6-8 二人の竜人族

 出来は最高だった。

特に屋上のお風呂は完璧だ。

浴槽サイドに魔動具の調節ダイヤルもあるし、蛇口にもお湯の温度を調節できるダイヤルも付いている。


「ジョスさん、ありがとう。ほんと凄いです。

 こんな家に住めるなんて、とても嬉しいです。」

「おう!ニノマエさん、いろいろとすまねえな。でも、俺たちも自信を持ってこの家はすげえと思う。」

「またお願いすることもありますので、頼みますね。」

「ニノマエさんの頼みなら断れねぇよ。皆、帰るぞ。」

「あ、これみなさんで飲んでくださいね。」


 俺はウ〇ッカを4本とス〇リタス1本を渡す。


「すまねえ。これが今後飲めねえとなると悲しいが、味わって飲むぜ。」

「また、よろしくお願いしますね。」

「おう、じゃ、またな。」


 ジョスさんたちが帰っていった。

静かになった…。


 俺は3階に行き、ディートリヒと2人が居る部屋に入る。


「彼女たちはどうだ?」

「はい。まだ寝ていますが、再生は終わったようです。後は回復だけでしょうか。」

「見ててくれてありがとね。そうそう、ディートリヒの部屋を見てきなよ。」

「え…。私の部屋ですか…。」

「うん。服とか防具とか入れておく必要があるでしょ。それに下着も。」


 俺はウィンクする。

おっさんであってもウィンクぐらいできるんだ。


「では、部屋を見てまいります。えと…」

「俺の部屋の隣だよ。」

「はい!ありがとうございます。」


 ディートリヒも女の子だ。何かウキウキしている。

一人部屋はやっぱり憧れだもんな。


 さて、おれはこの2人をどうするか決めなくてはいけないな。

彼女たちを見る。静かな寝顔だ。苦しくはなさそうだ。

そう言えば彼女たち右半分と左半分に青いあざのようなものがついているがこれは入れ墨か?

白い肌に青い肌は少しグロく、怖く感じる。

何だろう。まぁ、起きたら聞いてみよう。


 ディートリヒが戻ってくる。

俺に抱き着きキスをする。


「カズ様、すごく良いお部屋です。でも、あのようなお部屋を私専用にしても良いのですか。」

「良いよ。その横はナズナ用だ。」

「それ以外は?」

「考えていないけど、お客さんが宿泊できる部屋にしても良いね。」

「3部屋もですか?」

「まぁ、そのうちディートリヒのような人が増えるかもしれないしね。」

「そうですが…。あ、この2名はどうする予定なのですか。」

「うん。分からない。衝動的に動いちゃったからね。まぁ、彼女たち次第だね。」

「そうですか。」

「人の出会いはいろいろだからね。」


俺は、ディートリヒと2人が寝ている傍に座る。


「あ、そうそう、すまないけどご近所さんに引っ越しの挨拶をしなくちゃいけないけど、何を渡したら良いと思う?」

「そうですね、先ほどジョスさんたちにお渡ししたお酒はまだありますか?」

「違う銘柄ならもう少しあるよ。でもガラス瓶をどうしようかと思ってる。」

「そうですね。ガラス瓶は高価ですからね。でも、あれをお渡しできれば、ご近所さんもびっくりされることは間違いないですね。」

「それじゃ、俺の地元で作ってる酒を渡そうか。」


 俺はそう言うと、緑がかった瓶を取り出す。


「これは日本酒と言って、米から作られるお酒なんだ。

 ジョスさんたちに渡したモノよりはアルコール度は低いし、飲みやすいもんだよ。

 でも、飲み過ぎると足にくるんだ。」

「では、このお酒を10本くらいありますか。」

「あぁ、12本あるから全部ご近所さんに配ってほしい。」

「分かりました。必ずご近所さまと仲良くできるよう、手配いたします。」

「ありがとね。早速行動してくれると嬉しいな。

 あ、それと今晩ナズナも帰ってくるから、トンカツを作って引っ越し祝いをしようよ。」

「はい。そうしましょう。

 では、私はご近所さんのあいさつ回りとキャベジを買ってきますね。あ、ソースはまだありますか?」

「うん。あるよ。それと市場で穀物や豆がどんなものがあって、煮て食べるとふっくらするものを適当に買ってきてほしいな。彼女たちにも食事が必要だからね。」

「分かりました。では、行ってまいります。」


 ディートリヒは12本の酒をアイテムボックスに入れ、とんとんと軽やかに階段を下りて行った。


 俺は彼女たちを再度見る。

そう言えば鑑定していなかったことを思い出し、大きい女性から鑑定していく。


 ****:竜人族、363歳、ヘイト、鉄壁、認識阻害、火属性魔法、熱耐性


ん?名前は*って何だろう…。続いて小さい女性を鑑定する。

 

