10-7 恋人たちの聖地でのテンプレ

「あれはね、ディートリヒの知恵なんだよ。」

「はい。ダンジョンで魔糸に絡まれた際、水で洗い流そうとしたらヌルヌルになってしまい、それをお湯に入れただけなんですよ。」


 ご飯を食べながらだけど、何故か非常に際どい話題になっている。

そろそろ戻さないと皆が暴走していくな…。


「ニノマエ様、今回の訪問ではいろいろとお世話になり、ありがとうございました。」


 ん?どうしたブランさん?


「今回の訪問で、下着の素材やミシンだけでなく、遊郭での道具までもいただきました。

 さらに伯爵家との繋ぎや、同士への参加など、非常に有意義でありました。

 明朝、早速ノーオに戻り、奥様にこのことをお伝えしたいと存じます。」

「いや、もう少しゆっくりしていけばいいよ。まだまだ見るところもあるし…。

 あ、恋人たちの聖地にも行った方が良いよ。あそこは夜綺麗だから。」

「では、今晩、この後に行ってまいりますわ。」

「うん。それじゃ、ナズナもベリル、アイネ、ミリー、ニコルも見てくると良いよ。

 あそこは綺麗だからね。」

「そうじゃの。誰ぞのおかげでキラキラになったからの。」

「え、誰でしたっけ?俺は知らないけど…。」

「ぬしじゃよ!あれだけの戦略魔法をぶっ放しておいて知らん顔はいかんな。ぬしも行ってこい!

留守は儂一人で十分じゃからの。」

「へいへい。

俺、あそこに行くと恥ずかしいんだよな…。

 こんな魔法知らないうちにぶっ放していたのかと思うと…。」

「イチ様、どんな魔法だったのですか?」

「それは見てのお楽しみじゃ。」


 夕食を終え、俺たちは北西の門に行く。

先ずは門の上から行くこととし、アッシャーにお金を払い門の上に行く。


「あ、兄貴、こりゃ…何だ?」

「俺に聞かないでくれ…。」

「んじゃ、誰が分かるんだ?この魔法の威力は?」

「魔法の威力もさることながら、このキラキラ光るものはガラスですか?」

「そうなんだ。一気に土の中を熱くしたから、ガラス体が出来てしまったんだけど、綺麗すぎて、この場所で愛を確かめ合えば結ばれるってことで売り出したら、大盛況になったって事。」

「とんでもない発想ですが、さすが兄貴ですね。

これを見れば、誰だってそんな気分になるな。

ブラン、愛してるぞ。」

「そんな投げやりに言われても結ばれませんわ!

もっとムードを大切にしてくださいまし。

 そうですね、先ほどのお風呂のように…。」


砂糖のような雰囲気を醸し出すザックさんとブランさんを放っておいて、さっさと下りて下で待つことにした。

俺が、ムードを大切にして愛を確かめ合うことにすると、何人しなくちゃいけないんだ?と悪寒が走ったからだ。それなら、みんな一緒に来て愛を確かめ合いたいからね。


「ニノ様、私たちもあのようにしていただきたいのですが…。」


 やはり言ってきたよ。思春期ニコルが。


「今、レルネさんが居ないだろ?俺は全員一緒に言いたいんだ。一人だけのけ者にしたら可哀そうだし、順番とか優劣を付けたくないんだよ。」

「そんなものですか?」


よし、論破した!


「では、カズ様、私ももう一度ここで愛を確かめ合っていただくという事になりますね。」

「え、ちょっと待って!ディートリヒ様、今『もう一度』と仰いましたか!

イチ様、それはダメです。やっぱり今みんなでしましょう!」


ちっ!ディートリヒめ、余計な事を言ったな。

今晩いじめてやるから覚えてろ!


「でも、ここは恋人までだよ。伴侶にはなれないけどいいかい?」

「あ、それはダメですね。では、イチ様、伴侶の聖地に行きましょうか。」


 ニコルよ…、そんな聖地はないぞ…。

それに恋人の先に夫婦があるという事が見えていないのにホッとする。


「でも、カズ様、恋人はいずれ夫婦となりますわ。」


 ディートリヒ、余計な事を言うんじゃない!


「でも、昨晩の会議では夫婦よりも伴侶の方が悦びが大きいとディートリヒ様が仰っておられましたよね。うーん…。」


 よく分からないが、まぁそういう考えもあるという事だ。

それよりも早くここから移動するのが一番だ。


「んじゃ、次にキラキラ光ってる方へ行こうか。」

「はい((((はい))))。」


 通路も出来ているし、所々に明かりも設置され、ベンチもある。

ベンチは通路を背にしているから顔が見えないように配慮されている。

ユーリ様とティエラ様のお考えだな。


いつの間にか中央付近に噴水まで出来ている。

噴水の下からライトを照らし、水の輝きも演出しているのか。

これは、まさに恋人たちのスポットだね。


 皆、ウルウルとした瞳で噴水やガラスを見ている。

うん。良い観光スポットになった。


 ボーと噴水を見ていると、若い兄ちゃんがナズナに声をかけていた。

あいつ死ぬぞ…。知らぬが仏だな…。

ん?俺を見たけど何だ?


