8-24 帰路、考える

 メリアさんとの面会を終え、帰り支度をする。

ソフィアさんも王都へと戻るようだ。


「ニノマエ様、次回お会いした際には是非魔法のご指導をお願いします。」

「うん。でも、俺の魔法はメリアドールさんと同じ魔法の体系のようだから、王宮は納得しないよ。」

「それでも良いのです。

どれだけ魔法でヒトの生活が良くなるのか、ニノマエ様の思いと王宮の思いがどう異なるのかも踏まえて考えたいと思います。」

「良い心がけだね。

では、王宮に戻ったらメリアドールさんの訪問と併せていろいろな話を聞くと良いよ。」

「分かりました。では、次回お会いできることを楽しみにしております。

 あ、私ですがB80のMで、ピンクが好きです。」

「お、おぅ…。そうか…。

またね。」


 ソフィアさんの考え方も変わったのだろうか。

表情が生き生きとしている。


「師匠、これからもちょくちょくビーイに来てもらえるんですよね。」

「あぁ、3か月に一度、市が立つ日には来るようにするよ。」

「では、その時には、当家に下着の納品をお願いします。

 明日までには、妻とメイド全員のサイズを準備しておきます。

 それと、石鹸としゃんぷとりんすについてもお願いします。」

「はは、そんなに早くは出来ないかもしれないよ。」

「構いません。できたモノから配置しておかないと、メイド達に殺されます。」

「ふふ。そうかもね。あ、それとビーイに来た時はスフィア様の様態も診せてください。

 俺の国で使われているモノを持ってきますので。」

「それはありがとうございます。」


「ではカズよ。達者でな。」

「メリアドール様も、お身体ご自愛ください。」


 言葉は少なかったが、もう心はひとつだった。

愛を語るに言葉なんか要らない…。瞳と瞳で愛を語る…。

そんな映画のワンシーンがあったような、なかったような…。


 馬車は侯爵邸を出て、宿泊場所まで戻る。

今日が最後のビーイの夜だ。


「みんな、何か食べたいものはあるか?」

「お館様、私はトンカツです。」


 ナズナさん、ブレないね。

最初にトンカツって言っちゃったからいけないんだけど、ホントはオークカツなんだけどね。


「良し、それじゃ、今日はカツ丼にしよう。」


遊郭の厨房を借り、トンカツを揚げる。

それを鍋にいれ、醤油と酒、みりん、砂糖で味を調え、炊き立てのご飯の上に盛る。


「ブル丼に続き、カツ丼の出来上がりです。さぁみんなで食べよう。」

「いただきます((((いただきます))))。」


 これも大盛況だった。

特にナズナとアイナは丼物、つまり米が好きになったようだ。


「ディートリヒ、凄い事になっちゃったけど、ごめんな。」

「カズ様、それは必然的な事です。以前伯爵邸でメリアドール様とお会いした時から運命は動き出しておりました。」

「そんなものかね。」

「はい。そんなものです。」


「でも、ホントにいいのか?俺に妻ができ、皆が妾になることで。」

「私達は常にカズ様と一緒に居たいんです。先ほども言いましたが、妻となれば離れ離れに住まなくてはいけなくなることもございます。

 それよりは、カズ様と一緒に居ることができれば本望なのですよ。」

「それと、さっき順番がどうのこうのって言ってたようだが…。」

「あ、あれはカズ様と愛し合う順番ですよ。」

「へ?」

「やはり、お一人ずつ愛していただくことが一番かと思います。」

「そうなの?」

「あ、ベリルとスピネルは姉妹ですので、そこはお任せします。それに私も他のヒトと一緒に愛し合ってもらいたいという欲望も…。」

「主殿が私達4人と愛し合う時は、ヒトが変わりますからね。

 それはそれで官能的ですが、やはり一人の時も…。」


「身体持つかな…。」


「で、社長、私はどのタイミングで参入すれば良いのですか?」

「アイナはまだまだだ。何度も言うけどロリはストライクゾーンではない!」

「では、今度、あの服を着て社長の前で…。」

「あ、あれは…、反則だ…。

 大リーグボール○号だ…。」


 今晩は全員でお風呂に入った。

皆を洗い、とろんとした表情になる。その表情にキスをする。

満面の笑みだ。幸せを感じる。


「社長、私はしてくれないのですか?」

「君はまだだと言っただろ?でも、洗ってやる。」

「はぁ…、気持ちいいですね。」

「だろ。」

「では!失礼して!」


 ゴツ!


「ちょ、おま…、何で自分から…、それも歯と歯が当たったじゃないか。」

「へへへ、痛かったけど、これが初のキスです。初のキスは痛いものだと相場が決まっています。」


 どこの世界だ。


「ディートリヒ、こいつ、どうしようか…。」

「仕方ありません。カズ様、本当のキスを教えてあげてください。」

「え、おい!そんな事したら…」

「それも運命ですよ。」


 仕方なく軽くバードキスをする。

すると、アイナの野郎、腕を首に絡ませ、舌を入れてきやがった。

お前、初めてじゃなかったのか!


