10-32 メリアドールのリスタート

「3年前、亭主が戦死した時から、私の時間は止まっていました…。

 何をしてもアドフォード家のためだとか、次期当主のヴォルテスを育てあげるまでとか、私自身を含め皆が、私を女性としてではなくアドフォード家の当主でしか見ていませんでした…。

 でも、先日ブレイトン伯爵家での報告会の際、カズさんを一目見て雷に打たれたような気分になったんです。

 このヒトなら、私を…、今の状況を変えてくれるかもしれない…、そう思って近づきました。

 ふふふ…、結果はこのお風呂の状態です。

 カズさん、私を助けてくださってありがとうございます。」

「いや、ありがとうは良くないよ。

 ありがとうじゃなく、俺からも言わせてほしい。

 これから、よろしく頼みます。

 俺は凄く弱い…。それが分かっているから、みんなの助けが必要なんです。

 メリアさん、レルネさん、これからよろしくお願いします。」


 洗い終えた二人の髪をタオルで包み、もう一度湯船につかる。


「しんみりしてしまったのぅ…。」

「でも、こんなに幸せな時間を過ごしたのは何年ぶりでしょうか。

 それに殿方とお風呂に入ったのも…、ふふ。」

「という事は、今晩は正妻の番じゃろて。」

「あ、明日帰りますので、それも考慮していただけると…。」

「ん?明日は儂、と言うのもディートリヒたちが暴れそうじゃから、明日はメリアドールと儂でイチの帰りを待つとしようかの。どうじゃ、メリアドール?」

「レルネ様、メリアとお呼びください。」

「なら、儂もレルネで。」

「ふふふ。」


何故か奥方ズが団結してしまったよ。


「あと、ミリー、ニコル、アイナも愛してあげないといけないんですが…。」

「なんじゃと、このヘタレ!主はまだ手を付けておらなんだのか!」

「ヘタレと言われても…。

その…、ムードも大切だと思いまして、シェルフールに戻るまでは待って欲しいと伝えた訳で…。」

「このヘタレが!はよう手を付けて来んか!」

「と言われましても、俺はおっさんだから単発しか撃てない訳で…。それなら時間をかけてと…。」

「まぁ、そんな素晴らしい時間があるのですね。

 では、今宵は私、明日はレルネと私で。カズさんが帰って来られたら、ゆっくりとその3名を愛してあげてください。」

「えと…、メリアさんはそれで良いんですか?」

「問題ありません。それよりも妻と伴侶以外のヒトに手を出さなければ良いのです。

 私たちを含め9名も居れば問題は無いでしょうから。」

「束縛とかはしないんですか?」

「誰しも強い殿方を好きになるものですわ。女性の数が多ければ多いほど強いという事です。

 回数は減るかもしれませんが、その分みっちりと愛していただきますわ。」

「あの…、愛してではなく、愛し合っていくので…。」

「あ、すみません。私ったら。いろんな意味で期待しちゃってます。」

「ふふ、イチよ。そう言う事じゃ。

 今晩の件は、ちゃんとディートリヒらには伝えてあるから大丈夫じゃ。

 まぁ、あの三人はブー垂れていたがの。それでも正妻の方が上じゃと分からせないとな。

 メリア、儂が言うのもなんじゃが、イチは凄いぞ。」

「まぁ、そんなに!では、カズさん、早速行きましょう!」


 って、手を引っ張られて連れて行かれた…。

「さぁ、カズさん、どうぞ!」

「あのね…、メリアさん…。どうぞと言われて、『おう!』と突っ込むのは若いヒトだけです。

 俺、もうおっさんですから、そんなことしたら死んでしまいますよ。」


『いくぞ!』『おう!』って言って変身するのは超人バ〇ム1だったよな…。


「あら、そうなんですね。」

「それに、俺はそんなに強くありませんからね。それだけは言っておきますよ。」

「ふふ、何が強いのかは分かりませんが…。どうでしょうかね。」

「期待しすぎて後でがっかりされても困りますから、って、こんな事言っている場合じゃないんですよ。

 普通、愛し合う時ってムードというか雰囲気が必要なんじゃないですか?」

「男と女がまぐわう事に雰囲気が必要なんですか?」

「って、ユーリ様やティエラ様との話を聞いていましたよね。」

