6-11 ベリルとスピネル

 完全に燃え尽きました…。

 真っ白な灰になりました…。

 もう何もできません、動けません…。


「カズ様、今朝は私とナズナが朝食を作りますので、少しお休みください。」


 ディートリヒ、ナズナ…、すまない…。


 とか言いながら、動ける自分が怖いよ…。

最近、若返って来たような気がするが、齢はとっていくんだよな。

俺がもう少し若ければとは思うけど、俺は俺だから仕方がない…。


 良い匂いがしてきたので、着替えて2階に降りていくと、ディートリヒとナズナがキッチンでいろいろと作っている。


「カズ様(お館様)、おはようございます。」

「あぁ、おはよう。」


ディートリヒを最初に、次にナズナにキスをする。

順番を間違えるとディートリヒが拗ねるからね。


「良い匂いだね。」

「はい。昨晩カズ様が作られた“お粥さん”をイメージにして作りました。」


 うん、おいしそうだ。

リゾットかな。お腹にやさしいね。これならあの二人も食べることができるかな?

あ、でも服がないよ…。着てた服はボロボロだったから、裸に毛布かけただけだった。


「すまん。ディートリヒ、あの二人の服を何着か買ってきてくれないか。」

「はい。そう言われると思いましたので、昨日、市場へ行った時に見繕って買ってまいりました。

 服は部屋のクローゼットに入れてあると伝えてありますので、そろそろ降りてくる頃だと思います。」


 さすがディートリヒさん、ナイスサポートです。


「ありがとね。さすがディートリヒだね。」

「いえ、そんな事はありません。」


 クネクネし始めた…。うん。いつものディートリヒだ。


 そうしているうちに、二人が恐る恐るリビングに入って来た。


「すみません。このような服まで貸していただき…。」

「ありがとうございます。」


 お、今日は小さい子も話しているね。

それに、顔の入れ墨も綺麗に消えている。


「おはよう。身体は大丈夫?」

「は、はい。いろいろとありがとうございます。」

「まぁ、みんなお腹がすいていると思うから、朝食にしようか。」


 俺たちはカウンターに座って、お粥さんを食べる。


「うん。美味しいね。」

「カズ様、ありがとうございます。みなさんもいっぱい食べてくださいね。」

「あ、ありがとうございます。」


何か、小さい子の方がビクビクしている。まだ怖いんだろうか…。

まぁ、どうするのかは彼女たち次第だから。

 朝食を終え、台所の反対側にあるソファに全員で座る。


「さて、お二人さん。一昨日はいろいろと辛かったことと思う。

 まとめてみると、君たちは竜人族で村から追い出されたため、名前もない。

認識阻害によって剣闘士として過ごすも、一昨日の闘技で死にかけたところを俺が助けた。

って事でいいかな。」

「はい。それで合ってます。」

「ただ、分からないのが、何故村を追い出されたのかって事だけど、それは種族のルールみたいなものがあるのかな。」


 いきなり直球の質問だったのだろうか…、二人は下を向き黙るが、小さい子がぼそぼそと話す。


「私が悪いのです。だから姉様にも迷惑が掛かってしまったのです。」

「それはどういう事かな。」

「ご存じのとおり、私には戦闘に特化したスキルがありません。

竜人族は戦闘種族であり、傭兵として多くの国で働いています。でも、私はその能力がなく、そんな者は村には必要ない、と姉様共々村を追い出された訳で…。」

「それで剣闘士として生きていこうとした、と。」

「はい。スキルは無くとも飛び道具で何とか闘うことはできていましたから…。

 それが一昨日の闘技では違いました。

弓が外れ、近接戦闘となり、降参をしようとしましたが、口を押えられ、タップもできないよう腕を切られ、お腹を滅多突きにされました。」

「妹が倒れてからは、私一人で戦いましたが、2対1ですので、利き腕を切られてからは防戦一方で、妹を助けるためにも何とかしようとしましたが…。」

「二人とも負けた…、という事だね。」

「はい…。ですので、死んでも仕方がなかったという事です。」


 俺は少し考える。

 別に闘技場が悪い事でもない。それに死ぬこともある。

だから、それが悪だとは思わない。煽る人々が今の社会の欲求をそこで満たしているという事だけだ。

まぁ、スタンピードからそう時間も経っていないし、知り合いを亡くした人も居るんだろう。そのことをとやかく言っても仕方がない。

だから、今回は悪いタイミングに遭遇しただけという事なんだ。


 上手く回るときはトントン行くけど、行かない時は何をしても動かない。

足掻いても足掻いても動かない時は動かないものだ。

そういう時はどうするのか…、原点に立ち返るのが一番なんだ。


「ごめん。自分は君たちが悲しい境遇だから助けたという事ではないんだ。

 自分自身で決めた道を進んでいたんだから、責任は自分にあるって事だね。

 それをとやかく言うつもりはないけれど、先ず君たちがこれからどうしたいのかを教えて欲しい。」


 二人は少し考えてお姉さんが話す。


「すみません。あなたの優しさに甘えてしまうのには大変申し訳ないのですが、今しばらくここに置いてもらえないでしょうか。私たちはお金がないのです。」

「治療費もお支払いしたいので、それまではここに置いていただけませんか。」


 まぁ、そうくるだろうね。

でも、彼女たち自身が今後どうしたいのかを変えないと何も変わらない。


「別に問題はないけど、今まで通りだと何も変わらないよ。

 それに、何をしてお金を稼ぐつもりなんだい。」

「それは…、これから考えます…。」


 うん。妹さん、ノーアイディアだね。


「あのね。自分で言うのもなんだけど、おっさんの身の上話でも聞いてみる?」

「へ、あ、はい。」

「自分は冒険者で商売人だ。それも1か月前から冒険者になったばかりだ。

 その頃は、薬草ばっかり採取してね。おかげで鑑定のスキルを得たんだ。

 その頃から、みんなが自分のことを「薬草おっさん」て呼ぶようになったんだよ。

 自分、近接攻撃には紙でね。何もできないんだよね。

 でも、ここに居るディートリヒやナズナが一緒に居てくれることで冒険ができるようになったんだ。」

「ふふ、それでスタンピードの英雄って言われるようになったんですもの。

 今では、何と言いましたか、そうそう「Late Bloomer」とか呼ばれていますね。」

「うそ…、あの“雷親父”の方でしたか…。」


 うおぃ!そっちかい!


「ま、そういう風にも言われているみたいだけど、姉妹で金を稼ぐ事は、お互いの戦闘スタイルを理解してお互いの動きをフォローしてあげないと回らなくなるよ。まぁ、冒険者になるなら、だけどね。

 あとは、街のいろんなギルドに相談して仕事を探すって言うのが一番だろうけど…。」

「できれば、冒険者として活動したいんです。」

「でも、これまでと同じ事をしてるだけでは何も変わらないよ。

妹さんだっけ?すまんが、君は冒険者には向いていないよ。スキル無しの戦闘はいつか壁にぶち当たる。その壁を乗り越えるだけの努力が必要なんだ。

 君にはその覚悟があるかい?」


「はい…。努力します…。」


 うん…、不合格だな…。

多分、真っ先に死ぬタイプだ。


「ディートリヒ、ナズナ、君たちの意見はどうかな。」

「はい。カズ様、私は一度このお二人の力を見たいと思います。」

「お館様、私が言うのも差し出がましいのですが、妹さんの動きをお姉さんがどう見ているのかでしょうね。」

「という事だけど、お二人さんどうする?一度自分のパーティーに入って君たちの動きを見せてくれないか。」

「は、はい。お願いします。」

「それじゃ、一度冒険者登録してから防具を購入し、ダンジョンでも潜りますか?」

「はい(はい)、久しぶりのダンジョンですね。」

「あ、それと名前を決めておかないといけないな…。どうしようか?」

 

 俺は二人を見る。二人も俺を期待の目で見る。

 お姉さんの方は、髪はグレーで瞳は深緑か。どことなくローレン・バコールに似ている。

深緑の目が綺麗だ。緑柱石か…。

「では君はベリル。」

妹さんの方は、髪はライトブラウンで瞳がグリーンか…、ライアン・ニューマンに似ているね。

お姉さんよりも透き通った緑。尖晶石か…。

「君はスピネル。 これでどうかな。」


「ありがとうございます(ありがとうございます)。」

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