「おい、おっさん。あんたがあの彼女の連れなんだってな。

 すまないが、俺にあの女を一晩貸してくれないか?」


 ここに来て、まさかのテンプレですか?

ナズナよ、何を言ったんだね?


「ん?あんたこそ誰だ?見かけない顔だな。」

「おうよ。俺は先週この街に来た冒険者だ。何やらダンジョンで良いモノが出るって聞いてな。

 そしたら、こんなところがあるって聞いたんで、女の一人でも誘ってみようかと思ってな。」

「すまないが、あんたがどんな冒険者でどんなランクかは知らないが、この街で、そしてこの場所で女を漁りに来てるんじゃ、ランクは低そうだな。

とっとと帰って酒飲んで寝てろ。」

「おっさんよ。下手に出てりゃ、いい気になりやがって。」

 

 いきなり殴りかかってきやがったよ。

仕方が無いから、微弱波〇拳で吹っ飛ばす。

若い兄ちゃんは、噴水のへりに背中をぶつけ唸っている。


「痛てて…。あんた何した!」

「どうでも良いが、俺を怒らせるなよ。」


 俺は指の先からチャッ〇マンを出す。


「へ、無詠唱で…。あんた、何者だ?」

「胸糞悪い若造に名乗るような名前なんぞない。大人しく帰れ。」

「カズ様、それではこの者が犯した罪の深さが分からないと思います。

 そこの坊や、今からギルドに行き、シーラという女性に尋ねなさい。

ナズナという女性にチョッカイをかけ、連れの男性に喧嘩を売ったら反撃されたと。あれは誰だと聞いてきなさい。そして、その人物が誰であるかを理解したのであれば、この街から消えなさい。」

「うるせーな。そこのアマ。

あー行って確かめてきてやるよ。その後、何しても文句はねぇよな。」

「すぐ行きなさい。私達は逃げも隠れもしませんし、もう少しこの場所で楽しんでおりますから。」


ディートリヒは腰に下げていたレイピアを抜き、男の首に向ける。

男はあたふたと走り去っていった。

まぁ、なにがあっても問題はないけど、新参者がこの街を荒らしていくことだけは避けたい。


 ザックさんも、この広場を気に入ったようで、いつの間にかブランさんと腕を組んで歩いている。

うん。良い夜だね。


一時間ほどして、街に入るため門に行くと、顔をボコボコに腫らした男が、麻布で簀巻き状態にされている傍らで、シーラさんがオロオロとしている。


「シーラさん、どうした?あ、それ、さっきの若造だね。」


 キタ―!

シーラさんのジャンピング土下座!

2mは飛んだだろうな。


「ニノマエ様、この度はギルド所属の新参者がニノマエ様やナズナ様と知らずに大層なご無礼をしたという事を聞き、ギルドの存続をかけてここに来た次第です。

 この度は申し訳ありませんでした。」


 シーラさんが頭をこすりつけている。

しかし、顔を腫らした男はキョトンとしている。

まぁ、そうだろうね。どこの誰かも分からないヤツにギルド職員が頭を下げているだけだから。


「シーラさん、自分も冒険者だから少しは理解しているつもりだ。

 ただ、こういった輩がいるせいで冒険者が粗暴だとか、雑だとか言われるのは好きではないんだ。

 冒険者はいつも死と隣り合わせであり、『敢えて危険を冒す者』であり、その志は高いと思っている。

 そういった教育をしていないギルドは如何なものかと思う。」

「失礼いたしました…。『Late Bloomer』のニノマエ様。そして“繚乱”の皆さま。

 このことは全ギルドに通達いたします。」

「あ、俺の名前とパーティー名は出さなくていいからね。

 出すと面倒くさい事になっちゃうから。」

「分かりました。では今回の事は私の身体で支払…。」

「それは結構です!(((((結構です)))))」


 全員同時にシーラさんを睨んでいた…。再度シーラさんがあたふたとする。


 帰宅しヌルヌル風呂を楽しむ。

アイナ、ミリー、ニコルは部屋と宿に帰す。

すっごい羨ましそうに見てたけど、俺も鬼だ!

まだ、君たちにはこの楽しさは分からないだろう…、多分…、きっとね…。


「滑るから気を付けてね。」

「はーい、うぉ!」


 ベリルが転びかけている。


「なんじゃ、これは…。ヌルヌルして気持ちが悪いのう…。」

「レルネさん、これはただ入るだけじゃないんだよ。こうやってボディータッチしていくと…。」

「ほぉぉ…、何だか気持ちが良くなるのぅ。これでイチと戯れるわけじゃな。」

「まぁ、そう言う事になりますが、こうやって触っているだけで…。」

「ぬぉ!これは凄いぞ。では儂も…。」

「うぉ!ってな感じになるんですよ。」

「レルネ様、そろそろ交代していただかないと後ろがつかえておりますので…。」

「そちらも、皆一緒に来ぬか?その方が良いと思うぞ。」

「そうですね。では、皆でカズ様に愛していただきましょう。」


 このヌルヌルを実感した彼女たちは、ディートリヒの一声で猛獣と化した…。

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