4-18 店舗の考察
あれからジョスさんといろいろと打ち合わせをする。
ジョスさんが悩んでいるのはやはり屋上の荷重、つまり風呂の重量だった。
この世界の建物は、四方の壁に梁や横柱を渡して空間を作る方法のようだ。
そうすると、重量が中心に集まりやすくなり、その部分に柱を入れて強度を保つ。
欧州における中世の建築物と類似している。
強度を増すためには、鉄骨などで骨組みをすれば問題ないが、そのようなものこの世界には無い。
ではどうするのか?
作るのか?
考えられるのは柱や横柱を多く入れて荷重を分散する方法か、建物全体に強度をかけるか…。
特に屋上に一番重いものを置くためには鉄骨、つまり鋼を使わないといけない。
そうすると、ダンジョンで鋼をより多く取って来なければいけない。
さらに内部に鉄骨を入れるため、どうしても内壁と外壁の隙間が生まれる。
うーん。やはり屋上にお風呂は難しいのだろうか…。
夕刻、宿屋に戻るも俺が難しい顔をしているのを見てディートリヒが寂しそうな表情をする。
「カズ様、やはりあの店舗を購入した事は間違いだったのでしょうか…。」
「いや、そうではないんだよ。俺の我儘を通そうとすると難しくなるという事だけだ。」
「それはお風呂ですか?」
「そうだ。屋上にお風呂を付けたいと思ったんだ。」
「それは良い考えです。」
「でもな、水の重さで耐え切れず、下の階がビシャビシャになるんだよ。」
そう言うと、俺は一枚の羊皮紙を出し、四辺を二人で持つ。その真ん中にリンゴのような果物を置く。
「重くなった部分だけ下がるだろ。リンゴが風呂桶だ。そして、風呂桶に水を入れると、」
俺はもう一個リンゴもどきを乗せる。勿論羊皮紙は破れる。
「こうなるんだ。」
破れた羊皮紙を見せる。うん、理科の実験のようだ。
「これをクリアするためには、壁や柱、床などを補強する必要があるんだけど、その補強する材料も重いしかさばるんだ。」
「では、お風呂は無理なのでしょうか…。」
ディーさん、そんな悲しい顔しないで。俺踏ん張るからさ。
「いや、出来ないことはないんだ。」
「では、何をすれば良いのですか?」
「それにはダンジョンで鉄と鋼をたくさん採取する必要がある。」
「それができればお風呂が入れるのですか?」
「多分。」
「分かりました。カズ様、お風呂のためにダンジョンに行きましょう。で、何が必要なんですか?」
「鋼、いや鉄だな。」
「であれば、少々お待ちください。
先日買ったマップに確かドロップ、採取リストがあったはず…っとこれですね。」
ディートリヒはマップを俺に見せる。
「鉄がとれる階層は第13階層です。前回は10階層まで行きましたので、13階層でバンバン採取しましょう。そしてお風呂に入りましょう!」
まぁ、鉄が採れるということはクロムなども採取できるわけだから、ステンレスもできるか…。
なら、行かない手はないな。『素材集めから始めるDIYだ』。
とは言っても精錬するのはマルゴーさんだけど…。
「じゃぁ、明日ジョスさんにこの提案を伝え、マルゴーさんに作ってもらうようにするか。」
「はい。それと明日はナズナさんを迎えに行く日です。」
あ、カルムさんの所、すっかり忘れていた。
「では、明日はお店で調整した後にカルム様のお店に行きましょう。」
明日の日程をテキパキと決めてくれる。ディーさん優秀だよ。
もう一人増えるとなると荷物も買い物も必要だよな…。
なら、今日やるべきことはやっておこう。
「ディートリヒ、すまないがアイテムボックスが付いていないバッグはあるかい?」
「いえ、あ、ナズナさんの分ですね。では、今から走って買ってきますね。」
「ありがとう。それともう一つ少し大きめのバッグも買って来てほしい。」
「分かりました。少しお待ちください。」
そう言うと、ディーさんはドアを勢いよく開け、廊下を走っていった。
その間、俺はどれくらいの鋼材が必要になるのかを試算する。
先ず柱が8本。うち6本は4階床まで到達する10mのもの、残り2本は3階までの9m。
横柱が約30本、筋交いが約20本、根太が各階につき約80本、各ボルトとナット。
明日店に行って長さを測る必要があるな…。
いつの間にかディートリヒは戻ってきていた。
「ディートリヒ、ありがとう。」
「はい。こちらの小さい方はナズナさん用で、もう一つは何用ですか?」
「鉄を入れるものだよ。限りなく大きくするから倒れるかもしれない。後を頼むね。」
「あ、では、その前に一つお願いがございます。」
「ん、何?」
「明日以降、ナズナ様も一緒に暮らすこととなります。なので、この部屋だけですとベッドが足りません。できれば大きな部屋に移るか、ナズナさんだけ別室という事になります。」
そうか、ここはベッドが一つだものな。
この宿屋ってスウィートルームってあるのかな?
