11-4 個人レッスン①
「えと、メリアさん、レルネさん…。」
「はい(なんじゃの)。」
「俺の妻になってくれて、ありがとう。」
「今更何を言っておるのか。」
「俺の妻として、これを受け取ってほしい…。」
リング、ネックレス、イアリングの3点セット…。
箱の中に入ったそれは神々しくも豪奢に感じる…、一撃必殺のものだ。
リングは縦爪ではなく、先ほどのと同じ形だ。
「カズさん、嬉しいです。それになんて綺麗なんでしょう。」
「イチよ。そちの世界では妻になるとこんなにすごいモノを贈られるのか?」
「そうですよ。その石はダイヤモンドと言って、永遠の輝きだと言われていますからね。」
どこぞの企業の請け売りだが…。
「永遠に輝くことが永遠の誓いだって事なんです。」
「それは良いの。しかし、この石は堅いの。」
「おそらく、一番堅い石だと思います。でも、火には弱いので注意してくださいね。
燃やせば炭になりますから。」
「で、これを付けてどこぞにでも行くのかえ?」
「えと、メリアさん、2か月後でしたっけ、3か月後でしたっけ?王都で何かがあるのは?」
「そうです。その時には身に着けていくのが一番ですね。」
「それだと、ディートリヒ達にも作る必要がありますね。」
「どういった形で、私たちをお披露目するのか作戦を練る必要がありますね。
流石に2か月では私が正妻であると王都に告げるのは、いささか早いとは思います。」
「それじゃ、儂はここに残って石鹸を作る。
そういった場所は嫌いじゃからの。スピネルとミリーをこちらに置いてもらいたい。」
「えと…、それじゃ、メリアさんはアドフォード家としてですか。
あと、ディートリヒ達を伴侶として同伴すれば良いという事ですかね。」
「そうですね。ディートリヒさんニコルさんが随行秘書、ナズナさんベリルさんが護衛の5名でよろしいかと。」
「アイナは御者ですか?」
「御者兼情報収集役ですね。彼女の屈託のない笑顔は、最早“最終兵器化”していますので。」
アイナよ…、気を落とすなよ…。リーサルウェポンは誉め言葉だ…。
「皆に渡したことですので、これから、どうぞよろしくお願いしますね。」
「はい((((((はい))))))。」
皆で1階の店に行く。
修羅場だ…。
「あ、そっちの色の方が綺麗!」
「その“ふぁんで”私にも頂戴!」
「ズルい!次は私の番なのに!」
それに、誰だ?あれだけ薄く塗れと言ったのに、お局様状態になっているのは。
「え~。皆気合い入れすぎです!全員不合格!」
「でも、綺麗になれるんですよね。」
サーシャさん…。意味をはき違えているよ…。
昔のCMで「綺麗なヒトはより綺麗に、それなりのヒトは・・・」という宣伝文句があったが…。
「こういうものは、綺麗になれるのではなく、さりげなく綺麗に見せるというのが本当の意味だと思います。レイケシアさんはこちらがやったとして、クラリッセさんが満点ですよ。あとのヒトはもう一度やり直しです。」
何故かコーチと化している。
それから1時間、化粧の講習を行い、ようやくモノになったのではないかと思う。
さて、ランチの時間になったので、皆でサンドウィッチを食べることとなった。
ハ〇ジの白パンに、好きな具材を入れて食べるセルフ方式を採る。
アデリンさんたちは、柔らかいパンは昨日以来だけど、何個も食べている。
「さて、それじゃ昼からは自由行動で。
俺は…、少しダンジョンに行って素材と夕食の食材でも集めて来ようかな。」
「カズ様、それでしたら、メリア様もダンジョンに行かれてはどうでしょうか。」
「あ、そうだね。メリアさんの氷魔法も復習しておく必要があるし。
それじゃ、ディートリヒ、ナズナ、ベリル、ニコルとで行こうか。」
「儂とスピネルとミリーとで、この“ふぁんで”と“口紅”の調合を分析してみるとするかの。」
「あたいたちは服とピアスだ。」
「わたしは馬車~」
「では、私たちは清掃とお店のレイアウトなどを考えましょうか。」
って、皆休みじゃないよね…。
装備を確認し街を出る。
徒歩だと片道3時間かかるから、ここはフロートで。
メリアさんは使えないので、俺が御姫様抱っこをしてダンジョンまで連れて行く。
ものの10分もかからずダンジョン付近まで到着した。
「カズさん、いつの間にフライを覚えられたんですか?」
「えと、4,5日前にできるかな?と思って…。」
「で、皆さんできるようになるんですか?」
「それはカズ様の教え方が上手なんです。それに氷魔法も教えていただきました。」
「え?!氷魔法も?あれは、最も難しく修練を重ねなければ困難な魔法なハズですが…。」
「お館様の魔法は、この世界の魔法の体系とは異なるようです。
なので、本質さえ理解できれば簡単にできます。」
「カズさん、私にも覚えることができますか?」
「できると思うけど、ニコル、どう思う。」
「イチ様、必要な事はこの世界の魔法という概念を捨て去ることです。」
一丁前の言葉だ。ニコル、そこまで成長した姿を見て、おっさんは嬉しいよ。
守衛さんに挨拶し、20階層からぼちぼちと進めていくことを伝える。
「まぁ、あんたなら大丈夫だと思うが、それにしても毎回来るたびに綺麗な女のヒトが増えていくんだなぁ…。流石Late Bloomerだ。」
などと感心されるが、愛想笑いだけして20階へ転移する。
そこから、魔物を倒しながらメリアさんに氷魔法の内容を聞きながら修正すべき事を考えていく。
「それじゃメリアさん、このモンスターボックスを一掃できるように魔法を撃ってみようか?」
「カズさん、何を血迷ったことを言ってるんですか?
