6-9 引っ越し祝い
15分ほどして、ディートリヒとナズナが降りてきた。
俺は対面式のキッチンのカウンターに二人分のトンカツを出す。俺の分はキッチンの方に。
「お館様、これはトンカツですね!」
ナズナが目を輝かせて言う。
「まぁ、座りな。台所で調理しながらディートリヒやナズナが食べている姿を見たくてね。
ちょっと椅子が高いと思うけど、我慢してね。」
「いえ。カズ様。この方式は画期的ですよ。
何しろカズ様が調理している姿を見ながら食事ができるんですからね。
これは流行りますね。」
「まぁまぁ、そんな事は今日は考えず、3人で新居への引っ越しが完了したことをお祝いしよう。」
俺はとっておきの酒を出す。
お気に入りの酒だが、出回る量が少なくなかなか購入できない。
小さな酒蔵が作っている“射〇”という酒だ。
「それじゃ、無事引っ越しできたこと、そして今後も一緒に暮らしていくことに、乾杯。」
「乾杯(乾杯)。」
くぃっと一口酒を含む。
口の中一面に少し甘い感じがする。うん。美味い!
「カズ様、このお酒は甘いんですね。」
「あぁ、少し甘みを感じるけど、結構強いからね。飲み過ぎると大変だよ。」
「そうですね。いろいろとナズナと話すこともありますし。」
ナズナは一心不乱にトンカツに集中している。
「ナズナ、まだ揚げたてだから熱いよ。気を付けて食べなよ。」
「ふぁい。だいじょうぶです。お館しゃま、お代わりください。」
「はいはい。そんなにがっつかなくてもトンカツは逃げていかないからね。」
「はい。しかし、このトンカツは美味しいです。」
「ありがとね。そうそう、トンカツとこのご飯を食べるとよりおいしくなると思うけど、どうする?」
「ください!」
俺は穀物ご飯をよそってナズナに渡す。
「一切れご飯と一緒に食べてごらん。」
ナズナはご飯の上にトンカツを乗せ、食べると目を見開いた。
「お館様、ソースの濃い味がまろやかになってます。それにこのご飯というものとトンカツは完全に兄弟です!無くてはならないものです!」
ふふふ、ナズナさん“ご飯教”へ入信されましたね。
そうなのです、ご飯は神です!
ディートリヒへも入信を勧誘するが、そこまでのものではないとの事。
うん…、アジア文化と欧州文化の違いのようかもしれないな…。
でも、トンカツは成功だった。
「そろそろ上の2人も起き上がれる頃かな。
ディートリヒ、ナズナ、すまないが彼女たちの介添えをして、これを食べさせてあげて。」
鍋に入ったお粥を持ってくる。
「カズ様、これは何ですか?」
「“お粥さん”と言ってね、体調が悪い時とか、お酒を飲んだ翌朝とかに食べると良いもんだよ。」
「では、明日の朝にこれを食べましょう。」
おい、ディーさん、二日酔いになるつもりですか?
俺たちは3階に行き、2人が寝ている部屋に入る。
俺たちの気配を察してか、大きい方の女性が目を覚まし、続けて小さい方の女性も目を覚ました。
「無理に起きなくていいから。ディートリヒはこちらの女性を、ナズナはもう一人の女性に介添えしてあげてね。自分で食べれない時はお粥を口まで運んであげて。
俺はその間、ベッドの準備をしてくるから。」
ナズナの隣の部屋に行き、ベッドを準備する。
この部屋には、今彼女たちが寝ている部屋に入れるべきベッドがあるから2つベッドがある。
ベッドメイキングを終え部屋に戻ると、両方ともお粥を自分で食べている。
「良かったよ。ちゃんと自分で食べることができるだけの力が出てきたって事だね。
んじゃ、ご飯を食べたら、ベッドまで移動して、今晩はそこで寝てもらおう。」
お粥を食べ終えた二人は、申し訳なさそうな顔をする。
「見ず知らずの方に助けていただき、お礼を言っても言い足りないくらいです。
既にご存じだとは思いますが、私たちは闘技場で剣闘士をしておりました。
昨晩…ですか?どれくらい寝ていたのか分からないのですが、闘技でケガをし、もう使い物にならないから捨てて来いという声が最後で、後は何も覚えておりません…。」
「昨晩だね。それにしても、凄いケガだったけど、あれほどまで闘技が行われるのかい?」
「いえ、昨晩の闘技は異常でした。殺意のこもったものでした。
私たちは姉妹で戦ったのですが、相手が異常なほど強く太刀打ちできなかったというのが事実です…。」
「しかし、あの傷は尋常じゃないけど…。」
「そうですね…。しかし、観客に煽られた剣闘士は異常だったという事です…。」
「そうだな…。それに剣闘士でなくなった君たちはこれからどうするのかい?」
「何も考えておりません。それにこの顔に入れた墨は剣闘士であるとの印ですので、外に出る事もできませんし…。」
「あ、それやっぱり入れ墨だったんだ。
もし、それを消すことができれば、外を歩くこともできるって事かな?
