11-21 食後の団らん

 食事後、皆でお茶を飲みながら今日の報告会を行う。

なんか日課になって来た。一日一回顔を合わすのは良いことだ。


「アデリンさん、2号店の準備はどんな感じかな。」

「服はあるけど、アクサソリーはまだ出来てないよ。」

「言いにくそうだから、これから“アクセ”で統一しようか。

 そのアクセは急がなくていいよ。それに服と一緒に売るとガーターベルトを売るスペースが無くなっちゃうだろ。」

「そうなんだよ…。ガーターベルトの試作品ができたんだが、それをどのスペースで売っていいか悩んでたんだよ。」

「あの…社長、ガーダーベルトとは何でしょうか?」

「あ、レイケシアさんはまだ知らないか。

 えと、ストッキングで分かる?うん。靴下の長いやつね。それを腰の位置で止めるものね。」

「ちょうどいい。社長レイケシアさんを借りてくね。」

「あ、それならクラリッセさんも試着してもらえると嬉しいな。」


お二人さん、期待半分不安半分で部屋を出ていく。


「ガーターベルトを本格的に作るってことになると、アデリンさん達でアクセを作る時間はあるのかな。」

「社長、すみません。そのことですが、アデリンさん、夜も寝ずに作っています…。

 アクセは別の担当さんが作っていただけると…。」

「だよね。言ってくれてありがとね。

 当面アクセは俺が少し作る程度にして、新しく担当を探そうかね。」

「そうしていただけると、服とガーターベルトに集中できます。」


 少しウェートがかかり過ぎてた。

アデリンさんも休む必要があるし、お針子さんズもお疲れ気味だ。

休む時は休んでもらおう。


 と思っていると、ドアを思いっきり開けたレイケシアさんが叫び始めた。


「社長!これは凄いです。素晴らしいです。格好いいです。可愛いです。えと、あと何がありますかね?」

「レイケシアさん、すまんがここには男が3人いるんだ…。下着姿でドアを開けられても…。」

「え、あ、きゃーーーーーーー。すみませんでしたあーーー。」

「イチよ、別に良いぞ。ヤットもラットも酒飲んで気持ちよく寝とる。」


え?ついさっきまでシュリ食いながら酒飲んでたよね…。

電池切れるの早いな…。


「コホン…。という事で、このガーターベルトはストッキングと相性が良く。それに…」

「官能的なんじゃろ?」

「そうです。色っぽいです。」

「クラリッセさんはどう?」

「流石に下着姿をお見せすることはできませんが、これは素晴らしいものですね。

 ストッキングは足を細く見せることができますし、腰で留めるという方法は画期的ですね。」

「もうひとつあるんだよ。ね、アデリンさん。」

「ふふ。そうだよ。

 このストッキングは単にこの色だけじゃないんだよ。

 社長が言う“ごすろり”にぴったりなストッキングはこれだ!」


黒色のストッキング、それも腿とふくらはぎの部分に華の紋様が入っているものと、黒の網タイツ…。

いかん…。これは殺人クラスだ…。


「アデリンさん、よくこんな細工ができたね。」

「手作業で進めていくから、一点ものだからなかなかできないよ…。」


レイケシアさん、クラリッセさんが眼を光らせた。


「流石に一点ものを売る訳にはいかないから、社員さんに着ても…」

「私が着ます!(私が!)」


おぉ、凄い勢いだね。


「ガーターベルトは、下着と一緒に売ることにしようか。

 なんか、その方が売れそうだ。」

「そうですね。前にもそう仰っていましたものね。」


そうだっけ?あまり記憶がない…。


「アデリンさんの店は服だけ売る事で。」

「社長、そうするとスペースが少し空いちゃうけど…。」

「いいよ。それにレルネさんが作ったコートを直しているんでしょ?そのスペースにすればいいよ。

 あとね、ちゃんと寝る事。お針子さんがお目付け役としてアデリンさんを見張る事にしたからね。」

「え、ちょ、それは…。」

「いいから、寝るんだよ。」

「はい…。」

「皆にも言っとくけど、頑張る必要はないからね。

 何度も言ってるけど、俺は“頑張る”って言葉は嫌いだ。

 自分の力が100とすれば、日々の力が50であったり70であったり、そしてたまに頑張って一瞬だけ120出しても意味がないよ。

 それなら常に70や80の力で踏ん張って持続してくれる方が効率的だと思っている。」

「残りの20、30の力は何に使えば良いのですか?」

「余裕を持ってほしいんだ。まだやれる!と思っても、ほどほどで良いんだよ。常に100の力を使っていたら、疲れちゃうでしょ。」


 難しい事は言っていないが、自分の力の加減を知る事が大切なんだよ。

力を知って初めて、踏ん張ると言うことができるんだ。


「あとは、明日採用したヒトの配置だね。

 基本採用したヒトの希望で良いのかな?あ、被った場合はどうしよう。」

「おそらく、食べ物屋の娘さんはアクセでしょうか。」

「メリアさん、何で分かるの?」

「あの子、ずっと私とレルネの耳についているピアスに目が行ってましたから。」

「すごいね。そこまで見ていてくれたんだ。」

「あ、そう言う事ですね。カズ様、それはダンジョンでも使えますね!」


攻撃する場所を見るという事か…。

しかし、達人は無理だよ…。遠山の目付だから…。

ま、その時は俺が彼女たちを助ける。危ない場所には行かせない。


「で、孤児院の子は?」

「全員来ないと分かりませんね。ただ、服には興味があるようですね。」

「そうすると虎族の子と酒屋の子が石鹸としゃんぷりんという事かな。」


「明日から採用という事でいいのかい?」

「はい。説明後、約束を守る紋章を入れますので一時期店を離れますが、その後はいかがしましょうか。」

「それじゃ、カルムさんの店から戻ってきたら、お風呂に入れてあげて。

 あ、ディートリヒ、まだ“すぽぉつぶら”の残りはある?

 それを2着分渡してあげて。サイズはまだある?」

「カズ様、まだ40着はありますので問題はありません。

 サイズも問題はありませんね。」

「分かった。それと、今日トーレスさんのところに行って、クローヌで採れる石を卸して、その石でアクセを作ることになるけど、これはもう少し先にしようね。」

「え、それは何故ですか?」

「アデリンさんに、これ以上仕事を渡したくないってところかな。

 アデリンさんには、80の力で持続してほしいからね。

 空いた時間で作ってくれればいいよ。余裕ができたらアデリン印の服と一緒にアクセも売っていこう。」

「へ?あたしの名前で?社長の名前ではなく?」

「アクセにおっさんの名前を付けて欲しがるのは、ここに居るみんなだけだと思いますので…。」

「ニノ様、それじゃ、繚乱のマークを入れましょう。刻印というものを作れば問題ありませんので。」

「うん。それは良い考えだね。それじゃアイナとミリーでそのマークと刻印作ってもらっていいかい?」

「はいな~…、任せてくらっさい。」


アイナ、酒飲んだな…。

目が座ってるよ。


「ミリー、すまないが、明日アイナにもう一度伝えておいてね。」

「分かりました。」


「あとは、もう二人錬成班に奴隷を雇うから。」

「へ?奴隷…ですか?」

「あぁ、マナが多い親子が居るってカルムさんに教えてもらってね。

 明日、その親子のマナを調べて来ようと思う。

 マナが多ければ奴隷として買ってくるから、よろしくね。」


皆には簡単にしか話しておかない事とした。

全員が変な目で見れば、皆にも危害が及ぶ可能性もあるから…。


なら、買わなきゃ良いって話もあるが、ホールワーズ家なのか帝国なのかは知らないが、早めに芽を摘んでおきたいんだ…。

多分、これが建前なんだろう。


アデリンさん達に、先にお風呂に入るよう伝え解散する。

ここには2人の妻と7人の伴侶、そしてクラリッセさんの11人が居る。

念のため、音遮断をこの部屋にかけ、奴隷の事情を話しておく。


 やはり、買わなければ良いという考えも出た。

やはり、本音を言うしかない…。


「みんな、すまない…。

 これから話す事は皆の心の中だけに留めておいてくれ。

 ディートリヒ、少しだけディートリヒの事を話してもいいか?」

「は、はい。カズ様にお任せします。」


 ディートリヒが帝国の捕虜となった事、その時、帝国の貴族にひどい目にあわせられた事をかいつまんで話した。


「ニノ様、敢えて“火中の栗”を拾いに行かれるのは何故でしょうか。」


ニコルの疑問は真っ当な疑問だ。


「もし皆が同じような立場であったらどうするんだろうか…。」


皆が黙り込んだ。


「俺はヒトとして真っ当な生き方をしたい。

 それに、誰かが泣き寝入りすることもしたくない。

 だから、売られた喧嘩ならとことん買ってやるよ。

 それが貴族だろうと王宮だろうと帝国だろうと…。

 俺が生きていく中で、笑顔が泣き顔に変わってしまう生き方をさせているやつらには、俺の持てるものすべてをぶつけてやる。

 それが答えなんだ。」


皆がすっきりした顔をしている。


「そうですね。カズさんはカズさんです。カズさんの周りには私たちがいます。」

「じゃな。一部のやっかみが市民を苦しくするのはいかんの。」

「カズ様…、そこまで…。」


嗚咽しているディートリヒの頭を撫でながら、皆でニコリと笑い合うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る