「アイナ、お前…。」

「はい。ブランさんと皆さんから教えていただきました。」


 そうだった…。一晩ブランさんに調教されたと言ってた…。


「キスはいいが、愛し合うのはまだだからな。アイナは倉庫の上。いいね。」

「えー!ま、仕方ありません。って言うか、私は倉庫の上で暮らす方が錬金に集中できますから。」

「お、アイナにしては良い回答だ。じゃ、そのご褒美ね。」


 俺はアイナにやさしくキスをした。

アイナはびっくりしていたが、やがてとろんとした顔をする。


「社長、これが甘美なものなのですか?」

「ヒトそれぞれだから、よく分からないよ。」


 お風呂から出て、髪を乾かす。

スピネルに聞けば、クラリッセさんがドライヤーの魔法をもう少しでできるらしい。


 今日はみんな一緒に寝る。

お休みのキスは、しぶしぶアイナ、それ以外はしっかりとベリル、スピネル、ナズナ、ディートリヒの順にした。


 翌朝、遊郭にお礼を払い、後にした。

アドフォード家の執事さんがお見送りがてら、メイドさん18名分のサイズが書いた紙を渡された。

ヴォルテス君、抜かりないな…。って、なんでスフィアさんらのサイズまでちゃっかりと書いてあるんだ!


 ノーオ経由でシェルフールへ戻る。ノーオではザックさんに迷惑をかけられないので、宿屋に泊まる予定だ。


道中、皆で今後の相談をする。

先ずは、下着の素材集めと馬車の改造に必要な鉱石集め。

それを繰り返し、不要な素材を売って金にしていく。


「ディートリヒ、確か俺たちの店の右隣は空き店舗だったよな。」

「はい。主人がスタンピードでお亡くなりになったとか…。」

「ご家族は?」

「独り者だったと聞いてます。」

「んじゃ、そこを買って、アデリンさんの店にするってのも良いな。勿論家賃を取って。」

「そうですね。トーレスさんに頼めば、安く購入できるでしょう。」

「んじゃ、ナズナ、シェルフールに戻ったら、トーレスさんの店に行き、店舗購入を進めてくれ。」

「お館様、分かりました。」

「ディートリヒは、伯爵邸に行き、馬車をもう一週間お借りすると伝えてくれ。

 それと、奥様ズのお土産はどうする?」

「カズ様、ミスリルのアクセサリーではいかがでしょうか。」

「うん。じゃ、ネックレスとイアリングをセットで渡しておいて。」

「分かりました。」

「ベリルは冒険者ギルドに行って、ダンジョンの依頼で良いものがあるか見てきてくれ。

 それとシーラさんにも帰ったことを伝えて。」

「承知いたしました。」

「スピネルは研究室に行き、石鹸をシャンプーとリンスにする研究をしてくれ。」

「分かりました。」

「アイナは、これから倒れるまで設計図どおりに馬車を改造してくれ。

 力仕事はあの二人を使ってくれ。」

「はいな~。」


 俺はというと、今回の件で下着と石鹸を売り出すこと、服とアクセサリーを売ることをスケジュール化しておく必要がある。それに7日の間で伯爵の奥様ズの馬車を改修、それと併せてダンジョンでの素材のリスト化。うん。やる事がいっぱいだ。

 それに、セネカ様にお供え物を渡しつつ報告もしなくてはいけない。


 なんか、休まる時間がないな…。

あ、でもみんなを休ませる必要もある。


「みんな、ごめん。

 今言ったことは、シェルフールに着いた2日後から始めて。

 着いた日は、皆お休みにしよう。」

「はい((((はい))))。」


 馬車をポクポクと進める。

案の定、ノーオの街に入る前には、ゼフさんが待ち構えていた…。


「ゼフさん、いつから待ってたんですか?」

「今朝ですが。」

「それは、ザックさんの指示ですか?」

「いえ、ベリルの姉御からの情報です。」

「へ?」

「主殿、すみません。早馬を出させていただきました。」

「あ、そういう事か。すまなかったね。」

「はい。では、ノーオまでご案内します。」

「あ、今回は宿屋で一晩泊まるから、無理はしないで。」

「それは無理ですよ。社長と奥様がお待ちですからね。」

「そうですか…。」

「前回と同じで、奥様たちは遊郭の最上階でブランディーヌ様と。ニノマエ様は社長の館でとなっております。」

「俺、そんなVIP待遇されても、シェルフールで同じことできないんだけど…。」


 門にまた懸垂幕がある。

「ディートリヒ、聞きたくは無いが…、あの懸垂幕は?」


「はい!『おかえりなさい!ニノマエ様』です。」

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