10-18 再び魔法談義
「と言う訳で、ここに拠点を移す。皆、それでいいかい?」
宿屋の1階の食事スペースで、みんなで食事をとる。
肉類が多く、野菜は少ない。やはり山間部ということからか、輸送がなかなか来ないんだろう。
「カズ様、一つお伺いいたします。
下着の販売、石鹸の製造、服の製造・販売はそのままシェルフールで行うという事でよろしいでしょうか?」
「そうだね。そうすると向こうでメインで生活するのは誰になるかな?」
「そうですね…、スピネル、レルネさん、ミリーが石鹸、しゃんぷりんの製造ですね。
後は、アイナ、ヤットさん、ラットさんが鍛冶です。アデリンさんが衣服となりますね。」
「えと、ミシンの製造はヤットさん、ラットさんだからシェルフールだね。アイナは馬車づくりの責任者となるからこちらかな。」
「そうしますと、カズ様の護衛がベリル、ナズナ、ニコル、そして私ですので、こちらでの生活となりますね。」
「そうか…、離れて暮らすことになるのか…。」
「いえ、そうとは限りませんね。
シェルフールからこのクローヌまで20㎞、馬車でここまで3時間程度で来れました。
しかし、道を早急に整備すれば、おそらく半分の1時間30分くらいでここまで来ますね。」
「であれば、馬車を2台シェルフールとクローヌに置いて、それぞれ使うってのがいいか?」
「そうですね。そうすれば移動が楽になると思います。」
「えと…、ひとついいか?
昨晩、ミリーと一緒に空を飛んだって言ったろ。
もし、俺だけでなく、同じ魔法が使えるヒトがいれば移動も楽になるんじゃないか?」
「あの…ニノ様…、フライは高度な魔法です。私たちでは無理だと思うのですが…。」
固定観念に捉われた魔法と聞いただけて、ニコルはしょげ返ってしまうか…。
「みんな、魔法って何だろうね?魔法学校とかで学んだからできるものなのか?
俺はそんな学校行ってないけど出来るよ。それはこれまでの知識と経験で出来るだけ。
だから、同じ経験をすれば皆もできるばずだ。
な、ミリー。」
「はい!イチ様。
昨晩、私は氷魔法を教えていただきました。これです!“フリーズ!”」
ジョッキの周りが白くなる。
「これ、飲んでみて。」
「では…。え!?冷たい…。」
「ミリーは昨晩、どれくらいの高さになれば寒くなるのかを体験した。
その高さで寒さを体験すれば、その場所の経験をイメージし氷魔法を放つことができるということなんだ。
それを応用すると、こんなことも出来る。」
目の間の一定空間で空気中にある水分を高度8,000mまで高めると水分が凍るイメージして念じる。
すると、目の前に氷の粒が出来上がった。
「な、今俺はこの空間に高さ8,000mの空気をイメージした。
それだけで空気中にある水分が凍って、氷ができる訳だ。
これを魔物に放てばアイスバレットとなるよね。」
「そんな事も容易くできるようになるんですか…。」
「ただ、前にも言ったけど、おれの知識と経験をイメージして魔法ができるから、この世界の魔法の体系とは違う。それを理解してくれるのであれば、誰でも俺の魔法を会得出来るって事になる。」
「カズ様、そうでしたね。
カズ様は、唯一この国の魔法という学問に対し一石を投じられたのでしたね。」
「あぁ、今頃、王都ではスティナさんが王都での魔法とやらを驚愕させている頃だろうね。
ただ、彼女もまだまだだけど。
俺も何十年も生きていける訳ではないから、俺の知識と経験を皆に共有していこうと思う。
勿論、危険なものもあるけど、それは使わなければいいだけの事。
そういった意味で、君たちにも俺の知識と経験を渡したいと思うのだが…。」
「私達はいつでも受け入れます。
そして、その知識を伝えていきたいと思います。」
「うん。よろしく頼む。」
皆、納得してくれた。
52歳だから、長く生きても30年…。その頃の事も考えておかないと…。
食事が済み、各々の思いを胸に部屋に戻っていく。
俺も部屋に入り、ノートを出し今まで使ってきた魔法を書き加えていく。
ずいぶんと試したものだな…。改めて思うと、よくこれだけの魔法を創造したと感心した。
冒険者寄りの魔法、生活魔法、研究のための魔法…必要があっての事だが、これを皆に教えていくのだが、彼女たちにも理解できないものもある。
インドラ、グラビティ、フロートといったこの世界ではまだ確立されていないものを如何に教えていくのか…、昨晩のように実体験できるようなものであれば良いが…。
コンコン…。
ん?今日は誰だろう…。
「どうぞ。」
「カズ様、ご相談が…。」
