8-11 親狐も出てきましたよっと

「さて、あんた。この状態をどうする?」


 スティナさんにどす黒い笑みを向ける。


「あわ…、あわわ…。」


 あ~あ、また地面を濡らしてるよ。

仕方がないね。


「なぁ、ブライアンさん。どっちが勝ったかなんてもう分かってることだから好きにすれば良いけど、これはアドフォード家が俺に喧嘩を売って来たと解釈しているが…。」

「はい。煽りはされましたが、その煽りを受けた時点でそうなりますね。」

「では、俺はここで帰っても何もお咎めは無しということだな。」

「えぇ。そうなります。」

「だそうだ、そこのガクガク震えてションベン垂らしてるだけのお嬢ちゃん。

 このまま俺が去った方が良いか、ここで血を吐いている坊主を助けるのか、どうしたい?」


 完全にヒール役になりきる。

やつらの自尊心をコテンパンに叩き潰してやる。


「そこまでにして欲しい。」


ん?ブライアンさんが結界を解いたか、この声はメリアドールさんだ。


「メリアドール様、まだ完治しておりませんので、寝室にお戻りください。」


ブライアンさんがオタオタしている。

子の喧嘩に親が来るってか…。


「そうは言うても、妾の子がニノマエ様に失態を犯したのじゃ。

 相応の者が出てこなければ鞘に収まらんじゃろう。」

「子どもの喧嘩に親がしゃしゃり出るって事か?そりゃ無粋な話だ。」

「そうは言うても、まだこいつらはヒヨッコじゃ。

 そやつらが一人前にならぬ間は、わが身が責任を取るのが筋じゃろ。」

「だとさ…。聞いてるか、って、そう言えば一人ヤバい状態だったんだな。」

「すまぬが、ニノマエ様の治癒魔法をかけてやってはもらえぬか。」

「俺の治療は高いぞ…。」


俺は敢えて、スティナさんの方を向く。


「な、お前!何を言っている。治すのが筋でしょ。」


 まだそんな事を言う元気があったんだ。

最後通告かな。


「あんた、さっきブライアンさんが何を言ったのか聞いていなかったのか。

 王宮魔導師と公爵家が俺に喧嘩を売ってた結果、けちょんけちょんに負けたんだろ。

負けた相手に対し、何でそんな慈悲を与えなくちゃいけないんだ。

決闘ってのは、自分で尻を拭くって意味じゃなかったのか?

 何なら、この屋敷ごと吹っ飛ばしても誰も今回のことを咎める奴はいないぞ。

なぁ、ブライアンさん。」

「はい…、悔しいですが、仰るとおりです。

 今回の件は、スティナ様がニノマエ様を愚弄した事が発端です。

それに、ニノマエ様はお二方に選択肢を与えておりました。その選択肢を決められたのはヴォルテス様であり、スティナ様です。

故に、スティナ様は勝手に王宮魔導師の威厳を、ヴォルテス様も同じく勝手に公爵家の名をかけて戦われましたね。」

「という事だ。

 したがって、何故俺が助けなければいけないのかを問う。」


 スティナは唇をぐっと噛みしめて泣いている。

しかし、泣いても遅い。

彼女の軽率な行動が、自身だけでなく、アドフォード家も窮地に陥れた。

その責任は自分自身でとる必要がある。

それが道理だ。


「早く答えを出さないと、あんたの兄ちゃんは死ぬぞ。それでも良いのか。」

「ニノマエ様、もう良かろう。

 そやつも反省しているのじゃ、その辺で許してたも。」

「メリアドールさん、親はすっこんどれって言ったんだ。

 あんたの喧嘩じゃないんだ。それを尻ぬぐいして、こいつらが改心するとでも思うのか。

 そうやって今まで甘やかして育ててきた結果がこれじゃねえか。

 そりゃ、あんたにも責任はあるぞ。それは後から話す。

 その前に、仁義は通さなきゃいかん。

負けた相手に頭を下げることから始めなきゃ、何も始まらないんだ。

 さ、どうする。地面を濡らしているお嬢ちゃんよ。」


 完全勝利だ…。しかし、頭を下げるという屈辱は耐えれないんだろう…。

それに、憎悪の感もまだある。早く謝らないと兄ちゃんが死ぬぞ。


「おい、いい加減にしろ。

 あんたのプライドなんて今は必要ないんだよ。

そんな薄っぺらなプライドを持っている奴から、スタンピードでも真っ先に死んでいったんだ。」

「え、スタンピード?…。」

「あぁ、シェルフールで起きたスタンピードだ。

 俺は、そこで死んでいった仲間を見てきた。」

「あ…、もしかして、あの“Late Bloomer”のニノマエ様…。」

「そんな名前もあったようだが、俺は知らん。」


 女の子の塊が飛んでた。

ジャンピング土下座だ。

この世界の土下座の最上級はジャンピングなのか?


