10-6 2号機、3号機の完成
「で、どうした。」
「はい。馬車2台が出来上がりました!」
「おぉ!アイナ、でかしたぞ!」
俺はアイナに抱きついていた。
喜びを分かち合いたいと思って…。
でも、当のアイナはあたふたしている…。
「え、こんなお天道様が高い頃から、そんな事…。」
「んじゃ、これでやめとくよ。」
意地悪してみる。
うん。はにかみながらも困惑してるアイナも可愛いです。
「え、やめちゃうんですか?ここからが良いところなのに…。あんな事やそんな事まで…」
前言撤回…、やっぱりアイナは放置しておこう。
「それじゃ、馬車に行こうか!ザックさん、ブランさん早速見に行きましょう。」
「兄貴、馬車って…、後2日かかるんだと思ってましたが…。」
「そこは、ここにいるアイナとヤットさんとラットさんが踏ん張ってくれた結果ですよ。」
「お!そうですか!そりゃ嬉しいです。」
裏の車庫に行くと、ピッカピカの馬車が2台鎮座しておられました。
一台は黒ベースに金の模様、もう一つは黒ベースに銀の模様。
うん。シンプル イズ ベストだ!
「アイナ、機能は2台とも同じか?」
「はいな。伯爵様と同じ仕様にしてあります。」
「それじゃ、後は付与魔法をかければいいんだよな。」
「はい。お願いします。」
アイテムボックス、バリアー、隠蔽とかけながら、ふと思いつき、強化魔法をかけてみる。
一応かかったが、本当にかかったか不明だ。
「アイナ、悪いがハンマーでこの馬車を叩いてみてくれないか。」
「え、社長、気に入らないんですか?」
「いや、そうじゃなくて、今強化魔法というか、硬化の魔法をかけてみたんだ。」
「へ?馬車に硬化ですか?」
「あぁ、これが上手くいけば、今度は車輪部分に強化をかけて壊れにくくするってのも有りかなと思ってね。」
「主殿、私がやってみます。」
「え、ベリルっちが? あ、イヤ、やめて!私のドロシーちゃんに傷をつけないで!」
勝手にドロシーって名前つけてるし…、ほんと残念だが可愛い奴だ。
「それじゃ、いきます。えい!」
ガキーンと音がするも、馬車は何ともない。
「お、成功だな。それじゃ、車輪部分に強化を付与しておこっと。」
一連の行動を見ていたザックさんとブランさんは唖然としている。
「アイナ、すまないが馬屋に行って、馬2頭借りて来てくれないか。
ザックさん、ブランさん、出来上がりましたよ。」
「へ? あ…はい。ありがとうございました…、って兄貴おかしいでしょ。
何故出来上がったばかりの馬車にハンマーで殴りかかっているんですか!」
「いや、バリアーも張ってあるから問題は無いけど、バリアー破られた時、馬車が壊れるのが嫌だなぁと思ってね。」
「そりゃ、イヤですが、それでもハンマーは無いかと思いますが…。」
「やる限りは徹底的にしないと。」
そこにヤットさんとラットさんがやって来た。
「親方、あ、社長もいらっしゃったんですね。ミシン5台に2台追加して計7台、出来上がりましたぜ。」
「お、さすが早いね。
ザックさんミシンも持って帰ってもらうとありがたいね。」
「へ?ミシンって、あの機械ですか?あれをもう7台も?」
「へい。部品さえできてしまえば簡単なもんですよ。これくらいだったら、ドワーフの小僧でも組み立てられますぜ。」
「私って、ドワーフの小僧以下…」
アイナの目が死んだ魚の目になった…。
まぁ、放置しておいても大丈夫だろう。
「それじゃ、馬車の試運転が終わったら、ミシンの動かし方を勉強しようかね。」
「へい。あれは面白い機械ですな。あれなら部品を作るのに2日、組み立てるのに1日の計3日で1台は完成しますぜ。」
「ミシンが出来てもまだ布が完成していないからね…。
あ、布はレルネさんの郷で作っているって言ってたか…、あれを持ってこればすぐにでも出来るってことだね。でもブラジャーのカップの下に入れる金属とコーティングを…。
あ、ヤットさん、ラットさん、終わったばかりですまないけど、これくらい細いステンレスの棒を、そうだな、50mほど作ってもらっていいかい?」
「すてんれす? あ、あの魔道具に使ってあった金属ですね。分かりやした。
素材が足りなきゃ、マルゴー兄ぃの店に行って分けてもらってきます。
ま、素材があれば今日中にできますね。」
「すまないね。よろしく頼むね。っと、忘れるところだ、これ持っていくといいよ。」
テ〇ーラの瓶を一本渡す。
「流石、親方。俺たちの使い方を知ってらっしゃる。ラットすぐにやるぞ!」
「おう!」
この一連の行動もザックさん、ブランさんは唖然としている。
「あの…、兄貴…。兄貴のところの社員はみんなあんな感じなのかい?