ディートリヒ、ナズナ、ベリル、ニコルが入って来た。
「フライの話か?」
「はい。全員が覚えることができれば、移動も容易く行動範囲に幅ができると思いましたので。」
「だと思う。
しかし、フライというかフロートを覚えるには、少し勉強してもらう必要があるんだ。
それを理解して初めてフロートができると思う。」
「それを一晩で覚えることはできませんでしょうか。」
「皆、それを覚えたいのか?」
「はい(((はい)))。」
「分かった。それじゃ、覚えようか。」
それから、魔法講義が始まった。
「今回の馬車移動や馬に乗っていて、曲がり角を減速せずに曲がると身体が外に行ったり、重くなったりすることを経験した事はあるかい?」
「はい。今回、クローヌに来る間にもありました。」
「それはこんな感じかな?」
俺は彼女たちにグラビティ―、つまり重力を少し加えてみる。
「はい。こんな感じです。」
「これが重力というものだ。
今、ここに居る状態を1だと思ってほしい。その1に重力を加えていくと身体が重くなるということだ。」
「それが、カズ様がダンジョンでお使いになられていたグラビティ―なのですか。」
「そうだ。飛んでる魔物にも重力1がかかっていると思えば、それ以上の重力をかけてやれば落ちるという事になる。そうだな…、ちょうど4人いるから二人ずつ交互にグラビティを5倍くらいまでかけてごらん。でもそれ以上にかけてしまわない事。それ以上かけるとぺちゃんこになってしまうからね。」
「はい(((はい)))。」
各自、相手に対しグラビティをかけて練習している。
成功するとかけられた方はグッと身体が重くなるから見てても分かる。
程なくして、全員が出来るようになった。
「皆、これでグラビティは覚えたね。
んじゃ、次のステップにいくよ。
今、重力1が普通にあると感じていると思うけど、では、この重力がなくなればどうなる?」
「すみません…、よく分かりません。」
「だよな。重力ってのは、地面に俺たちが立ったり座ったり、歩いたりできる事。つまり、下とくっついているという事だと思ってくれ。」
皆が、立ったり座ったりしている。
「それじゃ、飛んでみて。」
皆がジャンプする。そして地面に足がつく。
「飛んでも、足が地面につく力を重力って言うんだ。」
本当は引力とか言うんだけど、ニュートンさんのお話はもう少し後だと思うので、今は説明しないでおこう。
「この重力がなくなればどうなるか?」
「あ、地面に足がつかなくなるという事ですか?」
「そうだ。それが重力ゼロとなる。つまり浮いた状態になるという事。“フロート”」
宙に浮いた状態を見て、4人が目を丸くしている。
「どう?これが重力ゼロの状態、フロートの完成だ。
自分の周りだけ重力をなくすというイメージだ。
それじゃ、皆やってみて。」
今無意識にあるものを排除することは難しいと感じるが、皆、俺を信頼してくれている。
全員が浮いている。
「皆、出来たね。それが“フロート”、つまり重力が無い状態を言うんだ。」
「はい、出来ましたね。」
「浮いてしまえば後は簡単だ。下や上、四方八方から風を自分に当てるイメージをすれば、動くことができるというわけだけど、余り力を入れないようにな。昨晩の俺みたいに天井に頭を…。」
ゴツッ!
ベリルが天井に頭を強打した…。
「だから言わんこっちゃない…。ははは。でも出来てるね。」
ベリルが頭を抱えてのたうち回っている間、他の皆はゆっくりと上下左右に動いている。
皆、不思議がっているが、楽しそうだ。
「それじゃ、みんなで外で空中散歩としゃれ込みますか?」
「はい(((はい!)))!」
バルコニーに出て、全員がフロートをかけ少しずつ上昇し始めた。
「いろんなところに移動して、最後にここに戻ってきて。」
フワフワと浮いた状態で、皆が移動し始める。
そして俺の傍に戻ってくる。
「んじゃ、もっと上に行こうか!」
上空に行く。街の明かりが綺麗だ。でも、みなそんな悠長なことを想っていないんだろうな。
高度2,000mくらいまで行っただろうか。
「さて、みんな、今の温度はどうだ?」
「寒いです。」
「うん。多分地上に比べて12℃くらい下がっているからね。
これが、もっともっと上だったらどうなると思う?」
「はい。凍り付くような寒さに…、あ、これが氷魔法のイメージなんですか?」
「はい。その通りです。」
優秀な生徒さんばかりで、教えてる俺も楽しくなってきた。
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