11-22 採用者と…①

 翌朝、皆笑顔で朝食をとる。


「今日は採用者の配置だね。」

「そうです。いろいろと調整が必要であるとは思いますが、なるようになりますね。」

「あぁ、Que Sera, Seraだよ。」

「くぇせ・らせっーら?」

「はい。それで結構です…。」

「それで、どういう意味なんですか?」

「なるようになる!って事だ。」

「それは良い言葉ですね。“くぇせ・らっせーら”ですね。」


カタカナとか英語を使うのは止めよう…。

おっさん、海外での生活経験あるけど、“ジャングリッシュ”って言われたもんな…。


「食堂だっけ?その父親も挨拶に来るって言ってたよね。」

「はい。」

「そうか。どんな人だろうね。」


「早速ですが、一番目が来られていますので面談しましょうか。」

「へい!」


最初は孤児院の子、4人だ。

一応、司教様の回答ももらっているが、念のために聞くこととする。


「えと、4人来てくれたという事だから、全員うちで働いてくれるということでいいかな。」

「はい。司教様もニノマエさ…、いえ、社長のいう事を聞くようにと言われて来ました。」

「はは、ではどの部署で働きたいか聞くね。

 うちは石鹸を販売している店と、数日後に開店する服を売る店、その後、化粧品を売る店を展開していこうと思っている。

あ、ごめんね。まだ名前を憶えていないし、初めての子もいるから、名前を言ってから希望する部署を言ってもらえるかな?」

「ルシールと言います。私はできれば服に携わる仕事がしたいと思っていますが、化粧品というものは何でしょうか?」

「化粧品というものは、我らが付けている“りっぷ”や“ふぁんで”というものです。

 これを付ければ美しくなるという商品を売りますよ。」


 メリアさんが説明してくれ、試作品を見せる。

4人はその試作品を手に取り、色を付けてみる。


「これは綺麗な色ですね。これを売り出すのですか?」

「そうです。これはまだ試作品ですが、女性がこれを使用すれば綺麗になるというイメージを出していきます。」

「ルシールです。この化粧品を売りたいと思います!」

「ショーナと言います。私も化粧品を希望します。」

「ヒルダと言います。私は服を希望します。」

「マリエッタです。私も服を希望します。」

「えぇと、そうすると4人一緒に住めなくなるけど良いのかい?」


「私たちも独り立ちをしなくてはいけませんので、別々に暮らしていても問題はありません。」

「ごめん。そうだったね。

 では、そのようにさせてもらうけど、化粧品部門の開店はもうしばらくかかるし、家も改築中なので、先ずは一週間、教会から通ってもらう事で良いかな?その後、ルシールさんとショーナさんは化粧品を売る店へ、ヒルダさんとマリエッタさんはこちらに住んでもらう事で。

 それまでは、ルシールさんとヒルダさんは石鹸と服の店を手伝ってほしい。」

「分かりました。今日から仕事をさせていただくことで良いですか?」

「お願いね。店にはレイケシアさんとクラリッセさんがいるから、そのヒトに聞いてね。

 それとヒルダさんとマリエッタさんは隣の服の店舗に行って、アデリンさんが居るから、服の陳列などを手伝ってください。」

「分かりました。」

「じゃ、次はディートリヒから説明をさせるね。」

「はい。カズさ…、社長。

 この店で働いてもらうために募集チラシにもありましたが、“繚乱”商品の製作に伴う秘密事項を漏らさないとの約束事を守ってもらう事となります。そのための紋章を付けていただくこととなりますが、よろしいでしょうか。」

「マリエッタです…。あの…紋章というものは奴隷紋でしょうか?」

「いいえ。奴隷紋ではありません。こういった紋です。所謂アクセの一種でTatooです。

 と言っても、想像できないかもしれませんので、実物を見てもらいましょう。」


うぉ、ディートリヒさん、英語の発言すごく良い。

で、いきなりスカートをたくし上げて腿の紋章を見せる姿…、桜吹雪ですか?


「え、可愛い!これを付けさせてもらえるんですか?」

「好きな箇所に入れることができますが、社長は首筋や胸といった奴隷が付ける場所に入れるのは好みませんので、その事を理解していただきます。なお、製造に関する情報などを話そうとすると声が出なくなるだけですので、アクセの一つと思っていただければと思います。」

「紋章を入れることに問題はありません。ですが、私とヒルダは猫族です。それでも良いのですか?」


 うぉ、猫族だったよ。

そう言えば、椅子の後ろで何やら細長いものがくるんくるんしている。


「ん?猫族?うちは竜人族、狐族、エルフにハーフエルフ、ドワーフも居るし、今回虎族も採用するけど、何か問題はあるのかい?」

「いえ…、ヒトの中には私たちのような亜人族とか獣人族と言われている種族を軽視するヒトも居ますので…。」

「そんなの関係ないよ。同じ言語で会話し、意思疎通できるヒトは全員ヒトだよ。軽視するやつは放っておけばいいよ。それよりも、ヒルダさんとマリエッタさんがアデリンさんの服を着た姿を見て、『私も着てみたい』と思ってもらえればいいんじゃないのかな?」

「ありがとうございます!頑張ります!」

「あ、頑張らなくていいからね。踏ん張ればいいから。」

「あの…、言葉の意味が分かりませんが…。」

「そのうち分かるようになるかな。それまでは商品を如何にすれば売れるのかを考えてもらえると嬉しいな。」

「カズ様、では紋章を入れた後、店に戻りお風呂に入ってもらいますね。」

「え、お風呂?」

「あぁ。家にはお風呂があるからね。そこでうちの商品を使ってみて欲しい。」


 ようやく次のグループ、えと虎族の2名か。

「社長、入って良いかい?」

「どうぞ。」


2名が入って来た。

姉さんの方がすごく小さい。それとも妹が大き過ぎなのかは分からないが…。


「えと名前がまだ分からないから名前を言ってから話をお願いするね。」

「あたいはカレン。こっちは昨日話した姉貴のローザだ。」

「ありがとう。カレンさん、ローザさん。

 ローザさんも来てくれたという事は、錬成に興味があるって事でいいかい?」

「はい…。冒険者としてはマナの量も少なくスカウトとしても罠解除などといったスキルもないため、ヘルパーとしてしか活動できていませんでしたので…。もう潮時かな、と。」

「レルネさん、魔動具でローザさんのマナを測ってもらってもいいかい?」

「良いが、これはヒト用じゃぞ。」

「うん。ヒトだからね。」


魔道具に手を当ててマナを測る姿をじっと見る。

獣人族のマナはやはり種族ごとに違うようだが、ローザさんは中レベル以上のマナの量を持っている。

しかし、彼女もマナの流れが悪い。


「ローザさん、冒険者の時にケガをしたり魔物に傷をつけられたってことはある?」

「えぇ。一度だけオークの槍を受けたことがあります。」

「それって右胸の上の方?」

「え、なんで知っているんですか?」


多分、槍を抜いて治療もしないまま動いていたんだろう。

唾つけときゃ治る、なんて言われて…。


「レルネさん、彼女に治療をするとマナの流れが良くなると思うんだけど。」

「そうじゃな。ただ、イチの魔法ではなく、ニコルの治癒魔法で治ると思う。後は儂に任せとけ。」

「それじゃ、二人とも採用させてもらうけど、カレンさんは何を売りたい?」

「あたいは何だっていい。」

「石鹸とかしゃんぷりんを販売してほしいんだけど大丈夫かな?」

「ありがとうございます。で、姉貴は?」

「ローザさんは、これからここに居るレルネさんのもとで錬成の修練をしてもらうよ。」

「姉貴にそんな事できるのか?」

「それはやってみなければ分からないけど、彼女ならできると思う。」


それから、彼女たちにも“繚乱”の紋章を入れてもらう事とし、その後お風呂に入ってもらう事を話すと、二人とも顔つきが明るくなった。

それと、家賃を滞納してはいけないので、大家さんに先ずは滞納している分を支払ってくるように伝え、即こちらに入居するように言う。

滞納分は、彼女たちの全財産で何とかなるという事なので、身一つでこちらに来るよう話すと、二人に感謝された。

彼女たちはナズナに任せ、カルムさんの店に連れて行ってもらう。


 あと3組か…。


酒屋の娘さんとハーフエルフ、そして食堂の娘さんか…。

まだまだ先は長いな…。

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