3‐33 発祥の地、爆誕!
お好み焼きを焼いてくれる店舗が48店舗、串焼きが2店舗参加してくれることとなった。
ソースは各店舗が各々工夫を凝らし煮込んでいる。
その合間を使って店舗の料理人には広場に来てもらい、お好み焼きの作り方を教える。
勿論、その中には琥珀亭のイヴァンさん、シュクラットの料理人さん、レルネさんまで居る…。
皆、興味深そうにこちらを見る。
俺は、マルゴーさんに作ってもらった鉄板に火の魔石を組み込む。勿論魔石も領主からの支給品。
火を使わないので、安心だが串焼きは火を使った方が断然上手いと俺は思う…。
先ずはタネづくり、そして野菜、スライスした肉を入れ、かき回す。
「うぉ、ゲロ…。」
誰だ、そんな事言うやつは。料理人失格だぞ。と思いながらも、油を敷いた鉄板に薄く盛り付ける。
表面に気泡ができ始めるタイミングで、鍛冶ギルド特製の“ヘラ”でひっくり返す。
皆、「おぉーー」と歓声を上げるが、あんたたち肉焼くときにも同じことしてるでしょ?と思うが、これも心の中にとどめておく。
焼きあがったものを8等分に切って、さらに盛り付ける。
その際、先にソースをかけるか、後にソースをかけるのか質問があったので、食欲という怪獣を呼び覚ますのであれば先にソースをかけて焼いたものを渡す方が効果的だという事を実演も兼ねて説明する。
すると皆が納得する。
これで、嗅覚からの攻撃は完成した。
そして、これからは皆の努力次第だ。視覚に訴える者もいるだろうし、味覚を一番とする者もいると思う。あとは創意工夫の世界だ。
この中には、魔物の侵入によって店舗が破壊された者もいる。
なので、具材には制限をかけ、主催者である領主から提供のあった具材のみを使用するという事で皆に納得してもらった。
程なくしてユーリ様がこちらにいらした。
「皆さま、ご理解いただけましたでしょうか?」
皆が頷く。
「明日の食事会が終了した後、このソースのレシピとマヨネーゼのレシピを全ギルドに公開いたします。この街の店に限り、レシピの使用については、年銅貨1枚の使用料のみで、その金額も税金の中から差し引かれますので、安心してソースとマヨネーゼをお使いください。」
「あの、奥方様、もし他の街のモノがこのレシピを使うとどうなるんですか?」
おずおずと気の弱そうな料理人が質問する。
「はい。他の街でこのレシピを使いたいと申し出が商業ギルドを通じてあったのであれば、その店には年銀貨5枚の使用料で許可を出します。」
「そうすると、わしたちは凄く儲けているような感じがするんじゃが…。」
「そうです。この街をソースとマヨネーゼの発祥の地とし、シェルフールに来たら美味しいソースとマヨネーゼを使った料理が楽しめる、という話題を各地に宣伝します。
皆さまには、これを機にどんどんオリジナルな料理に挑戦していただければと思っています。」
「おぉぉ…、流石領主様の奥方様だ。」
皆ひれ伏しているわ。
ソース、マヨネーゼ発祥の地とする観光誘客か、良いな。
ちょっと悪ノリしてみるかな…。
「ユーリ様、僭越ながら申したき議が2つございます。」
「ニノマエ様、何なりと仰ってください。」
「先ずは、魔物で店舗が再開できない方への支援です。
幸い、明日からこの場所で“お好み焼き”を作って売るということになりますので、大慰霊祭が終わった後も、店舗の再開の目途が立つまで、この場を利用させていただく事は可能でしょうか。」
「ふふ。流石ニノマエ様ですね。その通りです。
店舗の再開の目途が立たない者は、この会合後ここに残り店舗の継続についてお話ししましょう。さらに、ここに来られなかった店舗についても、明日以降もこの場所で商いができるようにいたします。」
「あ、ありがとうございます。」
楽市楽座のようなものだな。良い決定だと思う。
「ユーリ様、ありがとうございます。
次に、ここを訪れる人が多くなるような策を具申いたします。
先ほどは、ソースとマヨネーゼ発祥の地としての誘客を、と仰りました。これは味覚、つまり味を満足させるためのものです。自分が言うのも何ですが、スタンピード後にできた北西の平原は産業の目玉になるかとは思いますが、もう一つ有効な誘客となる手段がございます。」
「それは何ですか?」