モンスターボックスですよ。そんなの無理に決まっているじゃないですか。」
「いや、この階層であっても、これまで失敗したことはないから。」
「へ?」
「それじゃ、メリアさんの氷魔法で範囲攻撃できるものってある?」
「ブリザードでしょうか。」
「んじゃ、それを撃ってみて。あとは…、保険の為にディートリヒ氷魔法を練っておいて。
万一残ったら、後の魔物を殲滅してね。」
「カズ様、分かりました。」
24階層のモンスターボックスに入る。
「それじゃメリアさん、お願い。」
「分かりました。では、………“ブリザード!”」
おぉ!雪のような氷のような竜巻が出て、派手に弾けた。
って、え?範囲って5mくらいだけなの?
「ディートリヒ、頼む。」
「はい。“フリーズ!”」
結果、1分以内に終了。
「カズさん…、何ですか?その、とんでも魔法は?」
「え、フリーズだけど?」
「そうではなく、この範囲と効果です!」
「えと、範囲は50mくらい。効果は御覧のとおりです…。」
メリアさんががっくり膝をつき、茫然としている。
「私の魔法って……。」
まぁそうなりますよね…。
そこからは、一から氷魔法の講義となった。
メリアさんは高地に居たこともあり、高度が上がると気温が低くなることをすぐに理解できた。
そこからは早かった。
「…という事は、対象に向かって、そのイメージした内容をマナに乗せれば良いという事になりますか?」
「そんな感じですね。ただ、イメージが大切なので、イメージがわかないと魔法が発動しないというのが俺の魔法の欠点なんです。」
「そうすると、先ほどのフライもそうなんですか?」
「あれは、次の階のボスに有効な魔法を反対に使ってみた結果なんですよ。」
「魔法を反対に?」
「あ、そういう意味ではなく、“逆転の発想”という意味です。」
次の階のボス部屋に行くまでに、重力の話をし、その逆である重力がなくなった場合の話もする。
すぐには理解できないから、“考えるな!感じろ!”を実践することとした。
ボス部屋に入り、実践に入る。
「メリアさん、今、ワイバーンが飛んでいますが、この辺りの重力よりもワイバーンが飛んでいる部分だけ重力を増やすとどうなりますか?」
「重くなるという事でしょうか?」
「飛んでるワイバーンは?」
「飛べなくなります。」
「その結果は?」
「あ、落ちます。」
「では、見ててくださいね。“グラビティ!”」
ワイバーンが5匹地上に落ち、もがいている。
その落ちたトカゲにディートリヒ達が一閃を当て瞬殺させていく。
「ほぇ? あれほど討伐が困難な空中の魔物を、いとも簡単に…。」
「メリアさん、これが重力というものなんです。メリアさんに2倍の重力をかけてみますね。“グラビティ!” どうですか?」
「身体が重くなりました…。」
「では、これを5倍にしますと“グラビティ!”」
「う…、うごけません…。」
メリアさんの周辺の重力を元に戻して説明を続ける。
「これが重力というものです。
重ければ飛べない、逆に重力がなくなれば浮く、という事になりますよね。」
「そう言う事なんですね…。」
メリアさんは腑に落ちたようだった。
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