3‐36 大慰霊祭
昼になり、大慰霊祭の開催だ。
教会内で神様に祈る。司教様が説法する。讃美歌のようなものが流れ、鐘が何度も鳴った。
俺は本部に常駐し、教会で行われている行事を進行に注意を払っている。
鐘が鳴り終える頃には、大勢の人がテントの周りに集まってくれた。
冒険者ギルドの職員さん、仕事してますね。
そして、大半が集まったのを見届け、領主である伯爵がステージに立った。
「皆の者、今一度、先のスタンピードで亡くなった方にお悔やみを申し上げたい。」
守備兵の一団が整列し行進してきた。
領主の前で止まり、市民の方を向く。
「抜刀!」
守備兵が剣を抜き、顔の前に剣を持ってくる。
「捧げー、剣!」
その号令と同時に、剣を右斜め下に下ろす。
一挙手一投足、すべてが揃えられた姿が美しい。
市民は、その姿を見て、首を下げ黙とうを捧げる。
「やめ!」
「納刀!」
それは、軍隊ではないにせよ、守備兵という街に関与してきた彼らからの慰霊の儀であった。
中には、涙を流す者もいる。近しい人を殺された人もいただろう…。
守備兵が行進し去ってから伯爵は、もう一度皆に話しかける。
「此度は、街の中へ魔物を侵入させてしまう失態をしでかした儂を許してほしい。
皆の中には、最愛の人を亡くした者、家族を亡くした者、知り合いを亡くした者、多々いると思う。
すまなかった…。」
皆が黙りこんでいる…。
すすり泣く声も聞こえる…。
いろいろな思いが錯綜しているんだろう。
「しかし、未曾有の災害であるスタンピードは終息した。
そして、二度とこの地にかのような災害を起こさないことをここに誓う。
亡くなった方々よ、どうか見守っていてほしい。
この地が彼らの尊い命を得て、素晴らしき地へと変わっていくことを。
ここに居る人々よ、どうか見守っていてほしい。
この地が我らの力で復興し、そして王国一の都市へと変わっていくことを。
我らは今日を生き、明日への希望を抱き生きる。
その希望は決して夢ではない事を約束する。
我らはその希望を、この都市で実現させていく。
どうか、皆の者、ついてきてほしい。
そして、変わっていく姿を我らと一緒に見ていこう!
シェルフールよ、永遠なれ!」
わずか2、3分程度の挨拶だったであろう。
伯爵の発する言葉一つ一つが、皆の心に染みわたる。
そして、皆の心が明日へと続く新たな都市を目指す。
静かであった観衆の中から、パチ、パチと一人、また一人と拍手が始まる…、その拍手は観衆を駆け巡り、数秒後には全員が拍手喝采し、大歓声となった。
泣いている者もいる。伯爵の名前を呼んでいる者もいる。
さすが領主、人心を掌握する術を持っておられる。俺は感動を通り越して感心していた。
伯爵が手を挙げた。
数秒後には拍手も歓声も止んでいる。
「まぁ、杓子定規な話はやめにしようや。
これからは無礼講だ。
死んだ仲間を弔い、皆で飯でも食おう。
酒は流石に出せないが、ここには美味い飯がある。
パンが作れないから飯が食えない、肉が無いから飯が食えない。
そんな生活は、もう止めにしよう。
今日、皆に味わってもらうものは、『食の革命』だ!
我らは、この革命の目撃者となるのだ。
儂はここに二つの宣言をする。
ひとーつ!
今日からここシェルフールは、ソースとマヨネーゼの発祥の地として栄えることを。
ひとーつ!
今日からここシェルフールを、恋人たちの聖地として栄えることを。
みんな、分かったか!」
おおおおおおおおーーーーーーーー!
大歓声だ!
「それじゃ、みんな、食事開始だ!食って食って食いまくれ~!」
おおおおおおおおーーーーーーーー!
全米中が歓喜した、ってのは、こんな感じなんだろうな。
皆がテントに殺到したわ…。
あかんやん、けが人出るぜ。と思ったら、守備兵がさっと配置され、市民を整列し始めたわ。
いやー守備兵さん、統率パないね。
さて、ここからが俺たちの仕事だ。
店舗48のお好み焼き屋さん、2件の串焼き、圧巻だよ。
ここで想定されるトラブルは…、そう、順番抜かし。
初歩的なトラブルだけど、結構煩いんだよな。
そこで、守備兵の皆さんに各店舗に一人ずつ、冒険者ギルド職員で余っている職員、他のギルドからも応援を頼み、列を整理させていく。
「数は十分にありますので、順序良く並んでくださーい。」
「押さなくても大丈夫ですよー。」
大きな声が飛んでいる。俺たちも列の整理に行く。
「おい!オメエ、俺の前に入って来やがったな。」
「あ!!俺が先に並んでたんだぞ!」
あ、この人たち冒険者だ。
ここは冒険者の出番ですかね。
「皆さん、大丈夫ですよ。」
「あ、誰だ?あ、あんたは“薬草おっさん”じゃねえか。」
「はい。そうですよ。今回のスタンピードの討伐お疲れ様でした。
街を守ったヒーローが喧嘩してたら、みんなに笑われちゃいますよ。」
「そうか?街を守ったってか。」
「そうですよ。こんな“薬草おっさん”でもみんなに感謝されるんだから、皆さんだったら、もっとちやほやされるでしょう。そんなヒトが市民の前で喧嘩する姿を見せるんじゃなく、もっとヒーローらしくドンと構えていてくださいね。」
「おう!任せとけ!俺たちも一個食ったら、みんなに言ってヒーローだって思わせて、市民に笑われるような行動はするなって言ってきてやるよ。
ところで、ヒーローって何だ?」
「ヒーローは英雄って意味ですよ。」
「英雄か!ははは、じゃぁ、格好いい姿を見せないといけねぇな。」
チョロいもんです。
煽てる。ミス、褒めて育てるんです。
数刻後、巡回を終え休憩するために本部に戻る。
そこには伯爵、ユーリ夫人、ティエラ夫人もいらっしゃる。お子様は?と思うが、バスチャンさんとメイドさんが居ないという事は、お子様たちは店に並んでいるってことだろう。
伯爵はどこかの店のお好み焼きをバクバク食ってる。うん、普段通りだ。
ユーリ夫人は商業ギルド長と打ち合わせか。今後の事もあるんだよな。お疲れ様です。
ティエラ夫人がこちらを見ている。何だろう。
「ディートリヒ、ティエラ様がこっちを見てるね。」
「はい。聞いてきますね。」
ディートリヒはティエラ様のところに行き、少し話し戻ってくる。
「カズ様、ティエラ様がカズ様にお話しがあるようです。」
「うん。分かった。」
俺たちはティエラ様の席に行く。
「すみません。お呼びだてして。」
「いえ、問題ありませんよ。すべてが順調にいってます。」
「ニノマエ様に相談に乗ってほしい事があるのですが、よろしいでしょうか。」
「ええ。」
俺とディートリヒはティエラ様のお話しを聞く。
それは、慰霊祭を執り行った教会からの相談だった。
教会には孤児院が併設されていて、運営も任されている。
今回のスタンピードで、孤児となった子を受け入れると施設が満杯となり、運営に支障が出る。
彼らを自立させながら孤児院を運営していくことについて、知恵を貸してほしいという事だった。
「ティエラ様、孤児院の運営で何が支障となっているのでしょうか。」
「おそらく運営費、つまり収入よりも支出が多くなってしまうことが原因かと思われます。」
「では解決方法は簡単です。収入を増やすことを考えれば良いのです。」
「収入を増やす具体的な方法とは?」
「これはあくまでも例えの話ですので、鵜呑みにしないでくださいね。
まず、今回伯爵はこの街をソースとマヨネーゼの発祥の地とすること、もう一つはカップルの聖地とすることを明言されましたね。」
「はい。」
「そこから生まれるビジネス、こほん、仕事を作ればいいんです。
例えば、この“お好み焼き”のテントは、もうしばらくの期間営業します。
今受付をしているのは冒険者ギルドの職員ですが、本来であれば、市民に任せてもよいと思います。
なので、ここの受付を孤児院で運営してもらうというのも手です。
さらに、恋人たちの聖地となる街門に上る際にいくらかの入場料と徴収すれば、そこにアッシャー、チケットを受け付ける人手も必要となりますね。」
「そこを孤児院の子供たちの仕事とするって事ですね。」
「そうです。新しく何かをやる時には新しい仕事が生まれますよ。
ソースもマヨもそうです。近いうちには必ずソース専門店などが出ますし、将来的には調味料全体を扱うお店も生まれることでしょう。
そういった仕事やお金といったセンスはユーリ様がお持ちです。じっくりとユーリ様とお話しされれば、もっと良い案が出ると思います。」
「そうですね。ニノマエ様、ありがとうございました。早速ユーリ様とお話ししてみます。」
ティエラ様はスキップしながらユーリ様の所に行き話を始めた。
ユーリ様は、ティエラ様がお話しされる内容をゆっくりと聞いた後、俺の顔をみてニヤッと笑う。
そして、いつもの表情に戻りティエラ様と話し込み始めた。
多分、これで孤児院の運営も問題なく、良い方向に向かっていくことだろう。
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