7-3 ”銀ぶら(死語)”ならぬ”街ぶら”です
ランチを取った後、トーレスさんのお店に行く。
そう言えば、ナズナの件依頼、疎遠になっていたな…。
「こんにちは~。」
「いらっしゃいませ。あ、ニノマエ様ですね、少々お待ちください。店主を呼んでまいります。」
ん?俺、こんなVIP待遇だっけ?
直ぐにトーレスさんが飛んできた。
「ニノマエ様、お越しいただきありがとうございます。
それと先日はカルムと共に要らぬ画策をして大変申し訳ありませんでした。」
「ん?あぁ、ナズナの事ね。
別に構わないよ。でも、政治的には勘弁してもらいたいですね。」
「大変、申し訳ありませんでした。ささ、どうぞ奥に。」
うん…、完全に委縮しちゃってる…。
あの時は大分切れたからな…。でも、少しは良いお灸になったかな。
そう思いながら、奥の部屋に行く。
「ニノマエ様、先般は…、」
「トーレスさん、もう済んだことです。それに怒ってはいませんから大丈夫ですよ。」
「はい。ありがとうございます。
もし、ニノマエ様のお怒りがこのまま続けば、当店の信用も売上も落ちていくのではと思い、気が気ではありませんでした。
妻からも、ニノマエ様が居を構えられたら、店の前で白装束で許しがあるまで土下座してきなさいと言われておりまして…。」
まぁ土下座は見てるけど、白装束というのがこの世界にあるのか…。
「まぁ、そんな事はもうやめにしましょう。」
「あ、それと今日来たのは郷から石を送られてきたので…。」
「なんと!また売っていただけるのですね。ありがたいです。
貴族の中では、あの宝石のブレスレットをするのが流行しているようで、なかなか入荷しないものですと説明しても、毎回毎回尋ねられるんです。」
「あぁ、そうですか…。」
まぁ、売れればいいか的にしか考えていないから。もう政治的とか信頼とかは一先ず出さないようにしよう。
「今回、送って来たのは30個でした。郷の皆も一生懸命磨いていますよ。」
ハイ、嘘つきました…。ごめんなさい。
「なんと、30個も売っていただけるのですね。」
「そのつもりだよ。あ、それと今回は補強する糸は持ってきていないけど、アラクネの糸で代用が可能だから、修理するときはそれを使うと良いですよ。」
「アラクネの糸でですか…。流石ニノマエ様ですね。
希少価値のあるモノのアフターサービスまで考えておられる…。」
「まぁ、そういう意味ではありませんが、アラクネの糸はいろんなモノに代用が可能ですからね。
冒険者ギルドに依頼してストックしておくと良いと思います。」
「早速、そういたします。
で、代金ですが、今回は前回のお詫びも兼ねて1個当たり金貨4枚で買い取らせていただきますが、よろしいでしょうか。」
「いや、良いけどトーレスさんのお店はそれで大丈夫なの?」
「大丈夫です!あの宝石はヒトビトを魅了する何かがあります!」
トーレスさんフンスカしているけど、今回付与は一個もしていないが…。
まぁ、石が持つパワーと念珠となったモノそのものに何かしらの力があるんだろう。
「分かりました。では、その金額でお願いします。」
とりあえず、今回のアドバイザー的な話も終わり、トーレスさんの店を出る。
次にどこへ行こうか、と考えていると、遠くから声がする。
「ニノマエさーん!」
声がすれども姿は見えず…。
あ、見つけた。皿を持ってちょこちょこと走って来る姿は、マルゴーさんのところのアイナさんだ。
「アイナさん、街で会うのなんて初めてですね。今日はどちらまで?」
「はい。かぁちゃんにお使いをたのまれて市場に行こうと思っていたんです。」
「で、この荷物は?」
「はい。私のおやつです。」
おそらく、お好み焼きが何枚かと串焼きが十本くらい入っているのだろうか…、ソースの良い香りがする。
「ニノマエさんはどこに行こうとしてたんですか?」
「今日は、街をぶらぶらと見て回ろうとしてたんだよ。」
「じゃぁ、市場に一緒に行きましょう!」
「いいよ。」
俺とアイナさんは市場まで一緒に歩く。
彼女も大食漢だった。歩きながらお好み焼きと串焼きをパクパクと食べ、市場に着く頃には皿は空になっていた。
市場ではアイナさんがあれこれと頼まれたものを購入していく。
俺はいろんなモノを物色していると、肉屋があった。
鶏肉のようなものがあったので、何かと聞けばコカトリスの肉であった。
そう言えばダンジョンにもいるよな…を思いながら、ふと作っていない料理の事を思い出し2kg購入し、野菜を売っているところでニンニクもどきを購入した。
