終章
Epilogue
「カズさん、そちらに行きましたよ。」
「待て~!テラ!」
「ちち~、ここまでおいで~!」
「テラ、そんなに走られると転びますよ~!
って、あらあら、言わんこっちゃないです。泥んこじゃないですか!」
庭で子供と親が追いかけっこをしている、どこにでもある家庭での風景…。
あれから5年…。
クローヌに公共浴場を完成させ、旅館や街の運営も順調だ。
特に、少し温めのお湯に水着を着て家族で遊べるスペースを作った施設が大ヒットした。
おかげで連日大盛況。
オープン前日には、王様にも来ていただき、温泉を堪能してもらった。
公共浴場での雇用は街のヒトのほとんどが関わっている。
ある人は清掃、ある人は食事処、ある人はお土産屋さんなど、多種多様な仕事を展開している。
今日は月一回の繚乱全店舗での連休日。
シェルフールでの従業員さんも全員この館にやって来る予定だ。
子どもは6人。皆健やかに育っている。
メリアさんとの間にできた子はテラと名付けた。今や6人のリーダー、元気いっぱいの男の子だ。
次にディートリヒがウッディを、ベリルがファイ、ミリーがゴル、ナズナがクレイ、最後にレルネさんとの間にアクアが産まれた。
他種族間で子供ができるのは稀なことで、ベリル、ナズナ、レルネさんも妊娠した時は驚いていた。
特にレルネさんとナズナは、殊の外喜んでくれた。
子どもたちは全員このクローヌで住み、すくすくと育っている。
レルネさんとミリーはシェルフールでの仕事が終わると、正に言葉通り、館に一目散に飛んで来る。
メリアさんは王宮との調整や外交などで外出する機会が多く、子どもたちはクラリッセさんが一手に引き受けてくれている。
「旦那様、今日の夕飯はベリル様たちが捕って来られる肉でよろしいですか?」
「そうだね。あとはこの間、湖で捕って来た魚介類を使ったパエリアも作っておこうか。」
「分かりました。早速準備いたします。」
屋敷の中はメイドさんズに任せているが、料理人と庭師についてはカルムさんのところで家族で奴隷となっていたケリガンさん一家に任せている。
その家族のミナちゃんとヤン君は6人の子守役だ。
「お館様~今日も大量です!」
「お、ナズナ、ベリル、ニコルお帰り!怪我はない?」
全員にキスをする。
「お館様は心配性ですね。今日は19階層までですから、ケガもありませんよ。」
「主殿、次回はもう少し深層に行きたいのですが。」
「だめだよ。ベリルはお母さんなんだし、この街に残った土建班の師匠なんだからね。さぁ、今日はシェルフールのみんながここに来る日だから、早めに風呂に入ってさっぱりしておいで。」
「はい(((はい)))」
ザックさんの所で働いていた土建班のほとんどがこの街に残り、ディートリヒとベリルに毎日稽古をつけてもらっている。
おかげで土建班のみんなはシャベルやスコップだけで魔物を倒すことができるくらいになり、日に日に強くなっているんだが、この土建班はどこに向かっているんだろうか…。“闘う土建班”なのだろうか?
「ディートリヒ、みんなは後何時間で来る?」
「そうですね、あと1時間くらいでしょうかね。」
「じゃぁ、準備を進めておこうか。」
屋敷の裏には大きなバルコニーと庭を作った。
そのバルコニーで今日は“大焼き肉大会”だ。
相変わらず、皆は無双状態で、下手をするとこの街にあるダンジョンを単独で踏破するくらいに強くなっているが、当の俺は、60に手がかかる齢になり、日に日に体力が衰えていくのを感じている。
仕方がない事だ。寄る年波には勝てないけど、皆の笑顔を見ているだけで満足だ。
向こうの世界とは3年前に訣別した。
いろんな方法を検討したけど、運が良かったのか悪かったのか、たまたま大地震が発生し、多くの人が亡くなった。
災害を指揮するアドバイザーとして被災地に派遣されたのだが、その場所で二次災害を受け死亡したという事にした…。
妻は残った俺の遺品を見て茫然としていたが、安置場から出た瞬間、補償金の話とか賠償をどうするかなど、弁護士とニコニコ話している姿を見て、その姿を見なければよかったと後悔した…。
やはり、行きつくところは金なんだよな…。それなら早めに離婚でもしておけば良かったと自分自身に後悔した。
「旦那様、よろしいでしょうか。」
頭上から低い声がする。
おぉ、執事のグレイさん。
「グレイさん、どうした?」
「本日のパーティーですが、単品でサーブするとお皿が足りなくなるかもしれません。」
「それじゃ、串に刺して焼くかい?」
「そうですね。その方がお子様たちも野菜も食することもできますね。では、ブレアに頼んでおきましょう。」
グレイさんはシェルフールの冒険者ギルドから紹介を受けた。
元冒険者でスカウトとして活躍していたんだが、右腕を欠損してしまい、冒険者を引退したヒトだ。
勿論、右腕は治癒魔法で治し、今やグレイさんは執事の仕事だけでなく、ナズナやサーシャさん、ネーナさんにスカウトの極意を教えてくれている。
そして、クラリッセさんとも仲が良く、そろそろ二人の良い報告がされることを待っている状態だ。
「カズ様、レルネ様から連絡がありました。」
「あと1時間くらいだっけ?」
「いえ、あと2時間かかるようです。途中でザックさんの一行と合流し、キャラバンを組んでこちらに向かっているようです。」
「という事は50人は越えるね。食材は大丈夫かな?」
「食材は問題ありませんが、お休みされる場所を割り振る必要がありますね。」
「今、空いている家は何棟ある?」
「そうですね…、入り口に2棟、その向かいに鍛冶棟が1棟、従業員用の家が2棟ありますので、従業員用の2棟と入り口の1棟でザック様のご一行に休んでいただくようにいたしましょうか。」
「うん。残りの1棟と鍛冶棟でみんなに休んでもらおうか。」
「では、そのように手配します。それと、レルネ様、スピネル、ミリー、アイナはカズ様のお部屋でお休みされるという事でよろしいですか?」
「スピネルはベリル、ミリーはニコルと一緒の方が良くないか?」
「それはいけません。彼女たちも早く自分の子が欲しいと申しておりましたので…。」
ま、そのあたりはみんなに任せるよ。
それに休みは今日だけじゃないからね。
・
・
・
「それでは、みなさんお疲れ様でした。
今日は思う存分食べて飲んで楽しんでください。
それじゃ、乾杯!」
「乾杯!(((((乾杯)))))」
バルコニーに50名以上が集まり、串を食べている。
皆、笑顔だ。
ザックさんたちも皆笑顔だ。
「カズさん」
「どうした?メリアさん。」
「こうやって見ますと、カズさんの人柄がこれだけのヒトを集めたんですね。」
「それは俺だけの力じゃないよ、メリアさんやレルネさんの力もあるんだよ。」
「それでも凄い事ですわ。」
「なぁ、メリアさん…」
「何ですか?」
「幸せかい?」
「はい!とても!」
「ありがとね。」
「こちらこそ、これからも一緒ですよ。」
メリアさんが、皆の相手をするため移動していった。
一人椅子に座り、皆が歓談している姿を見る。
「カズ様、どうかなさいましたか?」
「あ、ディートリヒか。いっぱい食べてる?」
「はい。ウッディたちも元気一杯、食べてますよ。」
ディートリヒは、いつものように俺の左側の椅子に座る。
「あれから5年か…。長いようであっという間だったね。」
「はい。毎日が楽しくて仕方ありません。」
「それは良い事だね。
ディートリヒ、突拍子もない事だけど聞いていいかい?」
「はい。」
「俺は自分の魔法で皆を笑顔にさせたんだろうか。」
「カズ様、また難しいことを考えておられるようですが、カズ様が仰る“笑顔”は、魔法だけで笑顔になんてなれないのではないでしょうか。それに…」
「それに?」
「いろんな事を考えて、その“言の葉”を繋いでくださることが笑顔になるんだと思います。
私は、そういった事ができるカズ様のような方にお仕えできただけで幸せです。」
「ディーさん、ちょっと違うぞ。
ディートリヒは、俺がこの世界に来て初めて愛した女性だ。お仕えではなく、一緒に助け合って生きていくと決めた最初のヒトだ。
それにありがとね。俺をいつも助けてくれて。」
「ふふふ、そうでしたね。ありがとうございます。」
二人でしばし皆が笑っている姿を見つめている…。
「カズ様、一つお願いがあるのですが。」
「ん?」
「カズ様がいつも歌われている歌を歌ってくださいませんか。」
「下手だけど構わないかい?」
「そんな事はありませんよ。」
・
・
・
僕を喜ばせるために変わろうとしないで
ここまで僕たちはやってこれたんだ
…
僕は素顔のままの君を愛している
君への思いは言葉にならない
…
そんなに頑張らなくてもいいんだよ
素顔のままの君でいて欲しいんだ
…
I Love You, Just the Way You Are.
・
・
・
夜空に星が煌めく。
笑い声が木霊する。
グラスとグラスが重なり合う音が聞こえる。
悔いのない生き方をする…、俺が生きてきた証だ。胸を張って誇りたい…
そのために神様がくれたチャンスなんだ。
チートだとかお気楽主義だと言われていも良い。
それが俺の生きる道であり、ここが俺が生きる場所だ…。
「よっこらしょ、っと。」
口癖となったパブロフのワンコ呪文を唱えると、おっさんはディートリヒの手を取り、皆の笑顔の中に消えていった。
~Fin~
Thank you for reading this tales.
地方公務員のおっさん、異世界に出張する? 白眉 @kazaya
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