8-2 招待状

「私、アドフォード家に仕えておりますブライアンと申します。

 以後、お見知りおきを。」

「はい。よろしくお願いいたします。」

「しかし、さすがニノマエ様ですね。私の認識阻害を軽く見破られるとは。」

「あ、あれね。ごめん。嘘ついてた。

 居なかったらそれでよし。居たら話ができるだろうって思って話しただけだから気にしないで。」

「またまた、ご謙遜を。それに私がお見受けしたところ、その二名の方も認識阻害を使われるようですね。」


 そう言えば竜人族のベリルとスピネルはスキルに認識阻害があったよな。

すっかり忘れていたよ。


「そう言えば、スキルあったね。」

「そういった経験が私を認識したのでしょうか…、私ももっと精進せねば…ブツブツ。」


もしかして、この人も残念なヒトのグループに参加するのか…?

何か怖い…。


「で、奥方様のご同行についてですが…、」

「奥方様((((奥方さま))))!?」


 残念ギャルズが急に立ち上がりクネクネし始めている。

ちょと待て!なんでアイナまで参加しているんだ?


「ゴホン…、すみませんでした。続けてください…。」

「はい。今回の夕食会については個人的な再開を目的としているため、公のものではない。

 したがって、奥方様の同伴は不要、との事です。」

「皆、よかったね。一日命が延びた。」

「しかし、カズ様だけで公爵邸に行かれるのは、いささか危険かと。

 それに、アドフォード公爵邸へは馬車をお使いになられるのですか?」

「失礼いたしました。えぇと、ディートリヒ様でよろしかったでしょうか。

明日の夕食は、メリアドール様は別宅、つまりメリアドール様の住まわれている館にご訪問いただく予定です。

別宅はアドフォード邸の隣には建っていますが、敷地も分かれておりますので、歩いてこられたしとの事です。」

「ここからどれくらい歩くのですか?」

「そうですね。10分くらいでしょうか。」

「なら問題ありません。

 それと、明日の夕食会はメリアドール様の他、何名が参加されるのですか?」

「すみません。それは私は存じ上げておりません。」

「なら、数人分を持っていった方がいいな。

 分かりました。それと、メリアドール様がお好きな料理とかはありますか。」

「先日のお好み焼きは好んで召し上がっております。

 しかし、最近は食が細く、少し心配しております。」

「ん?最近になって食が細くなられたんですか?」

「左様でございます。なにやら先週に王宮に行ってからというもの、あまり召し上がっておられません。」

「それは心配事とか、気持ちの問題でしょうか?」

「いいえ、その部分は私には何とも…。明日、直接伺ってはいかがでしょうか。」

「あぁ、そうします。それとアレルギー…、もとい、何かを食べて発疹が出るような食べ物はありますか?」

「それはございません。」

「分かりました。では、明日の夕刻…、ですが厨房を使わせていただくので午後3時くらいに行くようにしましょう。それで場所はどこですか。」

「いえ、行かれる際は私が同行いたしますので、ご心配なさらず。

 では、私はこれにて失礼いたします。」


 彼は、ご丁寧にドアから出て行った…。

この場でシュンとかいって消えると恰好良かったのに…。


「という事だから、明日はみんなで街に繰り出してくれ。

 それとお小遣い渡しておくね。」


 俺はみんなに金貨1枚を渡す。


「カズ様、これはいくらなんでももらいすぎです。」

「あのね。これはお小遣いという名の依頼なんだよ。

君たちにお願いするのは、この街で流行っている服やドレス、一番似合うものをを買って俺に見せて欲しい。それなら良いかな?」

「お館様に綺麗な服を着た姿を見せるのですね。」

「ただ、それ以上の金額の服もあるかもしれないけど、今回は金貨1枚を上限とします。

さらに、その中には明日の夕食分が含まれていますので、服で全部使っちゃうとご飯食べられなくなるから気を付けてね。

 ふふ、つまり、みんなの経済概念を調べるためのテストを兼ねた服選びだ。

 どう?やってみる?」

「で、一番主殿の眼にとまった服を着た人が、その夜を共にできる…、と。」


 全員の眼が輝いた。


「それじゃ、みなさん恨みっこなしで!」

「ダブりと後出しは禁物です!」

「むふふ…、主様と…、主様と…。」


「あのぉ~社長~。」

「はい、アイナさん。」

「私は参加できないのですか?」

「へ?」

「私も参加したいです。」

「いや、別に参加しても良いけど、夜は無しだよ。」

「ちっ…。」

「あー、もう、アイナ、この際だからはっきり言っておく。

 俺はアイナの事が好きだ。

 でも、その好きはディートリヒやナズナ、ベリル、スピネルのような好きではない。

 むしろ、どっちかと言えば娘だと思っている。

 だから…、すまん。」

「え、娘…、社長が私の…、むふふ…。パパだ。」

 

 アイナの目つきが変わった。


「おい、アイナ、パパと言う言葉に変な意味を持っていないか。」

「いえ、パパとは何でも買ってくれるヒトです。」

「お前のパパであるマルゴーさんは何でも買ってくれるのか?」

「あれは“とぉちゃん”です。“パパ”ではありません!」


 こいつ正直ウザい…。面倒くさい…。


「あのな、アイナ。俺はロリは女性として見ることができないんだ。ストライクゾーンではないんだ。」

「え、ロリ?」

「女の子って事だ。」

「私、女の子ですか?」

「そうだが…。男の子なのか?」

「そんな訳ないです。そうですか…、女の子ですか…。むふぅ~。」


 何か満足顔になっている…。

ここは放置しておこう。


「という事で、みんないいかい?」

「はい、カズ様、これでアイナは我々の中には入らない事が分かりましたので、4人で勝負いたします。」


 皆、いつもになく真剣な顔だ。

方や幸せそうににやけている奴もいるが…。


 その後、アイナを除くみんなでお風呂に入った。

女子トークは最初は楽しいけど、同じ所で話がループする…。

でも違う観点から話してくれるので、なかなか面白い。

それよりも明日はメリアドール様との再会だが、食が細いというのが気になる。


 健康状態が悪ければ“スーパーヒール”でもかけてみようか…。


 今晩は休戦協定が結ばれていたので、ゆっくり寝ることができたが、大広間に流石に6人で寝るのは寂しいもんだな…。

 ウサギ小屋のような家に慣れている俺には、広すぎるとなかなか寝れないもんだ…。


 なかなか寝付けない俺は、皆が寝ている姿を見ながら静かにバルコニーに移動し街を見る。

とても暗い。でも所々に明かりが見える。

そしてここ色街はまだ明るい。


「主様、眠れないのですか?」

「ん、スピネルか。スピネルはどうした?」

「私は主様の動く姿を感じましたので。」

「スピネルは、マナが流れ始めたら途端に魔法が放てるようになったな。

 魔法を撃てるようになって、何か変わったか?」

「はい。目の前にあった靄が消えました。

これまでは戦闘は不向きだと感じていましたが、戦い方を変えるだけでどんどん変わっていく自分を見つけることができました。ホントにありがとうございました。

主様が居なければ、あの場で死んでいたのだと思うと、あの時点では何かそれで納得していた自分がいました。

 でも今は違います。もっと向こうに何かが見えるんです。

 その見える先になにがあるのかは分かりませんが、それを主様と一緒に見たいと思います。」

「そうか。それが良いものだといいな。

ただ、忘れちゃいけない事がある。魔法はマナを使う。マナは有限だ。必ず自分が放てるだけの量を確認しておいてくれ。

 スピネルの放つ魔法は、まだ弱いものばかりだ。

 でも、そのうち大きな魔法も撃つようになるかもしれない。

 そんな時は、俺や周りの仲間を助けてあげて欲しい。」

「はい、主様。そういたします。」


 スピネルは俺の横に座り、ちょこんと顔を肩に乗せる。

その姿を感じ、スピネルの顔を持ち上げキスをする。


 俺は街の闇に紛れてスピネルにキスをする…。

このキスを受け、スピネルは色街の明かりに照らされ情熱的なキスをする…。


明日には何があるか分からない。

でも、今できることをする。それが皆へ伝えたいことかもしれない。

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