3-32 大慰霊祭の準備
朝起きる。
俺の左腕を枕にディートリヒが心地よい寝息を立てている。
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朝チュンではありません。
おっさん、体力が戻っていません。
昨晩は魔法についてディートリヒとずっと話をしていた。
ディートリヒ曰く、魔法に適したヒトと適さないヒトが居るとか。
ディートリヒは子供の頃から身体を動かすのが好きな“おきゃん”な子だった。当然、本を読む、講座を聴くという事も大嫌いなので、自分は魔法を習う感性がないのだと思っていたらしい。
でも、俺の創造魔法ってやつはイメージだ。実際にイメージさえ出来れば何かしらの魔法が出てくる。考えるよりも感じながらイメージを膨らませるって事が大切なんだろう。
なので、想像力というかイメージを持てば誰でも魔法を習得できるという恐ろしいものなので、信頼に値する俺の家族にしか教えない方が良いとアドバイスされた。
もちろん、ディートリヒにはこれから強化魔法と生活魔法の“クリーン”を覚えてもらうことを話したら、クリーンの魔法に習得はとても喜んでいた。
聞けば、やはりトイレの問題があるようだ。
ダンジョンや戦闘中などはトイレ事情がキツイ。特に女性は…という事で、クリーンの魔法は欲しい魔法TOP3の中に入るらしい。
それに、お月の話もあるようだ。こちらの女性の事情がどうなのか?疑問に思ったので聞いてみる。
ありゃ?ディートリヒさん、少し前まではモジモジ、ゴニョゴニョしながらしゃべってくれたけど、今ではちゃんと話してくれる。恥ずかしいという事よりも、もっと知ってほしい、知りたい、そんな気持ちなんだろうか。
世の女性、クリーンを使えない女性は布をあてがっているようだ。
“月帯(けがれぬの)”に近いものなのか…“ふんどし”に近いものなのか…、そうするとやはりクリーンが無いとキツイんだろうな…。
では一般のヒトは無理…。なら、何かそこを改善する余地はある。
それと、こちらの下着事情…。
貴族などは知らないが、ディートリヒが購入したものも、かぼちゃパンツとかしっかりとフィットしないタンクトップとか、女性が動きやすい恰好にはなっていない。
あんなタンクトップでは走った際にお豆さんが擦れて痛いと思うんだけど…。
女性を魅せるモノの開発か…。それに女性が働く環境も悪そうだな。
なんだか、女性としての立場がなかなか確立していない。
ユーリ伯爵夫人やレルネさん、宿屋のイヴァンさん、鍛冶屋のマーハさんたちはしっかりとポジションが確立されているから問題はないとは思うが、ティエラ伯爵夫人とかは病弱だったせいか、まだ社会的なお立場がよく分からない。
いろいろな事を考える。
これまでは一人で考えていた。でも、これからはディートリヒが居る。
一緒に話し合い依り良い方向へ進んでいける。
そんな満足感があった。
ディートリヒと一緒に食堂に行く。
イヴァンさんが作ってくれた朝食を食べる。でもパンはある。
聞けば、イヴァンさんの厨房にはオーブンというか窯があるので、そこで焼けるとの事。
という事はパン屋が襲われたため、主食のパンが少なくなっているという事か…。
であれば、ナンやピザ生地のようなものであれば、すぐ焼けるから問題は無くなるのか?
しかし、肉ばかり無くなっているシェルフールの人たちって、どれだけ肉に偏った食生活をしているんだ…、などと考えてしまう。
まぁ、食事の改善も必要だし、野菜なんて肉の横に乗っている感じでしか出てきていない。
もっと栄養を満遍なく摂取できるようにしないと早死にしますよ…なんて考える。
食事を終えると、イヴァンさんにソースとマヨについて聞いてみる。
今日の昼前に何やら伯爵様から御触れが出るって聞いているから、その件だろうって。
因みにマヨは簡単にできたが、いかんせん卵の量が少ないので、安定供給しないと難しいらしい。
ソースについては、イヴァンさんはニヤッと笑いながら、琥珀亭オリジナルを完成しつつあると自慢げに話してくれた。これは期待できる。
さて、リハビリがてら広場に向かう。
教会での慰霊祭、そして広場での食事会となると、ヒトの動線などを決めておかないとトラフィック・ジャムを起こしてしまう。
それに食事会場となる広場のテーブルとイスがどれくらい必要となるのか…、ピクニック感覚でシートを敷きながらでもいいが、雨が降った場合はテントが必要だ。この世界ってテントはあるのか?
いろんな事を考えながら、広場に到着する。
え?!あれ?!もう設置がほぼ出来上がっている…。
これは?伯爵?いや、ユーリ様が手配されているのか?
広場に入り、鍛冶ギルド、錬金ギルドの面々が集まっている所に行くと…、やはりユーリ様が陣頭指揮をとっていた。
「あ、ニノマエ様、おはようございます。」
ユーリ様がにこやかに挨拶してくれる。
「おはようございます。流石ユーリ様ですね。もうここまでご準備されておられるとは…。」
「お世辞は後から聞きますね。ニノマエ様には是非お知恵をお貸しいただけると嬉しいのですが。」
聞けば、お好み焼きを焼くスペースと食事のスペースをどう区分けするかを悩んでいるとの事。
では、という事で、出店協力、つまりソースの作成を協力していただいた店舗数を確認し、教会の建物に面した場所に店舗を設置する。その真ん中にステージを作り、伯爵が一言いえる場所を設置。聞けばテントは軍が使うような四角いテントが10張りあるとのこと。
「ユーリ様、明日の天候はどうですか?」
「はい。この時期は雨も降りませんので、明日も良い天気だと思います。」
ユーリ様の言葉と神通力を信じ、市民が食事をとるスペースは何も置かないこととした。
その替わりにピクニックに行くときに敷く布などを各自持ってくるようにすればいい。
教会の端には本部も設置し、食材を含め、そこで差配する。テントは…、そうだ。伯爵が派遣などで使用する陣幕かテントで良いだろう。
あとは、広場の入り口に受付を数か所設置し、お金を徴収する場所を作る。
教会も協力してくれるという事なので、お布施や寄付をする場所も必要だ。
こんなような内容を人の動線と店舗の設置を歩きながら現場で提案する。
“現場合わせ”って言葉があるように、当日は必ず何かトラブルがあるから、臨機応変に動ける人員と資材も必要だ。
俺がスタッフ?に説明している中、ユーリ様が少し考え事をされている。
「ユーリ様、何かご不安な点はございますか?」
「え…、はい。市民の皆さんがここに来て“おこのみやき”を食べますわね。そうすると、そのお好み焼きを入れるお皿とフォークをどうするのかと…。
これを一日で準備するのは至難の業かと思いまして。
それに準備できたとしても、それが最終的にゴミになりますので、その処理を如何しようかと…。」
ふふふ。この世界にはポリで出来た皿などは無い事は先刻承知の上だ。
で、できる事と言えばエコ宣言だよ。マイ皿の投入だ!
「お皿については、簡単で各自持ってきてもらいます。
フォークについては、少し提案があるのですがよろしいでしょうか?」
俺は、B級グルメ王座決定の際の話を持ち出した。
要は受付でもらった割り箸を気に入ったお店の前に入れてもらう。その数によって順位を決めるというものだ。ただし、エコではないため推奨はしないが…。
ユーリさんが目をキラキラさせて聞いている。
「ニノマエ様、それは面白い案ですね。早速採用します。
商業ギルド…では難しいので、鍛冶ギルドに協力を頼み、炉を燃やす際に必要な枝から割り箸なるものを作らせましょう。」
「ユーリ様、割り箸となると手間がかかりますので、今回は串焼きにさしてある串で十分だと思います。」
「それでしたら直ぐに準備できますわ。串焼きも軒に並びますので、何か違うものを準備しないと…。」
「でしたら、錬金ギルドに協力をお願いし、串を持つ手の部分に着色していただくという事では如何でしょうか?」
「ふふふ、それは良い案です。ではサイモン。早速串焼きの串の調達と錬金ギルドに着色の手配をお願いしてきてくださいな。」
急に振られたサイモンさんなる人物、どう見ても鍛冶ギルドのヒトのように見えるが…。
立っている者は親をも使えって事ですね…。ご愁傷様。
「あとは、順位を決めた後の賞金とかですが、大丈夫ですか?」
「えぇ、そちらは全然問題ありません。」
では、この案で進めていきましょうか。
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