10-31 妻たちとの会話

「では、明日全員で約束の紋章を彫りにいきます。カズさん、それで良いでしょうか?」

「お、おぅ…、でも良いのかい?綺麗な肌にTatooを入れることになるんだよ。」

「旦那様、そんな事構いませんわ。

 あの下着とこの生活です。一人部屋で暮らすこともできますし、あのような美しい服を着て好きな仕事ができますし、そして何よりもこの紋章…、素敵です!」


サーシャさん…、何故か眼がイっちゃってる…。早く戻ってこーい!


「では、話を戻します。

 カズさんは、この世界で生まれたヒトではなく、いわゆる“渡り人”です。

 したがって、カズさんの知識はこの世界よりも数百年も進んでおります。

 それをこの世界に順応できるよう、皆さんの生活の向上に励んでおられます。

 今晩いただきました料理も、向こうの世界のモノですし、それよりもここでは柔らかいパンを食べることができますから。」


「あの、奥方様、柔らかいパンとは何でしょうか?」


あ、アデリンさんとレイケシアさんは食べていなかったな。


「これだよ。」


アイテムボックスの中からパンを出す。


「これがパンですか?食べてもよろしいでしょうか。」

「うん、い…。」


言う前に食べてる…。


「柔らかいですし、美味しいです。」


まさにハ〇ジの白パンだ。


「コホン…、という訳で、この店とクローヌの屋敷で働いている間は、食についても満足されることだと思います。

 衣・食・住、これが整っているのは、ここカズさんの元でしかありませんよ。」


いつの間にか、話が秘密ではなくなって、生活向上のプレゼンになっているんだが…。

まぁ、いいか。


「んと、おれからも一つ言わせてもらいたいけど良いか。」

「カズさん、どうぞ。」

「もう、知っているヒトも居るけど、皆にはお給料を渡したい。

 一人、月大銀貨30枚でお願いしたい。あ、アデリンさんのお針子さんはどうした方がいい?」

「社長、そりゃ、それだけもらえると彼女たちも嬉しいと思うが…。」

「んじゃ、全員一律大銀貨30枚でいいか。

 あと、お休みも月4日は取りたい。つまり、一週間に一日はお休みすること。

 それと下着を10セット渡すから、後でディートリヒやアデリンさんに採寸してもらって。

ただ、誰にも言わないって事が前提ね。」

「という事ですが、皆さん守れますか?」


全員がすごい勢いで首を縦に振っている。


「みなさん、ありがとうございます。

 では、繚乱ファミリーの一員として皆さんをお迎えします。

 皆で盛り立てて、繚乱の名を王国に轟かせましょう!」

「はい!(((((はい!)))))」


皆の眼がキラキラとしている。

その後、採寸をしながらガールズトークが始まる…。


俺は目のやりどころがないから、風呂にお湯を入れていっぱいになるまで自分の部屋で待つ。

20分くらいか…。さて、お風呂に入ろう。


なんだかんだあったが、皆がやる気になってくれたことが嬉しい。

ヤットさん、ラットさんも酒を飲みながら風呂に入っているのだろうか…。


 屋外の浴槽に入る…。

久しぶりの我が家だ…。風呂に入るとつくづく思う。

家が一番落ち着く…、どこかのおばちゃんが言う言葉だが、この言葉に変え得る言葉が見つからない。


カラカラ…。

風呂のドアが開いた…。

ん?誰だろう?


