3-14 全員の決意
「ニノマエさんの心意気、よく分かった。あたいたち“炎戟”は最大限協力する。」
「俺たち“風の砦”も同意する。」
よし、これで役者はそろった。
後は、クーパーさんの決心のみ。
俺はクーパーさんを見つめる。
「俺は、これまで冒険者として生きてきた…。ケガがきっかけでギルドの職員になったが、これまでベーカーのやり方に何も言えなかった…。
みんな、すまなかった…。俺は、ギルドとしてではなく、いち冒険者としてみんなに協力する。」
ようやく目が覚めたようだ。
今回は、彼が“縁の下の力持ち”として一番活躍してもらわなくてはならない。
その覚悟が必要だった。
「では、皆さん、よろしくお願いします。自分も明日から各ギルドに回ること、トーレスさんを頼って領主様と面会し情報を共有します。
それと、毎日の報告が必要ですが、炎戟さんと龍燐さんの情報とこちら側の状況報告を共有する係は、炎戟さんのヴァルゴさんと風の砦のギャロさんが適任だと思うのですがいかがでしょうか。」
「そうだな。アサシンとスカウトだから隠密が取れるからな。どうだ、ヴァルゴ?行けるか」
レミアさんがヴァルゴさんに確認する。
「なんか、久しぶりにワクワクする仕事だにゃ。任せてくれにゃ。」
おお、ヴァルゴさんは猫族の獣人さんか。
続いてコックスさんもギャロさんに確認している。
「問題ないぜ。」
ギャロさんも即答だった。
「ありがとうございます。では、ヴァルゴさんとギャロさんは落ち合う場所や合図などを予め決めておいてくださいね。」
「分かったにゃ(分かった)。」
「では、風の砦の皆さんとクーパーさんは毎日この時間に…、どこに集合しましょうか?」
「おう!それじゃ、この店でどうだ? 店主にはあたいから話をつけておくから任せとき!。」
レミアさんも見栄を切ってくれた。
「ありがとうございます。では、ここのオーナーに皆さんがいらっしゃった時の食事用として材料を提供しておきましょうか。」
「あ?食い物? 食い物なんて持ってるのか?」
「はい。先ほどお見せしたデカい奴の肉でどうでしょうか。」
「え″――――。」
また全米中が熱狂した。
「ちょと待て。バジリスク・ジャイアントの肉も持っているのか?」
「え?はい。」
「あんた…、はぁ…。あの肉はな、高級な肉でこの街でも指折りの高級店でしか食えない品なんだよ。
それをあんたホイホイとタダで渡してたら、そのうち破産するぞ。」
「自分は、身の丈にあった生活さえできればいいんです。肉なんて持ってても今は何の役にも立ちませんので、皆さんとのお近づきとして、そしてご褒美だと思って食べた方が良くありませんか?」
レミアさんが何度もため息をつく。
「あんたは規格外だよ…。分かったよ。店主を呼んでくるから肉を見せてくれ。」
「どれくらい必要ですか?」
「あ…、倒したんだったよな…。という事は…。」
「はい。たっぷり保存しています。見ますか?」
「もう、規格外すぎて話にならん。でも、肉は食う!」
「それで良いんですよ。キツイ仕事になるかもしれませんが、笑顔で楽しく仕事をした方が面白いと思いませんか?」
「まぁ、そうだな。じゃ、駆け付けに今日もそのバジリスクの肉で乾杯でもするか?」
「お、良いですね~。んじゃ出しますね。」
レミアさんと俺との掛け合いを他のメンバーは口をあんぐり開けて見ている。完全に放心状態だ…。
俺は、持ってきたビジネスバッグからバジリスクの肉を出し始める。
「これと、これと…、これも…」
「ちょと待て!さすがにこれだけの肉、このメンバーだけでは食い切れんぞ。」
テーブルの上には、100㎏近くの肉が所狭しと並んでいた…。
その後、15人で40㎏の肉を平らげ、明日に再会することを約束し、それぞれ家路に着いた。
琥珀亭への帰り道、俺はどうしてもディートリヒを意識してしまう…。
神様が彼女の話をしっかり聞けと言った…。そして、俺は俺だとも…。
なんか、そんな事言われちゃうと意識してしまう訳ですよ…。何か非常に気まずい雰囲気。
琥珀亭に戻り、部屋に入る。お互い背を向け寝巻に着替える。
やっぱり、気まずい。
「ディートリヒ、明日もいっぱい動くからしっかり休んで…。
それと…、さっきはありがとな。おかげで皆を決心させることができたよ。」
俺の精一杯の言葉だった…。
だって、おっさんこういうシチュエーション30年ほど経験していません。何を話してよいかなんて分かりませんよ。
「ご主人さま。」
「え、は、はい。」
声が裏返ってしまった…。
ディートリヒを見ると、真面目な顔してる。ヤバい怒らせたか?
怒らせた原因は…、牙か? あ、肉か? そう言えば美味しかったものなぁ…。
さまざまな思いを巡らせ、どう謝ろうかと思案する。
「ご主人さま、ここにお座りください。」
「はい…。」
ベッドに正座する。
「いえ、その座り方ではなく、いつも座っている方で。」
あ、胡坐か…。胡坐ってことは、説教が長くなるって事だな…。
俺は覚悟を決め、胡坐をかく。
ディートリヒがベッドの際に座り、「えいっ」と言って俺の胡坐の上に座る。
あ、これ…、ここに泊まった時と同じ体勢だ…。ちょとヤバい体勢…。
そんな事を思っていると、ディートリヒが抱き着いてくる。
おうふ! 柔らかい感触がします…。心拍数がヤバいです…。
「ディートリヒ、どうした?」
平静を装いながらディートリヒに尋ねる。
ディートリヒは抱き着いた身体を戻し、真正面に向き合う。
「ご主人様は“渡り人”です。でも、私にとっては命の恩人であり、尊敬するヒトです。
いつからなんですか? スタンピードを止めるための策を練られていたのは?」
「ん?! 策なんか練っていないよ。」
「では、あそこに居る人たちをあれ程従わせることができたのは魔法ですか?」
「違うよ。あれは、そこに居る人全員が、自分ができる事をしてもらう、そのためには何をすべきかを提案しただけ。」
「では、上位ランクのヒトやこれまでも偉い方とお話しされる時に物怖じしないのは何故ですか?」
「いや、怖い時は怖いんだけどね。」
「スタンピードは怖くないのですか?」
「いや、流石に怖いよ。」
「では、何故あのような対策を皆さんと練られるのですか?」
なんだか尋問みたいだな…。
しかし、ディートリヒは何を聞きたいんだろう? 読めない。
「うーん。端的に言えば、自分の事は自分でしろ、って事。言い換えると、自分の身は自分で守れ、って事だと思うよ。
でも、自分の身を守れない弱いヒトだっている。
じゃぁ、そのヒトは何もしないのかって文句言われるかもしれないけど、そのヒトにはそのヒトにしかできないことがあるんじゃないかな。できる事をやる、これを言いたいんだ。
もし、神様がいるのなら、たとえ死んでも、俺たちはここまで踏ん張ったんだ!どうだ!凄いだろ!って自慢して言える。自分の生き様に悔いが残らないようにしたいだけなんだ。」
ディートリヒは目を伏せしばし考えた後、俺に口づけをした。
「私も、自分の生き様に悔いを残したくありません。」
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