4-33 100点満点の報告会

 俺とディートリヒは4時間かけて街に戻った。

時刻は午後2時過ぎ。昼ご飯を食べ損なったなと思いながらも、俺とディートリヒは広場に行き、“お好み焼き”を食べる。

ナズナにはサンドウィッチを持たせてあるから大丈夫だろう。


 広場でディートリヒと別れた後、マルゴーさんの店に寄る。


「こんちわ~。マルゴーさん居る?」

「あ、ニノマエさん、とうとう私を娶ってくれるんですか?」

「相変わらずだね、アイナさん。」

「こうして言っておかないと行き遅れてしまいますからね。

ちょっと待っててください。とぉちゃーん、ニノマエさんだよー。」


 しばらくして、顔を腫らしたマルゴーさんが現れた。


「マルゴーさん、どうしたんですか?その顔?」

「あぁ…、この間あんたにもらった酒があっただろ。あれをこそっと盗んで飲んでたのを見つかっちまってな…。」

「あれって強い酒だったと思うんですが、まだそんなに日にちって経っていませんよね。」

「あれくらいどおってことない。が、全部飲んじまったから…。」


 あ、一応酒の報告はしたんだ。

でも隠れて全部飲んでしまった…、だからボコスカにやられたって事か…。自業自得だな。


「で、今日はどうした?」

「え、あ、そうそう鉄骨の素材をダンジョンで採って来たんで、それを持ってきました。」

「おいおい、あれを作るのに結構な量だぞ。」

「はい。どれくらい必要なのかも分からないので、取り合えず採れるところまでは採って来たって感じです。」

「分かった。それじゃ、奥の工房に行こうか。」

「いや、それだけでは収まりませんが…。」

「あんた、どれだけ採って来たんだ?」

「分かりませんが、結構な量ですよ。」

「分かった。それじゃ裏に置いといてもらおうか。」


 俺とマルゴーさんは裏庭まで行く。ここはディートリヒが剣撃の練習をした場所だ。


「それじゃ、出しますね。」


俺はアイテムボックスからどんどん鉄を出していく。

それを見ているマルゴーさんは、途中から青ざめ始め、最後には白くなっていた。


「おい、ニノマエさんよ。いくら何でもこりゃ多すぎなんじゃないか?」

「そんなことは無いと思います。H鋼だと1mあたり115kg必要だと思います。それが10mを10本なら全然足らないと思いますが。」

「そんなデカい鉄骨を入れるのか?」

「屋上に風呂を付けたいんですよ。」

「あ、風呂だって?!風呂ってのは貴族様が入ってるってやつじゃねぇのか。それをあんたの家に付けるのか?」

「そうです。風呂は正義ですからね!」

「まぁ、酔狂だと思って付き合ってやるがよ…。うーん。これだけの量だと…、そうなると…、うん。この数字で確かだな。ニノマエさん、この量を後7回分欲しい。そうすりゃ鉄骨なるものを入れることができる。」

「分かりました。ではこのアイテムボックスに入っている量をあと7回分とこれから作って欲しい金属があるので、その分を合わせて8回分採ってきますよ。」

「おう!それじゃ、こんだけの分は作り始めるけど、あとどれくらいの日数がかかる?」

「そうですね…、上手くいけばあと3日ってところですが、無い場合も含めて5日でどうですか?」

「分かった。それじゃ、待ってるぜ。」

「あ、それと加工賃ですが、前払いしときます。いくらになりますか?」

「お、切符が良いねぇ。そうさなぁ…、手間賃いれれば金貨4枚ってところだが、ニノマエさんとの付き合いだ。金貨3枚で良いぜ。」

「それじゃ、マルゴーさんに悪いですから、金貨4枚で支払います。さらに特急料金も含めて追加でこの間のお酒をマーハさんに渡すってのでどうですか。」

「ありがてぇ。実はよ、あの酒、かかぁが大好きでよ…、それを飲んじまったもんだから…。」


 マルゴーさん、バツが悪そうに頬をポリポリと搔いている。


「それじゃ、酒はマーハさんに渡しときますね。」

「え…」

「マーハさんが大好きなら直接渡した方が良いですよね。」

「すまねぇが…、俺にもなにか無いか…、そうしてくれれば金貨2枚でも良い…。」


 完全に残念な酒の亡者だよ…。

まぁ、彼とは長い付き合いになると思うからしっかりとマーハさんを味方につけておかないとな。


 俺はマーハさんを呼んで、先日のお酒をもう一度渡し、マルゴーさんの言い値である金貨4枚に追加で大銀貨50枚を渡しておいた。

さらに、マーハさんが居るところで、これはマルゴーさんの分ですと言って、ウ〇ッカを渡しておいた。

マーハさんは納品もしていないのに金だけ渡すなんて危険だと教えてくれるが、これまでの付き合いの中で既に信頼していること、これからも良い武具を格安でお願いしたい事を告げると、マーハさんを感動させてしまったらしく泣かせてしまった。