「カズさんの家には、こんな素晴らしいお風呂があるんですね。」


あ、メリアさんか…。

って、おい!いいのか!まだ結婚もしていないぞ。


「メリアさん、あの…、まだ早いのでは?」

「カズさんの中身はお子様ですね。私は皆のように若くはありませんし、その…、見せられるものではありませんけど。」


そう言われると見たくなるのが漢だ。

うわ、すごく綺麗。それに美しい。

えと、いくつだっけ?30代後半?全然そう見えない。


「カズさん、そう見られると恥ずかしいです。」

「あ、ごめん。メリアさん。

 でも、すごく綺麗です。」

「そう言われますと、嬉しいですね。

 でも、私の身体は一度ご覧になっていますけど?」

「あ、治療の時ですか…。

 しかし、あの時は寝巻を着ておられましたし、今よりも痩せておられました。」

「そうは言っても、アドフォード公爵家の女主人の寝姿を診ているのですからね。

 罪ですね。」

「あ、治療という名のセクハラという事ですかね。」

「“せくひゃら”が何かは存じませんが、私は気にも留めていませんし、何よりも私の病気がカズさんとの縁を取り持ってくれたと思っています。

 神様がいらっしゃったら、お礼を申し上げたいです。」

「あ、神様ですか。なら、一度話しをしておきますね。」

「え…?神様?」

「あ、いつか逢えればという事ですよ。

 メリアさん、髪を洗いましょうか?」

「是非、お願いいたします。ビーイでは“病み上がり”ということで洗っていただけなかったので。」

「そうでしたね。それじゃ、ここに頭を乗せてくださいね。」


ゆっくりと髪を洗い始める。


「メリアさん、ビーイでもしゃんぷりんをお使いになってくださってたんですね。」

「カズさん…、もう、さっきみたいに普通に話してください。」

「うん…。ごめん…。さっきは少し背伸びしてました。

 でも、二人の時はどうしてもこうなっちゃうんですよね。」

「ふふ。良いですわ。でも、そのうち直してくださいね。」

「はい…。善処します…。」

「しかし…、カズさんは髪を洗うのがとてもお上手なんですね。」

「そんな事はないです。だって俺、スキンヘッドですから。」

「こうやって、女性の髪を何人も洗っていらっしゃったんでしょうね。」

「こちらでは、ディートリヒたちの髪の毛は俺が洗っているからかな。」

「そうなんですね…。少し妬けますね。」

「メリアさんの髪も洗いますし、これからも彼女たちの髪も洗いますよ。

あ、そうだ。メリアさんに話をしておかなければいけない事がありました。

それと、そこで聞き耳立てているレルネさん、そろそろお風呂に入らないと風邪をひきますよ。」


カラカラとドアが開き、レルネさんが入って来た。


「なんじゃ、イチ。知っておったのか。」

「そりゃ、索敵魔法も持っていますから、というより影が映ってましたよ。」

「そうか…。イチも難儀よのう。」

「レルネさん、メリアさんとは初見ですか。」

「いや、何度も会っておる。じゃが、メリアドール女史が儂を知っているかは不明じゃが。」

「ふふ。レルネ様、よ~く存じ上げておりますわ。

 ハイエルフで精霊の守り人レルネ…、誰も知らないヒトは居ませんわ。」


なんだ、その二つ名は?

精霊の守り人?すっごく格好いいじゃないか。どこかの薬草おっさんとは大違いだ。


「古い話よの。じゃが、こうやって同じ男の妻となったのじゃ。よろしく頼むの。」

「こちらこそよろしくお願いいたします。

 でも、私が正妻で良いのですか?」

「その方がイチにとって都合が良いじゃろ。」

「ふふ。その通りですね。」

「さてイチよ、先ほど言っておった話の続きを教えてくれぬか?」

「あ、そうでした。

 俺は神様との約束で30日間こちらに来て活動しています。30日に一度これまでの世界に戻り、また戻ってくるという生活を3か月ほどしております。

一回目はスタンピードで、二回目はレルネさんの郷。

そして今回が三回目となっています。」

「カズさん、たった3か月でここまで生活を変えることができるものなのですか?」

「それは俺だけではできませんよ。こうやってメリアさんやレルネさんと夫婦になったり、ディートリヒやナズナ、ベリルといった伴侶、トーレスさん、カルムさん、ジョスさん、マルゴーさん、ザックさんといったヒトとの繋がりを持つことで成し得たことだと感じています。

 そして、明日の夜、3回目の生活が終わるという訳です。」

「カズさん、戻って来られるんですよね…。」


メリアさんが悲しい顔をしている。


「勿論ですよ。

 それに、俺が向こうの世界に行っている間は、皆さんは寝ています。」

「そのことを知っているのは?」

「ディートリヒ、ナズナ、べリル、スピネルです。」

「そうですか…。彼女たちはカズさんにとって特別なヒトなんですね。」

「そうですね。でも皆同じですよ。」

「イチは優しいからの。それに苦悩を分かち合っているというのが分かる。」

「レルネ様、私もそんな存在になれますか?」

「何を言うとる。メリアドールは、すでにイチの心におるではないか。」

「そうなのですか?」

「イチの顔を見れば分かる。メリアドールはカズの一部じゃ。」


メリアさん、泣き出しちゃった…。

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