3-2 ディートリヒ無双①

 ご主人様と呼ばれると何だかむず痒くなるので、できればほかの名前で呼んでほしいと懇願するも、ディートリヒは「ご主人様は、ご主人様なので。」と頑なに他の名前で呼ばない。

なら、ディートリヒの事を「ディーちゃん」て呼ぶよ。って言ったら、赤面してモジモジし始める…。

あかん…、残念娘になりかけてる…。


「よし、この辺りで薬草を採取するから、ディートリヒは周囲に気を付けてね。」

「はい。分かりました。ご主人様。」


 そんなこんながあって、俺は薬草採取に精を出す。

集中して採取できるから、薬草やいろんな種類のハーブが採れる。


 1時間くらいだろうか、大方この周辺の薬草を間引くことができた。

すべてを採取してしまうと、ここでは採れなくなってしまうので、あくまでも間引くだけです。


「ディートリヒ、居る?」

「はい。ここに。」


 ディートリヒは草むらから姿を現す。


 ディートリヒさんや…、何故魔獣の血で染まっているんでしょうか?

片手に剣を持ち、返り血を浴びながら薄ら笑う姿を見ると、おっさん怖くなってしまうんですが…。


「ディートリヒさん…、返り血ですごいことになってますが…。」

「はい。この辺りに居た魔物を一掃しておりました。勿論、素材もはぎ取っています。」


おう!流石にすごいです。

それじゃ、残骸を焼却しましょうか。


「それじゃ、残骸を燃やそうか。」

「はい。」


 比較的拓けた場所で窪地を見つけた。


「じゃぁ、ここで燃やすから残骸出してね。」

「分かりました。」



 すみません…。俺が間違ってました。

こんな小さな窪地じゃ入りません。


「ディートリヒさん…、何体倒されたんですかね?」

「えぇと、ゴブリン20体とオーク8体までは数えていましたが、後は数えていません。」


 キリっと回答されましたよ。


 数えると、緑の奴が28体、白い奴が12体、なんだかよく分からない狼みたいな奴が4体の計44体。

この数をたかが30㎝くらい窪んでいるところで燃やせるかいっ!!


 俺は創造魔法を試すことにする。

この窪んだ地をもっと掘り下げ、1mくらいの穴を掘るイメージだ。


「ディグ!」


そう掛け声をかけ念じると、おぉ!土がごそっと動く。


「ご、ご主人様、しゅごいでしゅ。」


 ディートリヒさん、思い切り噛んでますよ。


「んじゃ、ここにさっきの44体を入れて焼却していこう。」

「分かりました。」


 って、おーい!ディートリヒさん…、全部入れちゃったら、真ん中は生焼けになっちゃいますって。


「ディーさんや…」

「え、は、はい!な、何でしょうか。ご主人様」

「残骸を焼却するときは、全部を入れずに火が満遍なく回るように数体ずつ入れてね。」

「わ、分かりました。」


 ディートリヒさん、真っ赤です。ふふ、今度から注意するときはディーさんって呼んでやろう。


 数体ずつ残骸を入れながら、俺は火炎放射とターボジェットを繰り返し焼却していく。

まぁ、タンパク質が燃える匂いだから、食欲をそそるような匂いにはなるのだが、実物を知っているため食欲はそそられない。


 すべての残骸を焼却した後、穴を埋め戻すイメージで魔法をかける。


「バックフィル」


 埋まったよ…。

 別に英語で掛け声を出さなくても良かったんだが…。

何となくだよ、何となく…。


 とりあえず一連の作業を終え、ディートリヒと昼食をとる。

二人は横たわった朽木に腰かけ、フォカッチャのようなパニーノのようなものを頬張る。

イヴァンさんの手作りお弁当だ。


 ところで…、

何故こちらのパンはふっくらしていないのか。

ピザ生地に少し厚みを加えたものを食べている感じである。

粉に問題があるのか、それともこね方なのか、はたまたイースト菌が無いのか…。

 まぁ、今度ゆっくりと考えてみよう。

ラノベでもパン作りのレシピを公開してひと財産当てたとか、王様に献上したって話もあるくらいだから、何か方法があるんだろう。

まぁ、酵母が作れれば、いけるかな。


 は!いかんいかん。トリップしていた。

横を見ると、ディートリヒさんが寂しそうな目で俺を見ている。

ごめんな。


「さて、午後からの採取だけど、山の麓まで行って採取します。」

「はい。」


 お、ディートリヒさん、眼が輝いているよ。

 あ、その前に試してみたかった魔法を思い出した。

確か、クリーンとか言う魔法だ。

汚れを取ってくれる魔法だったよな。

そうすると、朝宿屋の部屋を出る時の服や身体のイメージか。


「ちょっと待ってね。『クリーン』」


 俺は即興で、ディートリヒに魔法をかけた。

結果、成功です。


「ちょ、ご主人様、いきなり魔法だなんて。」

「うん。返り血で汚かったでしょ。ごはん前にしてあげられなくてごめん。」


 そうだよ。小川で手は洗っているものの、薬草は綺麗に落ちないんだよ。それにハーブも採っているから、手が臭い…。そんな中でも飯が食えるようになるってのは、環境に順応してきたって事かも。

 なんて思いながら、二人で山の麓まで歩いていく。


 すると、イヤな感覚が襲ってくる。

あ、これは白い奴だな。


「ディートリヒ、白い奴が近くにいる。」

「え、白い奴? あぁ、オークですね。分かりました。」

「右斜め前方50mといったところか。数は5体。いけるか?」

「2体ならいけます。」

「んじゃ、俺が3体いくよ。」

「え、ご主人様は弱いんじゃなかったんですか?」

「はい。弱いですよ。でも、白い奴なら前に倒したことあるから。」


 弱いのに倒したことがあるって詭弁だわ。おそらくディートリヒは、俺が戦闘力皆無だと思っていたらしい。

俺は魔銃にマナを装填し、八つ〇き光輪を3つ出して準備する、その姿を見てディートリヒさん口を開けたまま突っ立っている。


「どうした? そろそろ相手に気づかれるよ。先手を取った方が有利だよ。」

「え、は、はい。」

 

 彼女も抜刀し準備する。


 俺は、少しの間トリップしてしまう。

 もしかして、この世界でパーティーを組めば経験値?そんな概念があるのかは知らないが、経験を共有できるかもしれない。そうすると、お互いメリットがあるな…。


 俺は、お互いが連携して動き、白い奴を倒すと経験が共有され、熟練度が増すこと、そして、連携により攻撃すれば攻撃する武器が強くなり、防具も堅くなるイメージを持ちながら念じる。


「んじゃ、行こうか!」


 一瞬、俺とディートリヒの身体に光が集まり、すぐに消えた。

成功か失敗かは、白い奴が教えてくれるだろう。


「先ずは自分が遠距離で攻撃するから、傷ついた白い奴の止めは任せた。」


さぁ、行ってみようか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る