アイナさんは、いっぱいになった籠を見つめている。
俺はアイテムボックスに籠を収納してあげると、アイナさんがキラキラをした目で感謝をしてきた。
うん。日常的なものですごく心地よい。
まだ帰るのに時間があるとの事なので、アイナさんとお茶をすることにした。
「アイナさんはマルゴーさんのような鍛冶はしないんですか?」
「鍛冶は練習中ですよ。でも、まだまだ修行中なので武器とかは打てません。
今は練習として、釘とか鉄骨とかを錬成していますね。」
「お、アイナさんは錬成スキルを持っているんですね。」
「はいな。」
「行く末は鍛冶師になるんだね。」
アイナさんは少し表情を曇らせる。
「鍛冶師にはなりたいと思いますが、なかなか技術が追い付かないんです…。」
「鍛冶師って武具とかを作りたいの?」
「それも作りたいとは思いますが、どちらかと言えば、モノを解体して構造を勉強したり改造したりすることの方が好きです。」
あ、俺の前に神が降りたよ。
「アイナさん、もし自分がアイナさんを雇用してモノを作ってほしいって言えば、マルゴーさんはどう思うかな?」
「え、娶っていただけるんですか?」
「いえ、違います。」
「ちっ。」
これ、舌打ちはいかんよ。
「ちょっとしたアイディアがあって、それを作るヒトを探していたんだよ。」
「え、もしかして工房を持てるとか?」
「ははは、流石に今すぐは無理だけど、多分これ売り出すと凄い事になると思うから。」
「そんなすごいモノを作らせてもらえるんですか?」
「あ、それほど凄いモノでもないんだけどね…。
それと、魔道具のようなものを作ってもらいたいんだ。」
「魔道具ですか?」
「正式には魔道具ではないけど、ヒトが動かす道具っているのかな。それを作って欲しいんだ。」
「製作期間はどれくらいですか?」
「そうだね…、解体と設計図の作成、部品の型取りと部品の錬成で1年くらい必要になるかな。
勿論、その期間のお給料は出すよ。」
「ニノマエさん、早速とぉちゃんとかぁちゃんの所に行き、説得をお願いします!」
アイナさんに手を引っ張られ、引きずられるようにマルゴーさんの店に着く。
「とぉちゃん、かぁちゃん! ニノマエさんが挨拶に来てくれたよ~。」
「おー、ようやく娶ってもらえるのか?」
マルゴーさんも残念なヒトでした…。
俺はアイテムボックスの籠を出し、先ずは口外しないことを約束してもらう。
約束してもらったところで、これから開発しようとしているものを説明した。
「なんと…。」
「そんな画期的なことが出来るんですか…。」
マルゴーさんもマーハさんも驚いている。
「どうしますか?」
「ニノマエさん…、あんた、すげーヒトだな。
この間の鉄骨と言い、今回の件と言い…、ブツブツ。」
「これを最初に作ってもらうのをアイナさんにお願いしようと思うんですが、どうですか。」
「そりゃ、いいけどよ。こいつぁ、まだ半人前だぞ。」
「いえ、その方が良いのです。いろんなアイディアを出しながら作ってもらえると思いますから。
それと専属契約としてお願いしたいのです。お給料はこちらで持ちます。
そうですね。一か月働いていただくとして6回はお休みしていただくとして24日で大銀貨30枚でどうでしょうか。ただし、作成していただくモノは決して口外されないという条件付きですが。」
「ドワーフは約束は違えないから安心してくれ。
でも良いのか?一か月大銀貨30枚と言えば、半年以上暮らしていける金を渡すわけだぞ。
ニノマエさんのところはそれで良いのかい?」
え、大銀貨30枚って多すぎ?
でも、ダンジョン潜れば、一日でそれくらいが稼げるから問題は無いか…。
それに、忘れたわけではないが、あのキャンタマをオークションにかけるという手もあるし…。
「良いですよ。ただし、何度も言いますが口外はできません。
これを口外されますと生命の危険もあり得ますので…。
ですので、マルゴーさんもマーハさんも、他言無用という事になります。」
「お、おう…。マーハ、それでいいか?」
「あたいは問題ないよ。それにアイナも良い機会じゃないか。
『可愛い子は崖から落とせ』だよ。」
可愛い子だろうと、子どもを崖から落としたらいかんだろ。
いろんな言葉が混ざりあい、意味も間違っているが、まぁ承諾を得たということだな。
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