6-7 完成!

 酷い…。


 ディートリヒの時もそうだったが、何故ヒトはここまで出来るのか…。

2つの塊はどちらも女性のように見えるが定かではない。


 ディートリヒが予め敷いてくれたのは遠征で使った馬車での敷物だった。

既に血に染まり始めている。

両方危険な状態なのは分かるが、危険な方を先に措置しなくてはいけない。


 小さい方は両腕が切られてはいるが、まだモノはある。しかし、腹部に何十か所も刺し傷があり、既に内臓の機能が停止しているんだろう。それに顔の左半分が青くなっているが、これは何だろう?

 大きい方は右腕が欠損し、併せて右わき腹が大きく抉られており、あばらと腰骨が見えている。そしてこのヒトの顔の右側半分が青くなっている…。

こんな状態で良く生きているなぁと思うも、先ずは欠損が大きい方を治療することにする。


 奴隷ではないから、確認は要らない。

もし、なにかあれば、そのままどこかに行かせればよい。

先ずは欠損部位と内臓などが再生することをイメージし、治癒魔法をかけた。


「治れよ…、スーパーヒール!」


 黄色い光が全身に覆う。うお!一気に半分以上持ってかれたぞ。

そこにディートリヒが帰って来た。


「カズ様、すべて対応してきました。」

「ありがとう。今一人治癒魔法をかけたところだ。

 あと一人だが、マナポーション2本分で何とかいけるかいけないかって思う。

もしかすると倒れるかもしれないから、明朝ここにジョスさんが来たら、3階には入らないように言ってくれ。それと家具屋も来るからこの部屋には何も置かず、あとの家具の配置を頼みたい。」

「はい。任せてください。」

「俺が倒れても、ここに放置しておいてくれ。」

「では、私も。」

「琥珀亭のみんなが心配するかもしれないけど、まぁいつもの事か。

 じゃ、申し訳ないが、ここで一緒に休んでもらおうか。」

「カズ様、絶対無理してはいけませんよ。

 もし、何でしたらマナポーションをもう少し飲んでいただき、あの夜のようにしていただいても良いのですが…。」


 ん?あの夜?

あ…、マナ中毒になった時のことか…。

あかん…、ディーさんクネクネし始めてる。

こんな時に、もう…!

あんな状態になったら、両方とも朝起きられませんよ…。


「ごめん…。あれはもう経験したくない…。」

「そうですか…、残念です…。」

「あ、でもマナポーション飲んで治癒魔法かけた後なら、何しても良いからね。」

「え、何しても良いのですか?!」


 ディーさん…、違う意味で目がキラキラしているけど…、一応ここに2名居るからね…。


「まぁ、ここに2名いるって事を忘れないでね…。

 じゃぁ、いきますよ。」


 もう一度バフをかけ、マナポーションを2本飲む。

うえ…、やっぱり美味しくない…。


 この人の腕がもとどおりになり、刺された箇所、内臓も再生し、笑顔で動ける姿をイメージする。


「治れ…スーパーヒール!」


 うぉ…、ヤバい状態になりそうだ。

あ、アナウンス流れないわ。

 でも、このまま倒れないと、またディーさん悲しむかな?