それにヤットもラットも何か生き生きとしているようなんだが…。」
「やりたい事をやれるっていい事だと思うよ。それを引き出してあげるのも社長の役目だよ。」
「は。そうか。兄貴は俺に社長の器が何たるかを教えてくださってたんですね。
ありがとうございます。兄貴、一生ついていきます。」
久しぶりに聞いた。
でも社長が何たるかなんて俺には分からんよ。これまでの世界では、単なる窓際族の地方公務員だ…。
皆が気持ち良く仕事ができる環境を整えてあげるだけ。それだけなんだ。
「社長~、シルバーとロシナンテを借りてきましたよ~。」
「お、ありがと。って、馬が違うのに名前は一緒なのか?」
「私の中では馬はシルバーとロシナンテなんですよ。」
「んじゃ、3頭目は?」
「え!? えっと…。」
こいつ2頭までしか想定していなかったようだ。
「さて、ザックさん、俺とザックさんの2台、それも対になっている馬車だ。
好きな方を選んでいいよ。」
「え、兄貴…、俺選べませんよ。」
「そうなのか?んじゃ、ザックさんは金の方で、俺は銀の方で。試運転は俺の馬車でやろう。」
馬車に馬をつがえ、アイナとディートリヒが御者席に、ベリルが後部の御者席、中にザックさん、ブランさん、俺とナズナが入る。
説明は伯爵さんと同じように説明し、勿論御者席の風防の事も説明した。
「兄貴、この乗り心地は尋常じゃないくらい凄いもんだけど…。」
変な表現だけどそれだけ振動がないってことだろう。
「ニノマエ様、このような素晴らしい馬車を作っていただいて。」
「えぇ、ザックさん達に使ってもらうために作ったんだからね。
でも、外観はさほど変わらないから、気にもされないと思うけどね。
あ、あと馬も馬車を引きやすいようで、目的地までの時間も1,2割は短縮できると思うよ。」
「となれば、ここからノーオまで8時間としますと、2時間弱は短縮できますね。」
「うん。そんな感じだと思うよ。」
「では、馬車を作っていただいた代金を…。」
「ん?そんな話してたっけ?
それに工場の建設で、ザックさんの方が出ていく額が多いんだから、そっちに回してくれればいいよ。」
「でも、お約束ですから。」
「いいの、いいの。
可愛い弟と美人な奥さん達が笑顔になってくれればいいんだからね。
それに、貸した恩は忘れるのが道理、借りた恩は返すのが仁義ってもんだよ。
それが“漢”ってもんじゃないかな。」
「あ、兄貴…。すっげー恰好いいっす。」
ザックさんもブランさんも驚きつつも喜んでくれた。
馬車を店に戻し、家の中に入るとレルネさん、スピネル、ミリーが待ち受けている。
「イチよ。昨日話していたヌルヌルの成分だけ抜き出せたぞ。無害だから問題はないの。」
「主様、私は泡風呂のもとを完成しました。」
「イチ様、“しゃんぷりん”の試作品が完成しました。」
「皆、ありがとね。」
「なんじゃ、イチよ。ハグしてくれんのか?」
「はいはい。じゃ、レルネさんからね。」
順番にハグしていく。
「さてと、それじゃ、ザックさんとブランさんに、今日のお風呂を楽しんでもらいましょうかね。」
「そうですね。カズ様、あのお風呂は官能的ですから。」
「あ、兄貴、風呂でいったい何するんだ。」
「お風呂にこの液体を入れるんだよ。
そうだね。この容器の半分くらいかな。それだけ入れれば分かるよ。
ふふ。ブランさんとお風呂を楽しんでおいで。
俺たちは、夕食を作っておくから。」
彼らをお風呂に送り、夕食の準備をする。
今晩は米が食いたかったから、うん。ガパオライスにしよう。
油に唐辛子のような辛いものとニンニクもどきをスライスしたものを入れ、油になじませる。
ひき肉を炒め、野菜を投入。魚醤がないから醤油で代用し、塩コショウなどで味を調整する。
そこにバジルのような爽やかな匂いのする葉を入れ完成。
ご飯も炊き、半熟ゆで卵を作る。
ご飯が炊けるまでの間、みんなにサラダと汁物としてミネストローネのようなものを作ってもらった。
1時間半後、ブランさんがツルツルの肌でリビングに降りてきた。
「ニノマエ様、あのヌルヌルは何ですか?」
「あれは“ローション”って言って、魔糸から取れるものなんだ。」
「“ろー〇ん”ですか?」
「それ、コンビニの名前になってるよ…。“ろーしょん”ね。」
「“ろーしょん”ですね。あれも遊郭に売ってください。」
「レルネさん、ローションはひと月どれくらい生産できるかな?」
「そうじゃの。ひと月当たり中瓶1本じゃの。」
「そうすると、高価なものとなりますね。分かりました。では遊郭の最高ランクとしてろーしょんを使います。次のランクに泡風呂遊びというものを設定します!
ろーしょんを中瓶1本あたり金貨2枚、泡風呂のもとを1kgあたり金貨1枚でどうでしょうか。」
「スピネル、泡風呂のもとは月あたりどれくらい生産できる?」
「2kgはできますね。」
「それじゃ、ろーしょんを月1本、泡風呂のもとを月2kgという事で。」
「はい、それと“しゃんぷりん”も購入したいと思いますが、それは後ほどで結構ですので、先ずは当店は月金貨4枚をお支払いすることといたします。」
ブランさんが生き生きとしてる。
商談も成立したようで、嬉しそうだ
ようやくザックさんがリビングに下りてきた。けど灰になった状態だ。
「兄貴…、あの風呂は危険です…。 死にかけました…。」
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