2-5 冒険者の心得
それから3日間、精力的に薬草採取を行った。
達成回数としては延べ43回。ここまで継続して依頼をこなしたのは記録的だと言われた。
”継続は力なり”だ!
いつしか、冒険者の間では”棺桶を担いだおっさん”よりも、“薬草おっさん”と呼ばれるようにもなった。
二つ名としては微妙だし、おそらくネタだとは思うが、冒険者からも温かい声をかけられるくらいにはなっている。
おかげで無事Eランクに上がり、あと7回薬草採取を達成すれば、“ヤハネの光”と同じDランクとなるようだ。
薬草を採取している間に何度か魔物が現れた。
感覚と索敵でおおよその位置が分かり、倒すことはできるのだが、その間、薬草が採れなくなるため、大変非効率。
それに“薬草おっさん”が、魔物を討伐できるとは皆想定していないため、ギルドに出す解体依頼もゴブリンのような緑の奴ばかりで、実際、白い奴も倒しているのだがアイテムボックスの肥やしとなっている。魔物の素材販売という実入りが期待できないのが難点だ。まぁ、それでも大銀貨2枚あったが…。
それにアイテムボックスの容量が魔物でいっぱいになる日は近い…、誰かとパーティーを組んで、仲間の力で素材を解体に出すか…。
そんな事を考えながら、今日の依頼を終え、夕刻6時頃に宿屋に着いた。
毎日が薬草採取は楽しいかと聞かれると、それはそれで楽しい。
毎日何かしらの変化があり、ハーブの素となる草も結構集まっている。それに極稀にエリ草というお宝も発見できる。このエリ草、万物を治療できるとされるエリクシールの素材の一つで、エリ草1つで金貨1枚もするって聞いた。
まぁ、そんな草をギルドに卸すとピンハネされるってイヴァンさんに教えてもらったから、これもアイテムボックスの肥やしとなっている。
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娯楽の少ない街では、酒を飲むのが娯楽の一つなのだろう。
琥珀亭1階にある食堂も夕刻から多くのヒトで賑わっている。
俺はマリベルさんに戻ったことを伝え、いつもの女将の“おすすめ料理”を頼む。
料理が来る間、魔物の素材の買取をどうしようか思案する。
正直、緑の奴は魔石以外はゴミ扱い。ただ、魔石は銅貨5枚で売れる。
3日間で銀貨5枚って事は10匹は倒した計算になる。
ただし、緑の奴以外にも結構倒しているのと、奴らが持っていた道具については、そのままアイテムボックスにそのまま入っている。
この3日間で、少し気になったことがあった。
魔物を倒していると、最初はそのまま亡骸として残っていたのだが、その後の魔物は倒した瞬間消えて素材だけ残っていた。
確か、ダンジョンに出てくる魔物などがこういった状況になるって、バーンさんが言っていた。
そうすると、ダンジョンから出てきた魔物が居たという事になるのか?
まぁ、俺としては剥ぎ取りが生理的に受け付けない(何度トライしても、胃の中からキラキラが出てくる。)ので、ありがたいのだが…。
そんな事を考えていると、相席をお願いされた。
俺は即座に快諾し、そのヒトを見る。
げ! トーレスさんじゃん…。ヤバい、完全に夕食のお誘いの事忘れていたよ…。最初に謝っておこう。
それと、もう一人、この方は冒険者だろうか。ガタイが良い。
「お久しぶりです。トーレスさん。」
「ほんと、お久しぶりです。といっても4日ぶりですがね。」
と営業スマイルで攻撃してくる。
「すみませんでしたね。少し地盤を固めたかったので、地道な作業をしていました。」
「聞きましたよ。冒険者から“薬草おっさん”って呼ばれているようですね。二つ名をもらえるってことは仲間として認められたって事ですよ。」
「そうですかねぇ。」
「ははは。そうですよ。
そうそう、今日は私の知り合いの冒険者と一緒ですので紹介させていただきますね。」
トーレスさんの横に座っている男性が紹介される。
「この方は、冒険者ランクCの“風の砦”のコックスさんです。」
「はじめまして。」
「よろしく、コックスと言います。」
コックスさんと握手した。
「コックスさんのパーティーはCランクで、今日依頼から戻って来たところなんですよ。」
「へぇ、失礼ですがどのような依頼だったんですか?」
あ、冒険者の依頼に守秘義務ってあったかな?
