11-23 採用者と…②

 次に来たのは酒屋の娘さんでセィディと名乗ってくれた。

酒蔵の景気が悪いという事で働きに出るって事だよな…。

酒屋ということは、麹もあるんだろうか…。

聞けばエールを作っている酒蔵だった。

もしかすると、アルコール度の高い酒もできるかもしれない…、と思いつつ、セィディさんの話を聞くと、石鹸としゃんぷりんを販売したいとの事なので了承した。

こちらの条件も了承してくれたので、少し待ってもらうことにし、ハーフエルフの子と面談する。


ハーフエルフの子はエリアナさんと言い、マナは多いが種族のせいか魔法を学ぶことはできなかったようだ。家も友人宅で間借りしているとのことなので、申し訳ないが一週間待ってほしい事を伝えた。

彼女もレルネさんが見てくれるようなのでお任せする。


ディートリヒにセィディさんとエリアナさんをカルムさんの店に連れて行ってもらう。

流れ作業になってきたな…。


 最後は食堂の二人か…。現在石鹸としゃんぷりんが2名、服が2名、化粧品が2名となっている。


「失礼します…。」


おどおどした女性が入って来る。

昨日の子と少し大人びた子の後ろからいかつい親父も入って来た。

「ごめんな。まだ名前が分からないから名乗ってくれると嬉しいよ。」

「昨日はありがとうございました。ミオと言います。」

「私はケイシーです。」

「俺はマットです。この度は娘を雇っていただき、ありがとうございます。

 俺がこんなんでなかったら…と思うと情けなくて…。」

「お父さん、過ぎたことを悔やんでも仕方ありません。

 これからの事を考えていきましょう。」

「であれば、俺も雇ってほしいんだが…。」

「へ?」

「こう見えても食べ物屋を営んでいたんだ。飯炊きくらいはできるぞ。」


娘さんの方を見ると、首を横に振っている…。これは危険だ。


「ご飯は、メイドさんが作ってくれてますので。」

「そうか。でも作れる料理の種類は多いぞ。」


娘さん、首を横に振っている…。


「えと、マットさんでしたか?」

「おう!」

「お父様は間に合っています。」

「そうか…。」

「お父さんには、シェルフールの伯爵が新しい料理を開発したらしいので、そちらで販売される方が良いと思います。おそらく商業ギルドで斡旋をすると思いますので、一度聞いてみると良いと思いますよ。」

「お、そうか。ありがとう。早速行ってくるよ。」


 ようやく、マットさんが帰っていった…。


「すみません…、あんな父親ですので…。」

「明るくて良いヒトだと思いますよ。」

「でも、食べ物屋をしていたと言っても、一品しかできず、それも同じ味なので…。」

「え、一品だけ?」

「はい…。何でも、大昔に親切にしてもらったヒトから教えてもらった料理だとか。」

「へぇ、それはどんな料理なの。」

「“くれいぷ”という薄い焼物なんですが、なかなか売れないというのが現実なんです。」


おぅ!粉物の定番キター!

それに親切にしたってのは、まごうこと無き“迷い人”だよ。


「で、その“くれいぷ”というモノの中に何を入れているんです?」

「え、中に何か入れて売るんですか?

 パンの代わりとなるという事で売ってますが。」


あちゃ…。それじゃ売れないよ。

クレープは中身を変えてこそ売れるんだよ。

甘いもの、辛いものも有だよ。


「えと、ミオさん、ケイシーさん。差し出がましい事を言って申し訳ないが、俺がその店を買い取ろうか?」

「へ?何を言ってるんですか?売れないから働きに来ているんですよ。」

「じゃ、売れるようになったらどうする?」

「・・・店を続けたいです…。」


「メリアさん。」

「仕方がありませんね。そのお店を買い取り、この3名を雇うという事で良いと思います。

 でも、紋章は付けてもらわないといけませんが、男性も付けるとなると…。」

「お父様には腕にでもつけてもらいましょう。ミオさん、すみませんがお父様を呼び戻してもらっても良いですか?

 ベリル、一緒に行ってギルドにマットさんの店を買い取るとしたら、いくらかかるか値段を聞いてきて欲しい。」

「お館様、分かりました。ミオ殿、ではご一緒に。」

「じゃ、俺たちはケイシーさんと店に行こうか。」



「こんなに良い通りに面しているのに勿体ない。

 それに、ここなら“恋人たちの聖地”に近いから、必ず若者に売れるようになるな。」


店に着く。

小ぢんまりして可愛い店だ。


「で、ケイシーさん達はこの上に住んでいるの?」

「はい。」

「それじゃ問題ないね。」

「でも、中は汚いんです…。」



「うわ、ホントだね。これじゃお客さん来ないよ…。

 ここも改築する必要があるのか…。」

「カズさん…、これは…。やはり男やもめに任せるとこんなものになるんですかね。」

「ただ、お父さんにも何かさせないと…。

あのパワーをどこかで発散させないと変な方向に行ってしまうからね…。」


ベリルがミオさんとマットさんを連れて店に来る。

さて、少し説明しようか。


「三人にお話しがあります。先ずは自分の話を聞いてください。

 ベリル、この店を買い取るとしたらいくらだった?」

「はい、お館様。ここは借地借家の物件で、月大銀貨30枚の家賃が必要だそうです。

 ここを購入するとなれば、地代は金貨26枚、家屋は金貨14枚で計金貨40枚で買い取りすることが可能です。」

「そうか。メリアさん、金貨40枚払う価値はあるかい?」

「この立地であれば。あとは何を売るかですね。」

「売るものは“くれいぷ”だよ。」

「しかし、売れなかったと…。」

「そりゃ、プレーンは売れないよ。もっと甘いものにするか、辛い物を入れないと。」

「何ですと!“くれいぷ”にそんなものを入れるんですかい?」

「あとは、マットさんのご家族がどうするかです。

 金貨40枚で自分がこの店を買い取り、皆さんを雇用するという方法があります。

 それ以外には、くれいぷというものに助言をして、その助言料を毎月支払うという事もできますが。

 しかし、借地借家だとすると、いずれマットさんがこの場所を買い取るという必要もあると思います。

 ただ、問題は毎月大銀貨30枚の大枚を払っていると売り上げがどれくらいになれば何年で金貨40枚貯まるのかを計算しておく必要もあります。」

「社長…、諸経費覗いて毎月大銀貨50枚の売り上げがあれば、残額だけで計算しますと、さっと15,6年かかります…。」


うほ、ミオさん計算早い!だが、計算が合っているかは俺には分からんよ…。


「という計算になるようですが…、そのうちミオさんもケイシーさんも良いヒトができれば結婚もされます。そこまでに店を買うことはできない計算になりますね…。」

「ニノマエ社長…。俺、そんなに頭良くないが、どうすればいいんですかい?」

「自分がこの店を買い、マットさんのご家族がこの店を回すという方法が、ミオさんにもケイシーさんにも一番良いのだと思います。そうですね。店を任せますので、販売額から原材料費や諸経費等を引いた売り上げの4割をお給料としてはどうですか。」

「カズさん、それがいくらになるのかが分かりませんが、3割が妥当だと思います。」

「という事ですが、マットさん、どうします?」

「分かった。ニノマエ社長にのっかる。ミオ、ケイシー、それで良いか?」

「父ちゃんが久しぶりに燃えているね。私達はそれで構いませんが、お店のほうは良いのですか?」

「まぁ、なんとかなるよ。

 それじゃ、先ずは契約をすることとなるけど、マットさん、自分との約束事があるけど、その秘密を守るために紋章を入れてもらうことになるけどいいかい?」

「全然問題ないです。何なら顔に入れましょうか。」

「それだけは勘弁してください。」


その後、マットさん家族が紋章を入れ一度俺たちの店で風呂に入らせる。

勿論、マットさんは倉庫の方です。


風呂に入った皆が下着売場に集まった。

皆が艶々の顔をしている。勿論マットさんもだ。


「社長はこのような商品を販売なさっているのですか?」

「これは踏ん張らないといけませんね。」

「なぁ…、あたいの髪がこんなに艶々になっているんだが…。」


いろんな意見が出る。しかし皆笑顔だ。


「ここ数日バタバタしてしまったが、新しく皆を迎え入れた事を嬉しく思うよ。

 そして、新たに4号店の話も進んだ。ここに居るマットさん達が4号店を任せることになる。

 彼らには、恋人の聖地の名物となる“くれいぷ”を作ってもらいます。

 明日、くれいぷの試食会をするから、朝9時にこの店に集合してください。

 あ、そうだ。

 紋章を受け入れてもらい、ありがとう。

 追々、話すこととなるけど、秘密は厳守でね。それでは解散、お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした(((((お疲れ様でした)))))。」


良い笑顔です。

バタバタする日が続くが、何となくいろんな歯車が動き始めた。

感無量だ…。


「カズ様、お忘れのようですが、一つよろしいでしょうか。」

「ん、どうした?ディートリヒ。」

「下着の販売員がおりませんが…。」


あ…、完全に記憶から抜けてた…。


誰か、良いヒトは居ませんか…。

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