納魔法をかける。
大きさは、そうだな…。俺のビジネスバッグより大きなものにしておけば、たくさん素材を入れることができるな。ならば5間分(9m)の立方体で、重さは2,000kgにしておこう。
バッグ9mの立方体と重さ、そしてバッグには俺とディートリヒにしか出し入れできないよう収納と付与魔法をかける。
うわ、毎度のことながらマナがごそっと抜け取られる感じには慣れない。
ディートリヒさん…、おれの魔法を見て硬直してます…。
「あの、ご主人様、今の魔法は…。」
「あぁ、これね。これは収納魔法というか、付与魔法というか…。俺独自の魔法らしいんだ。
今、このバッグの中身は、5間四方の大きさを収容できるようになった。重さは2,000㎏ぐらいかな?正直こちらの単位が分からないから許してね。」
「いえ、そういう訳じゃなくて…その魔法とバッグの凄さです。」
聞けば、アイテムボックスのついたバッグは小さくても金貨5枚以上で取引されるらしい、そんじょそこらに出回る商品では無いらしい。それをいとも簡単に作成するヒトを見たことが無いと興奮しながら言っている。
しかしなぁ…、具体的なイメージを思って念じただけなんだが…。
考えてはダメなので、
「”渡り人”だからね。」
サムズアップする。
その一言でディートリヒは納得した。
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