「あ、別に詮索という意味ではありませんので…。」
「ニノマエ様、依頼は当会の商品の輸送の護衛をお願いしてたんですよ。」
トーレスさんが助け舟を出してくれた。
「そうなんですか。」
「南にある王都まで行ってたんです。」
「それは遠そうですね。」
話を合わせた。王都なんて知らないし、何日かかるかも知らない…。
「ニノマエさん、少しよろしいか。」
いきなりコックスさんが話しを切り出してきた。
「ニノマエさんは、何故冒険者になろうと思ったんですか?」
「私ですか?
そうですね…。子どもの頃に憧れていたというところでしょうかね。」
「憧れていた職業になれたという事で夢が叶ったというところですね。」
「そうですね。」
「夢が叶い、そして棺桶を担ぎながら、毎日冒険に出るって事ですか?」
俺はコックスさんが何を言いたいのか考えた。
おそらく齢をとっているという事だろう。ロマノさんと同じような年齢で駆け出しの冒険者…。
その冒険者が登録され、どこかで野垂れ死んだとしても誰も何も言わないだろう。でも、亡骸などは運んでもらうことになり、迷惑をかけるかもしれないな…。
「確かに、棺桶を担ぎながら毎日依頼を受けています。ですが、自分の弱さは自分が一番よく知っています。できる事とできない事を把握し、出来る事のみを無理のない範囲内で行っておりますよ。」
とりあえず冷静に話をしてみる。
「それに、夢とは言っても、食っていくためには何かをしなくてはいけません。薬草一つは小さな依頼かもしれません。でも、その薬草はみなさんの回復薬やトーレスさんたちの薬になり、その薬を飲んだヒトがケガや病気から回復し笑顔になれる、こんな崇高な依頼を受けることはできて、自分は凄く嬉しいんですよ。」
コックスさんは目を閉じながら、うんうんと頷いている。
俺の話が終わった後、コックスさんは目を開け、その目線をトーレスさんに向ける。
トーレスさんは、コックスさんに頷き返す。
「ね、コックスさん、私が見込んだ通りの御仁でしょう。」
「まさにその通りだ。いやぁ、ニノマエさん、あなたを試すような事を言って申し訳ない。実はニノマエさんを試していたんだ。トーレスさんが見込んだ人物が、どんな人物なのか直接会って話をしたかったんだ。」
「ははは、それでどうだったんですか?」
「うん。問題ない。ニノマエさん、俺はあんたを信じるに値する人物だと認めた。これからは腹を割って話そうぜ。」
なんだか、トントン拍子に話が進み、俺だけ一人取り残されている…。
ボッチって言ったか。
トーレスさんとコックスさんは、キョトンとしている俺を見て笑っている。
まぁ、愛想笑いだけはしておこう。
「ニノマエ様、大変失礼いたしました。“風の砦”さんは、当社が贔屓にしている冒険者パーティーでして、そのリーダーのコックスさんに、一度ニノマエ様を見ていただこうと思ったんです。」
さいですか…。なんかボッチで寂しかったですよ…。
「ニノマエさん、本当に申し訳なかった。俺は貴方と言うヒトが何故冒険者になったのか、そして、冒険者に必要なモノを持っているのかを確認したかったんだ。」
ん?冒険者に必要なモノ?なんだ?
「冒険者に必要なモノ?それは一体なんでしょうか?」
「それはだね、“身の程を知る”って事だよ。」
コックスさんは、テーブルに置かれたエールをぐびぐびと飲み始めた。
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