3-28 調味料革命

「では伯爵、話がまとまりましたので、少し実演しますか。

 ディートリヒ、すまないが肩をかしてくれないか?」

「はい。カズ様。」


 お、ディーさん、今まで赤面してた顔が仕事モードに変わっている。


「ティエラ様、お加減は大丈夫ですか?」

「はい。少し力が出てきましたので大丈夫です。」

「では、もう少しだけお付き合いください。

 伯爵様、厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「もちろん構わんが、主は何をしようとしているんだ。」


 伯爵さま…、今まで、ユーリ様と話していたことで何も考えてなかったか…?

肉、小麦粉、実演と厨房という言葉が出れば察するだろうに…。残念なヒトだ。

ユーリ様、ティエラ様はもちろんご理解なさっており、どんなものができるのか、既に目をキラキラ輝かせている。

うん、伯爵は食わせないでおこうか。


 ディートリヒに肩をかりて、厨房まで移動する。

厨房に居た料理人とメイドは、いきなり伯爵が入って来たことで、座っていた椅子から20㎝くらい浮いていた。

 理由を説明し、小麦粉を水で溶きオークの肉をスライスする。あとは厨房にあるキャベツに似た野菜を千切りにし、タネに肉と野菜をぶっこみ、かき混ぜる。

お好み焼きの作り方はいろいろあるようだが、これまでの世界では全部具材をぶっ込み、それをグチャグチャに混ぜたものを焼いていた。

 腕力が必要だったので、それは料理人にやってもらった。

フライパンを温め油をなじませ、グチャグチャになったものを薄く延ばし焼いていく。


 当然、グチャグチャになったものを見た伯爵は、『うわ、ゲロ…』と小声で言っていたようだがそれは無視する。味付けは料理人に聞くと塩と高価ではあるが胡椒も少しあるという事で、塩を胡椒を少々振って、焼いたものを小分けにし、先ずは伯爵に試食してもらう。