「俺が別室で寝るという…。」
「いけません!」
速攻即答でした。ハイ。
「んじゃ、ナズナだけ別室というのもかわいそうだから、大きな部屋に移ろうか。」
「はい。カズ様がそう仰ると思いまして、この上の部屋と交換してきました。
早速移動しましょう。」
完全に掌握されています。ハイ。
俺たちは4階にある2号室へと移動した。
うん。確かにベッドルームが2つあるよね…。一つはクィーンサイズ、もう一つはキングサイズでしょうか…、こんな広いベッド要る?
「ディーさんや…、ベッドが異様に大きい気がするんですが…。」
「これが、この宿屋で2番目に広い部屋となっています。」
「いえ…、部屋の広さではなく、ベッドが大きいんですが…。」
「大きい事は良いことです。私のように寝相の悪いヒトはベッドから落ちませんので安心です。」
あの…、ディーさんや、貴方は朝起きるまでずっと俺にくっついて寝てますけど…。
まぁいいや。難しく考えることは止めにしよう。
購入してきたバッグにはそれぞれ空間魔法を付与し、ナズナ用として5.4m四方の立方体で2tまで収納できるものとし、もう一回り大きなバッグは10m四方で5tまで収納できるスペースを確保した。
おまけで俺のビジネスバッグを倍の重さ2tにした。
幸か不幸か、それだけの付与魔法をかけたのに倒れなかった。
勿論、ディートリヒは喜んでいたよ。
・
・
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はい。その晩は大きなベッドで大運動会でした。
おっさん、久しぶりに運動させてもらったので、多分明後日くらいに筋肉痛になるだろうな…。
翌日、どんよりとした身体に鞭打ち、店まで来ると既に作業が始まっていた。
「棟梁、おはようございます。」
「おう!旦那。昨日は悪かったな。あんな美味しいお酒をもらっちまったもんだから、今日は皆やる気が俄然違うんだ!何でも言ってくれ!」
普通は二日酔いだから今日はダメ…という流れじゃないのか?
俺は昨日考えた鉄骨を壁の内部に入れ強度を増す提案をしてみた。
ジョスさんは腕を組みながら考える。
「旦那、あんた凄い事考えるな。俺っちなら強化魔法をかけておしまいにしようと思ってたけど、確実に旦那の方が強度は増すな。この工法、俺っち達に売ってくれないか。」
「別に良いですよ。ただ、室内が鉄骨分狭くなるという弱みがあります。それに外壁と内壁の間にどうしても隙間ができてしまうので、寒くなるんですよ。」
「あ、そこは大丈夫だ。昨日俺っちが考えた全室配管通風の筒を通すから問題ない。それ以外に空いた隙間は何か埋めるものを考えておく。」
「それでしたら、明日から鉄を取りにダンジョンに行くので素材を集めて来ましょうか。」
「おう、そうしてくれると材料費が安くなって、旦那の懐も痛まないで済むな!」
なんか、いろんな意味で雑ではあるが、腕は一流。
信用して任せてみよう。
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