3-16 貴族の力量
朝チュンです…。
もう体力残っていません、真っ白な灰になりました…、なんて事はありませんでした。
何故か気力が満ち溢れているんです。
この世界での自分、自分自身として生きていく事。それを全うしたい。そんな事を思い始めていた。
お互い赤面しつつ一緒に起き、お互い後ろ向きになり服を着て朝食をとった。
今日は街の外には行かないから、俺は普通の服、ディートリヒは白いブラウスに黒のスパッツという秘書さん仕様だ。うん似合ってる。
食堂まで行って食事をとる…、会話が弾まない…。
でも、二人でいる空間が心地いい。
幸せってのは、突然やって来るもんだなと思った。
一応、今日の予定をディートリヒと確認する。
やることは3つ。
領主との面会、錬金ギルドと鍛冶ギルドの長との面会だ。
クーパーさんが書簡を送るのが午前中だとすれば、2つのギルド長への面会は午後から行けばいいくらいかな。
では、先ずはトーレスさんの店に行き、早急に領主様と何とか面会できる手筈を整え、その後、錬金ギルドと鍛冶ギルドの長と話をする日程で行くこととした。
朝食をとった後、俺たちはトーレスさんの店を目指した。
ディートリヒと二人で歩くが、何か恥ずかしい…。ディートリヒも同じ思いなのか、モジモジしながら着いてくる。
うん。手をつなごう! そう思い、ディートリヒの手を取る。
一瞬ビクっとして手を引っ込めるが、すぐに手を繋いでくれる。
なんか青春してるんだって昂揚感がある。
「こんにちは。トーレス様はいらっしゃいますか?面会の予約はありませんが、ニノマエ様が来たとお伝えください。」
ディートリヒが対応してくれる。
うん。秘書さんみたいだ。様になってるし、何か自信に満ちた風格だ。
それに綺麗だ。うん。
店員が奥に行き、しばらくしてトーレスさんが出てきた。
「ニノマエ様、これはお久しぶりです。」
「うん。」
「何か売ってくださるんですか?」
そんなに持ってませんよ…。
「今日は商談というよりも、相談がしたくて。」
「そうですか、では奥に行きましょうか。」
奥の部屋に移動し、着席を勧められる。
俺は座るがディートリヒは座ろうとしない…、んーこういった時、秘書は座らないのか?
まぁ、ディートリヒの考えもあるから何も言わず、ディートリヒが疲れないよう話を早く切り上げることとするか。
「唐突な話なんだけど、トーレスさんは領主と面識がありますか?」
え、ブレイトン伯爵ですか? はい。ご贔屓にさせていただいておりますよ。」
「お願いがあるんですが、自分を伯爵に会わせてくれませんか。
もちろん、タダでとは言いませんよ。」
俺は、バッグの中からバジリスク・ジャイアントの牙を出す。
「この牙を献上するという目的ではどうか?」
「献上されるのですか?」
トーレスさんは目を丸くしている。
「そのつもりです。おそらく、今自分が持っているアイテムの中で一番高そうだから。」
「その心は?」
お、トーレスさん、あれこれ詮索することなく、いきなり懐の中に入って来たね。
俺、そういう駆け引きは大好きだ。
「他言無用でお願いします。おそらく数日後に北西のダンジョンがスタンピードを起こします。」
「え?! スタンピードですって?!」
トーレスさん、声が大きいです。
「シッ。声が少し大きいです。他言無用ですよ。」
「あ、失礼いたしました。それで、伯爵様にお会いになられる理由はスタンピードですか?」
「はい。しかし、この情報は冒険者ギルドで潰されています。なので、直談判をするって事です。」
トーレスさんは、しばらく考えた後、俺の顔を見てもう一度確認した。
「本気ですね。」
「はい。本気です。」
「分かりました。では早速伯爵様にお目通りさせていただきましょう。」
「え? 今すぐですか?」
「はい。今すぐです。さぁ、行きましょう。」
なんだ、この急展開?
まぁ、仕方ない。なるようになれだ。
伯爵の館までは徒歩数分なので、トーレスさん、俺、ディートリヒの3名で行くこととした。
道すがらバジリスク・ジャイアントの牙の使い道について聞くと、牙を研いで剣にしたりするそうだ。
牙から生まれた剣には毒性の付与が付くらしく、暗殺の道具にも使用される他、女性が持つ懐刀としても重宝されるようだ。
なんだか、これまでの世界の戦国時代のお姫さまみたいな話だと思いつつも、ものの数分で伯爵の館の門に到着した。
トーレスさんが門番に何やら話すと、すぐに門を開け中に入れてくれる。
あれ?トーレスさん、もしかして凄い権力者?と思いながらも建物を見ると、遠目では見ていたが、改めて見ると凄い建物だと分かる。どこかの宮殿みたいだ。
建物の入り口に到着すると、執事らしき人物が待っている。
「これはトーレス殿、お久しゅうございます。
伯爵は現在執務室におられますのでご案内いたします。」
「痛み入ります。」
俺たちは建物の中に入り、執務室まで歩く。
すごい建物だよ。
玄関と言うとシャビ―に聞こえるが、豪奢な扉を入るとそこは中世の宮殿のような風景だ。
吹き抜けとなったフロアにはシャンデリアがあり、通路には赤い毛氈が敷かれている。
その向こうには階段があり、まさしく舞踏会会場のような豪華な造りだ。
そのスペースを横目に1階の通路に入る。
薄暗い廊下を歩きながら、一つの扉の前まで来る。
「伯爵様、トーレス氏がお見えになられております。」
「そうか、入れ。」
おい?こんなに早く、それもスムーズに面会できるもんなのか?!
いくら何でもおかしいぞ。
「失礼いたします。伯爵様、トーレスでございます。
伯爵様におかれましては…、」
「面倒な挨拶は抜きだ。トーレス。先ず座れ。」
「は。」
なんじゃ、これ?いきなりスムーズじゃないの?
「で、今日は何用か?」
「この間お話ししておりました、ニノマエ様を連れて来ました。」
「お!それはでかした!そちがニノマエ殿か?」
「え、は、はい。ニノマエ ハジメと申します。」
うーん、読めない…、それに何で俺の事を伯爵が知っている?トーレスさん何を話した?
様々な推論が頭を駆け巡る。
「そうか。初じゃの。儂はバリー・ブレイトン、この地の領主をしておる。
トーレスから、そちの事をいろいろと聞かされておって、一度ゆっくりと話をしたいと思っていたところだ。」
ブレイトン伯爵は笑顔でいろいろと話してくれる、どうも話し好きなヒトだ。
30歳中頃といった齢か…。
「ところで伯爵様、何故自分のような下賤の者のことに興味があるのですか?」
とりあえず出方を見よう。
「そうさの。単に好奇心だ。」
ありゃ、即答だし、面白みも何もない回答だった。
「それに、これだ。」
伯爵は、俺にシルバーのバッグを見せる。
あ、あれはトーレスさんに話した信頼のおける人物にだけ渡せば良いといった秘密結社的なモノだ。
もう作ってたのか…。
「それは、トーレスさんのところで作っている製品ですね。」
「ふふ。安心せよ。このバッグの意味もしっかりとトーレスから聞いておる。そして、その知恵を授けたのがニノマエ、そちだという事もな。」
ありゃ、トーレスさん…そこまで話しているんですか…。
「ははは。些細な話をしたまでです。」
「否、これがどういう意味を持っているのかは、主は分からんのか?」
「はい。」
「これはな…、信頼と言う名の派閥だ。」
あ、政治的に使われるのですね…。怖いわ…。
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