「のう、ニノマエ氏、確かに香ばしくもあり、腹も膨れるとは思うが、いささか味気がないの。」


 皆も試食する。やはり物足りない。


「そうなのです。これはまだ完成途中なのですよ。」

「こら!完成途中のモノを食わせるとは、主は何を考えておるのだ?」

「あ、今のままでも食べることはできますので問題ありません。

ですが、やはり味にパンチが効いていません。ですので、これからとっておきの秘策を作ります。」


 そこで俺は、料理人さんに頼み、館にある野菜を見せてもらい、トマトに似たもの、セロリ、玉葱、ニンジンのような野菜を選び鍋の中に入れ煮込む。

煮込んだ後、塩、砂糖、香辛料、ワインを入れ、味を調整する。

 ただ、これを煮込むのには時間がかかるので、内緒で付与魔法をかけ熟成を付ける。

流石にもとの調味料を知っているので、簡単にイメージができる。それにラベルには“超熟成”とか書いてあったからな…。

その間、2,3枚お好み焼きを焼いてもらっている。

大体ソースも出来たであろうタイミングで、皆を呼び、フライパンの上にソースを塗る。

すると、香ばしくも食欲をそそる匂いが厨房を蹂躙した。


「これは…」

「主、何をした…」

「この匂いは…」


 そうです。ウスターソースを焦がした匂いです。嗅覚を魅了するんです。

あの食欲をそそる凶暴かつ残虐な大怪獣。これを君臨させた。


 料理人もメイドもこちらを向いてる。

料理人さん、涎が出ていますよ。


「では、こちらをお召し上がりください。」


 俺はウスターソースを塗って焼いたお好み焼きを小口に切り分け、皆に振る舞う。

最初に匂いを嗅いだ伯爵は恐る恐る口に入れる…、とその瞬間、咀嚼を激しくし一気に飲み込んだ。

次なる得物を狙っている。

奥様方も同じだった。

あの…ディーさんや…、一緒に参戦してはいけません…。

厨房はさながら戦場と化した…。


「どうでしょうか?」

「これはいけます、売れますよ。」

「肉だけだとキツいですが、私もこれなら食べることもできます。」

「そうだな。これは美味い。主よ、もう一枚所望する。それと、子どもたちを即刻呼んで来い!皆で食事会だ。」


 さらに、もうひと手間加えて、皆を降参させましょうかね。


「さらにもう一つ、手間を加えればこのお好み焼きは完成しますが、いかがしますか?」

「まだあるのか?」

「是非(お願いします)。」


満場一致です。


 卵と油、塩、砂糖、酢に胡椒、そして辛みをつけるための香辛料。

これを一気にかき混ぜる。勿論攪拌は料理人にやってもらう。

はい、即席マヨネーズです。一晩寝かせないとコクが出ないけど、これはこれでいける。

本当はもっとおいしい作り方があるのだけど、それは今後のために取っておこう。


「黒色というか茶色というか、その色と白色が綺麗ですね。」

「少し酸っぱさもありますが、それが美味しいです。」

「上手いぞ。おかわりだ!」


 ガツガツいってます。

次のターゲットを狙う皆の目が怖い…、そろそろ血を見るのか…、殺気もある…。


 数刻後、お腹がパンパンに膨れ上がった伯爵は、ダイニングルームでお茶を飲みながら悦に浸っている。ユーリ様に至っては既にこれを売り出す“試算”という世界に入っている。

ティエラ様とディートリヒは相変わらず、赤面しながらきゃいのきゃいの話してる。


 おそらくユーリ様は気づかれていると思うので、敢えてユーリ様にふってみた。


「ユーリ様、いかがでしたか?これであれば、商業ギルドが飛びつくと思いますが。」

「まさしく、ニノマエ様がおっしゃる通りになりますわね。

 しかし、よろしいのですか? このようなレシピをギルドに教えることは世界中に広まることになりますわよ。」

「もちろん、それで構いませんよ。食が豊かになれば、食べる事が楽しくなります。食べることが楽しくなれば、健康にもなりますし体力もつきます。ティエラ様にとっても良いことです。

 それに、このレシピはあくまでも基本形です。場所によってはいろんなヴァリエーションが生まれ、その土地土地でアレンジされたものができると思いますよ。

 これであれば、肉は少量でもお腹がいっぱいになりますし、元値を安くできますから。」

「流石、ニノマエ様です。

では、この2つのレシピについては、私、ユーリが責任をもって商業ギルドと掛け合います。勿論、悪いようにはいたしません。」

「そうか、では、儂は錬金ギルドと鍛冶ギルドに早急にモノの提供を依頼しよう。

あとは、冒険者ギルドか…。直接クーパーを呼び、人員整理をするよう依頼するか…。」

「お願いします。それと、このソースは野菜を煮込めば煮込むほどコクが出ておいしくなります。食堂などでそれぞれ作っていただいたものを持ち込んでいただくことで効率化が図れます。

 あ、それと冒険者ギルドへの依頼は冒険者は含まないでください。あくまでもギルド職員のみで対応すべしと依頼をお願いします。」

「そうだな。冒険者は本当に一生懸命やってくれたからな。感謝している。」


「あとは…そうだ。主にもう一つお礼を言わねばならぬな。」

「ん?何かいたしましたか?」

「あぁ、主が放った魔法だが…、」


 うわ、ヤバい。何も考えずに撃ったから、どうなっているのか分からない…。

まさか、農作物がダメになったから、その分弁償しろとかいうんじゃないだろうな…。


「この街に新しい産業を生み出してくれたこと、感謝する。」

「は? 今、何て?」

「いや、だから新しい産業をと、」

「新しい産業って、何ですか?」

「そりゃ、硝子だよ。硝子細工だ。」


まったくイメージがわきません。

何故、硝子細工が新しい産業に?

俺が腑に落ちない、産業まで行きついていない事を察し、ユーリ様が助け舟を出してくださった。


「ニノマエ様、ニノマエ様が放たれた魔法は土地を焼いたのです。焼いただけではなく土の中にあったモノが混ざり透明なガラスが出来上がったのです。

これまでガラスは王都のみで作られており非常に高価なものだったのですが、それがあの一面で採れるようになったのです。

 そのガラスを利用して、今鍛冶ギルドでどのような商品を生産できるのか思案中なのですよ。」


 え、なんだって?ガラス?


そんなもの何でできるんだ?

確かガラスって、ケイシャとソーダ灰と石灰から作られるんだっけ?

珪石、塩、石灰か…、そうすると土の中から塩や石鹸の成分も取り出せる訳か…。

もう一つが高熱だ。土を焼いたとか言ってたが、どろどろに溶けたってことだろうか?

罪悪感があるから、見たくないなぁ…。と思い『すみません。』と謝っていた。


やっちゃった感が強い…。

これが、文化が作られたって事なんだろうか…。

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