3‐37 30日間の出張終了

 食事会は大盛況だった。

 中には10店舗以上の“お好み焼き”を食し、広場で倒れている冒険者も居る。

お好み焼きって、結構お腹膨れるんだよね。


 それでも、閉会となる夕刻になると皆満足して帰宅していった。

中にはお土産と称し、皿に三枚ほど入れて持っていく市民もいる。


 さて、どの店舗が評判が良かったのだろうか、本部では串の数を数えている。

48店舗で競う訳だから、結構大変だ。


 俺はその間、ユーリ様とティエラ様と孤児院の運営について話す。

内容は、この広場でテント村を利用して“お好み焼き”を食べるヒトは、受け付けで入場料銅貨1枚を払い入場する事、テント村で食事以外の商いをしたい者はブース料として月銀貨1枚を支払うこと。

 つまり、この広場を楽市楽座に似たようなものにするようだ。

この街にも市場というものがあるが、そこはどちらかと言うと仕入れ専門となるため、広場は加工したものを販売するといった棲み分けをするらしい。

商業ギルドに確認したところ、広場は市場からもそう離れていないので問題はないとの事。


恋人たちの整地となる北西地域については、第一段階として街門の整備を行い、観光名所となるように街壁を強固にした上で始める。そして入場料で潤沢となった際にエリアに遊歩道を整備し、そこも入場料を取るような仕組みとすると告げられた。


よくある観光名所のシステムなので、まぁ入場料という収益と維持管理経費をうまく調整できれば孤児院の収益にもなるんじゃないかと伝えておいた。


 そうこうしているうちに、串の結果が発表された。

 第3位は、琥珀亭    3,200本 賞金:大銀貨10枚

第2位は、マルタン亭  4,400本 賞金:大銀貨20枚

第1位は、ラナゾのパン工房 6,500本 賞金:大銀貨50枚 だった。 


 1位と2位は、今回のスタンピードで店に大打撃を受けた店だった。

それに、これだけの本数を見ても、何万人の食材を作ったことだろうか…。

お好み焼きを焼く皆さん、数えてくれた皆さん、お疲れ様でした。

賞金が少ないようにも思えるが、今後の原材料費の一部となるようにとの考えだったらしい。

また、今回のようなイベントを定例で開催するという方向性も見出されたようだ。


 レルネさんがへそを曲げている。


「儂のソースが一番じゃと思うのに…。」

「レルネ様の店は何本あったんですか?」

「1,500本じゃ。」

「という事は、1,500人もの人がレルネ様のソースを気に入ってくださったって事ですよ。

 それは誇りだと思います。

 これからも、薬草を使ったソースを開発し、例えばソースをかけて食べるだけで体力が回復するなどのソースを開発すると良いのではないでしょうか。」

「ほう!かけて食べるだけで体力が回復するだと!それは面白いのう。作ってみるとするか。」


 レルヌさんも満足してくれる。

 本部でようやく落ち着き、お茶を飲んでいると、琥珀亭のイヴァンさんが入って来た。


「ニノマエさん、話があるんだが。」

「どうしました?」

「あの…、家は3位になったって事で賞金をもらったんだが、家は幸い無事でこれからも店で商いができるから良いんだけど、1位と2位の店は店で商いができないんだろ?そいつらの店はどうするんだ?」