「若者を呼ぶ手段、つまり、あの場所を“カップルの聖地”とするのです。」
うわ、なんか自分で言ってて赤面してきたよ。
「具体的にはどのようにいたしますか?」
「例えばですが、皆さんはあの光景を街門の上からご覧になられた方はいらっしゃいますか?」
2,3人が手を挙げる。
「どんな風景だったでしょうか?」
「そりゃ、びっくりしたわな。まさかあんな広い地にキラキラ光るものがいっぱいあるんだから。」
「それを自分の村では、“幻想的”とか“ファンタジー”とか呼んでいます。」
「ふぁんたじ?」
「そうです。ファンタジーです。
みなさん、夕刻の日の入り頃に街門の上に上り、風景を見てください。
その思いが視覚と記憶にしっかりと焼き付くと思います。
それを宣伝するんです。夕方にその光景を見るって事はその晩は宿泊するって事になります。
そうすると宿屋は儲かりますし、食堂ももちろん儲かりますよね。
つまり、観光で金儲けするんです。」
今の俺は悪徳商人のような顔をしているんだろうな…
そう思いながら、ここに居る料理人たちの顔を見る。
「そうじゃの、百聞は一見に如かずじゃ、皆、一度街門に行き、見てみるとするかの。」
ナイスタイミング、レルネさんが確実な援護射撃をしてくれた。
「おう、そうだ。みんな見に行こうぜ!」
「あ、行くときは奥様か女性の方を随行された方が良いかと思います。」
「そりゃ、何故だ?」
「男性よりも女性の方が繊細で、その場の風景を的確に表現してくれると思います。
では、半刻後に北西の門に集合しましょうか。」
皆、自分の店舗に返っていった。
「すみません、ユーリ様。勝手に話を進めてしまって。」
「いえいえ、素晴らしいお考えです。
これ、誰かおらぬか! 館に戻り、亭主の首根っこに縄を付け、北西の門まで連れてきてくださいな。
それとティエラと子供たちも一緒に来てもらうようにしなさい。
半刻後に居なかった者は、私が許しませんと言いなさい。」
うわ…、ユーリさん黒い笑顔があふれています。
それに、伯爵の首根っことか、えげつない…。
しかし、本当にこのヒト頭の回転が速い。すごく切れる。
「ニノマエ様、門まで歩きながらお話ししましょうか。」
「え、は、はい。それよりも徒歩でよろしいのですか?」
挙動不審な状態になってしまった。
「街の状況を知るのも、領主の妻の仕事ですから。」
このヒト、ほんとに出来るヒトだ。伯爵はユーリ様がしっかりされているから成り立ってるんだな…と思う。
道中、今後の話をした。
恐らく街門に人が大勢来るため、その守備の関係、街門の整備、その後、結界を張って、キラキラする平原の中に遊歩道を整備し、途中途中に床几なる腰かけを設置する。
勿論、北西の門は常時開けておく必要はなく、閉門する時間を遅くするなどといった対策も講じると良いかも。
ユーリ様は途中、『ふむふむ』とか、『成程。』などと独り言ちされながら、北西の門に到着した。
そこには、100名以上の人が集まっていた。
あ、そうか、さっき話してたヒトが50名とすれば、その倍になるんだからな…。
この人数が上に上がると危険だから、班に分けて上に上がってもらうことにした。
いい塩梅に門の両側に階段があるので、一筆書きで動線ができる。
降りてきた人が口々に『ふぁんたじいだ』とか『すごい』とか言っている。
まだ上っていないヒトがそわそわしてるよ。
程なくして伯爵のご家族も到着された。
ユーリ様、真顔になって『遅い!』と言って伯爵を叱ってる。
当の伯爵は上からの光景は一度見ているから、何が始まっているのか訳が分からない。ユーリ様に襟を掴まれた姿勢で引きずられていく。それを追うように、ティエラ様とお子様が続く。
全員が視察した段階で、ユーリ様が一言、
「この場所を“カップルの聖地”とします。これを国内に宣伝します。良いですねあなた!
詳細については、明日報告することとします。
皆さま、明日から忙しくなると思いますので、くれぐれもご無理だけはなさらないでくださいね。」
と宣言され、その場がお開きとなった。
さぁ、明日から忙しくなるぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます