12-20 胸を張って生きていこう!
『心の中にあるモノ?』
『はい。ヒトは相手と接する時、必ずと言っていいほど、自分と相手を比較する…、 自分にとって、そのヒトがどういった存在になるのか、有益なのか有害なのかを見極めようとします。
その自然と行われる比較というものは、”自分”という尺度で物事を考えてしまうのです。
おそらく、メリアドールさん、ディートリヒさんは、ご自身を治癒してもらった、助けてもらったという事が、お二人の尺度でニノマエさんを大きくし、自分にとって無くてはならないヒト、その感情が”愛している”と思われているのではないでしょうか。』
『セネカ様…、確かに私たちはカズさんに命を助けられました。
ですが、その助けられたことが愛に変わったという事ではありません。
カズさんの考え方や”ヒトとなり”、そして弱さと脆さ…、すべてひっくるめて愛していると断言できます。』
『メリアドールさん、試すようなことを言って申し訳ありませんでした。
あなたのニノマエさんへの思い、しっかりと伝わりました。
ディートリヒさんは、ニノマエさんと果てるまで一緒にいたいと仰っておられましたね。
そんなニノマエさんを愛していただき、ありがとうございます。』
『いえ…、でも、今回は私の私怨でカズ様を苦しめてしまいました。
それは私のせいです。』
『ディートリヒさん、それを言うなら、私がそうさせたのですから、責任は私にあるのですよ。
ただ、ニノマエさんが全員を殺めるという事までは想定しておりませんでしたが、おそらくニノマエさんの中には、皆さんの手を汚したくないという気持ちがあったのでしょうね。』
『はは、お恥ずかしい。
それで自爆しちゃいけなかったんでしょうね。』
『それがニノマエさんのやさしさですよ。
話がそれてしまいましたが、みなさんがニノマエさんの心の中にあったポリアモリーでしたか?
大勢の女性を愛するということが、この世界で認められるのかといった苦悩や抵抗を無くしてくれたんです。
それはこの世界でしか考えられない事であり、文化でもあるんです。
ただ、この考えはニノマエさんの住んでいる世界ではまだまだ先…、数百年先の話になりますけど。』
『俺は自分の居た世界が100で、この世界が0だと勘違いしていたんだ。
だから、自分が踏ん張ってよりよくしていければ、と動いていたんだけど、それは間違いだったんだ。俺の固定観念だけで動いていたんだ。
この世界にはヒトの温かさがある。
ヒトとヒトとが接することで、文化というものは何倍にも膨れ上がるんだ。
でも、この世界の事を蔑ろにするわけじゃない。時には誰かが傷つくこともあるかもしれない。だから、皆の意見を聞き、みんな一緒で行動していく。
それがこの世界の文化を上げていくことになるんだ。』
『という事でニノマエさん、この世界で生きて行かれる決心は分かりました。
向こうの世界での別れはどのようにしますか?』
少し考える。
地方公務員の退職金なんてたかが知れている。それに今まで国や地方に支払ってきた税金や年金の積み立てをそのまま国などにくれてやるのも癪だ。
なら、国から賠償金とかもらえるような事はできないか?
『ニノマエさん…、えげつない考えですね…。』
『あ、考えていることがすべて伝わるんでしたよね。
国に賠償請求できる事なんてそんなになかったはずですから、残した家族だけでも食っていけるだけで問題はないですね。』
『それでは、ニノマエさんが休日出勤ではなく、通常の出勤時に某国のミサイルが飛んできたとかにしますか?』
『それだと、戦争になりますよ。あ、そう言えば来週上京する予定があるので、その時に事故が起きたという事で…。そうですね…。バッグの焼け跡くらいは残しておいて、後は何も見つからないというのはどうです?』
『ニノマエさん、やはりえげつないです。
他人を巻き込むことは、向こうの神様と調整が難しいんですよ。』
『では、自殺は?って、生命保険が入らないか…。』
『あ、そう言えば、ニノマエさんは子供の頃、予防接種打たれてましたよね。』
『あ、それですか。
それなら、給付金制度がありましたね。』
『それじゃ、それが一つと後はお約束の交通事故くらいですね。』
『ははは、セネカ様もだんだんとどす黒くなってきましたね。
あ、ごめん。メリアさん、ディーさん、すまないね。』
『い、いえ…。
カズさんは神様といつもこんな話をされているんですか?』
『いつもはマナを使い過ぎだとか、叱られていますね。』
『あの…、カズ様…、神様とは一体どのような関係で…。』
すぐ訣別という訳にはいかず、給付金も申請から認定まで結構時間がかかるようなので、弁護士さんに頼むことにして、終活というかエンディングの部分はやはり交通事故という形で。
背丈のよく似たこの世界でお亡くなりになった人に一役買ってもらう事にしようか、それも迷惑がかかるのなら、何か良い策を考えなければ…。
完全燃焼してしまえばDNA鑑定も不可能だから、遺品を残しておくのが良いか…。
あとは、死んだあとに文句言われるのもイヤだから、俺の机の引き出しの奥の金塊も少し増やしておこうか。
何となく終活の場面も決まり、ふと思った事を聞く。
『そう言えばセネカ様、あの5人の子供って…、もしかして』
『そうですよ。この世界に生まれてくる10年後のお子さんの姿です。』
『えーーーーーーー(えーーーーーー)!』
全米中の2名だけが絶叫した…。
『セネカ様、カズさんとどなたの子なのでしょうか…。』
メリアさんがおずおずと聞く。
『そうですね…、
木がディートリヒさん、火がベリルさん、金がミリーさん、土がナズナさん、そして水がレルネさんですね。それに既に名前も決まっているようで…。』
『そうなんですか…』
メリアさんが落胆する…。
『あ、メリアドールさん。申し訳ありませんが、この世に既に生を受けている子については、今回あのように出せませんでしたので。』
『え、それは…、どういう意味でしょうか…。』
『既にメリアドールさんのお腹の中にはニノマエさんとの間にできたお子さんがいますよ。』
『えーーーー((えーーー))!!』
全米中の3人だけ絶叫した…。
コンタクトが終了し、なんか精神的に疲れた…。
だが、メリアさんとディートリヒは、遥か向こうの世界に居る…。
それにクネクネしているんだが…。
「はは…。なぁ、メリアさん…。その…、いいのか?」
「何を言ってるんです!こんなに嬉しいことはありません!
それに、カズさんの子が6人なんです!忙しくなりますね!
ディートリヒ、あなたも来年ですからね。ちゃんと準備してくださいね。」
「奥方様…、私のような者がカズ様のお子を産んでもよろしいのでしょうか。」
「何を言ってるのです!これほど素晴らしいことはないんですよ!
さぁ、みんなでお祝いです!」
寝室を出て、リビング・ダイニングに行くと5人が居た。
セネカ様に言われた後だからかもしれないが、よく見てみると、どこかみんなに似ている。
「おっちゃん、俺達、そろそろ帰るからな。」
「おう、それじゃ、また会おうな。」
「忘れんなよ。俺達大食いだからな。」
「任せとけ!」
ウッディ、ファイ、ゴル、クレイ、アクア全員を抱きしめる。
「おっちゃん、いてーよ。」
「我慢しろ。こうやって抱きしめてやれるのは数年先になっちまうからな。」
「おいちゃん、また遊んでね。」
「おう!みんな待ってるからな!」
5人の周りに淡い黄色の光が集まり、淡い光が消えていくと同時に5人は笑いながら消えていった。
何故か涙が溢れてくる…。
こんなおっさんで、自分の中でグダグダしている弱い奴が大きなファミリーを動かしていく。
この世界の文化を尊重し、そして向こうの世界の文化を紹介していく。
すべて受け入れる。それが大切なんだ。
「なんか、そういう事なんだな…。」
「はい!カズさんは私たちの主なんですからね。」
「そうですよ。もっと楽しみましょう。」
・
・
・
自分が死ぬ時、胸を張って生きてきたと言えるか…。
生きていく中では、自分の考えや思想が受け入れられないかもしれない…。
その中でも個を尊重し、組織として動く…。
そんな事ができることなんて、絵空事なのかもしれない。
でも、俺のように、どこかで歯車があう事もある…。
大きく動く事もほんの小さな些細な事が動くきっかけがどこかにあるかもしれない。だから、みんな胸を張って生きていく。
良い事ばかり起きるとは限らない。
悲しいことだって起きる。
いつの世も、マイノリティーは静かに身を隠しているのが常だ。
でも、考えて欲しい…。
ひとつ視点を変えれば、違う世界もあるんだ。
そういう経験をしたヒトも居ると思う。
なら、皆、胸を張って生きて行こうじゃないか!
・
・
・
翌朝、クローヌに向かって馬車を走らせる。
「皆、それじゃ、行きますか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます