3-13 見得を切る

領主か…。

どんなヒトなんだろう。

伯爵だっけ?相当偉い方のようだが、冒険者と懇意にする伯爵なんて居ないと思うが…。


 皆、無言だ。

 そうだろうね…。やはり一線を画しているってところかな?

ふと、俺はコックスさんに話を振ってみる。


「コックスさん、そういえばトーレスさんは伯爵と面識はありませんか?」


コックスさんは、目を開き一気にまくしたてる。


「あ!トーレスさんですか。あの人は伯爵家に出入りできる商人ですね。」

「そうですか。では、トーレスさんを通じて領主様に内々のお話という事で話を進めましょう。」


「で、誰が伯爵様のところに行くんだい?」


ミレアさんが質問を俺に投げかける…。

でも、ミレアさんの顔はニヤニヤと笑っている。


「今、動ける人間は…自分しか居ませんよね…。」

「分かってるねぇ~。流石ニノマエさんだよ。お偉方のお相手はあんたしかできないよ。」

「ははは、まぁ何とかなるかもしれませんね。ところで、ディートリヒ、何か伯爵様に献上できるような素材やアイテムってあるかい?」


「はい。しばらくお待ちください。えぇとオーク・キングの魔石があります。」

「魔石はどれくらいの大きさなの。」

「これです。」


 と、魔石を見せてくれた。

こぶし大の大きさ…、なんか微妙…。

だけど、みんなは眼を大きくして見てる。


「ミレアさん、この魔石って何に使うんですか?」

「魔石は砕いて薬に使ったり、魔道具の原料として使うことがあるぞ。」


「という事は、伯爵様に献上しても無用の長物となる可能性がある…か。もっと、何かインパクトのあるモノ…。」


 俺は、これまでの経験を思い出していた。

緑の奴、白い奴、そして大きい奴・・・ん?そう言えば、大きい奴の牙1本記念に取っておいた事を思い出した。トーレスさんはオークションに出すとか言ってたよな。


「あ、何かそれらしいものがあった気がしますので、何とかなりそうです。」

「それらしいモノって何だ?」


 ミレアさんが興味本位に聞いてきた。

えーと、あれはどこにしまったっけ?確かビジネスバッグは食料専用にしたし、俺のバッグの中か、それともディートリヒに預けたか?

あー齢をとると忘れっぽくなってしまうなぁ…なんて思いながら、俺のバッグの中をごそごそと探してみる。

お、あった。整理整頓はやっぱり必須だね。

エミネ母さん、ありがとね。

そう思いながら、おもむろに机に置いた。


「これです。」

「あ、あ、あんた…これって…」

「バジリスク・ジャイアントの牙です。」

「え″――――――――」


 全員が驚愕した…。

全米中が泣いた…と一緒の雰囲気かな?


「あんた、こんなモノ何で持ってんだ?」

「何で持ってるかって言われましても、無我夢中で倒したものですが。」

「これ、俺らでも無理だわ…。」

「あたいらだって、誰かが怪我するだけじゃ済まないぞ…。」


 コックスさんとミレアさんがため息を漏らす。


「ニノマエさん、あなたって一体どんな方なんですか?」


 お、久しぶりにクーパーさんが話した。


「別にこれと言って取柄のない、薬草おっさんですが…。」

「薬草おっさんが、こんな魔獣を倒せるなんて聞いたことがありません…。」

「ははは、自分もそう思いますよ。」


「でも、ゴブリンの巣も掃討したんだよな。それも64体。あんたランクがおかしいんじゃないか?」


 コックスさんはそう言い放ちクーパーさんをにらみつける。


「そうは言いましても、ランクは依頼回数と実績、推薦などによって決まるもので…。」


 うん。そうなんだよ。お役所的にはそうなっちゃうんだよね。

それが現実なんだよね。


「コックスさん、それは仕方のない事ですよ。それが社会です。」


 俺は、牙をバッグにしまい、これからの展望について話をする。


「さて、これでおおよその事は察していただけたと思います。

先ずは、スタンピードが発生するのが何時かは分かりませんが、4日間は100名の冒険者を確保できました。この4日の間に発生すれば問題はありませんが、4日を越えた場合は金銭的な余裕がありません。したがって、4日を越えるようであれば、自分が持っているものをお渡しするので、同じように依頼をかけてもらい、1日100名をキープしましょう。

次に、もし発生したらどうするかですが、各々が闘っていても数で圧倒されてしまいます。

そこで、発生したと確認できた段階で、炎戟さん、龍燐さんが合図をしてください。

何か笛か音を出していただけると良いですね。

合図の音を聞いた冒険者は各々が持っている音で皆に知らせ、街の外壁までいったん下がってください。その後、他のギルドや領主様からの援軍と合流し防衛ラインを構築します。

  あとは、来る敵を掃討していくこととなります。

数にもよりますが、入り口が一か所であれば向かってくる魔物も一点集中し突入してくると思いますので、防御に徹し、決して街に入れないようにしましょう。

  こんな感じですが、どうでしょうか?」


 皆、何も言わない。

まぁ、そうだろう。本当に来るのか分からない事態に、お金をかけるバカなんて居ない。

そのバカに乗っかるだけで金がもらえる。こんな美味しい話はない。

でも、本当に発生したら…、覚悟を決めることができるのか。

本当に援軍がくるのか?

破天荒な考えだろう。


 皆が考える中、ミレアさんが口火を切った。


「なぁ、ニノマエさん。あんたの話は本当になるかもしれないし、何も起きないかもしれないんだろ?でも、何であんたはスタンピードが起きるって確信しているんだ?」

「自分はスタンピードがどういうものか理解していません。しかし、明らかに今までとは違う状態が発生し、それを目の当たりにしたなら、何らかの対策を取っておくことが望ましいと思います。

 発生しなくても、これまでの準備は次の機会に活かされます。

 ミレアさんが言う確信という言葉は、自分にはありません。

 だって、誰もスタンピードを経験していませんからね。」


 俺は極力笑顔で答える。

この場で神妙な顔をすれば、皆が不安になるだけだ。


「そうだな。心配しても始まらんな。それに、いろんな意味で冒険者や他の奴らと協力したって事実だけでも作ることができれば、酒の肴にできるってもんだ。うまい酒におかしな土産話、最高じゃねえか。」


お、炎戟のドワーフさんだ。軽く“酒の肴”として話をまとめる。

そうなんだよな。きっかけは単純で良いんだ。

ここに居るメンバーがおおよそ覚悟を決めたかのような顔つきをし出した。

さて、最後の一押しだ。


「そう言えば、言い忘れていました。」

「ん?何をだ?」

「自分の信念です。」


一呼吸置き、こう言い切った。


「自分は、ここに居るみなさん、そして、自分と関わってくれた方とこれからも笑顔で過ごしたいと思っています。“笑顔で毎日を過ごす” これが自分の信念でしゅ。」


 うわぁ…、最後の最後で噛んでしまった…。

俺は赤面する…。

回りを見る勇気が無い…。誰か何とかしてくれ…。


「奴隷の身分で発言させていただく無礼をお許しください。

私は、ニノマエ ハジメ様と一緒に、皆さんの笑顔を守る、いえ、笑顔のお手伝いをさせていただきたいと存じます。」


ディートリヒが見得を切った。

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