11-24 美味しいクレープ

翌朝9時、全員が店に集合した。


店番をしてくれるレイケシアさん、クラリッセさん、ドワさんズ、そしてアデリン班はここに残ってもらい、全員でマットさんの店に行く。

すごい人数だ。


昨日から瓶に入れて放置してある牛乳をバッグに詰め込んである。


「マットさんは、この“くれいぷ”を焼く名人という事でいいですか?」

「おう!社長、その通りだ!何枚も焼けるからな!」


 クレープは薄く焼くのだが、均一に焼ける道具を持っているかと確認する。

お、取っ手のついた木の板があるね。良き良き。


「それじゃ、これから“くれいぷ”を劇的に換える魔法の道具を作ります!

 ま、バターがあるんだから、生クリームもできるんだが、誰か“生くりいむ”とか“ほいっぷくりいむ”の存在を知っているヒトはいますか?」

「生クリーム?ホイップクリームですか?どんなものでしょうか。」

「うん…、俺には説明できないんだが、要するにバターの親戚のようなもので、牛乳の中の物質が多くなったもの。としか説明できないです…。」

「よく分かりませんので、それを見せていただくことはできますか?」


瓶に入った牛乳を取り出す。


「ここに上下に分離している層があるのが分かるよね。この上の層をクリームと言います。

 これを木べらでそっと取っていきます。あ、瓶は20個ほど作っておいたから、みんなでやってね。」

「はい(((((はい)))))」


皆でクリーム層を取り出していく。

ま、これでクリームができた訳なんだが、いまいち作り方がこれであってたのか思い出せない。

そうだよな…これまでの世界じゃ、スーパーに行けば“生クリーム”で売ってるんだから、態々作らないよ。

しかし、このような作業でクリームを作っていらっしゃる生産の皆さんに感謝だよ。


「それじゃ、クリームを5つのボウルに集め、みんなでかき回します。

 その前に、砂糖と蜂蜜、あとは甘い香りのするハーブなんかを少し入れておきます。

 あ、かき回す道具はこれを使ってください。これ、企業秘密ね。」


 泡だて器だ。

この世界で見たことがなかったから、粉物をかき混ぜるために持ってきたんだよ…。


「結構、力が必要なんで交代でかき回して。で、だんだんとふわふわになってくるので、途中途中道具をボウルから上にあげて、泡に角が立てば出来上がりです。」


みんな真剣にやってる。面白いのか、皆がボウルをかき回す姿は家庭科の実習を思い出す。


「マットさん、クレープ何枚くらい焼けましたか?」

「今、10枚くらいだ。まだまだ焼くかい?」

「そうですね、店番をしてくれている子にも渡したいので、あと20枚は焼いてもらえませんか。」

「分かった。」

「カズ様、ほとんどのボウルがふわふわになりました。」

「んじゃ、次の行程に入ります。

 このふわふわしたものがホイップクリームと言います。ミオさん少し指に付けてなめてみて。」

「はい。あ、甘~い。おいし~。」

「です。これが繚乱の秘密のレシピです。」

「イチよ…、こんなことまで知っておるのか?主の知識は底なしなのか?」

「いえ、昔、畜産農家さんと知り合いになって、そこで生乳を搾った時に教えてもらった方法なんですがね。こんなところで思い出すなんて良かったです。

 あ、残った牛乳ですが、飲みやすくなっていると思うので、試しに飲んでみるといいですよ。」


クリームと分離した牛乳は脂肪分が調整されているから、飲みやすいんだよね。


「さてと、それじゃ、ここからが“クレープ”の真骨頂!

 ケイシーさん、今食べたい甘い物って何?」

「そうですね…、アポーでしょうか。」

「んじゃ、そのアポー…、ってリンゴか…。を薄く切っていきます。

 クレープの上にクリームを垂らし、アポーを数枚乗せてくるくるっと巻いて、ハイ!出来上がり!

 早速試食して!」

「はい。では…、んん!何ですか!この美味しさは…、クレープがクレープでないようです。」


いや、クレープは本来この食い方が正解だと思うんだが…。


「それじゃ、みんな各々好きなモノを入れて食べてみてください。

そして、美味しいと思ったモノを書き残してくださいね。それがこの店のお品書きとなります。」


はい、戦争がはじまりました。

各々好きなフルーツなどを入れてクレープを食べ始める。

って、朝ごはん食べたばかりじゃなかったか?


皆おかわりしているけど、マットさんを見ると、鬼の形相でクレープを焼き続けているよ。


「ミオさん、ケイシーさん。クレープを焼くのはマットさんだけなの?」

「そうですね。今までは父ちゃんしかやってませんが、私達でもできるのでしょうか。」

「おう!娘どもは引っ込んどれ!これは俺の仕事だ!誰にもできないぜ!」


 マットさん、啖呵切ってますが、誰にでもできますよ…。

仕方がないので、俺も参戦する。

あ、ここ鉄板が四角じゃん…。これだと同じ大きさにならないんだよな…。


「マットさん、この店を4日ほどかけて改修します。

 それまで琥珀亭で宿をとってください。ディートリヒ、ラウロさんに話をつけてきてもらえないか。」

「分かりました。早速行ってきます。」

「ありがと。あとは…、ナズナ、すまないがレルネさんの店を改修してるジョスさんに話をして、明日から4日でここを改修してほしいことを伝えてくれないか。勿論、上の階も。できれば掃除もしなくちゃいけないな…。」

「分かりました。早速行ってきます。」

「ミオさん、ケイシーさん、皆の意見を聞いて、そうだな…5つくらいお品書きというかメニューを作ってもらえないか。そして改修後新装開店するから、それまでにクリームの作り方などを身に着けて欲しい。」

「社長、分かりました。早速がんば…、踏ん張ります!」

「うん。いい返事だ。それじゃ、マットさん達にここは任せて、皆、戻ろうか。」


帰り道…、


「主殿、少しよろしいか。」

「どうしたベリル?」

「そろそろ、下着の製作も本格的になってくると思われるので、アラクネの糸など素材をザック様にお渡ししなくてはいけません。」

「そうだね。素材は前にも渡してあるけど、あれだけじゃ足りないな…。」

「であれば、私とナズナ殿、カレンを連れてダンジョンで素材を集めてきてもよろしいでしょうか。」

「くれぐれも無理をしちゃいかんよ。あ、でもカレンさんはパーティー登録してないし、利き腕の指が無かったか…。それじゃ治すか。」

「できればお願いいたします。

 彼女の力を知りたいので。」


類は友を呼ぶのか…。お互いの実力を知りたいという所か?

本当は石鹸を販売してもらうために来てもらったんだけど、今日くらいはいいか。


「それじゃ店に戻ってから治療しますか。」

「カズさん、私も行きたいのですが…。」

「良いけど危険じゃない?それに、カレンはフライ覚えてないから移動に時間がかかると思うけど。」

「虎族は足は速いですし、耐久力もあります。それに、彼女たちだけでは範囲魔法が弱いと思います…。」

「えぇと、アラクネだと…、何階層なんだ?」

「カズ様、10階層のボスか、19階層のモンスターボックスですね。

 効率が良いのは19階層でしょうか。」

「まぁ…、19階層なら皆であれば問題ないか…。

 俺行かなくていいの?」

「19階層ごときに遅れなぞ取りません。カズさんはカルム様の店で奴隷の購入と欠損処理をお願いします。」

「分かった。んじゃ、メリアさん、ナズナ、ベリル、ニコルとカレンさんでお願いするけど、くれぐれも無理はしちゃいけないからね。それと夕ご飯までには帰ってくること。」

「ふふ。カズさんがお母様みたいに感じますね。では、治療後、カレンを連れて行ってまいります。」


 店に戻り、カレンにスーパーヒールをかける。

しっかりと動くまでは戦闘は控え、ドロップした素材を拾うように言っておく。

カレンは、キョトンとするが、再生が始まると、驚いた後、泣いて感謝される。

そんな感謝は良いから、先ず無事で帰ってくるように伝えた。


 あとは、下着を売る販売員を探さないと…。

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