3-12 密会③

「どうしますか、と言われても…。」


 まぁ、急に振っても答えは出ないわな。


「おそらく、近いうちにはスタンピードなるものが発生するでしょう。

自分は30日の資格停止状態ですし、Dランクですのでできることは少ないでしょう。

しかし、Bランクの“炎戟”さん、Cランクの“風の砦”さんは違います。ギルドへの影響力もあるでしょうし、他の冒険者さんとのつながりもあると思います。」


 少し間を取り、クーパーさんと炎戟のミレアさんを見る。


「ミレアさん」

「おう」

「あなたに、このゴブリン・キングの宝剣とゴブリン・ロードの盾を渡しますので、ギルドで買い取りをしてください。クーパーさん、この2つでいくらくらいになりますか?」


 俺はクーパーさんを見る。


「えぇと、宝剣が金貨3枚、盾が大銀貨80枚といったところでしょうか。」


「ミレアさん、この買い取り金額に間違いはありませんか?」

「まぁ、そんなもんだな。もう少し高く査定される時もあるが…。」

「分かりました。では、クーパーさん、今ミレアさんに渡した2つのアイテムを何とか金貨4枚で買い取りしていただくことはできますか?」


「まぁ、そんなくらいなら…。」


「分かりました。では、ミレアさんにこの2つをお渡しします。」

「おいおい、ニノマエさん、ほんとに良いのか?」

「ええ、構いません。自分は、ミレアさんの一生遊んで暮らせるくらいに稼ぐ信念を信じます。」

「それでも、ネコババするかもしれないんだぜ。」

「その時はその時です。レミアさんを信じた自分の目にくるいがあったと思い、諦めます。」

「はは、そうか。安心しな。あんたの目が節穴でなかった事を証明してやるぜ。」


 ミレアさんは大丈夫だ。次はクーパーさんだ。


「では、ミレアさん、その買い取ったお金をクーパーさんに渡してください。」

「え?あんたに渡すんじゃないのか?」

「えぇ、自分の身分は“はく奪中”ですし、ギルド長の目もありますので。

自分が動くと目立ちますので、静かにしておく方がいいでしょう。で、クーパーさんは金貨4枚で冒険者の人たちをかき集めてください。

そうですね。依頼内容は『森の見回り』で、1日大銀貨2枚、コックスさん、これくらいならCランクの冒険者でも受けてくれますか?」


 俺はコックスさんを見る。


「森で何もせず1日過ごすだけで大銀貨2枚なら、低レベルの冒険者も集まると思うが…。」

「そうでしょうね。でも、魔物が居ます。ゴブリンなら大丈夫そうですが、オークであれば低ランクの冒険者は倒せますか?」

「無理だな。あ、そういう事か、Cランク以上の冒険者を森に行かせることで、魔物を間引いておくって事だな。」


 流石コックスさん、先を読んでる。


「その通りです。ですので、依頼はCランク以上とした訳です。

 そうですね。依頼は5パーティーくらいでどうでしょうか。」

「実力に見合う奴らに声をかけるとすれば…、ニノマエさん、大銀貨3枚は無理か?」

「多分大丈夫だと思います。」

「ではクーパーさん、聞いてますか?」」


 いきなり振られてクーパーさんびっくりしてる。


「は、はい。」


「自分は一度しか言いませんから、よく聞いておいてくださいね。

あなたが依頼者を匿名で『森の見回り・一日大銀貨3枚、Cランク 5パーティー限定』を依頼してください。

ここで覚えられなければ、店員さんに筆記道具を借りてメモしておく。これ鉄則ですよ。」

「は、はい。わかりました。しばらく待っててください。」


 完全にマウント取りました。

 権威に溺れる奴は、一度ギャフンと言わせると大人しくなるもんだ。

 しばらくして、店員さんが筆記用具を持ってきたので、クーパーさんは一心に書き始める。

よし、次の作戦だ。


「では、次の依頼です。そうですね。『街の外側の見回り・一日大銀貨1枚、Dランク10パ-ティー限定』これを同じく依頼者匿名でお願いします。」

「街の見回り・一日大銀貨・・・・」

「違います。街の外側です。見回りだけ書くと街の中と勘違いされます。」

「は、はい。すみません。」


 完全に委縮しちゃった…。ごめんなさい。

でも、もう少しだけマウント取らせてくださいね。

 

「次に、この街に炎戟さんと、龍鱗さん以外にBランクの方はいますか?」


「もう一組いるが、今は遠征中だ。」


 クーパーさん、良い回答です。


「では、炎戟さん、龍燐さんには、ダンジョンの調査をしていただきたいのです。

そうですね。依頼は『ダンジョン調査(魔物の生息状況調査)・一日大銀貨15枚、Bランク限定』

これでいけそうでしょうか?」

 

 俺はミレアさんに振ってみる。


「一日大銀貨15枚だと…。そんな大金の依頼があれば、飛びついて受けるぜ。」


 あ、ミレアさん…目が輝いています。

でも、これブラフなんです…。ごめんなさい。


「えと、そんなに喜んでもいられませんよ。」

「何故だ?」

「ダンジョンの調査という事は、スタンピードはどこから発生するんですか?」

「そりゃ、もちろんダンジョン…、うわ、そうか!あたい達が一番会敵する率が高いって事か。」

「早い話がその通りです。でも調査です。間違っても、その場で対応しようとはしないでください。

 あくまでも調査ですから、発生したと確認できれば、すぐに引き返してください。」

「魔物を討伐しなくてもいいのか?」

「スタンピードがどんな状況なのかは自分は分かりませんが、Bランクの方でもおそらく連戦となるので危険な状況なのは間違いないと思います。」

「それはなぜだ?」

「スタンピードはダンジョンで発生すると言ってましたよね。」

「ダンジョンはどこから出入りするんですか?」

「そりゃ、ダンジョンの入り口…、あ、そうか、入り口が一個ならそこからしか出てこれないって事か?そこから立て続けに出てくるってことだな。」

「そのとおりです。なのでBランクの皆さんにも危険が及びます。

それに、ダンジョンの入り口が一個だけとは限りません。そのためのダンジョン調査なんです。他に入り口が無いか、即ち、他の場所から魔物が出てくるのかを調査していただくんです。」

「ははは。ニノマエさんよ、あんたほんとに面白いヒトだな。

分かった。炎戟はその話に乗るぜ。みんな良いな!」

「おう!(了解)(分かった)・・・」


 よし、これでおおよその試算ができた。

 スタンピードの予兆である現在から1日あたり約金貨1枚で約100名の冒険者を雇うことができた。

金貨4枚だから4日分は何とか持ちこたえることができる。

 さてと、ここからが問題だ…。


「あとは、横の連携です。」

「横?」


クーパーさん…、首を横に振って見渡しても誰も回答してくれませんよ…。


「この街に冒険者ギルド、商業ギルド以外に何がありますか?」

「錬金ギルド、鍛冶ギルドです。」

「では、そこの長に渡りをつけてください。」

「渡りとは?」

「ギルド長だけで良いので、極秘事項としてスタンピードの可能性がある情報を渡してください。」

「え、でも、冒険者ギルドは、そんな事態は無いと公表していますが…。」


 クーパーさん…、あんたホントに残念なヒトだよ…。


「クーパーさん…」

「はい。」


 俺は少し残念な目をしながら彼に話す。


「誰もギルドを通して渡りを付けてほしいとは言ってません。

具体的には、クーパーさんの肩書で、ニノマエという者を使いに行かせるので、話を聞いてやってほしい。とだけ書簡を送るのです。

クーパーさん、あなたはまかり間違っても冒険者ギルドの副ギルド長ですよね。そのような方からの書簡を他のギルドは無下にできないのではないでしょうか?」

「あ、そういう事ですね…。分かりました。では書簡をすぐに書きます。」


 これで、横の連携は俺が預かることとなった。

さぁ、最後の詰めだ。


「最後の詰めです。」


 皆、俺の方を見る。


「この中にどなたか領主さんと懇意の方はいらっしゃいますか?」

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