第五章 遠征

5-1 休息日

「ご主人様、休息日とは何でしょうか。」


 あ、この世界ってお休みの日って概念はないのか?


「休息日というのは、身体を休めたり、自分が好きなことをして良いって日だ。

みんなにはまだ渡してなかったけど、これまでの世界では1か月働いた分のお金がもらえる。それをみんなが自由に使うことができる日ということかな。

 もちろん、お金を使わなくてもいいし、綺麗な服などを購入しても構わない。

そんな自分の為の一日を過ごし、『明日から踏ん張るぞ』と心を入れ替えるって日だよ。」


「カズ様の世界には、そんな日があるんですね。

 画期的というか、何というかは分かりませんが…。」

「え、何で?」

「だって、カズ様と一緒に過ごすことが私にとっては至福の時なのですよ。

 それが、休息日のおかげで一日会えなくなるじゃないですか。それは私にとって悪夢そのものです。」

「ご主人様、私はご主人様の奴隷です。

 奴隷はご主人様に仕える義務がございます。それを一日放置されるとは…。」


 このヒトたち…、考えがブレてないよ。俺以外には何も考えられないのだろうか…。

それに良いお年頃だから、ファッションや食べ物とかいろいろと興味があるものもあるんじゃないか?


「あのね…、今はそう考えていたとしても、綺麗な服を着ている姿を俺が見て『綺麗だね』って言ってもらいたいとか、おいしい食事処を見つけて、次回に一緒に行って『美味しかったね』とか言ってもらうのって嬉しくない?」

「綺麗…、美味しい…、ムフーーー」

「奴隷にそんな事要求されましても…」


 三人は居ないけど、三者三様だ。

ディーさんに至ってはお花畑に旅行中。ナズナに至ってはまだ奴隷と言う概念から離れていない。

だったら、こう提案してみる。


「じゃぁ、ディートリヒは伯爵家に行き、奥方様とお話ししておいで。そろそろ向こうも何か面白い事はなかったのか聞きたい頃だと思う。だけど、石鹸のことは内緒だよ。ユーリ様に気づかれると、とんでもない方向に話が進んじゃうからな。」

「それくらいでしたら問題はありません。では明日午前中にお会いできるか聞いてきます。もし、面会が午後からの場合は午後も使わせていただきます。」

「うん。それでいいよ。いっぱいおしゃべりして、ストレスを発散しておいで。

次は、ナズナだけど、俺と午前中にカルムさんの店に行き、奴隷を解消してもらおう。その後、君のお父さんと話せばいいんじゃないか。」

「え、私はお役御免で返されるのですか?」

「違うよ。ナズナはもう奴隷じゃなくても良いんだ。解消した後、ナズナがどうしたいのかを決めれば良いよ。俺としては一緒に助け合いたいって思ってるけどね。」


 ナズナは困惑している。そりゃそうだよな。わずか数日で奴隷解消だから、驚くのも無理はない。


「ナズナは今回のダンジョンで凄い素材を集める事に成功したよね。

だから、それだけ早く奴隷を解消できたんだよ。」


 そう、また溜まってしまったキャンタマだ。オーク1個でおつりが来る。


「では、ご主人様は何をしていらっしゃるのですか?」

「あ、俺?俺は午後からはフリーだから、ここに戻ってバッグの拡張をしながらアイテムの整理でもしているよ。」


これまでの世界なら読書だったんだが、生憎この世界には本を見たことがない。

それに文字が読めない。

識字できないのは致命的だ。


「それじゃ、闘技場にでも行って観戦してこようかな。」


 そんな話をしながら部屋に戻り就寝した。

ハイ、何事もなくぐっすりと寝ることができました。


 翌朝、皆で朝食をとり、ディートリヒは伯爵邸へ、俺とナズナはカルムさんの店に行く。


 カルムさんの店に入り応接室で待っていると、息を切らしながらカルムさんが走りこんできた。


「ニノマエ様、この度は当方の手違いか何かありましたでしょうか?」


 この間のお灸が効いているようだ。


「いや、今日はナズナの奴隷を解消しようと思って。」

「へ?という事は返品ですか?申し訳ありませんでした。」


 カルムさん土下座をし始めた。


「カルムさん違うんだ。ナズナは奴隷として支払った金額分を既に自分にくれたから、それで解消するんだよ。解消した後はナズナ自身で決める。それと解消した後は、一度で良いからお父さんと話をさせてあげたいんだが良いか。」

「言いも悪いも、ニノマエ様がそうしたいと仰るならそういたします。

では、奴隷紋を外させていただきますので、少々お待ちください。」


 しばらくして、奴隷紋を外す道具も持ってきた。


「ご主人様、一つよろしいでしょうか。」


 ナズナが話し始めた。


「私がここで奴隷解消となったとしても、私はご主人様の下僕としてお使いいただきたいと存じます。」

「ありがとう。それがナズナの考えた答えであれば、俺は嬉しいよ。」

「はい。是非そうさせてください。

それと奴隷紋はすべて消すのではなく、奴隷として生きたという証として何か形を残していただけると嬉しいです。」


 デジャビュだ…。


「それは何故?綺麗に消えた方が良いんじゃないか?」

「私は、ご主人様に私の弱いところを指摘していただき、それを修正していただくことに時間を取っていただきました。その時間は私にとってかけがえの無い時間です。

ご主人様からいただきました貴重なお時間、そして自分を律することの大切さをその身体に染み付かせていきたいのです。」


 これはディートリヒの策略か?と思うくらい一途だよ…。重いなぁ…。


「もっと笑顔で暮らせることもあるかもしれないよ。」

「いえ、ありません。ご主人様と一緒にいれば笑顔になれる事、そして私を私として認めていただける尊いお方であります。」

「無理はしていない?」

「昨晩、ずっと考えていました。が、これ以上の回答は見つかりません。是非、お傍においてください。」


 カルムさん、涙を流しながらウンウン言ってる…。

この人も俺と一緒で涙腺が弱いなぁ…。


「わかった。じゃぁナズナ、これからも俺の傍にいてほしい。一緒に助け合っていこう。」

「はい。ご主人様。」


 それから後、ナズナの奴隷紋が外され、その場所にバラのようなタトゥーが残った。

俺は、手数料を払い、後の事を任せることにした。


「カルムさん、ありがとう。あとは、カーレルさんとナズナを会わせてあげて欲しい。

 多分、募る話もあると思うからね。」

「分かりました。では、ニノマエ様、今後とも是非当店をよろしくお願いいたします。」

「ははは、お手柔らかにお願いするよ。」


 俺は、カルムさんの店を出て冒険者ギルドで依頼品の納入と報告を済ませた。

今回22の依頼を受けたが、流石ディートリヒ、同じような依頼だったため、依頼品はサクサクと収集できた。シーラさんからは『流石Late Bloomer!これでノルマを達成できます!』とか言われたが、いったい何の花なのかは分からん。

依頼品以外のモノは買い取りをお願いし結構なお金が入ったが、何に使うのかも未定なので、家が完成した時に何か買う事にしてギルドを後にしようとするが、どうもシーラさんが俺を見る表情がこれまでと違う。昼食に誘われるも、ディートリヒとナズナ以外の女性と食事をした事が無いと正直に言ったら、ぷんすかされた…。うん…、女性の心はおっさんには分かりません…。


その辺の屋台で串焼きを一本買って、食べながら闘技場を目指すこととした。


今日は開場しているのかな?なんて思いながら、闘技場の前まで来た。

しかし、闘技は夕刻からの開催となるようので、昼間は閑散としていた。

闘技場の裏手に入り、街並みを歩く。

少し柄が悪そうなヒトたちがたむろしている。一瞥はされるものの相手にされない。まぁおっさん一人居ても人畜無害だからと思い、そのまま通りの喧騒を感じながら、空き地のような場所を通りかかる。

そこには大柄の女性が大剣を振っており、横では小さな少女が鎖鎌のような武器を磨いている。その横では大槌だろうか、ハンマーだろうか、大きな武器を持ってくるくる回っている。

 冒険者だろうか、みな笑顔だった。


 俺はその場所を離れ、家の工事状況を見ながら琥珀亭に戻った。

部屋に戻って10個のバッグに収納魔法をかける。

すべて5.4m四方の2tで統一する。ダンジョンでどれだけ採取できるかが不安だが、ゴーレムも倒しつつまぁ4日もあれば素材は何とかなるだろう。


 そんな事を考えていると、ナズナが帰ってきた。


「ご主人様、お話がございます。」


 ん、何の話だろう。

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