それと、君たちが外に出ても、闘技場の関係者は君たちに気づくことは無いの?」
「入れ墨で顔を分からないようにしているので、本来の顔はそうそう識別できるヒトは居ないと思います。それに、我々の種族でしたら認識阻害がありますので、問題はないと思います。」
「立ち入った事を聞いて申し訳ないけど、名前は無いの?」
「え…。何で…。もしかしてあなた様は鑑定をお持ちですか?」
「あぁ。持っている。それに申し訳ないけど君たちのスキルも鑑定させてもらっている。」
「そうですか…。では竜人族という事もご存じなのですね。」
「あぁ。」
「竜人族は、ここから遠く離れた地で暮らす種族ですが、私たち姉妹はその村を追い出されました。
その際、村で名乗っていた名を取られました。故に今は名無しという事になります。」
「そうか…。聞いてはいけない事を聞いてしまったようで申し訳なかった。
じゃ、君たちの入れ墨を消してあげる。その後の事は今後考えよう。」
「そこまでしていただく義理はありません…。私たちを助けていただいただけでもとんでもない事であると思っておりますのに…。」
「まぁ、そんな事は後から考えればいいよ。今は身体を治すことが先決だよ。」
俺はそう言って、ディートリヒとナズナに頼み、二人を奥の部屋に寝かしつける。
「それじゃ、明日までゆっくり休んで。『スーパーヒール』、『スーパーヒール』。」
今回は入れ墨だけの再生・回復なので、そんなにマナを持って行かれることは無かった。
俺たちは部屋を後にし、2階に行く。
お茶を沸かしながら、2人に聞いてみる。
「なぁ、あの2人だけど、どんな感じなんだろうな。」
「お館様、彼女たちのスキルは何でしょうか。」
「そう言えば姉妹って言ってたな。大きい女性が姉になるのかな。
そのヒトは、ヘイト、鉄壁、認識阻害、火属性魔法、熱耐性。
妹さんのほうが、採取、鑑定、認識阻害、火属性魔法、熱耐性だった。」
「こう言っては何ですが、大柄の方は戦闘タイプであるとは思います。しかし、小柄な女性は戦闘に向いていないスキルなのに、何故剣闘士になったんでしょうか…。」
「なんか、村を追い出されたって言ってたことと関係があるのかね。」
「確か竜人族は戦闘部族ですからね…。」
「まぁ、そこは立ち入らない方が良いかな。」
「そうですね。」
「そうそう、ナズナの報告も聞いておこうか。」
「はい。お館様。」
先ずはノーオの色街のザックさん。
下着については彼の妻と妾の3人に渡したところ、とても喜ばれた。
本来であれば遊郭にという事だったが、遊郭で使うには普通過ぎるという事で、奥様とお妾さんが使うこととなったがサイズが合わない。そのため、サイズを送るので見繕って欲しいとの事。
併せて、遊郭で使うものも試しに送ってもらい、感触を確かめたいとの事。
そして、女性の下着を作ることには非常に乗り気で、色街に女性の美を追求する商品があれば、凄い事になると意気込んでいる事、さらに、興味のあるヒトを探すより、街を生産拠点にしても構わない。何なら工場を建てる土地や事務所なども融通するとやる気満々だ。
ついては、来月こちらに来る際に立地条件や採用人数、工場建設など具体的な話をしたいと…。
「はは…。本当にトントン拍子で決まっていくんだな…。まだできるかどうかも分からないのに…。」
「いえ、カズ様ならできます。」
「そうです。お館様ならすぐに実現します。」
過度な期待はいけないよ…。
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