「た、大変失礼をいたしました。

 そのような御仁に戦いを挑んだ事、伏してお詫びいたします。

 申し訳ありませんでしたーーー。

 兄を、兄をお救いください。お願いいたします。」

「お嬢ちゃん…、そうやって、ヒトを名前で扱うとか肩書で扱うとかしない方がいいぞ。

 必ず痛い目に遭う。

 ヴォルテスさんも同じだ。

 相手の喧嘩に乗るな。そして自分の有利な土俵で戦え。『スーパーヒール!』。」


 うぉ!結構マナ持ってかれた。

そんなに強い波〇拳ではなかったと思うんだがな…。


 ヴォルテスさんの周りに淡い黄色の光が集まり体内に取り込まれていった。

ヴォルテスさんも苦痛から脱したようで、一体何が起こったのかが理解できていないようだ。


「さて、メリアドールさん、寝室に戻ってください。

 これからお説教です。」

「つれないのう。」

「仕方がありませんよ。ここまでは子供の責任、これからは親の責任ですからね。」

「ふふふ、お手柔らかに頼むえ。」



寝室に移動した。

勿論人払いして音声遮断をかけている。


「さて、メリアドールさん、先ずはお子様にあのようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」

「ふふ。それはあの子たちがやったことです。それに、私の方もこれまでの育て方を間違えていました。それを教えていただき、ありがとうございます。」

「子どもには流石に“氷の魔導師”も形無しだったという事ですね。」

「それは言わないでください。私も昔はあのように片意地張って生きてきたようですから。」

「そうですね。親の背中を見て子は育ちますからね。

それはそうと、身体の方は良いのですか?」

「はい。すこぶる良好です。ホントにありがとうございました。」

「礼を言うなら、完治してからですね。

それと、今回の件で親が責任をとって、俺のところに嫁ぐってことは無しにしてくださいよ。

そんな事すると、またスティナさんから恨まれることになるから。」

「ふふ。それは分かりませんね。」


 何やら含んでいるようだが、ここは無視しておこう。


「そうそう、お腹がすいた頃じゃないかと思うんですが。」

「そうですね。少し減ってきました。」

「じゃぁ、すこし甘いものをお渡ししましょうか。」


俺はプリンを出した。

冷たいが大丈夫かな?


「まぁ、これは何という食べ物なんですか。」

「これは、“プリン”と言って簡単に作ることができるデザートですよ。」

「食べたいのはやまやまなんですが、先ほど移動したことで体力を使ってしまったようです。

 どうか食べさせてもらえませんか。」

「え、さっきは良好ですって言ってたじゃありませんか…。」

「先ほどは先ほどです。今は体力がありません…。」

「嘘ですね…。」

「ほんとつれないですね…。でも、一口だけでもお願いできませんか…。」

「仕方ありませんね。ホントにメリアドールさんは。

 はい、いきますよ。『あーん』。」

「あーん。ん~。これは火照った身体を冷やすにはちょうど良いデザートですわ。

 えぇと、“ぷりん”でしたか。これはどう作るのですか。」

「言えません。そこはこれから売り出しますので。」

「ほんとにカズさんは、厳しいのですね。」

「そうではないんですよ。

 俺が“渡り人”であることが原因なのです。

 俺の知識は、この世界と比べ数百年進んでいるんです。

 そんな便利なモノが急に出てきたら、皆どうしますか?

 おそらく便利なモノだけを使い、今まであったものを無くしてしまう可能性もあるんです。

だから、この世界で作ることが出来るモノを然るべきタイミングで出していくというのが俺の考えなんです。」

「それが石鹸なのですか?」

「はい。こちらで作りました。勿論材料も全てこちらのモノです。それに、この石鹸を加工して、髪をあらうモノや身体を洗うモノも製造していこうと思っています。

 明日、俺の愛している女性の髪を見てくれれば分かります。」

「なんて羨ましいんでしょう。

 で、その石鹸は私には使わせてもらえないのですか?」

「明日、お持ちします。」

「いえ、それでは説得力がありませんわ。

 是非、今晩その石鹸というものを使いたいです。」

「あの…、病み上がりですよ。」

「主治医の許可さえ下りれば問題はありませんわ。ね、カズさん。」


 いつの間にか主導権を握られていた。

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