でも、一回ディートリヒが何したいのかを見るのも楽しみだよね。

ここの2人は明日も動けないと思うから、じゃぁ隣の部屋に行ってみようかな。


「ディートリヒ、倒れそうだから、隣の部屋に連れて行ってほしい。そこで布団敷いて休もう。」

「はい!!カズ様!!」


 なんだ、ディーさん、この元気は…。

俺、多分死ぬかも…。


 うん。とっても凄いことされました。

あんなことや、そんなことも…。でも、ディーさんもしっかりと愛してくれたみたいだし、満足もしたのかな。それに俺もそれなりに楽しみました。ハイ。


 翌朝、俗に言う朝チュンです。


「ディートリヒ、起きられるか?」

「ふぁ…、カズ様。昨日はとても良かったです。」

「うん。そうこうしているうちに、ジョスさん来ちゃうからね。」

「そうでしたね。カズ様は立てますか?」

「うん。すこしフラフラするけど、大丈夫だよ。ディートリヒは?」

「よかったです。私ですか…、えへへ。立てません…。」


 そこまでがんばっちゃったのね。

そうだよね。すごかったもの。


「じゃぁ、俺が動くから、ディートリヒはここで、彼女たちが目を覚ますのを見てて欲しい。

 起きたら念話して。この街の距離だったら、もしかすると聞こえるかもしれないからね。」

「はい。すみません。えへへ。でも、カズ様ってすごいです。」

「そんなに凄くないよ。動いてくれたのはディートリヒだからね。」

「また…、お願いしてもよいですか?」

「うん。またお願いね。chu!」


 うん。若いってこういう事なんだね。

でも、ディートリヒ、凄く良かったよ。


 さて、1階に行き、そしてジョスさんが来るのを待っていると、ガヤガヤと大勢の声が聞こえる。

ジョスさんたちだ。


「おぉ!ニノマエさん、早いな。今日明け渡しだもんな。

 今屋上の最終調整をするから、それまで待っててくれ。」

「ありがとうございます。あ、2階と3階はこのままで良いです。

 今、ディートリヒが部屋をチェックして、これから家具を運びますので。」

「おぉ、そうか。んじゃ、おめーら、早速屋上行って最終調整だ!」

「へい((((へい))))。」


『ディートリヒ、聞こえる?』

『は、はい。』

『ジョスさんたちが屋上で工事するけど2,3階は入らないって言ってたから安心してね。もし、来ても部屋のチェックしてますって言っておくんだよ。』

『はい。』


 俺は家具屋に行く前に、琥珀亭に行き、今日でチェックアウトすることを伝える。

ラウロさんも俺が家を建てていることを知っているので、今度遊びに行くって言ってくれた。

 イヴァンさんが残金を返そうとしてくれたが、それは今後この店に来てご飯も食べるので、その分に取っておいて欲しいと言ったら、背中をバンバン叩かれたよ。

 ラウロさんたち3人に見送られながら、琥珀亭を後にした。


 次に向かったのは家具屋で、保管してもらったものを運んでもらうようお願いした。

余分に日当を払ったので、皆俄然やる気だ。計5人の人夫で家まで家具を運んだ。

大きい荷物はリヤカーで、小さいものはアイテムバッグで持って行く。


『ディートリヒ、聞こえるかい?』

『は、はい。聞こえます。念話って凄いですね。』

『そうだね。で、2人は起きた?』

『いえ、まだ寝ています。』

『分かった。今から家具を持って行くから。でもその部屋には何も入れないからね。』

『分かりました。』


 ガラガラとリヤカーを引きながら店まで向かう。

皆見てるよ…。

あ、ご近所さんに何か渡さないといけないな。何が良いかな?

なんて考えているうちに、店に到着した。


「では、2階から入れましょう。」


俺は、てきぱきと人夫さんに指示していく。

彼らもプロだから、一つ一つ丁寧に運び、指定の場所にセッティングしていく。

2階はリビングだけなので、ものの30分で終わった。

次に3階に行き、ベッド類とその他の家具を入れていく。勿論あの部屋は倉庫という名目で何も入れず、そのまま素通りさせる。3階は1時間くらいで終了。

残りは1階と屋上だが、屋上はまだ調整しているので、1階を先に。

それもすぐ終わる。

なんだかプロがやると早いんだよね。

午前中で家具を配置できてしまった。

人夫さんに、昼食代として一人銀貨5枚を渡すとニッコニコの顔で帰っていった。


 お昼になる。

 2階のリビングに行き、台所の使い勝手を確かめる。

うん。いい塩梅だ。すごく使いやすい。

なら、ジョスさんたちに昼食を作ってあげるか、と思い、なんちゃって生姜焼きを作る。

それを屋上に持って行き、昼食ですと渡すと、すごく感謝された。

それに、酒も少し渡したので、皆大喜びだ。


「ニノマエさん、ほんとすまねえな。」

「いえいえ。台所も使いましたが、凄く使いやすいですよ。」

「そう言ってくれると嬉しいね。そうだ、あと小一時間で完了するから、また連絡する。」

「では、自分は2階で整理していますので。」


そう言って2階に行き、ディートリヒと俺の昼食を作りディートリヒを2階に呼んで昼食を摂った。


 ほんとに小一時間だった。


「ニノマエさん、完成したぜ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る