「そんな世界もあるんだなぁ…と思ってはいましたけど、私には関係の無い事でしたから…。」

「もう…。そうやって茶化してはぐらかしているメリアさん…、可愛いですよ。」

「え、あ…、バレてましたか。」

「普通で良いんですよ。自身が好きなようにすればいいんです…。」


バード・キス、キス、そしてフレンチ・キス…。

抱きしめながら耳、首筋に口づけをする。

メリアさんが甘い吐息を出す。

ゆっくりとゆっくりと、お互いの体温を感じ、温かさを感じる。


「カズさん…、こういった愛され方もあるんですね…。」

「すみません。俺にはこういう愛し方しか知りません。」

「うふふ。ユーリやティエラが蕩けると言った理由が良く分かりました。それに口づけ…、キスにもいろいろな種類があって、一晩で覚えるのは無理ですね。」

「そんな事はありませんよ。自分がしたいように、思うように、決して我慢しない事です。

 メリアさんのありのままを俺にください。」

「カズさん…。私の思いは止まりませんよ…。それでも受け止めてくださいますか?」

「はい。いつでも受け止めますよ。」


今度はメリアさんがゆっくりとキスをしてくれる。

そして、お互いの身体をキスしていく…。


「え、カズさん、そんなところまで…。

イヤ…。あ…、気持ちいいです…。」


メリアさんが背中を反らせ、ビクっとする…。


「これが、カズさんと愛し合うという事なんですね…。素晴らしいです。

 …では、お返しです。」


今度はメリアさん蕩けそうな眼で…。


「メリアさん、そのまま寝てください。」

「え、あ、そんな…、わ…、すごい……、すごいです…。」


メリアさん、蕩け始めた…。

もう少し愛し合うのも良いけど、メリアさんの腰がガクガクしてる。


「メリアさん、一つになりましょう。」

「はい!」


ゆっくりとゆっくりと体温を感じながら一つになる。


「こんな凄いなんて…。

 カズさんが私の中に居ます。

 凄く嬉しいです…。」


メリアさん…泣いちゃってる。

俺はメリアさんの涙にキスする。


「カズさん、動かないんですか?」

「動いちゃうと、すぐ終わっちゃいますから…。それよりも、このままキスして抱き合っていることが良いんです。」


少し動くと一つになった部分も動く…。そして感じてしまう。


ゆっくりとゆっくりと時が過ぎていく…。



メリアさんが俺の左の胸で寝ている。


「カズさんは凄いですね…。何度もイってしまいました…。」

「それは良かったです。おっさんが言うのも何ですが、我慢せずこういった時に解放してもらえると良いんだと思いますよ。」

「そうですね…。ユーリ達も言ってたように、所詮女は…、という見方ではなくなりました。

 女性も強くあるべきです。それをカズさんに教えてもらいました。」

「メリアさんは、これまで気丈夫におやりになられていたんだと思います。

 その心労が祟って病気になったのではと思います。

 何事も頑張ってはいけません。踏ん張れば良いんです。」

「頑張りと踏ん張りですか…。カズさんはなかなか難しい事を仰りますね。」

「いえ、自分の持てる力を出すことが踏ん張りです。それ以上は出さないという事です。」

「そうですね…。

 前の亭主が戦死したアドフォード家はお終いだ…、お家断絶だ…、格下げだと言われてきたことに頑張り過ぎたんですね…。

家を残さなければという思いが強かったんだと思います。

だから、女傑とも女帝とも嘲笑されても負けなかったんですね…。

でも、いつかはガタが来る…、頑張った反動だったんですね。」

「辛かったんですね…。でも、もう頑張らなくていいです。

 戦死された公爵様に代わって、俺はメリアさんを守ります。」


メリアさん…、また泣いちゃった。


「今日は、涙が枯れるまで泣いてください。そして明日から笑顔でいきましょう。」

「ぐしゅ…。

 そうですね。今日は3年ぶりに思いっきりカズさんの胸で泣かせてもらいます。

 その後は、もう一度…、お願いですよ。chu」


うん良いよ…。メリアさんの3年間が埋まるまで愛し合うよ…。

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