帰る時に何かお土産は要らないかと言われたので、甘えて包丁を3本お願いしたら、とんでもなく切れる包丁をお土産にくれた。


琥珀亭に帰宅する間に、素材回収用にカバンを10個購入し購入した店の前を通る。

見せは外壁だけそのままで、内部は何も無い。

棟梁が居たので話をすると、地下室を作る箇所の土を掘ってくれと頼まれたので、魔法で地下室のスペースを確保した。

 それと、マルゴーさんのところで鉄骨の精製をしてもらっていることを説明し、近いうちに試作が届くことを伝える。

 棟梁もいろいろと考えてくれているので、皆に振る舞ってほしいとウ〇ッカを2本渡しておいた。

いきなり2本の酒を見せたから弟子全員が瞬時に集まって来たのにはびっくりした。

 酒の匂いもしないのに、すごい感覚だと感心したことを話すと、弟子たちは俺と棟梁が話す時には必ず酒がでると勘づいたと笑っていた。パブロフの犬状態かもしれない。


 棟梁にもう一度ダンジョンに籠って素材を採ってくること、それが5日くらいかかることを説明したら、鉄骨組んだらあとは猛ダッシュでやってくれると話してくれた。

みんな良いヒトだ。


 そんなこんなをしながら琥珀亭に戻ったのが午後6時頃だった。

どうやら、俺が一番最後だったらしく、ディートリヒもナズナも既に部屋に居た。


「待たせたね。じゃぁ、食事に行こうか。」

「ご主人様、あの一つご報告が…」

「ん?どうした。」

「本日、父は緊急用務と言う事で街には居ませんでした。明朝には戻るという事でした。」

「分かった。んじゃ、その内容も踏まえて食事しながら話をしよう。」


 俺たちは1階に移動し、琥珀亭の夕ご飯を注文した。

先ずはディートリヒ、


「伯爵家での洗濯もやはり灰で洗濯をしておりました。ただ、その灰は洗濯用に燃やされた灰のようです。下々の家はかまどなどで燃やした灰を使っております。

次に鍛冶ギルドで灰の調達について相談しましたところ、いくらでも持って行って良いようですが、もし市民から欲しいといった要望も少なからずあるようなので、少量のみ残し、後は好きに持って行ってという事です。また、鍛冶屋を回りながら灰を集めることは時間がかかるので、一か所に集めることはできないかと相談しましたところ、一度教会と相談して孤児の仕事として引き受けてもらえることができれば可能だということになっています。後日、その結果を教えてくれるそうです。」


うん。流石ディートリヒさん合格です。報告が分かりやすいですね。

ナズナさん、これを真似ながら報告してくれると嬉しいんだけどな。


「ありがとう。次はナズナ、報告をお願い。」

「では、先ずご主人様とディートリヒ様が訪れる場所はすべて陣触れをしました。

市民の洗濯事情については先ほどディートリヒ様からの報告のとおりです。

次にトーレス様からの情報ですが、王族が専売している名称が“サボ”で、私のこぶし大の大きさで銀貨10枚で売り出されているようです。数に限りがあるようで入手困難のようですが、トーレス様が既にお持ちでありましたので、少し分けていただきました。これがサボです。」


テーブルに乳白色の塊を出した。

うん。ナズナもしっかりとディートリヒから説明の仕方を教えてもらったようだ。

これなら、彼女ももっと変われるだろう。その為にも何か彼女が変わるきっかけがあると良いんだが…。

そう言えば、今日カーレルさんに会えなかったって言ってたな。


「みんなありがとう。最後に俺からの報告ね。」


 俺は、鉄骨をつくるのに後8回分のバッグが必要であり工賃が金貨4枚と大銀貨50枚だったこと、そのバッグを作るため10個バッグを買った事などを話した。


 今後の動きも分かったので、最後に俺から提案することにした。


「それじゃ、明日は休息日としよう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る