「あ、この場所でお店で商いができるまで、ここで店舗をひろげることになります。」

「そうか、それなら安心したよ。

それとな…、こんな事いっちゃいかんけど、家はこのお金をもらう事はできないから、領主様にお返ししたくて…。」

「え?それは何故ですか?」

「うちは、ニノマエさんに教えてもらって、半日分仕込みを早くすることができた訳だ。

 仕込みが早ければそれだけソースにコクが出るだろ。それはルール違反だ。

 だから、この金は返すってのが妥当だと思って。」

「そういう事ですか…。ホント正直ですね。

 分かりました。ではそのお金を預かり、今後の運営に回させていただきますが、よろしいですか。」

「あぁ、それで構わないよ。」

「ユーリ様、ではこの賞金を今後の運営費にお願いします。」

「承知いたしましたわ。琥珀亭のイヴァンさん、ご協力感謝申し上げます。」


 イヴァンさんは満足されて帰っていった。


 俺たちも労いの言葉を皆にかけ、広場を後にする。

左側にはディートリヒが腕を組んで一緒に宿屋まで歩いていく。

この時間をたまらなく満喫している。


 そう言えば、今日が30日目。

思えば、いろいろとあったが、こうやっていろいろなヒトと関わりを持つことができ、いろいろな経験をすることができた。

 文化なのかは分からないが、観光と食事という観点からは一つ種が蒔けたのではないかと思う。

さて、どの時点で扉が出てくるのか…。

ディートリヒが見るとびっくりするかな?なんて思いながら宿屋に戻った。


 素敵な運動の後、それはやって来た。

隣でディートリヒは寝ている。

ベッドから数メートル離れたところに扉が出てきた。


 俺は、扉を開け中に入った。


「お帰りなさい。ニノマエさん。30日間ご苦労様でした。」

「はい。5回目ですね。その節はご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ。それでこの世界はどうでしたか?」

「はい。まだまだ改善の余地があると思います。」

「ふふ、それはどういった点でですか?」

「先ず“食”という文化が発達していません。食を向上、改善することで未病対策にもなりますしね。

 反面、生活習慣病も増えるという諸刃の剣ですけど。」

「そこまでお分かりであれば問題はありませんね。

 さて、如何しますか?このまま続けられますか?それともお止めになられますか。」

「止めるという選択肢はありませんね。これからもっと皆を笑顔にさせたいと思っています。」

「では、また一週間後にお願いしたいと思います。」

「そうですね。

 あ、それと二つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか。」

「何でしょうか。」


「先ず、一つ目ですがこのビジネスバッグに付与した機能をそのままこれまでの世界でも使わせてもらいたいことです。その理由は次の出張の際に必要なモノを持ってきたいので。

もう一つは、こちらの世界の金貨を数枚持ちこんでも良いでしょうか。自分の小遣いでもっていく額では無理がありますので…。」


 2万円じゃ、全然足りないんだよね…。


「そうですか。ただお願いですが、こちらの世界に持ち込んでも結構ですが、そのまま使用するのは信頼される方のみとしてくださいね。」

「そうですね。化学繊維や石油製品なんかはまだまだですからね。

こちらの思いとしては、信頼できるヒトへの証として使用する事。それ以外は向こうの世界で製作していきたいと考えています。」

「分かりました。それで構いません。ぜひ、良い世界にしていただければと思います。

それと、ソースはともかく、マヨネーゼですが、良いのですか?名前が変わっていますが。」

「別に良いのではないでしょうか。

向こうの世界で必要なものは向こうの世界で名前を付ければ良いのですから。

マヨネーゼであろうと、マヨラーであろうとマヨピーであろうと構いません。」

「本当にニノマエさんは興味深いヒトですね。

分かりました。では、来週も同じ場所で扉を開きますので、よろしくお願いしますね。」

「はい。ありがとうございます。こちらこそ、自分を出せる世界に行かせていただき感謝いたします。」



 気づけばオフィスの廊下に立っていた。

戻って来たって事だな。向こうから無機質なヒトが近づいてくるが、こんなヒトはいなかったはずだ。

少し構えるが

「経験を同期します。」とだけ言う。

 あ、そう言えば優秀な下僕さんに仕事を任せるって言ってたな。


「ありがとうございました。」


 お礼を言うと、そのヒトが手をかざす。

ブワッと仕事の内容が入ってきた。うわ、ここまでやってくれたのか…。ありがたい。ホントに優秀なんだな、と感謝した。


その後下僕さんは扉の中に入り、扉も消えた。

夢から覚めたような気分であったが、俺のビジネスバッグは拡張機能がそのまま付いていた。

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