9-8 やっぱ、お家は最高です!

「明朝7時に迎えに来る。

 それまでに朝食をとり、入り口で待っててくれ。」


 琥珀亭でエレメンツィア、ミリー、ニコルと別れ、徒歩で家に戻る。


「なぁ、ディートリヒ、あの3人はダンジョンで死のうとしていたのか?」

「おそらく、そのつもりだったのでしょう。でも、そんな事はカズ様の前ではさせません。

自分たちが犯した罪を認識してもらい、その上でどう生きていくのかを決めさせるのが良いと思いますよ。」

「なんか、ディートリヒが凄く偉いヒトに見えてきた。」

「ふふ、カズ様、これはすべてカズ様の請け売りなんですよ。」

 

 ディートリヒが俺の腕を組んで歩く。


「こうやって歩くのも久しぶりだな。」

「そうですね。たまにはこういうのも良いですね。」


 いろいろと考える必要はあるが、明日ダンジョンに行けば分かるだろう。

今回はナズナが居ないので、索敵は俺が担当だから、どう魔物と会敵させていくのかも考えないとな…。こう考えるとナズナは凄く優秀だな。

 

 家に着き、皆でお風呂に入り、これまでの事を話す。

ナズナもベリルもスピネルも、皆しっかり考えている。

アイナは馬車の改良が面白くてしょうがないようだ。ヤットさん、ラットさんも精力的に働いてくれている。ただ、徹夜はしちゃいかんよ。

 明日のダンジョンの事を考えていると、突然風呂のドアが開く。

ん?アイナか、と思い気にも止めずに考えていると、洗面器でいきなり「コーン!」という子気味の良い音を立て頭を叩かれた。


「痛て!」

「イチよ、儂が入って来たというのに何も思わんのか?」

「へ、レルネさん…。」


 既に頭は真っ白だ。

 レルネさんをガン見してしまう…。

年齢からババァと言っていたが、すみません…。ロリ体型のババァでした…。


「な、なんでレルネさんが?」

「イチが風呂に入っても良いと言ったので入ったのじゃが?」

「あの…、一応、レルネさんも女性ですので…。」

「何じゃ、その一応というのは、儂はまだ若いぞ!」


 そんなロリ体型でセクシーポーズをされても…。


「レルネさん…、俺、ロリはストライクゾーンから外れていますから。」

「なら、一緒に入ってもよかろう。

 さぁ、早よう儂の髪も洗わんか。」

「イヤです。俺は愛するヒトの髪しか洗いません1」

「なんじゃ、その理由は?儂も早よう洗って欲しいのじゃ。」

「ですので、ストライクゾーンではなく“くそボール”ですから。」

「よう分からんが、とにかく頼むのじゃ!」


 地団太踏んでいるよ…。滑って転ぶぞ。

あ、転んだ…。ほら、言わんこっちゃない。

数分後、強引さに負け、レルネさんの髪を洗っている。


「ほんに気持ちが良いの。毎日頼むのじゃ。」

「イヤです…。」

「そんな事言うと、重曹とやらの製造法をしたためてやらんぞ。」

「え、もうできたんですか?」


 俺はレルネさんの頭を強く押さえてしまう。


「痛い!痛いのじゃ!

 何をするんじゃ、下痢ツボ押しで儂を殺す気か?」


 あ、この世界にも下痢ツボあるんだ…。


「それで、出来たんですか?」

「実証まではな。後は一定量製造できるようになれば完成という事じゃな。」

「さすがレルネさんですね。」

「ふふ、そうじゃろ?もっと褒めてもよいのじゃぞ。」

「仕方ありませんね。では、少しマッサージでもしましょうかね。」

「おう、頼むのじゃ。」

「痛いのじゃ!イチよ、もっと優しく揉んでくれ。」

「と言っても、これ以上弱く揉むと撫でているだけになりますよ。」

「それで良い。撫でるだけで良い。」

「しかし、流石にロリを撫でるのは、俺のポリシーに反しますので止めます。

 その替わり、これら女性陣がレルネさんを満足させますので…。ふふ。

 では、俺は上がりま~。」


 残念ギャルズの眼が輝いている。


「これ、待て!イチ!こりゃ…、助けろ!