 ****:竜人族、190歳、採取、鑑定、認識阻害、火属性魔法、熱耐性


 やはり*だ。普通名前の箇所だよな…。隠蔽だと二重線だったな…。

そんな事を考えながらしばらくする。


「うぅん…。」


大きい女性の方が声を上げ、目を覚ました。

 

「ここは…、どこ?…ですか?」

「目を覚ましたね。でも、まだ動かないで。身体が完全に治りきっていないからね。」

「え、あ?」


 混乱しているのだろう。

そりゃそうだよ。『目が覚めたら見知らぬ天井だった。』だもんな。

俺も何度も経験しているから分かる。


「そのままで聞いて欲しい。

 昨日君が闘技場の中から運ばれていた所を偶然通りかかり、小さな女性と二人ここに居る。

 君も彼女も生命の危険があったため、自分が治療した。

 簡単に言えば、そんな事だよ。」

「あ、ありがとうございます。

 そ、その小さな女性というのは、どこに居ますか?」

「君の右横で寝ている。彼女ももう大丈夫だ。」

「そうですか…。助けていただき、ありがとうございました…。」

「いろいろ聞きたいこともあるけど、先ずは身体を休めて。

 あと数時間もすれば起き上がれるくらいにはなると思うから、ベッドに移動させる。

 もちろん彼女も一緒だ。」

「ありがとうございます。」

「んじゃ、もう少し休んでいると良いよ。」


 俺は、その場を離れディートリヒに念話を送り、女性一人が目覚めたことを告げた。

それから一時間くらい経って、ディートリヒが戻って来た。


 ご近所さんの挨拶は滞りなくできたようだ。

それにお酒は殊の外喜ばれ、皆ニコニコしていた。何かあれば相談にも乗るから何でも言ってくれと言ってきたおばちゃんも居たようで、これで近所付き合いは大丈夫だろうと感じた。


 市場で購入してきたものの品評会を行う。

うん。穀物とは豆類はだいたいあるが、やはり米はないが、きび あわ ひえといったものや、キヌアのようなものもある。

米に似たようなものがあるということは可能性はあるという事だ。

 じゃぁ、それらを水に浸して放置している間に、小麦粉、卵、パン粉をトレーに入れて、油を準備。

キャベジを千切りにし、オーク肉を8枚ほど切り分けてトンカツの準備完了だ。

揚げたてが美味しいから、ナズナが帰って来たタイミングで揚げることにしよう。


 その間に浸しておいた穀物を鍋に入れ少量の水で煮込んでから蒸らす。

うん。なんとなく穀物ご飯のように見えてきた。

それを少しつまみ食いしてみる…。

うん…無味…。ただ、キヌアのようなものがホクホクしている。

まぁ、米の代用ということで…。

その穀物ご飯を使い、今度はあの二人が食べる事の出来るよう、お粥を作る。

味付けは、醤油でいいか…。


 お粥を煮ている最中、玄関のドアが開き、誰かが上に上がって来た。

リビングのドアがゆっくりと開くと、ナズナの顔が見える。

ナズナも俺の顔を見ると満面の笑みを浮かべて抱き着いてキスをしてきた。


「おかえり、ナズナ。お疲れさんだったね。」

「お館様、ただいま戻りました。あれ?ディートリヒさんは?」

「あぁ、今3階で病人を見ているよ。」

「病人?」

「うん。まぁお互いにいろいろ報告することがあるから、ディートリヒに2階に降りてきてもらって、3人で引っ越しパーティーをしよう。それから報告会だね。」

「はい。ではディートリヒさんを呼んできますね。」

「あ、その前にディートリヒにナズナの部屋を案内してもらうように言っておいて。」

「は?私の部屋…ですか?」

「そうだよ。ディートリヒもあるから。」


 ナズナは3階に行った。

その間にトンカツを揚げておこう。

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