 あひーーー、イチよ、助けてくれ~。」


 ふんふん~と鼻歌を歌いながら着替え、寝室に戻り、イヴァンさんの所で“お好み焼き”を一枚焼いてもらって来たので、それをセネカさんにお供えする。


『ニノマエさん、今回は3人の女性なんですね。』

『成り行きといいますか…。でも、なんか腑に落ちないんですよね。』

『奴隷が所有者を見殺しにする事ですね。

 あると思いますよ。』

『そうなんですか?』

『例えば、彼女たちが先に石化し始めていたら?』

『そうですね。徐々に石化していきますからね。』

『ただ、敢えて石化を受けたって事もありますわ。』

『つまり、その時点で死を選んでいたと…。でも同じ所で土魔法で防護するものですか?』

『それが彼女たちの精一杯の思いだったんでしょう…。

私たちがここで奴隷となって死んでいったという事を伝えて欲しいというメッセージだったのかもしれませんね…。』

『今回、ダンジョンへ行くと言った思いには、二度目の死を覚悟してたってことですか…。

それだけは避けなくてはいけませんね。』

『ニノマエさんなら、そう言うと思っていましたよ。

 しかし、ニノマエさんのところには、いろいろな種族が集まってきますね。

 ヒト、妖狐、竜人、ドワーフ、エルフ、ダークエルフの次はハーフエルフですか…。』

『はい? 何ですか、そのハーフエルフってのは?』

『彼女たちを鑑定していないんですか?』

『簡単な鑑定だけはしましたけど…。』

『ふふ。鑑定魔法もいろいろと使いこなせれば、もっとすごいモノも見れますよ。』

『イヤですよ。女性のスリーサイズなんて。見たらセクハラじゃないですか。』

『なんだ、残念ですね。私のも見て欲しかったんですが。』

『そもそも実体のない神様がヒトの姿をして楽しむのは分かりますが、何か意味があるのですか?』

『はい。それはニノマエさんに会えるようになることです。』

『へ?』

『ふふ、冗談ですよ。では、“お好み焼き”いただきますね~。

 またお会いしましょうね。』

『はい…。ではまた。』


 セネカ様とのコンタクトを終え、俺は布団の中に入る。

 時間は10時か…。


 コンコンとドアがノックされる。


「主様、スピネルです。」

「どうした?入って良いよ。」

「では…。」


 彼女は部屋に入り、俺が寝ていた横に来て抱き着く…というより、くっつく。

うん可愛い。


「どうした?」

「はい。今宵は私の順番ですので…。こうやって一緒に居たいと思います。」

「そうだな。んじゃ、一緒に寝ようか。」

「はい!」


 スピネルの頭を撫でる。

彼女の気持ちよさそうな表情をする。


「なぁ、スピネル…。」

「はい。主様。」

「スピネルは今幸せか?」

「はい!」

「そうか。それは良かった。」

「それもこれも主様のおかげです。

 死の淵にいた私を救っていただきました。そして戦う意義と方法を教えてくださいました。

 それに、私が魔法に適性があることを認識させていただきました。」

「良かったね。でも、死の淵ってのは重いね。」

「死の淵…、痛みは無く、何か達観したような思いでしたね。」

「達観か…。すべてを受け止めるという事か…。」

「そうですね。でも、今は違いますよ。

 私は、今生きているんだって感じている瞬間を楽しんでいます。」

「魔法を使って重曹や石鹸、シャンプーを作ることは楽しいかい?」

「はい!違うモノから違うモノへ変化し、それがくっついたり分かれたり、見て楽しいです。

 それに、素材と素材がくっつきたいって言ってるのを感じることができるようになったんです。」

「ほう!そりゃ凄いね。

 例えばどんなものがあるんだ?」

「主様が教えてくださった“すてんれす”という素材や、普通の綿糸と魔糸とアラクネの糸を紡ぎ混ぜることで伸び縮みする糸が出来たり…。」

「へ?伸び縮みする糸?もしかして出来たのか?」

「はい。既に50mほど作りましたでしょうか…。毎日が楽しくて仕方ありません。」

「スピネルは優秀だね。」

「ありがとうございます。これもスキルを見出してくださった主様のおかげです。」

「どういたしまして。

俺もスピネルが笑顔になり幸せになってくれて嬉しいよ。」

「ふふ。そうですね。

それでは、笑顔と幸せをもう一つください。

 あ、主様は動かないでくださいね。明日からまたダンジョンですから。chu!

私が上になりますから、動かないでくださいね…。」


 うん。可愛いね。

スピネルも素顔を見せてくれる。


幸せで笑顔になってくれるスピネルとの夜は、ゆっくりと漂うように流れていく。そして深い愛を確かめ合いながら、眠りについていった。

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